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トップアイドル

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第六章

「剛士君がそう言ってくれるのならね」
「あんたも嬉しいのね」
「そうなのね」
「嬉しくない筈がないから」
 だからだとだ。香奈恵は言うのだった。
「こんなに私のことを想ってくれてるなんて」
「そうよね。あいつ本当に一途だからね」
「もう何処までも香奈恵一筋だからね」
「あそこまで一途に想われてるとね」
「誰だって嬉しいわよね」
「剛士君は。最初は私にとってはただのクラスメイトだったのよ」
 転校してすぐはだ。そうだったというのだ。
「けれど今はね」
「違うのね」
「そうなったのね」
「ええ、アイドルよ」
 香奈恵もだ。こう言ったのだった。
「トップアイドルよ」
「アイドルって女の子だけじゃないからね」
「男の子のアイドルもいるからね」
「剛士君は私のことをトップアイドルって思ってくれてるけれどね」
 それは彼だけのことではなかったというのだ。彼女もだというのだ。
 それでだ。こう言うのだった。
「それは私もなのよ」
「そうなったのね」
「一緒にいるようになって」
「そう。だから凄くね」
 とても嬉しい感じの笑顔でだ。香奈恵は言った。
「嬉しいから。一緒の大学に行きたいから」
「じゃあ彼の入試応援するのね」
「そうするのね」
「応援するだけじゃなくて」
 切実な顔になってだ。香奈恵は言った。
「もっと。積極的に助けたいわ」
「じゃあ体育学部入試の為にペーパーテストのことも教えてあげたり」
「あとコンディション管理よね、実技の為の」
「私やるから」
 とても切実な顔でだ。香奈恵は言った。
「私のトップアイドルとずっと一緒にいる為にね」
 こう言ってだ。剛士だけでなく香奈恵もだ。二人でずっと一緒にいる為にだ。
 頑張った。ペーパーテストの入試の方もだ。香奈恵は八条大学体育学部のこと、入試問題の過去の問題集、所謂赤本まで手に入れてだ。そのうえでだ。
 剛士に勉強を教えた。彼女の受験の勉強もしながら。しかしだ。
 剛士は勉強が苦手だ。中々覚えられない。受験は難航すると思われた。
 だが、だ。ここにだ、
 香奈恵の助っ人が入った。彼女も必死で彼に勉強を教えた。自分の分もしながら。
 そうしたことが何ヶ月も続きだ。その結果だ。
 剛士は無事に合格した。八条大学体育学部に。確かに実技も上手くいった。だがそれ以上にだ。
 彼はペーパーテストもできた。そちらも上手にいった結果だ。彼は合格したのだ。
 勿論香奈恵も合格した。二人で同じ大学に通えることになったのだ。このことについてだ。
 剛士は満面の笑顔でだ。仲間達にこう言った。
「いや、最高の状況になったよ」
「だよなあ。まさかなあ」
「御前が大学に受かるなんてな」
「しかも伊豆さんと同じ大学か」
「それ、実現したんだな」
「夢みたいだよ」
 卒業前にお祝いに来ているカラオケボックスの中でだ。彼はビールのジョッキを片手に言う。
「本当にな」
「だよな。伊豆さんも頑張ったしな」
「御前にペーパーテスト合格させるんだもんな」
「赤点記録保持者の御前をな」
「やっぱり凄いよ」
「いや、本当だよ」
 剛士自身もだ。このことは素直に認めていた。
 そして満面の笑顔でビールを飲みながらだ。こうも言うのだった。
「あの娘なかったら俺こうはなってなかったよ」
「就職か?」
「そうなってたか?」
「そうだよな。まあ就職もいいけれどさ」
 それも悪くないと言うのだ。だが、だった。
「けれどあの娘と一緒の大学に通えるんだぜ」
「それがよかったってんだな」
「御前にとっては」
「本当によかったよ。やっぱりな」
 剛士は満面の笑みでさらに言う。
「あの娘は俺にとって最高のトップアイドルだよ、いや」
「いや?」
「いや、何だよ」
「トップアイドル以上だよ」
 こうまで言うのだった。
「女神だよ、俺にとっての幸運の女神だよ」
「おいおい、そこまでかよ」
「そこまでの娘なのかよ」
「本当にな。そうだよ」
 満面の笑みでの言葉が続く。
「あの娘に会えてよかったよ。それでこれからもな」
「これからもかよ」
「そう言うんだな」
「一緒だよ。その女神と一緒にいるからな」
 幸せを感じながらだ。剛士は言っていく。そしてだ。
 彼は大学でも、そして卒業して二人で八条学園の教師として就職してからもそれからもだ。香奈恵と一緒にいた。そうして彼のトップアイドルとだ。何時までも幸せに生きたのである。彼はずっとだ。自分程幸せな人間はいないと語った。満面の笑顔で。


トップアイドル   完


                       2012・5・1 
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