| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ八十 親子の別れその十二

「それではな」
「内府殿の軍勢だけなら」
「治部殿が勝てる勝算は充分にある」
「その様に持って行く為に」
「是非にですな」
「中納言殿の軍勢をこの城に引き付けますか」
「そうするのじゃ、兄上なら見抜かれるが」 
 信之、彼ならというのだ。
「先程の話じゃがな」
「中納言殿は、ですな」
「若殿を城攻めに加わらせぬ」
「そうされますか」
「そうじゃ、兄弟同士争わせては評判が悪いな」
 幸村も言う。
「そうじゃな」
「はい、確かに」
「どうしても」
「それが戦国の常とはいえ」
 十勇士達も幸村に応えて言う。
「よくありませぬ」
「それは人の道に反します」
「どうしても」
「だからそれはされぬ、内府殿ならお話を聞く位はされるが」
 家康ならというのだ。
「しかしな」
「中納言殿はまだお若い」
「そこまでされませぬか」
「それに我等と内通するとも思われ」
「それで、ですな」
「それは出来ぬ」
 秀忠、彼にはというのだ。
「だから兄上とは戦わぬしな」
「中納言殿もまた、ですな」
「若殿は城攻めには用いることなく」
「それで、ですな」
「策を仕掛ければ」
「全軍で城攻めにかかりますか」
「その軍勢から城を守りきる」
 こうも言った。
「わかったな」
「はい、では」
「敵の軍勢は三万以上といいますが」
「思う存分戦ってやりまする」
「我等もまた」
「それぞれ」
「頼むぞ、では今は飲んで食う」
 幸村は鯉も食う、そのうえでの言葉だ。
「そして英気を養うぞ」
「さすれば」
 十勇士達も応えてだ、鯉に野菜に山菜を食ってだ。酒の飲む。そうしつつ彼等はこうしたことも言った。
「生まれた時と場所は違いますが」
「我等死ぬ時と場所は同じ」
「そう誓ったからには」
「ここは死にませぬ」
「首だけになろうとも」
「その様にな、この戦だけではないやも知れぬ」 
 幸村も杯を手にしつつ応える。
「より大きな戦があるやも知れぬからな」
「さらにですか」
「これから」
「そうやも知れぬからな」
 だからこそというのだ。
「御主達も命は大事にせよ」
「わかりました、では」
「この度の戦もです」
「そうします」
「是非な」
 このことは念を押してだった、幸村は今は十勇士達と共に鯉鍋を楽しんだ。戦が近付いているのをはっきりと感じながら。


巻ノ八十   完


                    2016・11・2 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧