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真田十勇士

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巻ノ八十一 上田城へその四

「余計にここはじゃ」
「自重すべきとか」
「思ったがのう」
「そうか」
「うむ、未練がましいがな」
「そう言うが動くしかない」
 石田はあくまでこう考えている、これは頭の良し悪しではなく彼の気質からくるものであるからどうしようもない。
「やはりな」
「そうじゃな、では我等はこれからもな」
「東に進むな」
「おそらく岐阜城は陥ちる」
 大谷もこう言った。
「残念じゃがな」
「やはりそうじゃな」
「吉法師様は頑張られるであろうが」
 織田秀信、彼はというのだ。
「しかしな」
「それでもじゃな」
「軍勢の数が違う」
 家康が率いる彼等のだ。
「だからじゃ」
「陥落は免れぬか」
「あの堅城でもな」
「では岐阜城の西のじゃな」
「関ヶ原でじゃ」
 まさにその場所でというのだ。
「戦になるぞ」
「そこで雌雄を決するか、内府と」
「そうなる、わしはこの戦が終われば」
 大谷は石田にこうも言った。
「もう終わりじゃ」
「無理か」
「これまで相当に力を使った」
 業病でありその身体にある残り少ない力をだ。
「だからな」
「それで、か」
「後は頼んだ」
 石田の顔を見て微笑んで告げた。
「お拾様のことな、だから生きよ」
「わかった、ではな」
「あの世で待っておる」
「うむ、我等はあの世でもな」
「共にいようぞ」
「友としてな」 
 二人はこの誓いも確かめ合った、そうしてだった。
 彼等も軍勢を進ませた、決戦の時は近付いていた。
 それは上田城も同じでだ、秀忠は軍勢を西に進ませつつ己の傍らにいる榊原に対して穏やかな声で尋ねた。
「兵達はどうか」
「はい、しかと飯を食いです」
「疲れもないか」
「左様です」
「ふむ」
 秀忠は自分の目でも軍勢を見た、見れば周りの兵達も徳川家の者達以外の兵達もだ。その彼等の顔は。
「いい感じじゃな」
「御覧になられた通りです」
「これならよい」
「餓えず力もある」
「兵達がそうであるならな」
「やはり戦はです」
「兵達がしっかりしていてこそじゃな」
 秀忠はここでこうも言った。
「民達もそうじゃしな」
「はい、誰もが飯をしかと食っていれば」
「万全じゃな」
「そうです」
「餓えた民がおってはならぬ」
 秀忠はこのことは強い声で言った。 
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