NARUTO日向ネジ短篇
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【共にある幸せを願って】
前書き
ハナビ視点の、ネジが生存しているナルヒナ結婚間近のお話。
『ヒナタ姉様〜、ナルト義兄さ〜ん、結婚おめでとー! あのナルトが、私の義兄さんになるなんて……まぁ予想はしてたけどねぇ? ヒナタ姉様、長年の想いが実って良かったね! 二人共、お幸せに〜! ──ほら、次はネジ兄様だよっ』
『あ、あぁ、判ってる……』
私に急かされて、兄様は若干緊張した面持ちで、日向家敷地内にて木ノ葉丸の持つ小型のビデオカメラの前に立つ。
『ナルト、ヒナタ様……じゃない、…ヒナタ、結婚おめでとう。その、なんだ……二人共、幸せに、な?』
「ネジ兄ちゃん、表情カタいぞコレ〜! ここはやっぱ笑ってくれなきゃさあ」
木ノ葉丸にダメ出しをくらって、困った顔になるネジ兄様。……仏頂面ではないんだけど、無表情も良くないわよねぇ。
「特にネジ兄ちゃんは、ナルト兄ちゃんの“義兄ちゃん”になるんだから、ここはバッチリ笑顔キメてくんないと困るぞコレ!」
“ナルトの義兄ちゃん”と言われ、ネジ兄様はちょっと気恥ずかしげにビデオカメラから顔を逸らした。……きっと照れてるのねぇ、可愛いとこあるじゃない。
「笑顔キメろと、言われてもな…。笑うのは得意じゃない……」
「ほら兄様、がんばって? 自然に笑えばいいのよ、自然にっ」
「んじゃ撮り直すぞコレ〜?」
(自然な笑顔、自然な───)
私の助言を受けて、ネジ兄様は自然な笑顔を念頭にビデオレターの撮り直しに挑んだ。
『な、ナルト! ヒナタ! おめでとう、結婚! はははッ』
「……だーもう、違う違う! 作り笑い過ぎて顔引きつってるし、笑顔ヘタかコレ!? ネジ兄ちゃん後回しだなぁ、自然な笑顔練習してきてもらうぞコレ!」
木ノ葉丸は少し呆れた様子で、ビデオカメラを手にしたまま次に撮るべき人の所へ忙しそうに向かって行った。……確かに今のは不自然だわ。片手振りながら“ははは”って何よ、兄様らしくないわねぇ。
「ま、参ったな。これでも頑張ってるんだが……」
「ドンマ〜イ、ネジ兄様。…それにしても兄様って、笑い方ヘタだよねぇ。ドヤ顔なら得意なのにっ?」
私の指摘に、ちょっとばかりムッとするネジ兄様。
「そんなつもりは無いんだがな…。笑えと言われて、笑おうとするとどうも──」
「まぁ慣れないカメラ真正面から向けられて、緊張もしちゃうんでしょうね。いっそドヤ顔で祝っちゃえば? こんな感じでっ」
私はネジ兄様の真似をするつもりで、片方の口角をクッとあげて目を細め、腕を組んで上から目線的なドヤ顔をして見せながら低い声を意識して言う。
『ふん、めでたいものだな二人共。幸せになるといい』
「結婚祝いのビデオレターで、俺がドヤ顔してどうするんだハナビ……」
呆れた表情を私に向けるネジ兄様。これはこれで、兄様らしい気がするんだけど皮肉っぽいかしらね。
「でもあれよ? ヒナタ姉様とナルトの結婚が決まった時、自然と笑顔になってたけど。優しい顔してたよ、ネジ兄様」
「そう、だったか? 自分ではよく判らないが……。まぁ、嬉しかったのは事実だしな」
「じゃあその時の嬉しさを想い出しながら、お祝いメッセージ送ればいいのよ!」
「あぁ……なるほど。次に木ノ葉丸が来た時、実践してみるとしよう」
兄様は少しやる気を出したみたいだった。
───前にネジ兄様は、私がヒナタ姉様の恋って実ると思う?なんて、冗談交じりに聞いたら、否定する所かこんな事を言っていた。
俺は以前、ヒナタ様に酷い事をしてしまったし、ナルトは人柱力として俺よりとても辛い思いをしてきた。いつかその時が訪れるなら、二人には幸せになってほしい……って。
私としてはこう思ったの。兄様、罪悪感持ち過ぎだしナルトに同情し過ぎだって。あとネジ兄様は、ナルトに闇から救ってもらった事に対して感謝してるのは判るけど、色々譲っちゃってるのもどうかと思うのよ。
ネジ兄様だって苦しい思いをしてきたんだし、辛い思いというのは、人と比べるような事じゃないはずよ。
兄様自身の幸せは蔑ろにしていいわけっ?
───ナルトとヒナタ姉様の結婚式が迫る中、ネジ兄様は再び木ノ葉丸からビデオカメラを向けられつつ、メッセージの撮り直しを始めた。
「じゃあ行くぞコレ〜。今度こそ頼むな、ネジ兄ちゃん!」
ネジ兄様は少しの間瞳を閉ざし、二人が幸せそうにしている姿を想い浮かべているみたいだった。今の兄様、とてもいい顔してる。
『……ナルト、ヒナタ、結婚おめでとう。思えば本当に色々あったが、二人が結ばれて俺はとても嬉しく想っている。二人のこれからの幸せを、俺は心から願っているよ』
口から自然と放たれた言葉は、優しい笑顔を伴っていた。
──でも次の瞬間にはその笑顔が失せ、木ノ葉丸の持つビデオカメラに近寄って顔をドアップにし、凄みを利かした。何してるの、ネジ兄様っ。
「ね、ネジ兄ちゃん、近ッ…」
『ところでいいかナルト……、ヒナタを悲しませようものなら、地獄の果てまで追い詰めてやるからな……。肝に銘じておけよ』
あぁ……そういう事ね。いつもより低い声で述べた後、つとカメラから身を引いて、凄んでいた表情から優しい微笑に戻ってネジ兄様は言葉を和らげ、続きを述べる。
『──ヒナタ、何かあればいつでも俺を頼るといい。必ず力になるから。ヒナタがナルトの妻になろうとも……、俺がヒナタの“兄さん”である事に変わりないからな。
そういえば、ナルトは俺の義弟になるんだな……。ナルト、俺はお前が家族になってくれる事を誇りに思うよ。鈍感なお前がようやくヒナタの気持ちに気づいて……ヒナタを幸せにしてくれて、本当にありがとう。
俺は…、ナルトとヒナタの“兄”として、これからも二人を見守ってゆくから』
「──・・・と、長くなってしまったな。こんな感じでいいんだろうか??」
「お、オッケーだぞコレ! 他のみんなの分もあるから、ちょいちょいカットしちまうかもだけど、ちゃんと編集しとくぞコレー!」
木ノ葉丸は若干どぎまぎした様子で、兄様と私の前から去って行った。
「やれば出来るじゃない、ネジ兄様っ」
「ん、まぁ二人の幸せを想えば……それだけで俺も幸せだと気づいたからな」
ビデオレターの撮り直しを見守っていた私に、微笑みを向けてくるネジ兄様。
何よもう……、自分の幸せを二人に見いだしちゃって。
何なら兄様も姉様と一緒になって、ナルトの嫁になっちゃえばっ?
ネジ兄様にも似合いそうよ、白無垢姿。
って……、何考えてんのかしら私。
「私達日向一族が加わる事で、ナルトに一気に家族が増えるのねぇ。私にももう一人“兄”が出来るわけで……ナルトからしたら私、義妹なのよね! ヒナタ姉様とナルト義兄さんに子供生まれたら……私おばさんになっちゃうのよ?! う、嬉しい事だけど、ちょっと複雑だわ……。“お姉さん”って、呼ばせてあげなきゃねっ」
「ハナビおばさん、か……フフッ」
「な、何笑ってるのよっ、“ハナビお姉さん”とお呼び! ネジ兄様だって“おじさん”になるんだからね! ──そういえばヒナタ姉様とナルトへの贈り物、兄様と私と父上の合作で【日向は木ノ葉にて最強】掛け軸にしたのよね」
「そうだな……【日向は】の出だしはヒアシ伯父上で、【木ノ葉にて】はハナビ、【最強】と書いたのは俺だからな」
「自分達で言うのも何だけど、父上は元より達筆だよねぇ私達! 特にネジ兄様の【最強】文字がサイキョーだわねっ」
……語彙力ない事言ってどうするのよ、私。
「何というか…、うずまき家にそれを飾らせるのもどうかと思うが、ナルトは俺達日向と家族になるわけだから、その証という事で問題ないだろう」
「そうね、今までも……そしてこれからも、【日向は木ノ葉にて最強】だものね!! ──って、ほんとはこれ父上が言い出した事だし、私としてはちょっと恥ずかしいんだけど……。次元の違う強さで言ったらもう、ナルトとサスケだわよね」
「何を恥じる必要があるんだハナビ、誇りを持て。ナルトが家族として加わる事で、真に【日向は木ノ葉にて最強】になるのだと……!」
「えっ? えぇ……そうよね、兄様。【日向は木ノ葉にて最強】伝説は、寧ろこれからよねっ!?」
「あぁ、もちろんだとも」
兄様はしたり顔で頷いた。…あぁもう、この話はここまでにしなきゃ。兄様にはこの際、ちゃんと言っておかないといけない事が別にあるから───
「ネジ兄様は、ナルトとヒナタ姉様の幸せを想えば自分も幸せだって言ってたけど、本当にそれだけでいいの?」
「……どういう意味だ?」
「他に、自分が幸せにしたい相手とか……一緒に幸せになりたい相手とか……居ないわけ?」
「特に居ないな。他の仲間達が他里を含めいつの間にやら恋人関係になっているのを見るのは微笑ましいと思うが、自分に対しては……そういった事は全く想像出来ない」
「だから兄様にしょっちゅう来る見合い話とか、直接告白されても全部断ってるわけなの?」
「あぁ、まぁ……俺にはどうも、人を幸せに出来る自信がなくてな」
兄様は俯き加減で、小さく呟くようにそう言った。
その様子が私には儚く見えて、消えてしまいそうで、今すぐ抱き留めてあげたい衝動に駆られた。
……けどその代わり、自然と出た言葉を口にする。
「じゃあ、私がネジ兄様を幸せにしてあげる」
「は…? 何の冗談だ、ハナビ」
私はこれでも真面目に言ったつもりなのに、兄様ってばきょとん顔して冗談ってのはないでしょうにっ。
「ナルトも鈍感だったけど、兄様も鈍いわよね! 私はネジ兄様が好きよ、幸せにする自信ならあるんだから!」
「いや、もう間に合っている。ナルトとヒナタが結ばれただけでも幸せな気分なのに、それ以上望むつもりは───」
「人の幸せは自分の幸せのように想えるのに、人から直に幸せにしてもらうのは、怖い?」
「それは……、よく、判らない」
ネジ兄様は困った様子で私から顔を逸らす。
やっぱり……怖がってる。
自分は人から幸せにしてもらうような人間じゃないって、どこかで恐れてるんだ。
それはきっと、個人として自分から人を幸せにする事も恐れてる。
“人を傷つけた痛み”を知っているから、自分自身が幸せになる事に負い目を感じているんだ。
「兄様……、今すぐじゃなくていい。少しずつでもいいの。人の幸せだけじゃなく、自分の幸せの事も考えてあげて。私が、手伝ってあげるから。ネジ兄様が誰かと幸せになれるなら、その相手は……別に私じゃなくてもいいから」
「────」
私は黙ってしまった兄様の片手をとり、ぎゅっと握った。…出来る事なら、この手の優しい温もりを離したくない。
「ほら、まずは二人の結婚式の準備を手伝わなきゃ! いつか……一緒でも別々でも、幸せになろうね、私達っ!」
「あ、あぁ……そう、だな」
笑顔を向けた私に、ネジ兄様は微笑み返してくれた。
……木ノ葉の里の桜の木々も、ほころび始めている。
暖かな陽射しが、開花を後押ししてるみたい。
満開になるのも、そう遠くない。
結婚式は、もうすぐだ。
《終》
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