ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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99部分:それぞれの思惑その二
それぞれの思惑その二
ートラキア城ー
標高数千はあるトラキア高原にトラキア王国の王都トラキア城はあった。高く連なる山々に囲まれたトラキア王国においては水があり作物も採れる数少ない人口密集地帯でありその中心に位置している。
他の国の王都と比べると極めて質素である。外観は装飾が無くただトラキア王国の旗が掲げられ王宮の門の前に竜に乗りグングニルと高々と右手に掲げる竜騎士ダインの青銅の像が置かれているだけである。
宮殿の中も装飾性に乏しかった。大理石や水晶、宝玉といったものは一切無く鎧や刀槍が置かれているだけであった。ガラスもステンドガラスや色ガラスではなくごく普通のガラスだった。煉瓦に赤絨毯が敷かれただけの廊下の奥に王の間があった。
レンスターの様な豊かな国の者から見ると到底王の間とは思えぬであろう。ビロードの無いカーテンは絹ではなく木綿、ガラスも他の部屋と同じく普通のガラス、室内は何も無く玉座の後ろにグングニルをモチーフにしたトラキア王国の紋章が掲げられているだけだった。その玉座も金銀や宝玉で飾られた他国のものとは異なり黒檀の木で造られた簡素なものであった。トラバント王はその玉座に座し嫡子アリオーンから報告を受けていた。
「何だ、また援軍の要請か」
「はい」
アリオーンは父の言葉に答礼した。
「ブルームも老いたのう。あの小僧っ子に手も足も出ぬうえにコノートまで追い詰められるとはな」
トラバント王はそう言いながら言葉とは逆の事を考えていた。ターラでの会見においてのセリスと解放軍の将達、彼等ならばブルームを破る事なぞ易い、と。
「ですが父上、我等は帝国の同盟者、援軍を要請されて動かないとあっては後々フリージや帝国との関係に支障をきたすものかと」
アリオーンの言葉に王は鷹揚に頷いた。
「解かっておる。竜騎士団を含めた二万の兵をミューズに集めよ」
「はっ」
「兵を動かすのはわしの命を待て。目標は・・・・・・マンスターだ」
その言葉を聞きアリオーンの表情が曇った。
「・・・・・・父上、やはりあくまで北進を望まれるのですか」
王の表情が険しくなる。
「当然だ、何故諦めねばならんのだ」
「父上・・・・・・」
王は言葉を続けた。
「グランベルから来た奴等やわざわざイザークからでしゃばってきた小僧っ子共に何が解かる、わし等が今まで山犬だ、飢狼だと蔑まれ罵られながらも傭兵として各地の戦に加わり戦ってきたのを。全てこの貧しく惨めな暮らしから抜け出す為ではないか!わしは絶対に諦めんぞ。今度こそは手に入れるのだ、レンスターの豊かな国土を、そして我等が悲願である統一を・・・・・・!」
「父上・・・・・・」
アリオーンはそれ以上言えなかった。自分達が今まで味わってきた屈辱、果たし得ぬ悲願、一瞬たりとも忘れた事は無かった。そして今目の前にいる父がどれ程民衆と国家の為に身を粉にして働き苦心してきたかを。
「アルテナとコルータを呼べ。すぐに軍議を開くぞ」
「はっ!」
アリオーンは敬礼をして部屋を後にした。王はその後ろ姿を見ながら思った。
(良い気を発している。わしの若い頃とは大違いだ)
王の顔に暗く哀しさを含んだ影が差してきた。娘の顔が浮かんできた。
(アリオーン、アルテナ、御前達はわしとは違う。血塗られ忌み嫌われる道を歩むのはわしだけで良いのだ)
扉の側に架けられているグングニルを見た。刀身から白銀の光が放たれている。
(御前もそう思うだろう。あの者達には光に照らされた道こそ相応しいのだ)
槍は何も語らない。ただ光を放っているだけである。
(もう暫く頼むぞ。おそらく今度の戦いが最後だ。・・・・・・そしてゲイボルグと共に我が子達を導いてくれ)
やはり槍は何も語らない。しかし刀身から放たれる光が一瞬輝きを増したように見えた。
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