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機動戦士ガンダム・インフィニットG

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第十話「少女が見た青い雷光」

 
前書き
ユーマ専用イフリート改※本作のMSはソリッドアーマーなので人間と同じサイズです

これは、強化人間用に開発されたEXAM搭載機※ニムバスのとは別個にあります。 

 
フランス付近の上空より、いくつもの光が走った。地上の何気もない平和な街に比べて、上空の闇では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「もらったぁ!!」
黒いガンダムの、口部より発射されたビームが夜の雲を貫く。
「……!?」
雲を貫くその閃光をかわす青い機体に、隙を与えず追い詰める三体のガンダム達。
「死ねー!」
緑色のガンダムが振り下ろす巨大な鎌に対し、二刀の刀で受け止める青い機体。しかし、そんな彼の背後から、水色のガンダムが背負う巨大な二つの砲身より図太いビームが放たれる。
しかし、それを間一髪で避けた青い機体だが、その背後を最初の黒いガンダムが取り出した鉄球を振り回して襲いかかった。
それに、回避する余裕はなく、鉄球の打撃を食らった青い機体は、そのまま体勢を崩し、ひらひらとパリ上空の夜空を降下して市街部へ消えていった……
「死んだー?」
緑色のガンダムが二体に問う。
「どうだかな?」
と、水色のガンダム。
「さっさと帰ろうぜ?」
黒いガンダムは言うと、時期に三機のガンダムは任務を終えたと自己的にまとめて母艦へと帰還していった。

「ローゼス・ビットッ!!」
パリのガンダムファイト専用競技場にて、フランス代表のガンダムファイター、ジョルジュ・ド・サンドが繰り出す華麗なビットのオールレンジ攻撃を目に観客席は、手に汗握るパリ市民でいっぱいになっていた。
「ジョルジュ様ー!」
観客席の中で、もっとも興奮状態でいたのが一人の少女。あのISの大手企業デュノア社の令嬢、シャルロット・デュノアであった。
元は、デュノア社長との間にできた不倫相手の娘であったが、母親が死んだために行く当てもないところを、ISの適性が強いということで会社の看板として引き取られた。今となっては、フランスの代表候補生だ。
しかし、そんな彼女でも決して幸せな生活はしていない。何よりも、社長の正妻から虐待を強いられる日々が続いている。さらに父親でさえ、彼女に対して父性のひとかけらも出さず、彼女を物のように冷遇している。
表向きは、デュノア社の看板娘を演じ、裏側では不倫相手の娘というレッテルで正妻からひどい虐待を受け、そんな状況を父親は見て見ぬふりを続けている。
しかし……
「ジョルジュ様~……」
そんな、心身ともに傷ついた彼女を唯一癒す存在が、フランス代表のガンダムファイター、ジョルジュ・ド・サンドと、彼の駆るガンダムローズが繰り出す華麗な戦いぶりであった。
ISやらMSやらとは関係なく、もはやジョルジュはフランス中の女性たちにとって王子様キャラとして愛されていた。
――かっこいいな~! 私にも、ジョルジュ様みたいな王子様が居てくれたらなぁ……
しかし、ジョルジュの試合が終わってしまえばすぐにもシャルロットは現実に連れ戻される。もっと、ジョルジュ様の勇姿を見ていたいが、仕方がなく彼女はトボトボと競技場を出ていった。
まだ、昼間ゆえに今日は家のことなど忘れて門限までの間は思う存分遊ぼう。シャルロットは、ファイトを見終わった後でもパリ市内を散歩した。
「あ……」
やや人気の少ない歩道を歩いたところで、彼女の足が自然と立ち止まった。そこには、母と共に通った思い出の教会が少々薄気味悪く町中の隅に佇んでいた。シャルロットは、そのまま行き先もないまま、ただ単にブラブラしていることしかないので、久しぶりに思い出の教会へ足を踏み入れた。
「誰か、いませんか?」
教会内部はほこりを被った薄暗い空間であり、入るのには少し勇気が必要だった。別に信じてはいないが、よくあるホラー映画などで背後から誰かの手が自分の肩を掴みかかってくるのではないかという予想を浮かべてしまうのだ。それでも彼女は胸に手を添えて教会の奥に称えられるイエス・キリストの十字架像を眺めた。
「……」
そこで、彼女は何事もなく膝を付き、神へと祈りを捧げた。願いは唯一つ、この地獄の生活から逃れて新たな生活を手にして幸せを掴みたい。そして、自分を愛してくれるジョルジュのような理想の王子様と出会い、最後にこの女尊男卑の世界を終わらせてもらいたい。そう祈ったのである。
彼女は、ISと女尊男卑を忌嫌う女性の中では数少ない中立派の人間なのだ。ISさえなければ、娘である自分を物のようにしか考えていない父親や目の敵にする正妻の元で傷つきながら暮らすことはなかったであろう。そんな男のもとで暮らすよりも孤児院で暮らしていた方が何倍もマシであったはずだ……
そして何よりも、身も心も傷つきながら生きてきた自分からして、IS社会の差別の風習により自分以外の人達がこれ以上苦しむ姿など見たくなかった。
「お客様ですか?」
優し気な声と共に教会の奥の扉から出てきたのは大柄な神父であった。
「し、神父様?」
「おや……これはまた可愛らしいお嬢さんだ」
「ごめんなさい、いきなり入ってしまって……」
「教会とは皆が心をいやしに来る場所でもあります。ここで、日々の苦しみを洗い流していかれなさい? お嬢さん」
「あ、ありがとうございます……」
優しい神父の言葉に甘えて、彼女は近くの席に座って十字架に祈り始めた。それから、神父は久しぶりの来客に喜び、クッキーを焼いてシャルロットらにふるまった。
「久しぶりのお客様です。ささ、お上がりなさい?」
「うわ~! おいしそう……」
神父は、何かと彼女に優しく接し、ティータイムを楽しみながら彼女の相談に乗ってやった。
「……それは、さぞかしお辛い日々を送られているのですな?」
「別に、私は気にはしていません。でも、こんな社会は嫌いです」
「ほう……」
「私は、これまで傷つきながらも神様の試練に耐え続けてきました。けど、『女尊男卑』のせいで、これ以上他の人たち、とくに差別に苦しむ男性たちが、自分と同じように苦しむ姿を見るのは嫌なんです……」
「そうでしたか……」
神父はテーブルから発つと、イエスキリストの十字架を見上げて両腕を広げた。
「神は……この世に最初の人、『アダム』と『イヴ』を生み出した。最初の『男』と『女』である。異性を持ち二人は互いに愛し合い、そして彼らの間に芽生えた新たな生命が次々に誕生し、そして今この世界が作られていった。しかし、現在、男女異性の歯車は次第に軋みだし、ISと呼ばれる『堕天使』の襲来によって世界は終焉を迎えようとしている……」
そう言い終えると、神父は再びシャルロットのほうへ振り返った。
「男と女はともに手を取り合い生きていかなくてはならぬ存在です。それに叛く行為は
神に叛く大いなる大罪であります。神よ、この罪深き現世の我々をお許しください……」
「……」
シャルロットは、そんな十字架を組む神父の言葉を重く受け止めた。

その後、シャルロットは教会を出て再び街路を歩いた。彼女が今日の休日を利用して外出した理由は、ファイト以外にもパリ市内の有名なスイーツ店に行く為が理由だ。先ほど神父の焼いたクッキーを食べて、少し腹が膨れてしまったが、目当てのスイーツだけは全くの別腹である。
「ねぇ、聞いた? 昨日の夜この辺の上空でMS同士の戦闘があったんだって?」
「マジ!? ISは何してんのよ!?」
「なんでも、凄いスピードで戦ってたらしいよ? ISの部隊が来たころには、もう戦闘が終わってたって?」
「嘘よ! MSなんかよりISのほうがスピードが上に決まってるじゃない!?」
「あくまでも噂よ……」
「……?」
スイーツを堪能中、近くの席でそう話している女性らの噂を小耳にはさんだ。最近では、ジオンのMSが領空侵犯を犯してフランスの上空を飛行するというニュースを見たことがある。ヨーロッパの権勢など気にも留めず、いまだフランスの空を飛び交っているのだそうだ。
シャルロットは、スイーツ店で目当ての物を食べ終えると、引き続き街路に戻って散歩に入った。夕日が暮れるまで街をぶらりと散策するのが今後の予定である。
だが、とある路地を歩いていたときのこと。
「……?」
上空を、ある一線の蒼い光が紺碧の中を滑空する姿で見えた。青い光は、じょじょに降下し、近くのあたりへスッと降りて消えていった。まるで青い雷光である。
「何だろう……アレ!?」
好奇心からか、シャルロットは足を速めて青い光が落下したとみられる裏路地へと足を踏み入れた。
「このあたりと思うんだけど……」
そのとき、ふと裏路地の彼方に一人、蹲る青年の姿が見えた。地面に蹲り苦しんでいる。青年は、肩を負傷していたのだった。
「だ、大丈夫ですか!?」
シャルロットは、慌てて駆け寄ると青年の体をそっと起こして、肩の傷を見た。酷いやけどのような傷口である。ずっと、手で押さえつけていたのか、その手も血まみれだった。
「大変……!」
「う、うぅ……」
唸る青年にシャルロットは問う。
「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」
「う、あぁ……」
青年は、その弱った目で彼女を見た。
「とりあえず、私の肩に掴まって……!」
青年の片腕を背負って、シャルロットは裏路地から出た。病院へ搬送させようにもそのための救急車には種類があった。
今のご時世、救急車には「女性用」と「男性用」の二種類がある。そのため、男性用の車に女性を搬送させるのはそれほど騒がれないが、女性の救急車に男性を乗せるとかなり訴えられてしまう。よって、女性の救急車には男性のケガ人をのせることができないのである。また、最悪なことにこの区間の大半は女性用の救急車しか配備されていなかったのだ。
「……!」
息を荒くして、自分よりも背が高く、大きい青年を背負ってシャルロットが向った場所は、先ほどの教会で会った。

「出来る限りの手当は致しました……あとは、彼が目を覚ましてくれるのを待つばかりです」
ベッドに寝かされた青年を目にシャルロットは一安心した。
「ありがとうございます! 神父様……」
「いえ、貴方もよくぞここまで運んできてくださいました」
「そんな……当然のことをしただけです」
「後は私が、彼の看病をしましょう……もう夕暮れ時ですしあなたも早く帰られたほうがいい」
「はい……あの、神父さま」
「何ですかな?」
シャルロットは、ふとベッドの上で眠る青年をもう一度見ながら言った。
「……明日も、お伺いしてもよろしいですか? 昼間の空いた時間なら」
「ええ、いつ来られて構いませんよ? この青年のことが気になるのですね?」
ニッコリと微笑む神父に、シャルロットは少し顔を赤くした。
シャルロットにとっては、今までジョルジュ一筋であったが、青年を助けてここまで運んだ経緯からして、勝手ながらも運命的な展開を考えてしまっているのだ。まだ、目が覚めた青年と顔を合わせていないにせよ、今この時でさえ何やらロマンチックな感じでほんの少し、妄想気味なものを抱いている。
教会を後にして、自宅へ戻ったシャルロットだが、幸いにも保護者的な立場にある父親と正妻は不機嫌ではなかった
そして、後から彼女は父に呼び出された。また、レベルを上げたISの訓練だろうか?
しかし、父親から言われたことは意外な内容であった。
「……え? 旅行へ行くんですか?」
「ああ、ライナ(正妻)と一緒に旅行へ行くから一カ月間留守にする。それまで長期の休暇として、好きにするがいい……」
「……」
そんな、父親の冷たい口調ながらも幸運な知らせにシャルロットは心より喜んだ。もちろん、明日の予定はもう決まっている。

やや、ヒラヒラした青いワンピースと髪にも青いリボンをした、どこぞの童話少女らしきおしゃれ着でシャルロットは鼻歌を口ずさみながら、可愛らしいバスケットを片手に教会へ向かった。
「神父様!」
「おやおや……」
可愛らしいオシャレな少女に、微笑む神父はお目当ての王子様の元へ彼女を案内した。
教会の席の一角で青いヨーヨーを回している一人の青年の姿が居た。
青いパーカーに黒いズボンを纏うその彼は、そのヨーヨーで遊んでいると、ふと歩み寄ってくる誰かの気配に気づき、ヨーヨーから視点を変えた。
「……?」
「こんにちは! お体の具合はいかが?」
「……あんたか? 僕を、ここまで連れてきた人ってのは」
「うん、そうだよ?」
「そうか、借りができたな?」
と、言い終えると青年は再びヨーヨーを掴むと、それをポケットへしまい込んだ。
「アンタ、名は?」
「シャルロット、シャルロット・デュノアだよ? あなたは?」
「ユーマだ。ユーマ・ライトニング」
「へぇ! カッコいい名前だね?」
「ああ、まあね?」
と、ユーマは席に座ると、その隣を寄り添うようにシャルロットが座ってきた。
「な、なに……?」
彼女の腕が自分の腕に当たって、ユーマは少しドキッとした。
それからというもの、シャルロットは積極的に話してきて、それにユーマは一言、二言で、返答する。施設の人間や親友以外の、それも女の子と話すことに慣れない彼だが、次第にシャルロットの笑顔と優しさにひかれて、気づけばジョニー同様にシャルロットへ懐いていたのだった。
二人との会話が時間が過ぎることを忘れ、気づいた時にはすでに夕暮れ時まで差し掛かっていた。
「ああ……もう行かなくちゃ」
「もう、行くのか?」
ユーマは、やや寂しそうな顔をして席から立ち上がったシャルロットを見上げた。
「ごめんね? でも、また明日来ようと思うの。いい……かな?」
「ああ、いつでも来いよ? 俺、明日もここで待ってるから」
それからというもの、シャルロットは毎回おしゃれ着を着つつ、彼女を待ちわびるユーマの元へ通い続けた。
二人にとって、唯一の安らぎが互いの何気のない会話や愚痴を言いあい、笑いあうことだった。しかしそれが徐々に二人の親睦を深めつつあったのであり、シャルロットはユーマの、やや幼児性ながらも明るく無邪気な、そして勇敢で怖いもの知らずな青年らしさに魅かれ、ユーマはシャルロットの母性と家庭的な優しさ、そして何よりもこんな自分の傍にいつもいてくれることに魅かれていった。
次第に翌日の再開を待ち遠しく感じる二人。シャルロットはベッドの上でもそれが忘れられず、ユーマも教会の長い席に毛布に包まりながら教会の深い天井を見上げた。
そんな、ひと月が終わりを迎えようとしていたとある日の事、シャルロットの実父と正妻の帰る日が決まり、毎日のようにユーマの元へ会いに行けなくなった。そして、風のように過ぎ去った一カ月の思い出と引き換えに、ふたたび地獄のような日々が始まるのだ。
そして、シャルロットはユーマにあまり寂しい思いをさせないように彼をデートに誘った。
「ねぇ? もし、この後予定とかないなら……だけど?」
「……?」
「その……お茶、でもどう?」
「え?」
「もっと、ユーマとお話ししたいなって思って……」
しかし、ユーマはなんとなく興味のなさろうな態度をとった。
「ユーマ、楽しんでいきなさい?」
と、後ろから 神父が歩み寄ってシャルロットをフォローした。
「オッちゃん……」
「どうせ、一日中お昼寝する以外は退屈でしょうし、たまには息抜きをなさいな?」
「そうだな~……いいよ! 行こうぜ?」
「ほ、本当!? なら行こう? 私、とっておきのお店とか知ってるから!!」
シャルロットは、はしゃぎながらユーマの手を引いて教会から飛び出した。そんな、二人の背を見て、神父は微笑ましく手を振った。

花の都パリ、そこは女尊男卑の風習が強く根付く区域でもあるが「花の都」の名にふさわしい美しい町並みであった。
行きかう人々は今日も賑わい、そんなひとだかりの中を二人の男女の姿が見えた。笑顔で少女が、青年の手を引いている。観光もかねて、少女ことシャルロットは青年のユーマにこの近辺の至る所へ連れて行った。
これまで、施設で生まれ、施設で育ったユーマにとって、外の光景で目に映る物は皆新鮮な斧で会った。全てが発見で冒険であったのだ。気になったものは次々シャルロットへ問い続ける。観光名所や芸能人の名前、ファッションや乗り物など……
「……なぁ? シャルロット」
「なに?」
喫茶店で休憩中、ユーマはフランスと知ってふと気づいたことを彼女に問う。
「フランスって……カタツムリ食うんだろ?」
「カタツムリ……エスカルゴのこと?」
「そう、それだ! ……うまい、のか?」
ずっと、施設の中で暮らしていたユーマにとって外の食文化にも興味があった。そして、カタツムリを料理にするフランスの食文化には好奇心を抱いていたのである。
「ああ~……私は、あまり食べないかな? 貝料理の一種だけど、カタツムリの見た目とか苦手だから、私はちょっと……ね? 貝類だったらホタテとかカキとかが好きかな?」
「で、味は?」
「う~ん……小さい頃に少しだけしか食べたことないから、忘れちゃったね?」
「そうなんだ……あ、それ以外にもフランスって、菓子でも有名だよな?」
「うん、私もお菓子は大好きだからその辺は詳しいよ?」
「そうなんだ~俺、マドレーヌとか食ってみたいんだ」
「じゃあ今から食べに行こうよ! 私、とっておきのお店を知ってるの」
シャルロットは、その後もユーマが興味のわく行きたい場所へ連れて行った。時間が過ぎ去るのも忘れ、時刻は夕暮れになった。噴水のある公園のベンチで身を寄せ合いながら雑談をかわしていると、シャルロットはふとユーマへこう告げだした。
「……ユーマ? 今日は、ユーマに話したいことがあったの」
「僕に?」
「うん……落ち着いて聞いてね? 私、これ以上はあまり会えないのかもしれない」
「ど、どうして?」
しかし、やや驚いた表情でユーマは振り向いた。それでも、シャルロットは落ち着いて続ける。
「……お父さんとお母さんが旅行から帰ってくるの。その間は、お休みだったから私は毎日ユーマのところへ行けた。でも、二人が帰ってくるから忙しくなるしユーマのところへ来れない日があるかもしれない……」
「そんな……毎日きてくれよ?」
「私もそうしたいよ? でも……私はデュノア社の令嬢だから」
「……?」
デュノア社、それは親友ジョニーと暮らしていたころ、彼が愚痴っていた企業の名前だった。いつも、ジョニーはテレビでデュノア社長を見るたびに「不愛想な髭オヤジだぜ」と、嫌な目で画面を見ていた。
――そうだったのか、シャルロットが……あのデュノア社の
「それにね……? 会いに行ける回数も少なくなって、最後はもう会えないかも……」
「え……!? シャル、それって……」
「私……『IS学園』へ入学することになったの。フランスの代表候補性になってーーISなんて、大嫌いなのに……」
「シャル……」
「もうユーマに会えないならって、今日ユーマを誘ったの。最後に思いで作りたいなって」
本当は、ユーマがいつまでも自分の王子様でいてほしかった。けど、それも時の流れが残酷にも二人の間を引き裂いたのである。所詮は、実らない恋であった……
「シャル!」
そのとき、ユーマは思い切り彼女を抱きしめた。途端にシャルロットは顔を赤く染める。
「ゆ、ユーマ……!?」
「シャル……一緒に逃げよう?」
「え……?」
「会えないくらいなら、一緒に逃げよう!?」
「……」
しかし、シャルロットの答えは……
「ごめんなさい……」
と、彼女はユーマの胸から離れた。
「シャル!?」
「ユーマのことは大好きだよ? でも、ユーマに迷惑かけたくないの……」
きっと、デュノア社は重要な看板を失ったことで自分を総出で探し回るかもしれない。
「そんな! 俺だって、シャルのことが好きなんだ!! 頼む、行かないでくれよ!?」
「……ッ!」
シャルロットの目からは熱い何かがこみあげて気、それは一滴の露となって頬を伝って流れ落ちた。
「ごめんね……」
両手が涙を拭うも、それは止まらない。
「ごめんねっ……」
「シャル……ごめん、勝手なこと言って」
そんなシャルロットの泣き顔を見て、ユーマも先ほどの感情を改めた。
「ううん……私も、本当は一緒に逃げたいの。でも、会社の人たちが私を追ってくるかもしれないし、それに……」
それ以上は言えなかった。この先、共に踏み出そうとする勇気が彼女には足りなかったのである。
「シャル、僕は……」
ユーマも、彼女の本当の想いを告げようとした。だが、そんな彼の口を制止するかのような何者かの一言と、数人の影が現れる。
「なーんだ、やっぱ生きてんじゃん?」
「!?」
その殺意に、ユーマは振り向いた。そこには、三人の青年が彼らを見ている。
「ケッ! イチャイチャなんかしやがってさ? 見てらんねーぜ!」
金髪の、分け髪の青年が苛立ちながら睨みつける。
「つーかさ? あんとき、何帰ろーとしてたんだよクロト?」
緑色の、前髪が左目を覆う青年シャニが、隣の赤髪の青年に言う。
「はあぁ!? 俺じゃねぇし!!」
赤髪の青年こと、クロトは真顔で怒る。
「だ、誰ですか!? あなたたち……」
明らかにヤバそうな連中なのは確かだ。そんな彼らに問うシャルロットだが、しかし三人の青年は光に包まれたと同時に三体のMS、それもガンダムタイプへと変身していた。突如あらわれたガンダムによって、周囲を行きかう人たちは逃げ惑う。
「今度こそ、ソイツ仕留めて帰るか?」
金髪の青年、オルガのカラミティガンダムは右腕に持つバズーカを向ける。
「!?」
ユーマは身構えた。
「させないッ!!」
そのとき、ユーマの前に出たのがシャルロットであった。彼女は持っていたペンダントからIS、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開させてその身に纏った。
「シャル、お前は……」
「ユーマは、私が守る!」
まさか、シャルロットがISを所持していることは知らなかったユーマは、そんな彼女の背に目を丸くした。
「なーに? コイツ……」
フォビドゥンを纏うシャニは鬱陶しい口調を放った。
「じゃあ、こいつも一緒に殺っちまおうぜ!?」
レイダーになったクロトは、ふたたびあの鉄球を取り出した。
「ユーマ、逃げてっ!?」
シャルロットは彼を逃がすためにアサルトライフルを目の前の三体に向けるが、実戦経験のない彼女に向かって、狂気に満ちた三体のガンダムが襲い掛かってきた。
「退けよ! 女!!」
「死ねー!」
「瞬殺ッ!!」
「くぅ……!」
だが、三体一ではシャルロットには苦戦すぎる。無論、この状況を見ているだけのユーマではない。
「シャル!!」
ヨーヨーを目前に向け、掲げてイフリート改を起動させた。彼の身体が、青い光に包まれ、次第にその姿は展開された機体に飲まれていく。
「ゆ、ユーマ……!?」
シャルロットも、そのユーマの姿に目を見開く。
「お前らの相手は僕だ! ザコ共!!」
ユーマは、三体を挑発させてシャルロットから引き離して離陸した。
「んだっテメェ! 誰がザコだぁ!?」
「殺すー!」
「惨殺!!」
「こっちだ! こっちにこい! 三馬鹿共!!」
なおかつ挑発してシャルロットから引き離すことに成功したユーマは頃合いを見て腰から二刀の刀を交差に引き抜いた。
しかし、やはり戦況は序盤の夜戦と同じ結果になる。三体のガンダムによる連携攻撃を立て続けに食らい続けるユーマに勝機などない。
「ユーマ!」
追いつくシャルロットだが、それを目にユーマは叫ぶ。
「よせ! 来ちゃダメだ……」
「もらったー!」
フォビドゥンの鎌が、イフリート改の背部を切りつけた。
「ぐあぁ……!」
そのダメージは大きく、傷も深かった。機体はそのまま噴水へと墜落し、噴水は全壊して、イフリート改も噴水の水に浸りまがら倒れた。そして、その赤いモノアイの光が失ってしまった……
「ユーマ!?」
シャルロットは彼の元へ向かおうにも、三機のガンダムがその行く手を阻む。
「もっと楽しませろよ!?」
「つまんねーからさ?」
「ハハハハハ! 虐殺!!」
そして、シャルロットもまた三体のガンダムの攻撃を立て続けに受けることとなり、彼らの繰り出す攻撃がじわじわと彼女を痛めつける。
「……」
噴水に墜落したイフリート改のユーマはふと目を覚ました。しかし、機体が思うように動かない。モノアイによる視界も閉ざされ、暗闇の中で彼はもがき続けた。
「くそっ! 動け! 動いてくれ……!?」
身体を動かそうにも、イフリート改の手足は動こうともしない。解除して脱出する以外の道は閉ざされてしまったのだ。
「頼む、動いてくれ! イフリート!? 今、ここで動かないと、シャルが……!!」
大切な娘を守れないまま死ぬのなんて絶対に嫌だ。だから、命と引き換えになってもいい、動いてほしい。
「動け! 動いてよ!? 今戦わないと、大切な人が守れなくなるんだ!? 頼む、少しでもいい、動いてくれ!? 俺に……守るための力を!!」
『その言葉は本当?』
「!?」
その少女の声は彼の脳内へ響くように聞こえてきた。
「お前は……!?」
『あの子を守りたい気持ちは、本物? 今は、その意を答えて?』
「……本当だ。本当だよ! だから、頼む。俺に力を……守るための力を与えてくれ!」
『……』
少女の声は黙った。しかし、同時にイフリートのモノアイは目を覚まし、視界を取り戻したのだ。さらに、機械音と共にイフリート改は立ち上がれた。そして、機体が青い光に覆い包まれ、モノアイの光がさらに眼光の力を増す。
「う、動いた……!?」
『ユーマ……その思いが本物だということは、今は信じてあげる。だから、貴方の大切な人のもとへ行きなさい!』
「ありがとう……」
イフリート改はバーニアを吹かし、そして上空へとびだった。

「くぅ……!」
ISが強制解除され、傷だらけになったシャルロットは道に倒れた。そしてラファールのコアが三体の足元へ転がり落ちる。
「こんなもんか……?」
カラミティはコアに足を乗せ、踏みつけ、そしてガラス玉のようにコアは粉々に砕けた。
「どーする? コイツ」
「暇だし、撲殺すっか?」
二人が案に、カラミティのオルガは笑う。
「クックック……それはいいな? んじゃ、袋にでもして死体は適当に処理しようぜ?」
蹲って倒れるシャルロットを、三体が囲む。
「ユー……マァ……」
死を覚悟したシャルロットは、死ぬ間際に彼の名を呟いた。だが、そんな状況は一瞬のうちに崩れ去る。
彼女を囲う三体のガンダムは恐るべき殺気を感じて上空を見上げた。
「な、何だ! アイツは!?」
カラミティは頭上を見上げると、そこには青く輝くあのイフリートが、モノアイの眼光を輝かして、三体を見下ろしている。
「まだ動くのー?」
「しつけぇな! 滅殺!!」
三体は再び上空へ飛ぶと光イフリートに襲い掛かるが、先ほどまでとは恐ろしく豹変した機動力に三体は目を疑った。
「ば、馬鹿な……! 先ほどまでとは違うだと!?」
カラミティの弾幕を意図も容易くかわしつつ、イフリートの刀がカラミティのバズーカを切り落とし、腹部へ蹴りを入れる。
「ぐぅ!」
「オルガ!? テメェ!!」
続く、レイダーは鳥型のMA(モビルアーマー)形態へ変形して襲い掛かるも、その機動力にはMA状態のレイダーでも敵わぬ相手であった。イフリートの二刀がレイダーの両翼を切り落とし、レイダーは地面に落ちた。
「殺すー!!」
フォビドゥンも、背部のアーマーが頭部にかぶさり、レイダー同様MA形態となって襲い掛かるが、それもイフリート改の異様な戦闘力の前には歯が立たず、鎌が切り崩され、胸元のアーマーを切りつけられた。
「ぐあぁー!!」
一瞬のうちに三体のガンダムを倒した、そのイフリート改の異常さにシャルロットは茫然と地上から見つめることしかできなかった。
「くぅ……野郎……うぅ!?」
そのとき、カラミティのオルガや他二名は体に異変が起こった。突然苦しみだしたのである。
「くそぅ……! こんな時に切れやがって!! うぇ……!」
クロトは吐き気を起こした。
「う、うぅ……!!」
中でシャニはとてつもなく重体である。
「お前ら……一旦引くぞ!」
と、オルガ。
「はぁ!? 何言って……うぇっ」
「また、苦しみたかないだろ!? シャニも行くぞ!?」
オルガの声にシャニのフォビドゥンはよろめきながら立ち上がった。
「うぅ……テメェ……いつか、殺すー……!」
イフリートを睨みつけながらも、三体のガンダムは退散していった。
「か、勝った……!?」
光が消え、地面に降り立つイフリートは、ユーマの姿へ戻ったが、しかし彼の意識は突然遠のいていき、シャルロットの前で倒れた。
「ユーマ!?」
傷ついた身体も忘れて、シャルロットは彼の元へ駆け寄った。

「……!?」
ユーマは、次に目を覚ますと、そこは教会の中だった。手当をされながらベッドに寝かされていたのである。
「気づいたようだね?」
神父が、薬箱を抱えて微笑んでいた。
「もう心配はない。ただ、かなりの疲労が溜まっていたようだね? ここ、三日間も眠り続けていたのだよ? それに彼女も……」
神父がそういうと、彼はユーマの手元を見た。そこには、彼の手を握りしめたままシャルロットが眠っている。
「シャル……」
「ユーマの看病をずっとしてくれていたのさ。シャルロットもかなりの傷なのに、自分よりもユーマのことしか言わなかった……」
「……」
その後、シャルはユーマの声に目を覚まし、二人は互いに抱き合って喜びを分かち合った。
ユーマは、あの戦闘を切っ掛けに、自分がどういう状況に置かれているのかと自分の正体をシャルロットに告白した。
「……そうなの、ユーマはジオンからきた……」
「俺を殺すために、また襲いに来るかもしれない……だから、やっぱりシャルは俺から離れないとだめだ。傷が治ったら、パリを出るよ」
「ユーマ……」
だが、そんなシャルロットも決心したかのように立ち上がると、彼にこう告げた。
「やっぱり……私も、ユーマと一緒についていく!」
「何言ってんだ! また、奴らが襲い掛かってきたら……」
「だからって、ユーマを独りぼっちにさせたくないよ! お願い、連れて行って?」
「シャル……」
この先も、彼女を守れるかどうかもわからないが、しかしまた孤独になるのだけは嫌だった。それなら、命に代えてでも守っていきたい。ユーマはそう見出す。
「……わかった。けど、この先どこへ行けばいいのかもわからないまま旅するから保障はないぞ?」
「それなら、知ってる場所があるの。『MS学園』! そこに行けば何とかなるから」
「MS学園……?」
確か、それもジョニーから聞いた。IS学園よりかは批判していなかったから、おそらくマシなところだと思う。
「私の親戚の伯父さんがMS学園の教頭をしているの。きっと、話せばかくまってもらえるよ!」
「わかった。なら、できるだけ早くここを出よう? シャルの方も追手が来そうだし」
「うん、そうだね? 私も早くこの傷、治さなくちゃ」
互いの傷を見ながら、微笑み合う二人を見て神父もまた優し気に微笑んだ。
その後、二人は神父の伝手によってとあるタンカー船に乗せてもらい、MS学園のある日本へ向かってフランスを出港した。
「今更だけど、巻き込んじゃったかな?」
海風に仰ぐ二人は甲板の上に立ち、海を眺めながらユーマはそうシャルロットに問う。
「もう、そんなこと言わないでよ? ユーマに会えなかったら、ここまでこれなかったんだよ? 私、一生ユーマについていくから!」
――そう、ユーマは私の「ジョルジュ様」なんだから!



「織斑一夏、MS学園の生徒らしいがもしかすると『IS』を動かせることのできる唯一の男になるのかもしれない。そうなれば、彼はIS社会からイレギュラーとされて、命を狙われる可能性もある。そのために、彼の援護を頼むぞ? マリーダ」
「はい、マスター……」
「……その、『マスター』はよせ? それと、注意しろ? 今、ドイツから黒兎部隊の隊長が一夏のいるIS学園へ転校する予定らしい。黒兎は先鋭部隊だ、十分に注意して織斑一夏の護衛にあたれ?」
「了解しました、マスター」
「そのマスターはよせって……ったく、それよりも例のゲルマン忍者は何してんだか……」



 
 

 
後書き
次回
「狙われた一夏」 
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