ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜
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第六十一話 重圧
前書き
前回の更新からだいぶ遅くなりましたがとりあえず投稿できました。
本当に投稿できてよかったです。
今回は文字数が少なめです。
まぁ内容が少ないですし、自分の力量的にもこれが限界というか下手により練ろうとすると更新がさらに伸び伸びになるので。
ご了承ください。
「風が気持ちいわね」
「そうですね、先生」
「しかも、ここ見晴らしがいいしいいところだよ!」
私たちは今どこにいるかというとグランバニア城からやや離れた丘の上にいる。
どこで息抜きするか色々と考えていたのだけれど、やっぱり自然で休むのが気分転換に一番いいかなと考えたので、ちょうどいい場所にあったこの丘で息抜きをすることになったわけだ。
ここからは雄大な山脈や広大な草原がよく見渡せるのでただぼうっとしているだけでも随分と安らげる。
白い敷物を広げて、その上で私たちはサンチョさんが作ってくれたサンドイッチを食べている。(ちなみにサンチョさんが「昔はこうしてよく坊っちゃんのお弁当を作っていたものです……」と長い昔話に突入しそうになったのは完全な余談だ。)
暖かい風が私の頬を優しく撫でた。その風の余韻を楽しみつつ私は持参したお茶を一口啜る。
(2人には色々と背負わせちゃったかな……。)
授業が無いからか、とても楽しそうにしているのを見て私はふとそう思った。
確かに私は2人の教育係だし、2人も自分達の背負っているものが常人とは違う事を理解しているしちゃんと言われた事をやれる子だったから授業量も課題量も多くしたし授業の難易度も少しづつ上げていったけど、あの子達に必要以上に負担をかけすぎてしまったのではないか。
特にレックスが全く魔法を習得できていないのはそのせいなのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。
まだ彼は10歳にも満たない年相応の精神なのに、勇者故の使命感に囚われて、そのプレッシャーで魔法の行使が上手く行かずそれで成功させようと躍起になって更に上手くいかなくなる。
……私は今までレックスに何を言っていたのだろうか。
『失敗なんて誰でもするから平気』
そんな一般論を彼に聞かせて何の役に立ったのだろう。
彼の根本的な所に目をやれないでただ励ましの言葉を口にする。
それが私のやるべき事?
いいや、違う。
下手に励ましの言葉を口にすれば口にするほど彼はより責任を感じてしまう。
なら、私は彼に何を、どう言うべきか。
まずは、彼の言葉を聞こう。
こっちから一方的に何かを言うんじゃなくて彼の本心を全て聞いて初めて彼に何か言える。
かつての私がそうだったように。
*
レックスは紅く染まり始めた空をただ座って眺めていた。
私は隣に座る。
「どう?久々の休日は?」
「楽しいです。久しぶりにいい気分になれました」
久しぶりにいい気分になれました。
それを聞いて少し胸が痛んだ。
まだとても幼いこの子に休憩する暇もなく色々と教えてきた自分が嫌になってくる。
仕方がないとも言える。
この子は勇者だから、彼が産まれてきたのは世界が勇者を求めているから、彼が幼いにも関わらず戦いに向かわなければいけないのはそういう定めだから……。
だけど彼は勇者である以前にただの子供だ。
年相応の小さな子供。
それなのに両親と生き別れになり、その肩にはあまりにもの大きすぎる荷物を背負って戦わなければいけない。
「……ごめんね」
言葉が思わず零れた。
レックスは少し驚いた顔をしていた。
「貴方達が特別だからといって色々と無理をさせてしまっているんじゃないかって……。そう考えると貴方達に申し訳無くなってくるの。まだ小さいのに戦うように育てていることが」
「大丈夫です!」
レックスは大声を出したことに自分でも驚いたようだけど、すぐに無邪気な子供の笑みを浮かべた。
「大丈夫です。僕は世界を救う為に生まれてきたんですから」
無邪気さ故に放たれたその言葉は私の胸を強く抉って、気が付いたら私は強く彼を抱きしめていた。
「せ、先生……!」
「そんな事言わないで」
「えっ……」
一層強く彼を抱きしめて私は言った。
「貴方の人生は貴方の為にあるんだから、世界を救う為に生まれてきたなんて言わないで」
私は元の世界に帰れるという条件と引き換えに『影響』を消す為にこの世界に転生した。たとえ笑えていても、喜べても、心のどこかでは自分にあるものを思い出さなければいけない。自分が今こうしているのは使命によるものだと、自分の存在理由がそれしかないと思わずにはいられない。
自分の教え子にそういう思いを抱かせて、彼を『勇者』というだけの存在にしたくない。
「お願い。2度とそんな事言わないで」
「……わかりました」
レックスの返事を聞いて、私は体を離した。
「先生」
「何?」
「僕が魔法をできないのは、先生のせいじゃないです。勇者だから上手くならなきゃいけないってずっと思い込んでいて……」
レックスはグランバニアの王子である上に勇者だから、産まれた時から不特定多数の人間の期待や尊敬を浴び続けていた。
そんな想いを一身に身に受けるうちに、『自分は世界を救う為に産まれてきた』と考えるようになって、それが枷になってレックスを縛り付けていたからであるし、逆にタバサの魔法が上手くいったのは天賦の才によるのもあるが、彼女が勇者ではなかった事で周囲からの期待が兄と比べて少なかったから彼女は抱え込みすぎる事なく魔法の腕を上達させる事が出来たのだろう。
「お父さんとお母さんや世界を救えるような人だって、たくさんの人から言われ続けてて、その通りにしなきゃって思ってて、魔法に失敗するたびにもっとしっかりやらなきゃって頑張って、でも本当は授業が嫌で」
根底にあるものをレックスは吐き出し始る。
彼の表情は下を向いているし、髪に埋もれて見えないけど、でもどんな表情であるかは私にはわかった。
「段々魔法が下手になってくるのが嫌で、勇者な事が嫌で、そんな僕が嫌で」
レックスが自分の心中を吐露していく間、私はその言葉にかつての自分を重ねていた。
魔法の再習得をしていた頃の私。
早くアベル達を助けたい一身で魔法の習得に無心して、自分の願望に追いつかない現実に焦燥感を抱いて、怯えを感じつつも、それでも歯を食いしばって進む事を強く決めた過去の私を。
「でも、先生がこうして言ってくれたお陰で僕は僕の為に頑張れそうです」
再び向き合った彼の笑みは、さっきよりも明るい無邪気で安らかなものだった。
「出来るわね」
「はい、先生。僕はお父さんやお母さん、世界を助ける為に戦って、戦う為に魔法を頑張ります。でもそれは僕が勇者だからじゃない」
「じゃあ何?」
「僕の大切なものを守りたいと思うから僕は頑張って戦うんです。ですから、これからもよろしくお願いします」
そう言ってレックスは深々とお辞儀をした。
「こちらこそよろしくね。レックス」
ーー心配しないで、レックス。あなたの先生は私なんだから。
*
戻るとタバサが少し拗ねていた。
「ごめんね、一人にして。少しレックスと話したい事があったから」
「……いいですよ。でも次からは一人にしないでくださいね」
そしてタバサは私に近づいて、
「大丈夫です、怒ってませんよ。本当はこのお休みはお兄ちゃんのためだったんですよね?」
小声でそう言ったのだった。
「結構勘が鋭いのね」
きっと成長したら色んな意味で油断できない人になりそうだなとそんな事を私は考えていた。
*
それからレックスはどんどん実力を伸ばしていき魔法だけでなく剣術の腕前も大きく成長していった。タバサの方も魔法の習得を進め、実戦レベルになる程にまで魔法の力を高めていった。
そしてついに出発の日が訪れたのだった。
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