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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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73部分:血の絆その二


血の絆その二

「そして軍の全てを率いる司令官だが」
 ブルーム王は視線を動かした。
「ティニー」
「は、はい」
 名前を呼ばれた少女が立ち上がった。
 長い銀の髪を左右で一つの赤く長いリボンでまとめている。黒く大きな瞳を持つ美しい少女である。小柄な身体をスリットの入った短い淡い赤の法衣で包んでいる。
「この度の戦、わしはそなたに期待しておる」
 あえて甘い言葉を出した。
「私の・・・・・・」
 王は席を立った。そしてティニーの方へ歩み寄って来た。
「そうじゃ。そなたの魔力とそなたに流れるわしと同じフリージの血にのう」
「フリージの・・・・・・血!?」 
「うむ。そなたを帝国に弓引くシアルフィ討伐軍の総司令官に任じたい」
「えっ、私が、ですか・・・・・・!?」
 叔父の顔を見上げ驚く。王は満面に笑みを浮かべている。だがそれは仮面の笑みであった。
「そうじゃ。フリージ家のしきたり、知らぬわけではあるまい」
「はい・・・・・・」
 知らぬ筈が無かった。フリージ家は出陣の際その指揮官は必ず彼等が務め前線に立つという事を。
「そしてよもや忘れたのではあるまい?シレジアで彷徨っていたそなたの母とそなたを助け出し今まで育ててやった恩を」
「はい・・・・・・」
 ティニーはその小さな両肩を叔父の両手で覆われ力無く頷いた。そしてそのまま視線を下の方へ向ける。
「では行ってくれるな。良い姪を持ちわしは幸せ者よ」
「有り難うございます」
 礼を言う。だがそこに力はこもっていない。敬礼も頼りない。だが王はそれに意を介さず言葉を続けた。
「そなたに護衛をつけてやらねばな。ヒックス」
 一人の騎士の名を呼んだ。
「はっ」
 黒い髪と瞳の太めの眉を持つ男が立った。身体つきはがっしりとしているが顔は優しげである。灰の服の上に皮の胸当てを着け白いズボンを履いている。
「卿にティニーの護衛の役を命ずる。身命を賭してティニーを守れ」
「御意に」
 ブルーム王はヒックスが敬礼をし終えるのを見届けると自らの席に戻った。そして座らず水晶の杯に酒を注ぎ込んだ。ルビーを溶かした様な葡萄酒である。
「出陣は明朝とする。そしてシアルフィの小僧共を倒し我がフリージの威光を知らしめるのだ!」
 杯を高々と掲げた。水晶越しに葡萄酒が手元を紅に照らす。将軍達も手に杯を持ち口々にフリージ万歳、ブルーム王万歳、と口にする。唯一人ティニーだけ顔を俯け力無く杯を掲げている。
「それじゃあシャナン、頼むよ」
 セリスはシャナンに別れを告げる。
「うむ、セリスこそレンスターでの武勲を期待しているぞ」
「有り難う」
 セリスは言葉を返した。
「それではな」
「うん」
 二人は両手を握り合った。セリスは青い馬に乗りシャナンに手を振り駆けて行った。オイフェと五千の精鋭騎士、そして今だセリスの首を取ると言って聞かないアレス志願してきたオルエン、それに従うフレッドも同行した。行く前にパティにからかわれ彼女はまたしても手袋を投げそうになるがフレッドとレスターに止められた。
 メルゲン東に集結していたシャナンが率いる解放軍の主力部隊はアルスターへ向けて進撃を開始した。その数十三万五千に達し最早大陸にその名を知らぬ諸将と精兵から成りその士気は天を衝かんばかりであり進軍は疾風の如くであった。その中パティ、ディジー、マリータの三人の娘達が何やら話している。
「マリータ、あんたどうして解放軍に入ったの?」
 パティがマリータに話しかける。
「フィアナにリフィスさん達が来た時に預けられたのよ。それで向こうでリフィスさん達が解放軍に入るって言ったからあたしも入ったのよ」
「それにしても本当に奇遇よね。あたし達はフィアナまで着いたらブリギットさんと一緒に誘うつもりだったのよ」
 ディジーの言葉にマリータは少しキョトンとした。
「エーヴェル養母様・・・・・・?もうフィアナにはいないわよ」
「嘘っ」
「あたしをリフィスさんに預ける時何かアグストリアの方へ行くって言ってたわ。そこでデューさん達と一緒に戦うんだって」
「ふ〜〜ん、デューさんとねえ。じゃあジャムカさんやベオウルフさんと一緒かあ・・・・・・」
「多分ね。今アグストリアでも反定刻運動が激化してるらしいからね」
「そうかあ・・・・・・。ジャムカ父様が向こうに行って五年、母様も行っちゃったんだ。寂しいなあ」
 パティが両手を頭の後ろで組み感慨深そうに言ったその時マナやユリアと話していたラナがビクッとした顔をしてパティの方へ駆けて来た。
 
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