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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第97話 ゴールデン・ザ・ランス作戦


~サウスの街 周辺~



 色々と大変だった気がするが、一先ずゴールデンハニーの生け捕りは完了した。

「はぁ……、大変だった」
「マリア。その……ごめん」
「フェリスさんは悪くないよっ! ……悪いのはアイツ!!」

 ゴールデンハニーを大人しくさせる為にフェリスがマリアをゴールデンハニーの目の前にまで連れて行ったのだ。
 巨大な体の為翅を使って飛ばなければ近くにいけなかったから。
 因みに命令を下したのはランスであり、突然動き出されたら怖い、と言う気持ちもフェリスはあって 警戒心を強めながら近づいて行った。大丈夫そうだ、と気を緩めかけたその時にランスからの『どかーーーんっ!』と言う大声のせいで、驚いてしまってマリアを口の中に落としてしまった。

 結構高さがあって命が大丈夫か? と皆が不安を覚え始めた頃 マリアの無事な声がハニーの中から聞こえてきた。つまり ハニーの中に入っても問題ないという事も証明された瞬間で ランスが考えた作戦が完全に始動できると言う結果オーライな感じに。
 勿論ランスには盛大に文句を言ったが、やはり暖簾に腕押しなのだ。……志津香は炎で抗議したから効果ありである。


「よしよし、サウスまで戻ってこれたな。がはは! ここからが破竹の勢いで攻めてゆくぞ!」
「ま、成功の条件には相手も頭悪い、っていうのが入ってるが……大丈夫だろ」

 能天気なランスと多少は警戒はしつつもヘルマン側の今回の印象で何だか上手く行きそうな気がしているユーリだった。

 そんな時だ。

「……ん? なんだ。軍隊がぞろっと出てきてるぞ」
「ああ、多分ゴールデンハニーのせいだろ。バレスやリック達には伝えたが 全員に伝わり切ってなくて警戒したんだろうな」
「なんだと! あのジジィ リーザスの総司令官とか偉そうな事言っておいて全く駄目ではないか! まぁ オレ様が司令官だからこの解放軍は大丈夫だが」
「結構短期間で終わったから仕方ないだろ。でも、軍隊の対応の速さは十分良いと思うぞ。ヘルマン側には厄介な魔物使いがいるんだから」

 ゴールデンハニーを見つけてすぐさま迎撃体勢を整え軍隊を配置した、となれば やはり優秀だと言える。その先頭にいたのは メナドとアスカ、メルフェイスだった。

「あっ……! ユーリっ! それに皆も!」
「む。ユーリの事を呼んでオレ様を呼ばないとはどういう事だ!」
「ああ、ランスも一緒だったねー。ごめんごめん」
「変な所で茶々入れるなって。それですまなかったな。メナド。それにアスカやメルフェイスも。突然コイツが出てきた事で警戒させたみたいだ」

 後ろに聳え立っている? ゴールデンハニーに視線を向けつつ詫びるユーリ。

「あっ うん。いきなりおっきいモンスターが来たって言ってたから警戒してたんだ。でも ユーリ達が一緒だから問題ないみたいだね」
「驚いたおーっ! ゴールデンハニー。初めてみたおーっ!」
「あ、アスカ。あまり前に出過ぎないで。ハニーは私達魔法使いの天敵なんだから」

 興奮気味のアスカを宥めるメルフェイス。
 そう、魔法使いにとってハニーは天敵。魔法の類が一切通じない最悪の天敵なのだ。極一部は除いて………。

「…………何? 何か言いたそうね。ゆぅ」
「いーや。何にもないぞ」

 またまた、足蹴りをくらいそうだったからすぐにくるりと視線を代えたユーリ。
 一瞬しか見ていないと言うのに、志津香は直ぐに感じ取った様で、脚に魔力を溜める芸当はほんと流石の一言だ。

 それは兎も角。

「よしよし。これからリーザスを落とすために素晴らしい作戦を実行するぞ。ふふふ」
「はぁ、ずっとそればかりね。ほんとに上手く行くの?」
「オレ様の作戦は完璧なのだ。成功率100%。それはこの宇宙が始まった時から決まっている!」

「……自信過剰な馬鹿」
「どっからその自信がわいてるんだろうねぇ。ま マイナス思考よりは全然マシだが」
「こう言う勢いのある方がちゃっかりやってしまったりするのよね。男は勢いと体力、精力よ!」

 薄ら笑いを浮かべてるランスを見て、ため息いたり、それなりに感心したり、といろいろな反応を見せていた。

「トマトは、何処へでも行きますかね! でも、ユーリさんとこの狭い空間で……………。いけない妄想が膨らんでしまうですかねーー」
「???」

 トマトはなぜか興奮気味。そんなトマトの隣でいたクルック―だったが、言っている意味がいまいちわからなかった様で、首を傾げていた。



「さぁて、まずは使者の選定だな。よしよし、1人じゃ不安だ。リック それに清十郎。お前ら2人がやれ」
「はっ。お任せください」
「たまには悪くない趣向だ。ユーリ、剣は暫し預けておく。丸腰の方が相手の警戒心も薄れるだろう」

 リック自身はその赤の軍の象徴でもある赤い剣 バイロードはそのまま持っていく様だ。それがリックと言う人物を証明する事にもなるのだから。だが、この戦場で鬼とまで呼ばれていた清十郎だが、歴戦の兵で以前よりヘルマンにも轟いていたリック程までは浸透されていないからそうはいかないだろう。だから丸腰である、というのが一番だ。

「判った預かる。ちゃんと返すから安心してくれ」
「ああ。……そう長くはかからんだろう」


 メナド達にも今回の作戦の肝を伝え全ての準備は整えられた。
 

「リックと清なら 敵さんもある意味信頼するだろう。……丸腰なら尚更だ」
「がはは。有り得んが万が一でも失敗したとしても、男なら痛くないというものだ」
「……ランスが行けば良いじゃない。その方がダメージ0よ。リック将軍と清十郎さんなのに」

 かなみがじろり、とランスをにらむがどこ吹く風だ。

「大丈夫だ。リックは証明の為に剣を持ってるし 清十郎は無手だがそれでも強い。……あの2人が潜り込んで戦いになったら勝算だって十分だ」
「あ、はい。そうですね」

 ユーリの説明で心配が吹き飛ぶ気持ちだったかなみ。
 そんな様子を見て今度はランスがため息。

「これだからへっぽこは。忍者の癖にその程度まで考え付かんとは」
「う、うっさいわね!」

 何だかんだ言っても、これまでの戦績からランス自身もあの2人の強さは知っている。だからこそ、使者に選んだのだ。簡単に死ぬ様な者を選んだりはしない、という事だ。

「とりあえず、リーザスの中に入ったら あまり騒がしくするなよ……? 今はまだ良いにしても」
「は、はぅ……。すみません……」
「がはははー、へっぽこへっぽこー」
「……火爆破」
「あんぎゃあああ!」

 それは いつも通りの光景。

 だが あがる火の手は、希望の灯にも見える。

 最終決戦が迫っているというのに……、決して変わらない光景を見て、強くそう思えるのはリーザス軍の皆。だが 与えられた自分達の役割も必ず果たさなければ、勝利を手繰り寄せる事は出来ない。
 全身全霊を賭け、自分達の勝利を信じて リーザスへと突き進むのだった。












~リーザス城~


 玉座の間では 歓喜の声が上がっていた。
 負け続けていた時の事を思えば、考えられない程だ。

 だが、その歓喜した内容が信じられないものだった。

「こ、降伏に応じただって!? リーザス軍が?」

 その報告に驚きのあまり、立ち上がるのはハンティだ。
 パットンは喜びに身体が震えていた。

「本当なのだな!?」

 何度も確認をしていた。その度に首を縦に振る。

「は、はい。それに使者が既にきております」

 その使者の存在がより一層信憑性を増していた。

「(この状況で? 妙過ぎる。そんなの……)ぱ、パットン」

 ハンティはパットンに言い聞かせようとしたのだが、歓喜で震えているパットンには何も伝わらないのは目に見えていた。

「ぐははははははは! そうかそうか、通せ!」

 その巨体を震わせながら大声で笑い始める。
 そして 現れた使者を見て 目を輝かせていた。

「死神。貴様がリーザス軍の使者か。……もう1人は」
「……先の戦いにおいて、鬼と形容された異国の戦士です」

 パットンに耳打ちをする従者。
 それを訊いて、更に笑みを浮かべていた。解放軍の二強とも言っていい者達が降伏しに来ているというのだから。

「は。解放軍は連戦に次ぐ連戦で、兵達も疲弊しきっております。軍事費も最早捻出できず……」
「たどり着いた矢先の強固な壁だ。ここまで信念を貫き、戦い続けてきた者達だったが、心を折るには十分すぎるのだろう。……オレは雇われの身だ。その意向に従う」

 武器を持たない鬼と呼ばれる戦士と、リーザス最強と名高い死神。
 2人の言葉を訊いて、パットンは再び笑う。

「カカカカカ! そうだろうそうだろう。私達だけが厳しい訳が無い」

 ヘルマンの常識に照らし合わせれば、これ程連続して兵を集め 戦い続けられる訳がない。
 何より、ヘルマン側の方が兵士の数は圧倒的に多かった筈なのだ。……それを打ち破ってきた力は驚嘆に値するが、それで疲弊し切ったとしても疑う事もなかった。

「清十郎殿も申し上げましたが、ここの壁…… 城壁の防備もあり……。我々は パットン殿下のご厚情に縋り、民を安堵していただくほかないと結論しました」
「うむ。私も無駄な殺生は好まん。武装解除して降伏するのなら、それ以上血を見るようなことはせぬ」
「は……。つきましては降伏の証に貢物をお渡ししたいと運んできております」

 リックがそういうと清十郎が動いた。
 南側を向いた窓に掛けられていたカーテンをそっと開く。

「おお……あれはゴールデンハニーか?」
「はい。傷1つない一品です。人を襲う様な事もありません。こちらをお納めいただければ、と」
「ふ、っ……… ふわっっはははははははは!! あんなものまで用意したのか!? さぞ苦労をしただろうに!」
「…………………」

 自分自身の歓心を得ることに懸命になっていた、とパットンは感じて有頂天になってしまっていた。

「こちら側も痛い目をみた。たいそう遭ったがな! それはもう良い! 降伏を認めよう! よし、あのゴールデンハニーを城内へ入れよ」
「かたじけない」
「……感謝する」

 リックと清十郎はそっと頭を下げる。
 こうまで上手くいくものなのか……、と普段は表情に出にくい2人だが今回ばかりは危険だった。だからこそ、本当に良いタイミングで頭を下げる事が出来たのだ。

 下げている間、僅かに変わった表情を直ぐに戻した。

「他の条件に関しては後ほどお伝えします。……この寛大な処遇を外の皆に伝えねばならないので、これにて……」

 リックの言葉で清十郎も背を向けたその時だ。

「ああ、待て。貴様らに聞きたい事がある」

 パットンの言葉に呼び止められた。
 一瞬だが ヒヤリと冷たいものを感じたが、杞憂だという事は直ぐに判明する。

「死神と鬼。……貴様らの戦果は私の耳にも届いておる。一騎当千の戦士である事。……貴様らがトーマを仕留めたのか?」
「いいえ。私ではありません」
「……あれ程の武人と手合わせ願いたかった身ではある……が、オレもない」

「………」

 暫し沈黙が流れた後。

「……ならば、トーマを討ち取った者を探して連れて来い。降伏を認める条件の1つに加える」
「承りました」
「………」

 リックと清十郎は その後整然とこの場を後にした。
 2人の気配が完全に途絶えた所で、ハンティが口を開く。

「パットン………」

 この話には裏がある。
 間違いなく裏がある。

 そう確信出来たのは、先ほどの使者の存在だった。

 圧倒的な強者だからこそ、放つ事が出来るオーラ。その身に纏っているのは トーマと何ら遜色のない程だった。死さえ恐れぬ強い信念。巧妙に隠してはいたが、ハンティには感じる事が出来た。それ程の信念を持つ男と長く共にいたのだから。

 そんな男達が簡単に、それも率先して降伏するなどと考えられない。
 
 そして、トーマを討ち取った相手があの2人でない、という事にもハンティは感じる事があった。……以前より予想はしていた事だったが、もう間違いないと思えたからだ。

 そんなハンティの心情は全く知らないパットンはただただ、陽気に笑っていた。
 トーマを討ち取った相手をどうするのか、その辺りの事はまだ何も言っていないが、ただただ笑っていた。


「……さぁて、さぁ! 今宵は宴と行くか! フフフフ、フハハハハハハッハハハ!」


 そのまま、本当に盛大な宴がリーザス内では始まっていた。

「うおーーい! 酒だぜーーーっ! 司令官殿からの振る舞いだー!」
「ひょうっ! ラッキー! くれくれ」
「おう。ほら好きなだけ飲め! それに喰って宴だ!」
「ぎゃははは。おめーは音痴なんだからやめとけ!」
 
 酒を浴びる様に飲み、飯を食い、歌い。

 これまでの厳しい戦いから解放された兵士達のハメは完全に外れてしまっていた。
 だからこそ、誰も気づく事はなかった。

「しっかし いいのかね。城門の見張り以外は隙にしろって。これ、将軍がいたら張り倒されてるぜ?」
「リーザスが降伏したって話だからなー。皇子サマはアレ貰ってご満悦らしいし」
「アレか――……。ま、圧巻だな」

 兵士達が振り仰ぐ先には、巨大な金色の塊がある。

 降伏の証として差し出されたゴールデンハニー。




 そう、その中に――息を殺し 潜み続けている者達がいた。




「ぐふふふ……見ろ。やつらめ、すーっかり安心しきってるぞ」
「さ、さすがです……っ、ランス様……、で、でも あまりお手を……」
「がはは。名付けてゴールデン・ザ・ランス作戦だ。ヘルマンの間抜け共め、あっさりと門を開きやがったぞ」

 シィルの話はまーったく聞かず、こちらもご満悦。暗闇に乗じて手をせっせと動かしてるランス。ぷにぷに、と体を弄り続けて一体どれくらいになるだろうか。

「狭いです」
「こればかりは仕様がないわよ。幾らゴールデンハニーでも限度があるんだし」
「はぁ、日光が当たらないのは好都合なんだけど、ハニーの身体の中っていうのがやっぱり嫌だ」

 ランスの事は全く無視してる面々。クルック―は狭いとただ現状の分析。志津香も同じ気持ちの様だ。フェリスは云わばハニーに食べられてしまってる様な状態だから、悪魔としても プライドに触ってしまうのだろう。……ハニー相手だから。

「ま、それはそうと、どんな時でもランスはランスで、ユーリも一緒だな。ユーリはどんな時もユーリだ」
「はぁ? どういう意味だよ。ミリ」
「あー? 判んだろ? この状況を見たら」
「……此処は殆ど真っ暗だ」

 ゴールデンハニーの中はそれなりに広い。

 だが、やはり限度と言うモノがあるし、結構な人数を詰め込んでしまったから人1人が立つ事が出来る程度にしか空きがない。フェリスの様に宙に浮く事が出来れば更に増えるだろうけれど、彼女に負担が掛かりすぎるだろう。

 それはそうと、ミリが言いたかったのは、スペースが殆ど無い状態。ランスにくっ付いて気を許せるのは 主にマリアとシィル、そしてミリだ。その他のメンバーはユーリ一択。ユーリの四方を取り囲む様に 皆で平等に分ける様にその感触を楽しんでいるのだ。
 色々と否定は皆しているが……、否定になってなかったりする。

 因みに、このゴールデンハニーの中に入る事が出来たのは 志津香 かなみ ミリ トマト マリア クルック― フェリス レイラ シィル そしてランスの10人。
 選ばれなかった者たちの中には涙を呑む想い……だったけれど、定員オーバーだから仕様がない。

「こーんな可愛い女の子たちに囲まれてて、揉みくちゃ状態だっつーのに、ぴくりとも勃ってないじゃねぇか。ユーリのは」
「コラァ!! 何馬鹿な事してんのよ! ミリ!!」
「や、やめてくださいよっ! こんな暗闇で……!」
「なななな! なんですかねーー! み、ミリさんっ!! ユーリさんのシークレット部分に何してるですかねーーー!! 不可侵領域なんですかねっっ!!」

「ほんと、色んな意味で頼りがいがある子たちね。……親衛隊に抱き込みたいくらいだわ」

 大抗議の面々。そしてこの様な状況であってもブレない精神力を見たレイラは ただただ関心をしていた。
 でも……、もしも ヘルマン側が今 盛大に宴をしてなかったら、まず間違いなく気付かれてアウトだっただろう。ユーリはため息を吐いた。
 因みに言っておくが どさくさに紛れてミリがユーリの……を触ったりは出来ていない。そんな気配がすれば、ユーリだったら速攻で防いでいるから これだけは明言をしておく。

「だから面白おかしく誘導するなミリ。……それに 皆もアホな事も言うな。っというか 静かにしてろっての。一応は潜入中なんだぞ」
「貴様ら!! そんなガキの方に群がるじゃない!! オレ様の方へ来い!!」

 あきれ果てるユーリと怒るランス。
 ちゃんとランスにはシィルやマリアがいて、今も四六時中いじくりまわしてるのに、まだ飽きてない様子だ。

「ランスは楽しんでるんだから良いだろ? なーんか もぞもぞと動いてる気配がするしー」
「ふんっ! だが、これはボリューミーな感触だ。ひょっとしてミリのおっぱいか?」
「残念。声が反響して距離が判んねぇと思うが、オレのじゃないんだな」
「や、やめてってば! さっきから私の事離さなかったくせに、今更……あんっ!」
「なーんだ。マリアだったのか。がはは! さっきまではマリアのおっぱいを楽しんでて今は一回り大きくなったから気になっただけなのだ。つまり、これはお尻だな~。でかいわけだ!」
「むかっっ!」

 暴言を吐かれたマリアは咄嗟に腰に携えていた武器を手にかけて、ランスがいるであろう方向へと構えた。

「うぐっ! こ、この冷たい感触は……、って まだだ! マリアまだ! オレ様に向けるんじゃない!」
「見えないんだから不可抗力じゃない? マリア。なんなら引き金ひいちゃってもいいわよ。もう城内に潜入は出来たんだからここからでも行けるでしょ。じゃない? ユーリ」
「まぁ ハニーの中から出る為には壊すのが一番早いが……」
「こらぁ‼ 何を言っておるのだ! 止めんか馬鹿者!! だぁ もういいわ! ここから行くぞ!!」

 ランスがそう言うと、皆の雰囲気も即座に変わった。
 どれだけ ふざけていても、集中すべき所はしっかりと集中する。それが出来るから、メリハリがしっかりと付けられるから、此処まで勝ち続ける事が出来たのだ。

「おう! こっからがショウタイムだ! 速攻をかけるぞ。ユーリ! 貴様らはマリア達をつれて城門をやぶって外の連中を引き込め。オレ様はリアを助けてくる」
「ああ。任せろ。後はリック達も中にいる筈だ。合流しておく」
「了解!」
「解ってるわ」
「ああ、判ってるぜ。戦いたくてうずうずしてるだろう死神隊長と鬼さんとの合流を果たしてくらぁ!」
「ガンバるですかねー!!」
「頑張ります」

 部隊を更に分ける事にした。
 リアを助ける部隊はこの少数部隊の中でも更に削った人数。城内へと忍びこむ為に人数を少なくしたのだ。

「レイラさん。案内を頼めるか?」
「ええ。任せて。この辺りはしっかりと把握しているわ」 
「あ……。私も行く! やっと、やっと戻ってきた……リア様……っ…!」

 かなみもそちら側へと。心情的にはユーリ。だが今は優先すべき事があるから。……リアを救う為に。 

「気を付けろよ? ランス」
「馬鹿言え。オレ様はいつでもどこでも最強なのだ。この位朝飯前だ」

 ランスとユーリは軽くそう言いあうと。

「よし、マリアぶちあけろ!」
「よーし! いっけーーーー チューリップっっ!!」

 マリアの凛とした掛け声の後、ゴールデンハニーの内部が爆発し、外の光が体内に漏れ込んできた。

 当然、幾ら宴で盛り上がろうと、爆発音を聞き逃す程泥酔している訳ではないから、外の連中も漸く気付いた様だ。

「へ!? な、なん………」
「いきなりランスアターーーーーック!!」
「煉獄・爆砕」

 ランスとユーリの攻撃は、呆気に取られているヘルマン兵達を吹き飛ばす。
 仲間の数人が殺されたのを目の当たりにした兵達は驚愕をしつつも、動き出した。

「な、あ、あああっ……!! て、敵! 敵襲……っ!」

 だが、大声を上げる事は出来ない。 
 素早く回り込んだ者達がいたから。

「えい」
「あーらよっと!!」

「「ぎゃああああああ」」

 クルックーのメイスが敵の頭を砕き、ミリの剣が首を落とす。

「く、くそ! 早く報告を……っっ!?」

 比較的離れていた兵士は多勢に無勢状態になってしまった為、退こうとしたのだが、何か柔らかいモノにぶつかった。

 それは、女の柔肌……なのだが その色が絶対におかしい。肌色ではなく、どちらかと言えば……薄い灰色。

「逃がすと思うか? ……お前の魂を貰うぞ」
「ひっ……! あ、あく……ま」

 回り込んでいたのはフェリス。
 自身の胸で受け止めるつもりは無かった。背後からバッサリと斬る予定だったが、思いのほか判断が早かったので、こういう結果になってしまったが、誰も見てないから問題ない。

 手早く男を葬り、鎌を元に戻した。

「ふんっ……」

 仄かに頬を赤く染めるフェリス。戦いの真っ只中だというのに考えてしまっていた。
 今の兵士はただムカつくだけだが、考えてしまう切っ掛けになってしまった。

 実は……、本当に触ってほしいと思えるヒトが出来てしまったから。

 と 口には決して出さない。
 でも ずっとずっと、助けられた時の感触が残って仕方ない。だから……。

「さぁ、魂の回収! 仕事仕事!」

 無心に悪魔としての仕事、ランスやユーリの命令での仕事。
 2つをしっかりと両立させるのだった。


「ここは……、城下町の北東部の……うん判った!」
「かなみさん! 城門は!?」
「こっちの通り! そこの大通り沿いに真っ直ぐ南に行くと着きます!」

 かなみの指し示す方を見て、皆頷いた。

「慌ただしくなってきてるな。……あれだけすれば当然だがな。ここからは回り道は無しだ」
「ええ。……正面突破が速そうね」
「ちげぇねぇな。よしよし、外で腹ぁ好かせてウズウズしてる奴らを呼び込もうぜ!」

 ユーリを先頭に、皆が駆け出した。
 そして ランス達も同じく。

「ランス! 死ぬんじゃないぞ!」
「オレ様が死ぬか。馬鹿言うな。貴様も前の様な失敗などするんじゃないぞ! 罰ゲームだからな!」
 
 此処で、二手に分かれて行動を開始した。

 ランスとシィル、かなみ レイラがリア救出部隊。
 ユーリ、志津香、ミリ、トマト、クルック―、マリアが城門の解放と魔物使いの部隊の排除。

 最終戦の序幕。
 その開幕のベルが鳴り響いたのだった。














 戦況を言えば、侵入を許したのは僅か10の数だ。その点ヘルマン側はまだまだ1,000を超える兵士達が存在している。そして 魔物使いが操るモンスターを使えば更に増える。

 そんな状態だというのに、成す術も無くやられていくのはヘルマン軍の方だった。

 数はたった10。
 そして分かれた為 実質戦力は更に半分。

 だが その腕は超がつく程の一流である。

 まさしく強靭な鋼の一本の槍となったユーリ達は瞬く間に突破し 城門前にまで到達したのだ。

 そして更に。

「う、うわぁぁぁ!! な、なんでモンスターが暴れてるんだ!?」

 そう、ヘルマン側が操っていたモンスター達が大暴れを始めたのだ。
 コンタートル、デカントといった大型のモンスターが敵味方関係なく暴れ続け全く統制が取れなくなってしまった。

「お、おおお……! デストラー様が! デストラー様が戦死された!? コンタートルの群、そしてあの方専用と言っていい特別強いデカント。それらはあの方しか操れん!」
「で、デストラー様が死んだのか!? 今はあの人が此処に指揮官だろ!」
「街中での突然の敵襲があったのと殆ど同時だ。同時に 先駆けしてきた2人の男に一撃で……」

 2人の男とは勿論。

「り、リーザスの死神……、それに鬼だ……!」

 リックと清十郎だった。
 リックはその赤い剣バイロードを振るい、清十郎は拳だが 僅かに付けられた傷口から 己の業である犠血を使い、デストラー諸共、敵兵たちを葬ったのだ。

「う、うわぁぁ! なんでだよ! なんで、さっきまで勝った! 勝ったって! 俺達は リーザスに勝てたって盛大な宴をしてたじゃねぇか……!! なんで、こうなってんだよぉぉぉぉ」
 
 盛大に泣きわめく姿は、まるで癇癪を起したガキのそれだった。地団太を踏み喚き散らし続ける。

「み、みんな殺されちまう……。も、もう城門が破られるのも、時間の問題だ……! う、うわぁぁぁ、死に、死にたくねぇ……!!!」
「お、オレもだ! 楽に勝てるからって。好き勝手に嬲れるからって言われたから志願したんだぁ! こんな、こんなんならついてくる事は……!」

 後方に死神と鬼が、前方にも敵兵が。完全に袋小路にされてしまい、絶望に沈むヘルマン兵。その象徴でもある黒い鎧、兜を脱ぎ捨て、完全に戦意を失ったその時だった。


『……こうまで弱くなってしまっていたのか。ヘルマン第三軍は。貪官汚吏どもが古い国を食い物にし続けた。その報いが、ヘルマンと言う古き強国をここまで弱体させた……』


 地団太を踏む者、泣きわめく者を見て 心底呆れ果てた様な、或いは疲れた様な、そんな声質。だが、その野太い声は……ヘルマン軍の者達には聞き覚えがあった。


 暴れ続けるコンタートルを、そして デカントの前に立つと。

『ぬおお!!!』

 その剛腕を振るい、戦槌で薙ぎ払った。

 強靭な身体を持つ筈のモンスターも、その一撃を耐える事は出来ず、まるで紙の様に吹き飛ばされ、粉々になった。


「ま、まさか………」

 
 絶望の淵にまで沈んでいたヘルマン兵達が、ゆっくりと 視線を向けた。

 その視線の先にいるのは……強国ヘルマンの象徴とも言っていい人物。
 漆黒の鎧を身に纏ったブラックナイツの頂点。


「……ここでお出ましか。トーマ」


 ヘルマン兵達よりも早く その名を口にした者がいた。
 それは いつの間にか、直ぐ後ろにまで来ていた黒髪の男。



「随分時間が掛かったじゃないか。……怪我は癒えたのか?」
「それ程、主の力が凄まじかったと言う事だ。……ユーリよ」




 再び相見えた強者達。
 
 それは 後に後世にまで語り継がれるであろう死闘。
 敵味方関係なく、全ての戦士達が戦いを止め、視線を釘づけにした程の激闘。
 

 ユーリ・ローランドとトーマ・リプトン。


 この2人の出会いが――戦争を更なる段階へと進ませる事になるのだった。 
 
 
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