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フロンティアを駆け抜けて

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ホウエンの怪物

バトルダイスでの激闘を終え、ジェムはダイバとの約束通りポケモンセンターへと戻ろうとする。しかし受付のお姉さんがラティアスの『水遊び』でびしょ濡れでは女の子としてあんまりだということで出る前にジェムを控室に移動させてドライヤーで髪を乾かしてくれた。ついでに洋服も脱水してもらう。新調した服は水で透けるような生地ではなく、またラティアスの発生させる水はほぼ純水であるためべたつきもしなかった。軽く湿っぽくはあるが、濡れているというほどではなくなる。
 お姉さんにお礼を言って、ジェムはポケモンセンターへと向かう。ダイバは傍にサーナイトを控えながらポケモンセンターに設置されている大画面のモニターを見ていた。

「お待たせ! あのね……」
「あのブレーンに勝ったんでしょ。知ってる」

 自分の口で報告しようとするジェムの言葉を遮り、モニターを指さしてダイバが言う。そこには施設でのバトルの様子が映し出されている。ジェムがゴコウとバトルしていたのを見ていたのだろう。

「うん。ゴコウさんすっごく強かったけどなんとかね。ダイバ君はどうだった?」
「……ん」

 ダイバは自分のフロンティアパスをジェムに見せる。そこには4つ目のシンボルが加わっていた。

「そっか、おめでとう! じゃあ次はどこに行こうかな」
「…………そのことで、提案があるんだけど」

 珍しくダイバが、一呼吸おいて躊躇いがちに言う。今まではどんなことも言うことを聞く約束だからと平然と言ってきたのに。

「次はバトルタワーに挑戦したい。僕も君もバトルタワーのシンボルは持ってないから……二人で同時に挑戦したいんだ。バトルタワーには、マルチバトルのルールがあるから」
「えっ……本当に?」

 ジェムは正直少し信じられなかった。ダイバの口から自分とダブルバトルをしたいなんて言葉が出てくるとは思わなかった。

「……駄目とは言わせないよ。君は僕より弱くて言うことを聞かなきゃいけないんだから――」
「勿論そんなこと言わないわ! 私とっても嬉しいよ、ダイバ君がそんな風に言ってくれて。一緒に頑張ろうね!」
「……わかった」

 ダイバは何か気まずそうに目を逸らしたが、ともあれダイバの方から歩み寄ってくれたような気がしてジェムは嬉しかった。最初会った時は理不尽で怖くて仕方なかったけど、ダイバの母親のネフィリムに会って、自分の母親のルビーと話して、少しずつ近づいていければと思えるようになったから。
  
「でも、聞いてもいい? ダイバ君は私のこと弱いって言ってるし、ちょっと悔しいけど私もそう思ってるけど……どうして一緒に挑戦したいと思ったの?」
「それはちゃんと説明する。まずバトルタワーのブレーン……僕のパパがどんなバトルをするかについてから」

 ジェムからすれば当然の疑問だ。ダイバが帽子を被り直し、呟くように答える。ジェムは言葉を聞き漏らすまいと近くに寄った。今から挑戦する相手の事は知っておいて損はないし、ダイバが自分の父親をどんな風に話すのかも興味がある。

「まず大前提として……僕のパパは、絶対に攻撃技しか使わない。『影分身』や『剣の舞』みたいな能力変化も、『電磁波』や『鬼火』みたいな妨害も一切しない。ただひたすら攻めるだけ」
「ええっ!? それって、あんまりポケモンバトルは強くないって事?」

 ポケモンバトルは攻撃だけでも、補助だけでも、妨害だけでも勝てないというのが常識だ。チャンピオンであるジェムの父親はいくつもの技を複雑に絡み合わせて使用するし、それでなくてもただひたすら攻撃し続けるなんてのはポケモンバトルの初心者がやることだからだ。しかしダイバは首を振る。

「……パパには必要ないんだよ。ただ攻撃し続けるだけで、どんな敵も倒せる。ホウエンの怪物に、ポケモンバトルの常識は通用しない」
「ホウエンの怪物?」
「パパが世間から呼ばれてるあだ名。パパのパパも結構大きな会社を動かしてたらしいけど、パパはそれよりもさらに大きな会社を作って今ホウエンの経済のほとんどを牛耳ってる。それはただ経営が上手なんじゃなくて……邪魔するやつがいたら、全部自分とポケモンの力で叩き潰せるから。それこそ、こんな島を一から作れるくらい」

 無人島を丸ごと買い取り、設備を整え、ヴァーチャルポケモンシステムを開発させたとダイバは説明する。それにどれだけのお金がかかるのかはジェムの想像出来る範囲を優に超える。そしてその過程で邪魔になった存在は、全て排除してきたのだろう。

「私たちをいきなりハンティングゲームの獲物にしたことといい、とんでもない人なのね……」
「あれくらい日常茶飯事だよ。それにこれは本当かどうか知らないけど……君のパパにも負けたことがないってパパとママは言ってるし、それを信じてる人は少なからずいる」
「私のお父様にも?」

 さすがにそれはない、と思いたかったが少なくともダイバが嘘をついているとは思えないし、今はジェムも自分の父親が絶対に無敵だとは思っていない。大事なルビーや自分の事をある程度放置してでも己の研鑽に当て続けていたことを知っている。

「だから……普通にポケモンバトルをしたらまず勝てない。君も、僕も」
「……!! じゃあ、どうするの?」

 ジェムには勝てない、というだけならショックではあるけど驚きはなかった。しかしダイバは自分でも勝てないと言い切った。思わず尋ねる。

「ブレーンを務める以上は、ルールに則って勝負をしないといけない。バトルタワーは才能を試す場所だからポケモンバトルのルールは普通だけど……マルチバトルなら付けいる隙はある」
「どんなルールなの?」
「マルチバトルは、二人のトレーナーが二匹ずつのポケモンで挑んでダブルバトルをする。それでブレーンの元にたどり着いた場合、ブレーン側もパパ一人じゃなくてもう一人と二体ずつを使ってバトルすることになる。……その場合は、ママがパパのパートナーとなってバトルすることになる」
「ネフィリムさんが来るってことね」

 ネフィリムはバトルクォーターのブレーンであり、ダイバの母親。ジェムが初めて勝利することのできたブレーンであり、大好きな人に利用されるのが幸せというちょっと変わった価値観のある人だったけど……それでもダイバの大事に想っている人だった。

「そう。ママ相手なら君でも勝てるのはわかってる。だからブレーンとのバトルが始まったらまず二人で集中してママから倒す。パパは守ることなんてしないから、邪魔はしてこない。それで四対二になったところを、二人がかりで倒す……これしかない」

 ダイバの作戦は一見尤もだ。ジェムはネフィリムに勝利しているし、あれからまたジェムは強くなっている。そしてダイバはジェムより強いのだから、二人がかりで集中攻撃して数の有利を取り、それから自分たちより強いエメラルドを倒すのは理屈の上では正しい。

「……それで上手くいくかな?」
「は?」

 でも、ジェムの胸に抱かれたのは疑問だった。昨日の夜父親に対して思ったのと似たような感覚。頭では正しいと思っていても、心で納得できない何か。

「あのね、私たちが集中攻撃でネフィリムさんを狙ったとしても簡単には倒せないんじゃないかなって、そんな気がするの」
「自信がないの? ……それとも、僕にはママを倒せないって?」

 怒気の籠った言葉。ダイバには自分が母親よりポケモンバトルが強いという絶対の自信があるのだろう。それを否定するつもりはない、しかし。

「そんなことないよ、ダイバ君の方が強いと思う。でも、ダイバ君を育てたのはネフィリムさんでしょ? だったらダイバ君のことはよくわかってるはずだし、簡単には倒されてくれないんじゃないかって……あのね、私のお母様もポケモンバトルはもうしてないけど、それでもすごく強い人で――」
「くだらない。ママは僕の事なんてわかってないよ。……そもそも、育ててくれた覚えもない」

 ジェムの言葉を叩き潰すような強い語気の後、ダイバはため息をついて呟く。

「……記憶があるときには、もう僕のママは僕の傍にいることより仕事を優先してた。たまに帰ってきた時も、グランパの開発したバーチャルポケモンとのバトルデータを見て褒めるだけ。そんなの……育てられたとは言えないでしょ」
「それは……」
「君が両親に好かれてるのはよくわかったよ。でも、僕にそれを押し付けるな。これは命令」
「待って、違うわ! 私が言いたかったのはそういうことじゃなくて」
「興味ない。今君とマルチバトルに挑む話をしてるのだって、単にママに勝ったトレーナーで言うことを聞いてくれるからってだけなんだよ。……調子に乗らないでくれる?」

 ダイバがサーナイトに目くばせする。するとサーナイトが小さな念力を発してダイバに耳を寄せていたジェムを軽く突き飛ばした。ジェムが思わずしりもちをつく。その体勢で顔を上げると帽子に隠れるダイバの顔が見えた。それはジェムには物凄く怒っているように思える。

「きゃっ……ごめんね。また勝手なこと言っちゃったよね」

 今はただ、それだけを。でもジェムは諦めるつもりはなかった。確かにジェムにはダイバが両親からどういうふうに扱われていたかはまだまだほとんどわかっていない。でも昨日学んだ、間違いないと思えることが一つだけあるから。

「君は僕の作戦の通りに動いてくれればいい。特別な期待もしない。昨日、作戦は考えてきたから今からそれを伝える。……サーナイト」

 サーナイトの目が再び輝く。するとダイバの考えたマルチバトルで使用するポケモンや技の連携。恐らくダイバの両親が使用するであろうポケモンの組み合わせを何パターンにもわけたそれぞれへの対応戦術がテレパシーとしてジェムの頭の中に入ってきた。ダイバが口頭でいちいち伝えるよりこちらの方が早いと判断しての事だろう。それらの情報が伝えられた後、言葉ではない意志がジェムの脳内に響いた。

「えっ?」

 一瞬、誰かに話しかけられたのかとジェムが周りを見る。しかし誰もジェムに話しかけてはいなかった。

「……サーナイト、何か余計なこと言った?」

 じろり、とダイバが自分のサーナイトを見る。サーナイトは静かに首を振った。ジェムはそれで、ようやく誰の言葉か理解する。

「ねえダイバ君、サーナイトって……もしかしてネフィリムさんにもらったの?」
「……そうだよ、それが。テレパシーで何て言われたの」

 ダイバにはテレパシーの内容は聞こえていなかったらしい。それでもテレパシーを使ったと分かるのはやはり一緒に居た時間の長さか。一瞬ジェムは躊躇った後、笑顔を作ってこう言った。

「主の役に立つために作戦通りお願いします、って。なんだかネフィリムさんみたいな言い方だなーって思ったから聞いたの」
「ふん……やっぱりママの考えることなんて結局そういうことなんだよ。挑戦中も複雑な指示が必要な時はサーナイトに伝えてもらうから、ちゃんとやってね」

 ダイバの母親を軽んじる言葉にジェムの胸がズキリと痛む。サーナイトを恐る恐る見たが、サーナイトは小さく微笑んだ。テレパシーは飛んでこなかったけど、お礼を言われている……のかもしれない。

(本当は突き飛ばしてごめんなさい、主を許してくれてありがとうございます……ってサーナイトは言ってくれた。ネフィリムさんがダイバ君に渡したサーナイトは、ダイバ君を大事に想ってる……きっとそうだよね)

 サーナイトの立場のために咄嗟に嘘をついてしまったが、自分たちを心配する言葉をかけてくれた。これから一緒にバトルをすれば、バトルを通しながらダイバにそれを伝えられるかもしれない。その希望を持って、ジェムは立ち上がる。

「それじゃあ行くよ。パパに勝つために……バトルタワーへ」

 自分の両親に挑みに行くとは思えないほど重苦しく、母親の方は眼中にも入っていない。それが昨日までの自分とシンクロして見えながら、ジェムはダイバとバトルタワーへ向かう。受付をすると、マルチバトルに挑む人は少なくないと言われた。現在唯一トレーナーがタッグを組んでバトルが行えるルールだからだそうだ。ジェムはダイバの指示通りのポケモンを二匹指定する。キュウコンとラティアスだ。

「今までパパに勝った人はおろかブレーンの元までたどり着けた人はいない……それだけ、トレーナー同士でタッグを組むのは難しい。相手はバーチャルだから連携は完璧なのもある」

 トレーナー側はお互いの意思疎通が出来なければ動きはバラバラになる、しかしバーチャルポケモンは同じコンピュータが動かしている以上、統率は乱れない。だから普通の施設よりも難易度は遥かに高いということだ。ダイバがサーナイトを使って指示を送ると決めたのは、ジェムとダイバのチームワーク……というより、ジェムがダイバにとって都合よく動くようにするためだろう。
 マルチバトル専用のバトルフィールドにジェムとダイバは立つ。試合開始のブザーが鳴ると、バーチャルトレーナーも二人現れた。アスリートとバックパッカーのようだ。

「ポケモンバトルでも 俺様が 一番だ!」
「あんたと バトルするの こいつと 首を長くして 待ってたよ!」
「どうせコンピュータが指示を出すのに下らない……さっさと片付けるよ、ガルーラ」
「うん、頑張ろうね! いくよキュキュ!」

 出てきたヴァーチャルポケモンはピカチュウとナッシー、そしてジェムはキュウコンを、ダイバはガルーラを繰り出す。ダイバは早速作戦通りメガシンカの力を開放する。ガルーラのお腹の中の子供が飛び出て、二匹で戦うメガガルーラになった。

「まず僕がいく。メガガルーラ、『岩雪崩』」

 ダイバが先制し、母親のガルーラが宙に大量の岩を出現させて相手へ雪崩させる。更に子供のガルーラが真似をして小規模の石礫を起こして、何度も投げつけた。ナッシーの体が何でも岩にぶつかり、怯む。

「ピカチュウ 『電磁波』」
「キュキュ、『神秘の守り』!」

 落石を凌ぎ麻痺させる電気をメガガルーラに向けて放つのを、キュウコンが尻尾から発生させた妖しい力で弾き飛ばした。

「……『グロウパンチ』」
「えっと、じゃあ『影分身』よキュキュ!」

 近寄って来たピカチュウにガルーラ親子が殴り掛かる。それをキュウコンがガルーラたちの分身を作って、ピカチュウを取り囲むように出した。ピカチュウが逃げ場を失い。二発の拳がクリーンヒットする。ナッシーが『タネ爆弾』を使用したが、それは本体ではなく分身に当たった。

「決めろ、『炎のパンチ』」

 『グロウパンチ』の効果で二回分攻撃力が上がったガルーラ親子が今度は二発の燃えるパンチを撃ちだし、ナッシーの体を焼いて倒す。これがダイバの考えた基本戦略だ。メガガルーラの特性による二回攻撃で技の効果を利用しつつ攻め、メガガルーラを狙う攻撃や妨害をジェムが守る。そして『グロウパンチ』により能力の上昇したガルーラたちで相手を制圧していく。

「もう二体倒しちゃった。さすがね!」
「すぐに次が来る。気を抜かず、出しゃばらずに作戦を続けてくれればいい……」

 バーチャルトレーナーが二体目のポケモンを出そうと振りかぶる。そこで異変は起こった。ジェムとダイバのいる部屋の電気が突然消える。まだ昼間なため真っ暗にはならないが、それでも部屋の中はかなり薄暗くなった。

「な、なに……!?」
「……停電?」

 ボールを投げようとしたバーチャルトレーナーの姿も消滅し、バトルフィールドが静寂に包まれる。キュウコンが不安がるジェムの傍に近寄り、そっと9本の尻尾で包んだ。キュウコンの体を抱きしめながら、ジェムは言う。

「電気の使い過ぎでブレーカーが落ちたのかな……?」
「……あり得ないよ。普通の家じゃあるまいし。とにかく、しばらくしたら非常電源が作動するからここで待とう」

 とはいえダイバにも原因がわからないらしく、待つしかないようだった。しかし事態はそれだけではとどまらず――ジェムたちがいるよりもはるか上の方でガラスを破壊するような鋭い音と、バトルタワー全体に衝撃が走った。それとほぼ同時に非常電源が作動し、部屋の明かりは戻る。しかしバーチャルは消えたままだ。

「こ、今度は……?」
「……ヴァーチャルシステムが停止してる。この部屋だけじゃない。サーバー全体が落ちてる」

 ダイバはこのバトルフィールドの隅にある端末を操作する。対戦が終わるごとに手持ちを回復したり次のヴァーチャルを呼び出す機械だ。ポケモンを回復することは出来るようだが、ヴァーチャルポケモンを呼び出す機能が停止していた。ダイバはため息をついた。

「……仕方ない。一旦出直そう。今はパパも最上階にいるし、そのうち復旧するはずだから」
「ダイバ君のお父様が一番上に……じゃあ、さっきの大きな音ってダイバ君のお父様に何かあったんじゃ!?」
「かもね……」

 それだけ言うとダイバはさっさと部屋を出ていこうとする。ジェムは慌てて止めた。さっきの音はかなり高くから聞こえた。最上階かどうかはわからないが、ダイバの父親の傍で何かがあったのではないかと考えるのが自然だった。

「待って! ……ダイバ君は、心配じゃないの?」
「さっきも言ったけど、パパは邪魔するやつがいたら全員叩き潰す。だから僕らが心配することじゃない」

 ダイバは本気で言っていた。それだけ自分の父親を信頼、あるいは畏れているのだろう。仮に昨日までのジェムがチャンピオンである父親が危ないと聞かされたら、自分もお父様なら大丈夫だと何の疑いもなく言ったかもしれない。

「ううん、心配することだよ。勿論私にはダイバ君のお父様がどれだけすごい人かまだわかってないけど……ホウエンの怪物なんて呼ばれてたって、本当に何でもできるわけじゃないよ。本当に何でもできちゃうなら、私たちが挑戦したって絶対勝てないでしょ?」
「……」

 ダイバが黙る。これで父親なら問題ないと言ってしまうのは、自分がここに挑戦する理由を否定するのと同じだからだ。

「万が一にでも何かあったら、ダイバ君はお父様に勝つチャンスがなくなっちゃうんだよ。……それが嫌だから、ダイバ君は弱い私と一緒にバトルしてまで勝ちに来たんだよね?」

 ダイバにまだジェムは弱いと思われている。それを利用してでもジェムはダイバに父親を案じてほしかった。今までの自分のように、ただ盲信するだけの子供でいてほしくはなかったからだ。ここまで行ったとき、再びバトルタワー全体に激震が走った。


「………………そうだね。わざわざ君の手を使ってまで勝ちに来たのにその前にパパに倒れられたら困る」


 沈黙の後、ダイバは部屋から出ようとした足を止め、上を仰ぎ見る。素直じゃない言葉だったけど、それでも上にいく気にはなってくれたようだ。メタグロスをボールから出してその上に乗り、『電磁浮遊』で音もなくすっと移動し始める。このバトルフィールドの先、上の階へと。

「うん、絶対二人であなたのお父様とお母様に勝とうね! そのためにも……行くよラティ!!」

 ジェムもボールからラティアスを出し、その背中に乗って一緒に上へと昇る。時折激しい衝撃音に包まれるバトルタワーで何が起こっているかを確かめるために、ダイバにも彼なりの家族への答えを見つけてもらうために―― 
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