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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第52話『2匹の鬼』

 
前書き
前回に続けたかった分ですので、若干短いです。 

 
 
「好き…だから?」

「そう、ボクはハルトが好き。一緒に過ごして気づいたんだ、ハルトの優しさに。ハルトのためなら、ボクは何だってやってやるさ」


ユヅキの言葉を聞き、ヒョウが頭を抱えて狼狽える。
無理もない。彼にとっては異例の事態なのだから。


「鬼が人間を好きに…? どうかしている。ボクたちと奴らは異なる種族なんだぞ?」

「それが何? キミには関係のないことだよ。キミにハルトの、何がわかるの?」


ユヅキは語気を低くして睨みつける。ヒョウの唖然とした表情は一時収まらなかった。
その間も、ユヅキを纏う鬼気は熾烈さを増し、魔力は着々と高まっていく。


「忌々しい鬼の力・・・それでも、これがキミに太刀打ちできる唯一の手段なんだ」


人間と異なってしまった理由。それに頼るなんて絶対嫌だと考えていた。
でも、今はその"絶対"を覆す存在がある。


「必ず、勝つ!!」


ユヅキの額に光が宿り、1本の角となって顕現する。それは妖しく輝き、鬼の象徴に相応しい風貌だった。
加えて、牙が伸び爪も鋭くなって、少しずつ人間の面影が減っていく。


「はぁっ!!」

「ちぃっ!!」


ユヅキの鬼気に当てられ、ようやくヒョウも調子を取り戻す。
双つの吹雪が荒れ狂い、辺りを凍てつかせていった。


「まだまだァ!」


ユヅキはヒョウに向かって駆ける。
その両手には氷剣が握られており、瞳はヒョウの角を捉えていた。


「確か鬼族の角は、象徴の意味合いだけじゃなく、魔力を増幅するためのものでもあったはず。だからそれを破壊してしまえば、人間と同じぐらいに弱る。そうだったよね?」

「よくもまぁ覚えているね。家出したのは何年前の話だったっけ?」

「どうだっていいよ、そんなの!」


ユヅキは氷剣を振るう。が、やはりヒョウの動体視力には敵わず、全くと言っていいほど当たらない。
それでも、常人ではとても対応できない速さだが。


「そもそもキミは戦闘に慣れていないだろう? それなのにボクに勝とうだなんて、さすがに笑っちゃうね」

「何とでも言うといい。ボクはキミに勝つ。それだけだよ」


ユヅキの乱舞は止まらない。
しかし、右から左から上から下から、あらゆる方向からくる斬撃をヒョウは全て避けていく。


「…っ、当たれェ!!」

「雑すぎる。それじゃあ、当たるものも当たらないよ」


空気を切り裂く渾身の一降りも、ヒョウには届かない。

やはり、力の差は埋まらないのか。ユヅキはふと思う。
しかし、諦めては何にもならない。晴登のためにも、ミライのためにも、勝たなければならないのだ。


「吹き荒れろッ!」


ユヅキは氷剣を空気中に還すと、即座に近距離のままヒョウに向けて吹雪を放った。
滝を真正面から受けるような迫力と威力。いくら氷属性に耐性がある白鬼だろうと、圧されざるを得ないだろう。


「格の差を教えてあげようかなァ!」

「ッ!?」


しかし実力の差か、ユヅキの吹雪はあっさりと打ち破られる。白かった視界が開け、代わりにヒョウが眼前にいた。
驚くユヅキを尻目に、ヒョウの指は彼女の角へと伸びた。


「うらァ!」


だがユヅキは近づいてくるヒョウに、逆に鉄拳を放つ。
いつまでも逃げていられない。どんな時もチャンスに変えてやらねば。


「ちッ!」


さすがのヒョウも、その攻撃を防がざるを得ない。伸ばしていた手でユヅキの拳を掴み取る。


「はぁッ!」

「ッ!?」


すかさず、左脚で蹴りを放つ。しかし、ヒョウは驚く様子こそ見せるものの、しっかりと腕で防御していた。


「くッ…!」


一旦、ユヅキは体勢を立て直すために、バックステップして距離を置く。


「中々決まらないなぁ…」


思わず嘆息するユヅキ。
今は鬼化し、身体中から力が湧いてきている。だがそれでも、ヒョウの力の方が上回っているのだ。
果敢に挑んではいるが、反撃をされると正直危うい。


「ハルト……」


ユヅキは後ろをチラリと見やる。
そこには、倒れて治療中のミライと共に、グッタリとしている晴登の姿があった。
自分と同様に路地裏に運ぼうとしたが、ミライと一緒にいた方が良いと考え直した結果である。


「よそ見してる暇、ないと思うけど?」

「忠告ありがとう。別に攻撃して来てもいいんだよ?」

「そんな姑息な手は取らないよ。正々堂々戦って負かしてこそ、ボクは王となれる」


その言葉を聞き、ようやくユヅキはヒョウが攻撃を中断する理由を知った。それと同時に、初めて弟についてあることを知った。

……意外と、誠実なのか。

そう考え直したところで、今さら姉弟の溝は埋まらないことはわかってる。
人間と鬼族。それらの対立を生んだヒョウは、もう人間と、そして姉とはわかり合えないはずだ。


「残念…だよ」


初めて弟の存在を知った時は、驚きがあって、若干の嬉しさがあった。もう1人、自分を理解してくれる人がいるのかと。
でも、弟は決して良い立場にはいなかった。どう取り繕っても、王都を絶望に陥れた事実は変わらない。それは、歴史に残るほどの大犯罪である。

もう、彼とは“姉弟”でいられない。


お別れ…しないと。



「…いくよ!」

「学習能力がないのかい? そんなんじゃいつまで経ってもボクに攻撃は──ん?」







──違う。さっきと大違いだ。


「ふッ!」

「うッ!?」


その違いは感覚的で説明しにくいが、


「そりゃ!」

「がッ!!」


1つだけ言えるのが、攻撃が──見えない。


「なん、で…いきなり…?!」


顔、腹を殴打され、若干頭がクラクラする。
口から血が垂れるほどの、容赦ないパンチだった。

…なぜだ。なぜ、さっきまで見えていた攻撃が急に見えなくなったのだ?


「…そうだね。強いて言えば、吹っ切れたから、かな」

「吹っ切れた…?」

「ボクにはやるべきことがある。ただそれだけだよ」


何を言っているのか、いまいち要領を得ない。彼女は何を悩んでいたというのだ。


「……でも、ここまで殴られて黙っちゃいられないね」


しかし、きっと自分には関係のない話だ。
自分にだってやるべきことがある。大陸の王になれば、鬼族というだけで周囲から蔑まれずに済むのだ。

先程ユヅキが言っていたことは間違いではない。鬼族であるだけで、自分たちは人から敬遠されていた。
だから人間の上に立てば、そんなことは無くなると信じている。


「この想いだけは譲れない!」

「うッ…!」


ヒョウの猛吹雪を真っ向から喰らい、ユヅキの怒涛のラッシュが中断する。いや、それだけに留まらず、ヒョウの反撃が始まった。


「貫けッ! "氷槍一閃(ひょうそういっせん)"!」

「…ッ!」


1mにもなるであろう長い氷槍。
しかし、もはや殺す勢いで放たれたそれだったが、ユヅキに破壊されてしまう。
連続で生成して放ってみるも、結果は変わらない。

やはり、人間を相手取っていた時よりも、攻撃が通りにくい。


「焦れったいなァ、もう!」


遠距離では決着がつかない。
そう察したヒョウは先程のユヅキみたいに、距離を詰めようと図る。

双方の鬼が互いに互いを見据え、拳を構える。


「「はァッ!!」」


拳がぶつかり合って魔力が迸り、辺りで氷柱が猛烈な勢いで地面からつき出てくる。おかげで、綺麗に整備されてる石造りの道路もめくれ上がり、足の踏み場もないくらいに礫が散乱した。
それだけではなく、強大な魔力がぶつかった影響による衝撃波で、周囲の家々の窓ガラスが割れ、壁が吹き飛び、原型を留めないくらいに全壊していく。


しかし──



「…やっぱ、一筋縄じゃいかないね」

「…はた迷惑な話だ」



2匹の鬼だけは、立ち続けていた。

瓦礫を踏みしめ、再び彼らは対峙する。


「これ以上街を自分の手で壊したくはない。そろそろ決めさせてもらうよ」


そう言ったユヅキの両手に、膨大な魔力が集まっていくのをヒョウは見た。
すかさずヒョウは構える。これを凌げば、きっと隙が生まれるだろう。


「はァァァァッ!!」

「ッ!!」


・・・と、達観していたのも束の間、ユヅキの魔力が際限なく上昇し続けるのを見て、ヒョウはすぐさま氷の壁を幾層にも張った。

まさかアレは、全魔力ではないだろうか?
そんなものを体外へ放ったら、魔力切れでぶっ倒れるのがオチだ。もし防がれれば、ユヅキの勝機は完全に潰えるだろう。
それなのにそれを放とうとするということは、やはりあの少年が原因だろうか。


──そこまでして守りたいのか。


ヒョウには、守りたいなどと思える人はいないし、そもそも作ろうとも思わない。その存在が足枷になる可能性があるからだ。


──ならなぜ、目の前のユヅキを「カッコいい」と思う自分がいるのだろうか。


「穿てッ! “激浪霜(げきろうそう)”!!」


ユヅキの周囲に無数の鋭い氷の礫が浮かび上がったのが、氷壁ごしに見えた。来る、とヒョウは身構える。

しかしそれらが放たれた刹那、氷壁が跡形もなく砕け散っていった。
それだけではない。集中砲火の形で、礫たちがヒョウを狙い撃つ。

急いで新しく氷壁を造ろうとするも、礫がヒョウを襲う方が早かった。
皮膚を抉られ、血は飛び散り、白かった髪や肌が斑だが紅に染まっていく。いつの間にか角も折られ、力が急激に抜けていくのを感じた。


「う、あぁぁ……!!」







静寂が訪れたのは、それからすぐのことだった。小鳥のさえずり1つさえ聴こえない、まるで真空にいるかの様な静けさである。

顔を上げると、山のように積み重なった氷の礫が見えた。それは、ガラクタの様に変貌した街の風景の中で、一際目立つ淡い輝きを放っている。


「これで……」


直立できていたのも束の間、ユヅキは地面に正面から倒れ込んだ。その額にもう角はない。指先すら動かす気にならないほど、今の彼女は疲弊していた。
あの技を使うのに、自分の持つ全ての魔力を使ったのだ。しばらく、動けるようにはならないだろう。


「勝ったよ…ハルト…」


ユヅキは独り言のように呟いた。
そういえば、晴登とミライは大丈夫だろうか。
戦闘中は一切考えないようにしていたから、正直巻き込まれていても不思議じゃない。
しかし捜そうにも、もう立つ力はない。今できることは、地面に伏せながら無事を願うことぐらいしか・・・


──ガラッ


不意に静寂を切り裂いた甲高く固い音。ユヅキには、それは不幸の知らせに思えた。
この辺りでその音を鳴らせるのは、目の前の氷の山だけなのだ。つまり・・・


「まだボクは……負けて、ない……」

「嘘……!?」


ユヅキは首をもたげ、何とか前方が見える状態にする。すると眼前には、傷だらけで 立っているのもやっとなぐらい疲弊しているであろう、ヒョウの姿があった。


「キミはもう、動けないだろう…? これで、ボクの勝ちだ…!」


その声は弱々しく、押せば倒れそうなぐらいに弱っているのが判る。だが、今はその動作さえユヅキにはできない。

マズい。恐らく、ヒョウにはまだ魔力が残っているはずだ。このままユヅキにトドメを刺すことも可能なのである。


「おやすみ、ユヅキ…!」


気温が下がる。ヒョウが魔力を収束してる証拠だ。

勝利まであと1歩、あと1歩だったのに・・・


「嫌だ、死にたくないよ…!」


ユヅキは、ヒョウに劣らない弱い叫びを上げた。

しかしその叫びも空しく、ヒョウの氷槍は彼女めがけて射出される。サイズは小さいが、命を刈り取るには充分な鋭さだ。

ユヅキは死を覚悟して、目を瞑る。



──その刹那、ユヅキの前に降り立った影がその氷槍を真っ二つに破壊した。

 
 

 
後書き
卒業して遊びまくってたら、ものの見事にギリギリです。いや、前半結構端折ってます。
暇があったら修正しときます。はい、暇があれば。

さて、ようやく異世界転移編が終わりを見せようとしている気がするけどやっぱ気のせいかな、みたいな状況になってきました。
なるべく小説書く時間も取って、次回は少しでも早く更新できたらと思います。では! 
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