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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  閑話9「恋」

 
前書き
所謂恋バナ....にしたい話です。
本編中じゃ分かりにくい、ヒロイン達の優輝に対する心情を描写します。(描けるとは言っていない)

ちなみに、前回から数日経ったある日の話です。
 

 






       =out side=







 国守山...その一角にある八束神社。
 その境内の裏手にて、複数の人影が集まっていた。

「...さて、今日集まってもらったのは他でもない。」

 その中の一人、リーダー格であろう者が重々しくそう言葉を紡ぐ。

「...そのくだり必要?」

 尤も、それはただの雰囲気作りのために態とやっていただけだったのだが。
 集まった内の一人、アリサにそう突っ込まれたアリシアは、不満そうに口を尖らせる。

「も~、せっかく雰囲気出そうと思ったのに~。」

「アリシアちゃん...。」

 不満そうにするアリシアに、司が苦笑いする。

 ...そう。ここに集まったのは、決して怪しい存在ではない。
 アリシアを始め、司、奏、椿、葵、アリサ、すずかと言った、先日のパーティーの面子だ。
 そして、さらにここに偶然遭遇した久遠も入る。

「それで、どうして私たちを集めたのかしら?」

「んー、ちょっと色々話したかった事があってねー。」

「...くぅ。」

 椿の問いに、アリシアはそう答える。
 なお、久遠はなぜ同席させられているか理解していなかった。

「話したい事?」

「優輝君には聞かせられないの?」

「これは男子禁制だからね!」

 どうやら、呼び出される時に“優輝には話さない事”などと、根回ししていたらしい。
 そのため、普段は椿や葵といるはずの優輝は今はいなかった。
 ちなみに、優輝は今翠屋の手伝いをしている。

「...早く本題に入って。」

「了解了解。...まぁ、一言で言えば、皆優輝に対してどう思ってる?」

「ぇ....ふえっ!?」

 “どう思っている”と言う言葉に対し、司は過敏に反応してしまう。
 数日経ち、面と向かって話せるようになっても、この類の話題には弱いようだ。

「優輝さんに対して...?」

「そうそう。まぁ、椿と司は丸わかりとして...。」

「ちょ、ま、丸わかりって何よ!?まるで私が分かりやすいみたいな...!」

 顔を赤くしながら、椿はアリシアの言葉を否定しようとする。
 だが、その態度がますます分かりやすい事を示していた。

「あ、あたしは優ちゃんの事好きだよー。もちろん、異性として。」

「...そこまで軽く言うのは予想外だったなぁ...。」

 葵があまりにもあっさりと言い、さすがのアリシアもそれには驚いた。

「...まぁ、いいや。じゃあ次、アリサ達は?」

「あたしは...よくわからないわ。頼れる人って感じかしら...?」

「私も...かな。優輝君、親しみやすいから...。」

「むむむ...。」

 曖昧な返答に、アリシアは納得のいかなさそうな顔をする。

「そ、そういうアリシアちゃんはどうなの?」

「私?私は...考えてなかったや。」

 未だに顔を赤くしている司の問いに、アリシアはそう答える。

「...自分に聞かれてその返答は卑怯。ちゃんと考えてほしいわ。」

「ちょっ、ハンドソニックは禁止...!」

 あんまりな返答に、奏がガードスキルを使って脅す。

「うー...ちゃんと答えるってば...。」

「そう。ならいいわ。」

「奏ったら、優輝関連の事になるとこうも敏感になっちゃって...。」

 奏にとって優輝は恩人なため、つい敏感に反応してしまうようになったらしい。
 厳密に言えば、優輝に向けられている感情に反応するらしいが。

「私は...恩人、かな...。偽物との戦いの時、ずっと守ってくれたばかりか、魅了も解いてくれたから...。今まで、神夜に関する事ならいつも敵意を向けてたのに、それなのに私を守ってくれたから...。感謝してもしきれないよ。」

「.....そう。」

 先ほどまでと打って変わって、しんみりとした雰囲気でそう述べるアリシア。
 その様子に、奏は少しリアクションに戸惑ったようだ。

「...なにさー。」

「いえ、アリシアもそんなしんみりした事が言えるんだなって。」

「ちょっ、それはさすがにひどいよアリサ!?」

 皆が少し沈黙したのを訝しんだアリシアに、アリサがそういう。
 いくら普段が明るいからと、それは心外である。

「さぁ、最後は奏だよ!私は答えたからね!」

「うるさいわ...。そこまで大声じゃなくても聞こえてるわ。」

「やっぱり恥ずかしいんだねー。」

「あぅ...。」

 例え好いている訳ではなかったとしても、相当恥ずかしいようだ。
 それを葵に指摘され、アリシアは顔を赤くする。

「....私にとっても恩人よ。前世で私に生きる希望を与え、今世では魅了を解いてくれた...。...でも....。」

 優輝の事を頭に思い浮かべると、奏の顔に少し熱がこもる。

「あれ?」

「えっ...?」

「.....。」

 葵がその様子に気づき、司が“まさか”と言った顔で奏を見る。
 抱いた“感情”がその二人の反応から何かわかったのか、奏は顔を逸らす。

「はは~ん....って危なぁっ!?」

「ちょっ、落ち着きなさい奏!」

 アリシアが奏の反応ににやつくが、すぐさましゃがみ込む。
 頭があった場所には奏のハンドソニックがあり、椿が奏を羽交い絞めにしていた。

「し、死ぬよ!?当たったら私死んでたよ!?」

「っ...!っ....!」

「うわぁ...奏がこんな感情的に...。」

「ねぇ、誰か私の心配して!?」

 顔を上気させ、奏は何とも言えないような顔でアリシアを睨む。
 珍しい奏の表情に、アリサがふとそう呟き、心配されてない事にアリシアは涙目になる。

「くぅ、アリシア...大丈夫?」

「く、くーちゃん...!あなただけは私を心配してくれるんだね...!」

 人化し、へたり込んだアリシアを立たせる久遠が心配してくれて、アリシアは感極まる。
 ちなみに、言葉にしていないだけで、皆一応アリシアを心配はしていた。

「あ、そういえばくーちゃんはどうなのかな?」

「同席させたって事は、久遠ちゃんにも聞くの?」

 人化した事で、思い出したように葵とすずかがアリシアに聞く。

「あ、そうだったね。ねぇ、くーちゃん。」

「何...?」

「くーちゃんは優輝の事、どう思ってるの?」

 奏も落ち着き、改めるようにアリシアが久遠に聞く。

「優輝...?...んー....。」

「(かわいい...。)」

 可愛らしく首を傾げる姿に、アリシアは思わずそんな事を考える。
 その間にどう思っているのか分かったのか、久遠が口を開く。

「....好き...?」

「えっ!?」

「っ...!」

「あー...。」

 呟かれた言葉に、司と奏が敏感に反応してしまう。
 しかし、同じく反応しそうな椿は歯切れが悪そうな反応だった。

「...?どうしたの椿?」

「いえ、久遠の“好き”って言うのはね...。」

「あっ、そっか...。」

 しばらく神社で交流があったが故の椿の反応に、司も気づく。

「え?なに?どういうこと?」

「まぁ、聞けばわかる事よ。」

 戸惑うアリシアを他所に、椿は久遠に寄る。

「じゃあ久遠。他に那美とか、恭也はどう思っているかしら?後私たちも。」

「....?皆好き...だけど?」

「...ね?」

「あー....。」

 つまり、親愛や友愛と言った形での“好き”だったのだ。
 久遠は純粋すぎるため、異性としての“好き”がまだ理解しきれていなかった。

「うーん...くーちゃんにはまだ早かったのかなぁ...。」

「...そうでもないわよ。」

 久遠には恋愛事が早かったのかと、アリシアが溜め息を吐く。
 しかし、それを否定するように椿が言う。

「少なくとも久遠は一回、人を愛した事があるわ。」

「えええっ!?」

 “好きになった”どころか、“愛した”と言う事実にアリシアが驚く。

「久遠には“夢移し”という力があってね。傍にいる人の記憶を他人に見せる事ができるみたいなの。それで、久遠の過去が夢として出てきたのよ。」

「へぇー...。」

「くぅ....。」

 椿の説明に感心するアリシアとは対照的に、久遠は暗い顔をする。

「...久遠のためにもどんな過去だったかは言わないわ。でも、愛した人物が存在した事は確かよ。」

「そっかぁ...。」

 アリシアもただならぬ事情がある事を察し、それ以上は聞かなかった。

「それで、優ちゃんに対する気持ちを聞いてアリシアちゃんはどうしたいの?」

「どうしたいか...んー、特には決めてなかったけど...。」

 一通り話を聞いて、アリシアはどうしようかと考える。

「...ま、ここは女の子らしく恋バナとでも行こうよ!」

「好きな人が被っている上で恋バナって....。」

 本来ならそれぞれが好きな男の子について語るのが恋バナである。
 それなのに、四人も好きな人が被っているのはきついと、アリサは呟く。

「どこがカッコよかったーとか、ここが良い!ってトコを話し合うだけだよ?」

「それでも一人を対象はどうかと思うわ。」

「なんかそれ、アイドルのファンみたいね。」

 どの道恋バナらしくないと椿とアリサは言う。

「ぶー、じゃあどうするのさー。」

「なんで恋バナ限定なのよ...。」

「でも、優ちゃんの良い所を挙げてみるのも、優ちゃんの為人(ひととなり)を見直すみたいで、別にいいんじゃない?」

 ついでに欠点も見つけられれば、それを補うのもいいかもしれない。
 そう葵が意見し、皆がそれに賛成する。

「優輝の事でぱっと思いつくとすれば...。」

「優しい、面倒見がいい、家事万能、戦闘で強い、他にも様々な事に精通している。...あれ?何この凄い優良物件。」

「け、欠点がないぐらいに凄いわね...。」

 なぜあまりモテているという話を聞かないのか不思議な程だった。
 なお、そういう話がない原因は神夜の魅了のせいである。
 好意を寄せる相手がいない時に魅了され、優輝の“良さ”が隠れていたのだ。

「欠点がないって訳じゃないわよ。」

「あー...。」

「...?優輝君にもどこかダメな所が...?」

 椿の言葉に、葵とアリシアが納得したように声を漏らし、すずかが疑問に思う。
 確かに、日常的な所を見れば欠点はないに等しいだろう。
 だが、“それ以外”を見れば、一つの欠点が浮かんでくる。

「...優輝さん、いつも無茶をするわ。例え、どんなに絶望的な状況でも、どんなに傷ついても...。諦めが悪いとも言うわ。」

「...そういえば、以前私たちが誘拐された時も、その時はまだ魔法を使えないのに緋雪ちゃんの暴走を止めてたっけ...?」

「どんなに言っても改善しようとしないわ。」

「“諦めない”っていうのは良い事でもあるけど、同時に短所でもあるよねー。」

 “ねー”と葵とアリシアが苦笑いしながら同調する。
 擁護のしようがないので、司や奏達も苦笑い気味だった。

「でも、そういう所も好きなんでしょ?」

「ぅ.....うん....。」

「......。」

「し、心配なだけよ!」

「あはは、そうだねー。」

 アリシアの言葉に、司は顔を紅潮しながらも肯定、奏も顔を紅潮させ、俯く。
 椿は素直に認めず、言い訳染みた事を言い、葵はあっさりと肯定した。

「...でも、考えてみれば優輝って結構心が弱いわよ。」

「え?あんなに諦め悪いのに?」

「......。」

 椿の言葉にアリシアがそう返し、葵は少し憂いを帯びた表情をする。

「...緋雪が死んだ時、一番傷ついていたのよ。優輝は。」

「...大切な妹が死んだんだもんね...。」

 結局、あの時は緋雪が遺したメッセージのおかげで立ち直ったため、自分たちでは心を癒してあげれなかった事を椿と葵は悔やんでいた。

「諦めが悪いからこそ、それでも助けれなかった時、優輝は人一倍悔やむのよ。」

「...そういえば、入院時にお見舞いに行った時、当時は気づいてなかったけど、優輝君の表情に一切元気がなかったような...。」

「後悔して、自分を追い詰めていた時期ね。...見ていて、痛々しかったわ...。」

 それほどまでに、心に負った傷は大きかったのだと、改めて実感する。

「...そういえば、前世で司さん...聖司さんの話を聞いていた時も、とても悔やんでいたわ...。それまで知っていた優輝さんと違って、弱々しかったわ...。」

「....優輝にも、弱い所はあるんだね...。」

 場が暗い雰囲気となってしまう。
 それに気づいたアリシアが、払拭しようと手を叩き、話を変える。

「暗い雰囲気はおしまい!優輝の欠点と弱い所が浮き彫りになったんだから、今後は私たちで支えて行けばいいでしょ?」

「...そうだね。優ちゃんだってまだ子供だから。一人ではできない事もある。なら、あたし達でそれを補わなくちゃね。」

「優輝さんって前世じゃ成人してたんじゃ....。それに、この場で子供じゃないのは椿さんと葵さんだけ...。」

「それは言っちゃダメだよー。」

 実際、奏も司も前世では成人せずに死んでしまったため、椿と葵以外は全員子供である。
 その事を指摘され、葵は苦笑いする。

「さて...優輝について分かったけど、今のを経て皆は優輝とどう接していきたい?」

「どう...って言われても...。」

「それにしても、どうしてアリシアはこんな話し合いを?」

 なぜアリシアがこのような話題を出し、仕切るような真似をしているのか。
 疑問に思った椿がアリシアに聞く。

「...私自身、どう接するかで悩んでいるからだよ。」

「まさか、今までの話題はこの話のために...?」

「...うん。」

 誰よりも自分自身が悩んでいたためにこの話し合いを開いたというアリシアに、椿と葵以外の皆が驚きに目を見開く。
 椿と葵は、むしろ“なるほど”と言った納得が大きかった。

「今まで魅了されて、敵視してたからどうすればいいか悩んでいる訳ね。」

「....うん...。」

 いつもの明るさが消え失せた様子で、アリシアは頷く。
 それを見て、椿は溜め息を吐く。

「全く...そんな事で悩んでいたのね。」

「そんな事って...。」

「優輝は気にしていないわ。気にしているのなら、きっちり謝っておけば、それでいいのよ。アリサとすずかも、罪悪感を感じていたけど今はもう大丈夫よ。」

 それでも気にするのなら、後は時間が解決してくれるだろう。
 そう説明する椿に、アリシアも少しは気が楽になったようだ。

「そっか...よし...うん!もう大丈夫!」

「切り替えの早さはさすがね。それでいいのよ。」

 頬を叩いて気持ちを切り替えるアリシアに、椿は満足そうに頷く。

「じゃあ、改めて....皆は優輝にどう接して...。」

「僕がどうしたって?」

「.....え?」

 改めて皆に聞こうとして、背後から掛けられた声にアリシアは固まる。
 対面にいたアリサとすずかは、そのアリシアの背後を見て驚いていた。

「ゆ、優輝!?いつの間に!?」

「いや、翠屋の手伝いが一段落ついたから適当に散歩をってな。皆もいないし、久遠にでも会おうとここに来たら皆がいたって訳。」

「話に集中してて気配に気づかなかったみたいだねー。」

 一応椿が人払いの術を使っていたが、霊力がある優輝には無意味だったようだ。

「優輝ー。」

「よーし、久遠。大福持ってきたぞ。」

「ありがとう。」

 優輝に抱き着く久遠に、優輝は持ってきておいた大福をあげる。
 その様子はまるっきり兄妹だが、二人にそういう自覚はない。

「.......。」

「.....。」

 それを見て、司と奏はどこかそわそわする。
 そんな二人の様子に、アリサ達は二人の気持ちを察するが敢えて口には出さない。

「あれ?もしかして二人も抱き着きたぁあっ!?」

「ちょっ、二人ともいきなりどうした!?」

 ...なぜなら、二人の琴線に触れると分かっていたからだ。
 それにも関わらず、からかおうとしたアリシアは、当然のようにシュラインの柄とハンドソニックを当てられそうになる。

「余計な事を言わない。...ね?」

「い、いえす...。」

 笑顔で言う司に、アリシアもさすがにからかうのはやめようと思った。

「何か分からないが、アリシアが悪いというのは分かった。」

「なんで!?」

「いや、だってあの司が怒るなんて前世含めてそこまで見た事ないし。...まぁとりあえず、司も奏も落ち着け。アリシアが何を言おうとしたかは分からんが、ここで武器は出すな。」

「ぁ...うん。ごめん。」

 優輝に咎められ、司と奏は出していたものを仕舞う。
 その際に司の顔が少し紅潮していたが、さすがにアリシアも気づいても指摘しなかった。

「それで、結局なんの話をしてたんだ?」

「えっと....。」

「アリシアが魅了が解けてから優輝と接するのを悩んでたみたいなのよ。」

「あ、ちょっ、椿!?」

 言い淀むアリシアの代わりに、椿があっさりと暴露する。

「なんだ。そんな事か。...ま、悩むぐらい後悔とかしてるなら、それで充分さ。別に気にしなくてもいいぞ。アリシアも被害者になるんだからな。」

「ぁ....う、うん...。ご、ごめんね...?」

「必要以上に責任を感じるのは皆同じだな...。」

 納得しても、つい謝ってしまうアリシアに、優輝はそう言って苦笑いする。

「くぅ...優輝は久遠の事...好き?」

「えっ?」

「あ、く、久遠!?」

 先程の話から少し気になっていたのか、久遠は優輝に尋ねる。
 その問いに、優輝がどういう事なのかと驚き、アリシアは慌てる。

「好きかどうかで聞かれれば...僕は久遠の事は好きだぞ?どうしたんだいきなりそんな事を聞いて。」

「くぅ、アリシアが皆に優輝が好きか聞いてた。」

「またアリシアか...。」

「あれ、私ってもうそんな扱いになってるの?」

 まるで“大体アリシアのせい”のような風潮になっている事に、アリシアは戸惑う。

「......ふと気になったけど、優輝君って恋した事あるの?前世も含めて。」

「あ、それあたしも気になるなぁ。」

「恋バナか...男の僕にはあまり話すネタはないぞ...?」

 恋愛関連の話が出た所から、優輝は恋バナの類だと悟る。
 とりあえず、司から受けた質問に答えようと、優輝は記憶を漁る。

「前世に....初恋はあったかな。いつの間にか冷めてたけど。」

「えっ...。」

「ええっ!?」

 “恋した事がある”という優輝に、全員が驚愕の声を上げる。

「...いや、僕だって恋するからな?前々世に至っては、シュネーの事を愛してたんだから。...と言っても、ムートと僕はもう別人扱いだからカウントしないが。」

「そ、そうだけど....意外、っていうか...。」

 それでも誰かが好きだった事に驚きを隠せない司と奏。
 前世が同じ世界だからこそ、余計に驚きが大きかった。

「司と奏も知っている人だぞ?二人共、一度は会った事あるし。」

「えっ、そうなの?」

 自分たちも知り合っていたと言われ、二人は誰なのか記憶を探る。

「....あ、もしかして...安那(あんな)さん?」

「ええっ!?安那ちゃんに恋してたの優輝君!?」

 優輝の知り合い且つ、自身も出会った事があるという情報から、正解を導き出す奏。
 司もその名前を聞いて驚愕する。

「優ちゃんに恋させるなんて...その人ってどんな人なの?」

「そんな僕を難攻不落みたいな扱いしなくても...。...まぁ、中学からの友人で、同僚でもある人物だ。奏と同じ病院に入院した事があってな。その時に奏と知り合った。ちなみに、名前は天野安那。特殊な事なんて一切ない普通の子だよ。」

 司(聖司)と共通の友人で、優輝がお見舞いに行った同僚だったので、司と奏の二人とも知っている人物だったのだ。

「容姿は...美由希さんぐらいのスタイルで、すずかを茶髪にした感じが近いかな。創造魔法で何とか表現...っと。こんな感じだ。」

「あ、普通に美人だね。」

 言葉だけでは分かり辛いと、優輝は創造魔法で立体映像のように映し出す。

「性格は...アリシアを結構大人しくしたみたいだな。」

「...それって、私がお転婆って事?」

「自覚あるんだな。」

「嵌められた!?」

 実際は自爆しただけなのだが、優輝はそれを華麗にスルーする。

「ち、ちなみにいつ頃に好きになったの...?」

「...高校に上がった時ぐらいかな...?大学に進学してからは、疎遠になっていていつの間にか冷めてたな...。決定的なのは、司...聖司が殺されてからだ。助けられなかったのが悔しくて、心に余裕をなくしてしまったから、恋愛事に興味を向ける事もなかった。」

「そ、そうなんだ...。」

「...責任を感じるなよ?これは僕の心の問題だからな。」

 言わなければ責任を感じそうだからと、優輝は司に釘を刺しておく。

「まぁ、きっかけなんてないものだ。友人として接してたのが、偶然片想いに発展しただけって話さ。特筆するような事なんてないぞ?」

「いやー、優ちゃんが恋愛してた時点で特筆モノだよ。」

「人生を青春に使ってなかっただけで、僕だって恋くらいするっての。」

 珍しく照れながら葵の言葉にそう返す優輝。
 なお、そのギャップに既に優輝を好いている者はノックアウトされかけた。

「....そういえば、安那って何気に桃子さんに雰囲気?が似てるんだよな。性格も違う部分が多いのに。」

「そうかな?私はそうは思わないけど...。」

「雰囲気というか....うーん...表現しづらいんだけど、とにかく似ている部分があるんだ。」

 “何か”が似ている。言葉にはできないが、優輝はそう思った。

「魂が似ているとか、そういうものかしら...?」

「うーん...どうだろう...。」

 それもどこか違うと、優輝はなんとなく確信していた。

「...他にも...皆は知らないけど、前々世...導王の時に侍女長にアリス・エッズィーラっていう女性がいたんだけど...彼女も安那や桃子さんにどこか似ている節が...。」

「...共通点とかはないの?」

「ない...かなぁ?アリスに至っては、性格も容姿も似てないし...。」

 優輝曰く、その女性はムートとして死ぬまで決して裏切らずについてきてくれたらしく、緋雪...シュネーもムート以外で信用していた数少ない人物である。

「まぁ、さして気にする事でもないかな。」

「そこまで仄めかされると気になるんだけど...。」

「いや、だって気のせいかもしれないし。」

 しかし、優輝は観察眼が凄いため、周りは一概に気のせいと断じれないのである。
 そのため、アリシア達はそれが気になってしょうがなかった。

「...そろそろ翠屋に戻るか。じゃあ久遠、またな。」

「うん、またね。」

 子狐の姿に戻った久遠を胸に抱いていた優輝が、そう言って帰り出す。
 アリシア達も引き留める理由はないので、そのまま優輝は戻っていった。
 つい先ほど言っていた事は気になるが、これ以上聞いても分からないと悟ったようだ。

「どうする?」

「どうするって言われても....。」

「話す内容なんてもうない...よね?」

 そして、アリシア達も話す事がなくなったため、そのまま自然解散となった。











 なお、それぞれが帰宅してから、これからの優輝との接し方について自分しか話していなく、皆に聞きそびれたと気づくアリシアであった。











 
 

 
後書き
天野安那(あまのあんな)…前世での女友達であり、優輝の初恋の相手。なお、その恋はフラれたなどではなく、自然と冷めてしまった模様。高町桃子と“何か”が似ているらしい。登場予定はなし。

アリス・エッズィーラ…ムートの時代の時に、侍女長としてムートに仕えていた女性。ムートが死ぬまでずっと仕えていたらしい。安那と同じく“何か”が似ている。登場予定はなし。エッズィーラは、“語り手”のドイツ語(Erzähler)。


アリシアもいずれヒロインの座に沈む...。(ナウシカ風)
すっごい伏線的な描写がありますが、本編に直接関係しません。
次章からは日常回が多くなるので、今回はその試験的な話です。 
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