Fate/Heterodoxy
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S-6 黄金/純白
黄金が輝く。
純白が煌めく。
紅蓮が迸る。
手数では圧倒的にディルムッドが上回っているが元々のポテンシャルとスキルを併用したアルトリアは防戦気味だがダメージを一切負わずに避け、弾いている。
ディルムッドは何度も武器を代えていくがアルトリアは武器の効果を覚え、それを的確に避けていく。既に与えられた傷は役割だけは忘れて居なかったゲーダーが治癒させ、ある程度は回復させたが、それでも万全ではなかった。
紅の長槍ならば剣で弾くか避ける。自身の魔力で編んだ鎧では不利などでは済まない。
黄色の短槍ならば肉体では絶対に受けないように細心の注意を払う。記憶が告げている、ソレで怪我を負ってしまってはいけないと。
純白の長剣ならば回避しか方法がない。剣をすり抜け、鎧さえも砕く。物理的手段では敵わないと理解して寸での所で避ける。
柄の青い小剣ならば攻撃で特に警戒すべき所はない……はずなのだが時折見せるその時点で最速を誇る一撃。前述の何れにも敵わないが効果が殆ど分からない。それ故に最も微妙な位置にその小剣は居る。
「ハァッ!」
アルトリアが再度不可視と成った黄金の聖剣を振るう。ディルムッドはそれを紅槍でいなし、小剣による高速斬撃を振るう。しかしその刃はアルトリアには届かず、ディルムッドに次撃が迫る。
「………………!」
無言の気迫。アルトリアの周囲に漂う魔力が高ぶり、その出力を一気に上昇させる。更に持っていけと言わんばかりに黄金の聖剣がその姿を再度見せ、暴風によって加速された聖剣が真横に振るわれた。
その時点でディルムッドの手には黄色の短槍と青柄の小剣が握られていた。生前にもこんなことがあったと、その光景が脳裏に過り────彼は瞬時に純白の長剣のみを具現化させていた。無理な体勢で聖剣を防ごうとするがこの戦闘においてのアルトリア最速の一撃はそんなもので防げる程、柔ではなかった。
「ぐっ……!?」
小さく唸り声を上げたディルムッドは数メートル吹き飛ばされ、一度地面に打ち付けられた後、跳躍し体勢を立て直した。
ディルムッドはそのまま止まり、動かない。純白の長剣を地面に刺し、悠然と立っている。
「騎士王よ、やはりお前は素晴らしい。俺はこうしてまたお前と戦えてよかった。……だが、俺にはまだすべき事が残っている。そろそろ決着をつけさせて貰おう」
地面に刺された純白の長剣が発光し始める。魔力が高ぶり、ディルムッドが持つ最大の攻撃を今、放とうとしている。
アルトリアは静かに剣を構える。風によるプロテクトが無くなった今、その黄金の輝きを隠すものは何もなく、その輝きをより一層強くしていく。
「分かりました。このままでは拮抗状態が続くだけ……私も全力で貴方を迎え撃ちましょう」
ディルムッドからは分からないだろうが、アルトリアこ表情はとても穏やかで微笑んでいた。
それはディルムッドも同じで、心から楽しそうに、微笑んでいた。
「我が騎士の誇り、我が全力、純白の光と成りて────」
純白の長剣が引き抜かれ、光を集束させる。
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流────」
黄金の聖剣が振りかぶられ、光を集束させる。
「『大いなる激情』!!」
「『約束された勝利の剣』!!」
純白の光が、一直線に延び、直進していく。
黄金の光が、一直線に延び、直進していく。
真名を開放された二柱の光が中心で交わり、拮抗する。
本来の力ではディルムッドの《大いなる激情》がアルトリアの《約束された勝利の剣》には劣る。それは一度見たディルムッド自身が最も思考理解していた。だから、少しだけ宝具の撃ち方を変えた。
本来は居合のように一文字の軌跡を残して純白の斬撃を放つ宝具だが、それではただでさえ純粋な出力で劣っている宝具が更に拡散されて負けてしまう。そう直感したディルムッドは斬り上げと言う行動に出た。それにより光は拡散されず、聖剣の黄金の光に拮抗できるまで持ち込むことができた。
両者の光はどちらも劣らず、中央で拮抗したまま────消え去った。決着はいまだに着かず、両者は剣を地面に突き刺した。
「流石……かの高名な聖剣……我が全身全霊の一撃でも勝てないとは……」
「貴方こそ……私の聖剣が勝利をもたらさないとは……」
お互いを讃え合い、また戦闘が再開されると思われたその瞬間。
「令呪を以て我がサーヴァントに命ずる!!」
一人の声。今、この場でその行動が出来るのは一人だけしか存在しない。
「もう一度!もう一度宝具を放て!!その忌々しいセイバーを聖剣で吹き飛ばせ!!ついでに……ソイツのマスターもなぁ!!」
最高クラスの魔術に位置する令呪がアルトリアの身体はその命令を受け、無理矢理動かされる。
油断していた……と、アルトリアはその時自分の失敗に気が付く。自身には高ランクの対魔力があるから一度の令呪程度ではどんな命令でも逆らえる。そう思っていたが、この状況ではそれが出来ない。宝具を使った直後、いくらこの聖杯戦争で魔力が補償されると言っても直後なら意識も、対魔力の効力も一瞬だけ弱まってしまう。
アルトリアはまた聖剣を構え、ディルムッドの方へ放とうとする。しかし、弱まっても対魔力が働き、少しの猶予が出来た。
「ディルムッド……この、隙に……」
アルトリアがそう伝えるが、ディルムッドは決心したかのようにマスターの前まで移動する。
「騎士王よ、敵前での逃亡は騎士の誇りを貶す……いや、俺はお前が何と言おうとも逃げる気はしない」
ディルムッドが剣を構える。しかし、その剣は純白の長剣ではなく、青柄の小剣であった。
「来い、騎士王。お前の聖剣を俺は主を守り、耐え、制して見せよう」
その決意に、アルトリアはもう何も言わなかった。聖剣を機械的に振りかぶり、振り下ろす。いくばか威力の下がった光の柱はそれでも高密度な魔力を以て対象となるディルムッドとそのマスターを滅ぼそうと迫る。
「俺は……負けん……!」
光が、ディルムッドに直撃する。しかし、ディルムッドから後ろに光の柱が通らない。全てを受けきっているのだ。
「何故だ!?先程の宝具も使っていないのに……!?何故!?理解不能!理解不能!まさか威力を下げたのか!?サーヴァント風情がこの私に……!私はマスターだぞ!!汚い騎士の誇りなぞを大切にしおって……!!」
ゲーダーが、醜く罵る。しかし、その罵声もアルトリアには届いていなかった。令呪による命令とはいえ聖剣の一撃を何の宝具も使わずに受け止めるなど不可能──そう考えていた。しかし、ディルムッドは一つだけ武器を取り出していた。そう、一番警戒しなかったあの青柄の小剣だ。あの小剣が何らかの効果をもたらしたに違いない。そう思い、アルトリアは晴れた視界の先にディルムッドを確認する。
ディルムッドの身体はあちこちが焼け、血を流している。聖剣で受けたにしては軽すぎるがどう見ても重傷だ。
「……決着をつけよう」
ディルムッドはそう言い、長剣と刀身がなくなった小剣を構える。と同時に跳躍してアルトリアの目前まで迫る。
「なっ……!?」
油断はしていなかった。しかし、それでもディルムッドが速すぎた。まるで何かに後押しされるかのように、ディルムッドは刀身が無くなった青柄でアルトリアを突く。
「今回の勝ちは、俺に譲ってもらうぞ……」
ディルムッドの瞳はアルトリアを静かに捉えていた。アルトリアはそこから覚悟と決意を読み取り、同時に自分の敗北を直感した。
「ええ、私の敗北ですね。貴方は……強い。止めを刺してください」
アルトリアは敗北を認め、なにもしない。何も、出来ない。
「……『小さき激情』────」
最後の真名が開放される。 青柄から豪炎が、暴風が、光が放たれる。それは《小さき激情》が今まで吸収してきた全てがアルトリアを包み込み、その全てを放出させる。
青柄は消え失せ、アルトリアも消えた。五人居るセイバーの中での最初の脱落者は四人目のセイバー───《騎士王》アルトリア・ペンドラゴンとなった。
「主、いえ、友よ。貴方の頼みを果たしました……」
ディルムッドの意識はそこで途絶え、意識が残ったのは絶望し、腰を抜かして失禁したゲーダーのみだった。
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管理者の間
『え?マジで?予想外だったわ……まさかアルトリア・ペンドラゴンがディルムッド・オディナに倒されるとは……令呪パワーと宝具か……』
管理者はセイバー達の闘いを視て決着のついた一つの戦闘の結果に驚き、考察していた。
『再契約もしないだろうし……どうするんだろうね……ディルムッド・オディナが勝っても二回戦までか……いいや、考えるのは後回しだ。仮マスターでもいいわけだし……場合によっては令呪の追加も有り得る……』
管理者はそう言いながら何処かへと歩いていく。聖杯戦争を見通しながら、管理者は考え、自分の考える楽しい理想の聖杯戦争を続ける。
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