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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第九話 緊張 ―テンション―

 
前書き
 時間軸としては前回のしばらく後、月神さんの“漆黒の剣士”の方で描かれた、シュテル&ショウとのやりとりの後になります。 

 
「……なんかごめんな、色々と……」

「いえ……」

 と、頭を抱える疾風と少々困ったような少年と少女、そしてようやく落ち着きを取り戻しつつある紗那。なぜこのようなカオスな空間になったのか……説明するとしよう。

 あの後アズールにやってきた四人はお互いに自己紹介をし、それぞれ少女の名が“シュテル・スタークス”、少年の方の名が“夜月(やづき) (しょう)”であることを知った。当初はロケテスト第一位の少女が目の前にいるということで緊張していた紗那だったのだが、疾風の助けもあって自分がシュテルに対してどのような感情を持っていたのか、伝えることができた。が、その後が大変だったのだ。

 話の流れで“漆黒の剣士”の話題になり、その人物を探しているのだと伝えたまでは良かったのだが……なんと、そのシュテルの隣にいたショウこそが紗那が探し続けてきた漆黒の剣士であったのだ。その証拠に彼のアバターカードを見せてもらい、真実だと判明し……あまりの偶然に、紗那がオーバーヒートしてしまったのだ。その後飲み物を買いに行ったり実際に飲んだりして、ようやく紗那が落ち着き……というか意識を取り戻し始め、今に至る。

「……悪く思わんでくれ。内気ではあるんだが、普段はここまでの奴じゃないんだ……」

「……ごめんなさ、い。いろいろ驚かせちゃっ、て」

「いえ、それはもう大丈夫ですから。もうお気になさらないでください」

 しゅーん、と落ち込んでいる紗那に声をかけるシュテル。ショウの方も言葉にこそ出さないが、もう気にしたような様子はない。が、紗那は立ち直れずにいた。……まぁそれはそうであろう、目の前に何の前触れもなくずっと探していた憧れの人物が現れれば仰天するというものだ。しかも二人とも同時にである。はしゃぐとかの以前に固まるのは納得できるであろう。

「でも……」

「紗那、ありがたく受け取っとこうぜ。たぶん無限ループになるから」

「……そう……だね」

 さらに食い下がろうとした紗那だったが、疾風に止められてようやく納得したらしく小さく頷いた。それが伝わったようで、相手からも心なしかホッとしたような雰囲気を感じられる。それを見届けて疾風も安心し、改めて、と向かいの二人に向き直った。

「……それにしても、二人はなんでわざわざ山彦まで? 本場の海鳴の方が腕自慢は多いだろうに」

「確かに海鳴市はブレイブデュエルの発祥の地ですのでβテスト参加者も多く、各ショップのデュエリストも実力者揃いです。ですがそれが海鳴市以外に実力者がいないという理由にはなりません」

「なるほど、それもそうか。じゃあ、なんで?」

「ここに来た理由は……少々確認したいことがありましたので。まあ単純に修行というのもあるのですが」

「「修行?」」

 シュテルの言葉に、揃って首をかしげる疾風と紗那の二人。既にブレイブデュエルの頂点であるシュテルならば対戦相手にも事欠かないだろうし、普通のデュエルがしたいならオンラインでも十分であろう。わざわざ違う町にまで足を運ぶ理由とはなんなのだろうか、と二人は疑問に思ったのだ。

「はい。まだ詳しい内容は決まっていませんが、近々これまでよりのものより規模の大きい大会が開催されます。日に日にデュエリストの全体的な力量も上がってきていますし、私も更なる高みを目指そうかと」

 抑揚に欠けるというか感情の波が少ないシュテルだが、今の言葉には真剣さと喜びに似たものが感じられた。このように慢心せず努力を惜しまないからこそ、彼女はデュエリストの頂点として君臨し続けているのかもしれない。

「へー……大会があるのか。紗那は知ってたか?」

「うん。その話は私も聞いたことがあるよ。シュテルさんが言ったように詳しいことはまだ決まってないみたいだけ、ど」

 さすがに情報収集完璧だな、と疾風は感心する。大会があるならば彼女たちがそれに向けてさらに力をつけようとすることも納得できるし、現地に行った方が普段の場所から動かないよりもまだ見ぬデュエリストに会える確率は高い。だからこそやってきたのだろう、と疾風は推測した。

「話の流れのついでといっては何ですが、あなた方は参加されるのですか?」

「いっ、いえ……私は、ちょっ、と……目立つのが苦手、で……」

「俺は日程が合えば参加してみたいかな」

 俯いてしまった紗那と対照的に、疾風の方は興味を持ったようで身を乗り出した。

「ええ、そのときはぜひ。……ところでもうひとつお聞きしたいのですが、お二人はチームは組まれているのですか?」

「いや、まだ組んではない。でも最近興味が出てきたからメンバーを集めて作ろうかな、とは思い始めてる……とはいえ今からチーム組んでさっき言ってた大会に出場しても、微妙な結果で終わりそうだけど」

「その推測は正しいものでもありますが、チーム戦は個人戦とは違って個々に役割が出来ます。それ故に個々の戦力も大切ですが、それ以上に戦術や戦略……何より信頼が必要です。これは場数を踏み、共に勝利や敗北を味わなければ培われないものでしょう」

 淡々とだが確かな想いの込められた言葉に、疾風や紗耶は黙って耳を傾けている。

「ですが……ふとしたことがきっかけで人は変わるものです。デュエル中に歯車が嚙み合ってチームが機能する。そのようなこともあるかもしれません。それに仲間と共に戦うというのは、ひとりの時とは別の体験ができます。急かしているように聞こえたかもしれませんが、もしも機会があったら今度はチームとしてもお会いしましょう」

「は、はい。そのときはお願いしま、す」

 恥ずかしそうな雰囲気は取れていないが、紗耶はしっかりと返事をする。もしかするとシュテルの言葉でチームに対する想いが変わったのかもしれない。

 シュテルも何か感じたのか優しげな笑みを浮かべる。……が、すぐさまいつもの表情に戻ったかと思うと隣に居るショウに視線を向けた。

「まあそのときこちらの1名が一緒かは分かりませんが。こちらは特定のチームに所属していませんので」

「確かにチームには所属してないが、お前と一緒のチームに入ってた過去もない。そんな視線を向けられるのは筋が違うと思うんだが?」

「それは否定しませんが……ええ、否定はしませんよ。否定は」

 はたから見ればシュテルがショウをおちょくっているようにも見えなくもないが、視点を変えるとシュテルがショウをチームに引き入れたいようにも思える。いや、もしかするとチームというのは口実とまでは言わないがそこまで関係はなく、純粋に一緒に居られる時間を増やしたいだけという可能性も……。と、またしても疾風は邪推してしまう。しかしそう思いはしても確証があるわけでもなく、出会って間もない相手の懐にずかずかと入るのも失礼かと思い言葉にする者はいなかった。

「その手の話は噂で聞いてたけど、やっぱり夜月くんはソロプレイヤーなんだな。チームは組んだりしないの?」

「まぁそうですね。特に最近は……前は時々どこかのチームに混じってやったときもありましたけど」

「どこか? 基本的にT&Hエレメンツだった気がしますがね。……やはりナノハや妹氏に何か特別な感情を……」

「確かに組む頻度は高かったが、俺が二人を意識してるみたいな発言はやめろ」

「ということは……私は悲しいです」

「私のよく知る人物がまさかロリコンだったとは……みたいな反応するな。というか、お前もあの子たちと大差ないだろ」

 最近の子はマセているとよく言われているが、この子達はそのへんの中学生よりも精神年齢が上な気がするな、と疾風と紗那は若干心の中で苦笑していた。ロリコンだとかシュテルが名前の出てた子達と大差がないだとか深く考えると危ないものがあったような気がしないでもないが、触らぬ神に祟りなし、だ。触れないでおくのが賢明だろうと二人は考えることにした。

「はは、やっぱ仲良いな二人は」

「ショウ、私とあなたは仲良しだそうです」

「何でそこで無駄にドヤ顔なんだよ。自分で仲良しって言ったわけでもないのに……あぁやっぱいいや。意味のないやりとりが続きそうなだけだし」

 時折ショウは冗談とは思えない疲れた顔を浮かべるが……きっとこういうのが彼らのやりとりなんだろう。そう思った疾風は、この二人のやりとりに関して深くは追及しないことにししようと判断した。これが彼らなりのじゃれ合いと言うか、平常運転なのだろう。

「それにしても……よくよく考えると不思議だよな。あの“星光の殲滅者”に紗耶の探してた“漆黒の剣士”が目の前にいるだなんてな」

 と、疾風は何を思いついたのか、唐突に何やら悪い笑顔を浮かべた。紗那はそれに嫌な予感がしたので口を挟もうとしたが、それに違わず疾風に爆弾を投げ込まれてしまった。

「ちなみにここにいる紗那も、通り名持ちなんだぜ?」

「ちょ、ちょっと疾風! そんな、わざわざ言わなくても……!」

「ふむ……それは是非教えて頂きたいですね」

「シュテルさ、ん!?」

 疾風を止めようと思ったらシュテルの方に先に反応されてしまい、紗那はかなり狼狽えた。が、止める間もなく疾風はシュテルに彼女の通り名を教えてしまう。

「“風雪の忍”って、聞いたことないか? それがこいつの通り名」

「風雪の……忍?」

 あわあわと慌てている間に通り名をバラされてしまい、恥ずかしさに俯く紗那。綺麗な名ですね、と笑むシュテルだったが……それとは違う反応をする者がいた。ショウだ。どこか怪訝そうな表情で、通り名を小さく口にした。

「ショウ、知っているのですか?」

「あぁ……ちょっとな」

「ちょっとではわかりません、きちんと話してください」

 言葉少なく答えたのだがシュテルに急かすように言葉を重ねられ、小さく嘆息しながらショウは口を開いた。

「……ユウキの初対戦の相手だ」

「ユウ、キ……? あっ、あの……黒妖精の……」

「覚えてるんですか?」

 ショウに直接話しかけられ、緊張が走る紗那。が、ユウキという名前に聞き覚えがあったのは事実だ。かつて自分から挑んだもののとてつもない成長速度で返り討ちにされた、黒き妖精のアバターを使っていた少女のことだろう。そう思った紗那はショウが相手だが頑張って答えようと、どもりながらも口を開いた。

「ははは、はい。か、かなり印象的な娘でしたか、ら……ボロ負けしました、し」

「まあ……あいつはゲームに関しては天才ですから。成長速度が馬鹿げたレベルですし。あの日だって初日だったんですけどね」

「や、やっぱり初プレイだったんだ……」

 薄々わかってはいたものの、やはり現実として突きつけられるとクるものがあったのか紗那は少々落ち込んでしまう。が、向かいの二人は件のユウキがどういう人物か知っているので、苦笑したような雰囲気でフォローに入った。

「落ち込む必要はありません。先ほどショウも言いましたが彼女はゲームに関しては本当の天才です。先に始めてもいつの間にか追い越されていた……というのはよくあることですので。特にそこの彼が」

「何で人の心を抉ってくるんだ……まあ事実だが。違うゲームでとはいえ何どもボコボコにされてきた俺からのアドバイスですが、あまり気にしないことですよ。考えるにしても次に戦うときはどうすれば勝てるかってことだけです」

「はい……ありがとうございます……」

 とはいえ、事実を知ってもやはり思うところがあるのは事実のようで。紗那はまだ多少落ち込んでいるような雰囲気が抜けなかった。が、そこで疾風は敢えて大袈裟にその後の話題をブッ込んでみることにして口を開いた。

「あー、言ってたなそういや。なんかとんでもない成長速度で圧倒されたとかいう。……思い出した。そんで次の日練習に付き合って新スキルでボコされたんだ……」

「ボッ、ボコしたなんて人聞きの悪い!?」

「いやあれはボコしたであってるだろー。最後のスキルなんかもう……」

「だ、だってあれはそういうスキルだし……!」

 ぼやくように言う疾風と、それに反論する紗那。アズールの常連にしてみればいつも通りの、疾風が紗那をからかってイジっている光景。だがそのおかげで、紗那の少しだけ暗くなった気持ちは払拭されたように見えた。

 そんな二人のやりとりを、特に口をはさむこともなくじーっと見ていたシュテルとショウの二人。しばらくそのまま眺めていたのだが、一段落したころシュテルがおもむろに口を開く。

「先程は私たちが聞かれましたが……今度はこちらから質問してもよろしいでしょうか」

「はいはい、なんだい?」

「お二人のご関係はどのようなものなのでしょう? 先程の言いぐさではありませんが、ただのクラスメイトには思えませんよ?」

「ふぇええええ!?」

 シュテルの質問に、疾風は予想外の方向性だったので目を見開き、紗那はさらに真っ赤になってあたふたする。ようやく収まって普通に会話できるようになってきたというのに、またしても収集のつかなさそうな気配になってきたような気がしてきて、さすがにショウが止めに入った。

「おいシュテル……」

「何でしょう?」」

「分かってるくせに質問で返すな」

「何を言っているのですか。気になっているあなたのために私は質問しているのですよ」

「いや気になってないから。大体そういうことはあまり聞くもんでもないだろ」

 ショウがなんとか止めようとしているが、シュテルはそのつもりはないらしくかわし続けている。とはいえ疾風も単に驚いただけであったし、先ほど二人の仲を邪推したのも事実なのだ。ここは答えるべきだろう、と疾風は間に入った。……ちなみに言うまでもないだろうが、紗那は赤面してフリーズしたままだ。

「まぁまぁ、いいさ。とはいえ、確かに……ただの友達、では済まないかも……何だろうな。あえて言うなら……」

 と、改めて考えてみる疾風。ここまで一緒にブレイブデュエルで遊んできたので顔を合わせる機会は多かったし、話す頻度も高い。同じクラスの女子よりも仲が良いのは事実だろう。そして憎からず思っているのもまた事実であり……何度も同じ戦場を翔けてきた大切な仲間だ。となると、一番適切な言葉は……

「……戦友?」

 と、首をかしげつつも疾風はそう言った。自分で言っておいてなんだが、口にしてみるとそれが一番しっくりくる表現のような気がしたのだ。それを聞いて、シュテルはなんだか納得したような表情を浮かべている。

「戦友……ですか。なるほど、良いと思います」

「納得いく答えを返せたようでよかったぜ」

 追撃が来るんじゃないかと少しだけ警戒していた疾風だったが、今の答えで見逃してくれるようだと思った疾風はホッと息をついた。……紗那の方は、なんとなく嬉しそうな表情をしていたが。おそらく“ただの友達では済まない”、といった辺りに喜びを感じたのだろうとシュテル達は思ったが、さすがにそこを突くのはやめておくことにしたようだった。





「それにしても、とんでもないメンツなんだな……よく考えたら通り名持ってないの俺だけじゃん」

 特に今まで意識したこともなかったが、自分だけに通り名がないということにはさすがに思うところがあったのか疾風は小さく息を吐いた。が、それにキョトンとした声で紗那が答える。

「……え? 疾風にもついてるよ? 通り名」

「は!?」

 知らないぞ!? と向き直る疾風に頷いて見せる紗那。どうやら紗那は知っていたらしいが、疾風はまったく知らなかったため驚愕していた。

「“光の戦士”、だって。この前のスピードレーシングの後くらいに着けられたみたいだよ」

「マジかよ……」

 マジだった。先日のスピードレーシングで見せたタキオンマニューバが、疾風の通り名の元ネタであり代名詞になったようだ。赤き光を纏い、目にもとまらぬスピードで敵を翻弄した戦士、というイメージで。が、通り名を聞いて疾風は素直に喜べなかった。

「それにしても随分安直な……確かに“騎士”とか“勇者”ってガラじゃねぇけどよ」

 そう、あまりに使われている単語がそのまま過ぎないかと思ったのだ。確かに基本的に通り名と言うと、凝っていてカッコいい表現のものが多い印象があるかもしれない。その点で言うと、確かに安直とも言える。が、紗那は別の理由があるのではないかと思っていたようだった。

「それもあるけど、疾風ってデバイス銃剣じゃない? だから“剣士”っていうのも“ガンナー”っていうのも微妙だし、それでどっちでも大丈夫な“戦士”になったんじゃないかな」

「あー……なるほどな。それはしゃーないか……」

 はぁ、とため息は吐きつつも疾風は一応納得したようで、その話題はそこで終わりとなる。その後シュテルから尋ねられたのは、少しだけ真剣な話題だった。

「お二人から見て、ここでのブレイブデュエルはどうですか?」

「どう、っていうと……」

「率直な感想を教えて下さればそれで良いですので。海鳴以外でのブレイブデュエルの稼働状況がどのようなものか、ということを調べることも、実はここに来た目的の一つなんです」

「んじゃ、ここのスタッフさんに聞いてもらった方が良いんじゃ……」

「いえ、やはりゲームのことを一番よくわかっているのはそのプレイヤーさんでしょうから」

 というシュテルの言い分に疾風と紗那は一瞬だけ顔を見合わせたが、正直に答えていいのならばと、少し思案しつつ答え始める。

「なら素直に言うけど、純粋に楽しませてもらってるぜ。他のデュエリストも個性派の連中ばっかりだけど、特にデカい揉め事とかトラブルが起きたって話も聞かないし……いい環境なんじゃないかな」

「私も……同意見です、ね。老若男女、戦術もデバイスも千差万別で個性的です、し……飽きるという言葉から一番無縁なんじゃないかと思いま、す」

「俺はこいつに誘われて、稼動初日からプレイを始めたんだ。それからはずっと続けてるけど、いいんじゃないかな。ゲームバランスとかレアカードの排出率とか、そこまで鬼というか……難しい、とっつきにくいっていう印象はないよ」

「……でも……」

 途中まで順調に話していたが、紗那が何か思い当たったのか口ごもった。が、その先を言うか言うまいか決めあぐねている。まぁ目の前にいるのは憧れの人物である以前に、ブレイブデュエル自体の古参だ。多少ネガティブな印象を口にするのを躊躇ってしまうのも、仕方ない部分もあるかもしれない。が、シュテルはそんな紗那の葛藤をほぐすように微笑し、先を促した。

「何でも言って下さい。正式稼働後にデュエリストになった方々からは、ロケテストを行っていた私たちには見えていないものも、見えているかもしれませんから」

「……マッチングは、ちょっと問題あるかも、って。今って特に制約なく対戦できますけ、ど……いきなり初心者の人達と当たっちゃったりすることも、あって……」

「あー……言われてみれば確かに。カードレベルとかプレイ時間とか見ないでマッチングするから、ドキドキ感はあるんだけど……始めたばっかの人が上級者と当たっちゃうと、自信なくしちゃうこともあるかもな」

「なるほど、そうですか……ふむ……」

 二人の言葉を聞いたシュテルは納得したように小さく呟き、思案する。ショウの方も口には出さないが、何事か考えているようだった。確かに現在のブレイブデュエルのマッチングシステムは、乱入歓迎のオンオフ程度しかなく、どの程度の経験を積んだデュエリストと当たるかどうかは完全に運任せとなっている。平たく言えば仲間内で遊ぶか知らない人間と遊ぶか、という二択になっているのだ。誰と戦うことになるのかというドキドキ感はあるものの、あまりにも実力のかけ離れた人物同士がマッチングしてしまうこともある。改善点を見つけた、とシュテルとショウは考えていた。

 が、不快にさせてしまったかな、とどこかそわそわしていた紗那の様子を見て、安心させるように首を振る。

「あぁ、大丈夫ですよ。貴重な意見を聞かせてもらいました」

「えぇ、彼の言うとおりです。強者になってしまったが故に見落としてしまっていた部分ですから。博士は“ドキドキを大切にしたい”と常々仰っていますが、反面そういった弊害もあるのですね……今後のことを考えてきちんと検討しなければ」

「頑張れよ」

「……手伝ってはくれないのですか?」

 先ほどまでと打って変わって澄んだ瞳で嘆願するシュテル。それに対して疾風と紗耶は思うところがあったが、ショウは気にした素振りも見せず普段と変わらない態度で「そのとき暇ならな」と返している。冷たいようにも見えるが、当のシュテルが満足そうな顔をしているのできっとこれでいいのだろう、と疾風と紗那は陰ながら思うのだった。

「まあ参考になったんならよかったぜ。……で、だ。お二人さん」

 そこで疾風は自分のブレイブホルダーを取り出し、向かいの二人にニヤリと笑って見せた。

「せっかく会えたのもなんかの縁だ。よかったら一戦、どうだい?」

「!?」

「……なるほど。構いませんよ、受けて立ちましょう……ショウが」

「いや、何でこの流れで俺だけなんだよ。お前も受けろよ。1対1でも2対2でするにしてもお前も頭数に入るだろうが」

 疾風の申し出に驚愕する紗那だったが、ここまでによく見てきたやりとりはしているもののシュテルもショウも疾風の申し出には肯定的だった。故に、それに泡を食ったのは紗那のみ。慌てて疾風に向き直ってわたわたと手を振り回した。

「そ、そんな! ロケテスターでかつ上位デュエリストの二人に……!」

「おいおい、何言ってんだよ。これはゲームだぜ? 勝つ可能性はもちろんあるさ」

「そ、そりゃそうかもしれないけど!」

「それにやらないなんて勿体ねぇし、何より面白そうだろ?」

「そ、それも確かにそうだけど!」

 疾風には物怖じとか緊張って概念がないのか、とすら思ってしまった紗那。が、シュテルの方からも疾風への援護射撃が来た。

「先ほども言いましたが今回こちらへ赴いたのは修行も兼ねています。何より……おふたりは通り名を持つほどのデュエリスト。申し出がなければこちらからお願いしていました」

「……だってよ?」

「うぅ……分かった、よ」

 半ば諦めたように返事をする紗耶だが嬉しさがないわけではない。何故なら紗耶もデュエリスト、しかも結構な負けず嫌いなのだから。

「あ、先に言っておくけど手加減とかはしないでくれよ。実力差はあるだろうけど、まったくの初心者ってわけでもないんだから」

 ふたりをよく知る者からすれば無謀だと思われるかもしれないが、最強レベルのデュエリストの真実の強さを見たいと思うのも人情と言えるだろう。彼の言葉から少しの間を置いて、シュテルが短い笑い声を漏らす。ブレイブホルダーを取り出しながら立ち上がった彼女の雰囲気は、今までのものとは変わっていた。

「当然です。私はファンだろうと本気で向かってくる相手に手を抜くつもりは一切ありません」

 そこに漂うのは、確かな強者の貫録。ブレイブデュエルという世界の頂点に立つ者が纏う気配。それに紗那は気圧されてしまう。ショウの方は何も口にはしていないがブレイブホルダーを用意しているあたり戦意は十分あるのだろう。シュテルのような雰囲気こそないが、逆に彼女の雰囲気に全く当てられてないのは確かな実力を持つ証拠だ。

 それを感じ、座ったままなのに紗那は少し後ろに下がりそうになり……唐突に疾風に手を握られ、我に返った。

「大丈夫だ、紗那。俺がいる。……一緒に戦おうぜ」

「っ……うん」

 疾風に笑いかけられ、紗那は落ち着きを取り戻して小さく笑い返した。思い返してみれば何しろ、二人とずっと会いたいと思っていたのは事実なのだ。そしていつかデュエルしたいと思っていたことも、また事実。

 ずっと驚きと緊張が先行してしまっていたので実感がわいていなかったが、ならばこれは自分がずっと望み続けていたこと。夢が叶った瞬間と言ってもいい。……そして自分は、一人ではない。疾風もいるし、ブレイブデュエルに入れば相棒のリンクもいる。もう大丈夫だ、と紗那は立ち上がってホルダーを取り出した。……気付かずに手を繋いだまま。

「……何だか空気を読み間違った気がします。デュエルが始まってからにするべきでした」

「まあ下手に緊張されるよりは良いだろ……おい、なんで手を繋ぐ?」

「私も緊張していますので」

「お前には逆に必要ないだろ。適度な緊張は必要なんだから」

 相手にも影響を与えそうな雰囲気が漂っているわけだが、シュテル達に関しては普段通りとも言える。場に流されない冷静さこそが彼女たちの根源的な強さでもあるのだろう。だがそのことに、このときの疾風たちは気づいてはいない。







 本来ならばドリームマッチということで実況でもつきそうなところだが、紗那が目立つのが苦手であり、かつ超有名人の二人の来店が知られると大騒ぎになてしまう可能性もあった。さらに大会前に手札をあまり晒しすぎたくないという二人の要望もあって、四人はこっそりとシミュレーターに入った。リライズアップした疾風と紗那は向かい合い、自分の相棒たちにも声をかける。

「もう大丈夫そうだな、紗那」

「うん、ありがとう。……頑張ろうね、リンク」

【御意】

「強敵だけど頼むぜ、リラ」

【お任せください】

 二人が頷き合ったその時、目の前に二つの人影が現れ、疾風と紗那はそちらに向き直った。一人は紫を基調としつつ赤紫のラインが入ったバリアジャケットに身を包み、紫の宝石の嵌め込まれたメカニカルな杖のデバイスを握った少女。

 全国ナンバー1の称号を持つ“星光の殲滅者”、シュテル・ザ・デストラクター。

 もう一人は漆黒のロングコートに同色のインナーやズボンを纏い、右手に黒い剣、左手に白い剣を握った少年。

 最強デュエリストのライバルとされる“漆黒の剣士”、ショウ・ヤヅキ。

 二人が現れたのを見て疾風と紗那も視線を交わし、それぞれリラとリンクを抜き放って構える。白き戦士とくノ一、そして紫の炎使いと黒き剣士が対峙した。

「さぁ……始めようか!」
 
 

 
後書き
 さて、いかがでしたでしょうかw 会話が弾む組み合わせということもありましたが、まさかの風雪初の1万字越えというw 一次の方はそれくらい書いてましたが、2次で1万越えるのはたぶん初めてですかね。こっちでは文字数とか気にせずに面白く書いてるもんで。割とリラックスして書けてるかもしれませんw

 さぁ、次回はいよいよクロスオーバー主人公同士の対決です! どうするかは色々とパターンを考えていますが、楽しくて仕方ないw 楽しんで頂けるように頑張ります! 
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