衛宮士郎の新たなる道
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第26話 中二病は加速する
クリス護衛のための最低限の人員だけを残した上で、フランクはマルギッテ共々引き連れてドイツ本国に到着後、そのまま猟犬部隊の本部が併設されてあるフリードリヒ邸(城)に帰還した。
「お帰りなさいませ中将」
「うむ、心配を掛けたな」
猟犬部隊で唯一ほとんど戦場や任務に就かずに、フィーネ以上にデスクワークを主に担当し、フランク不在時には一時的に指揮権すらも任せられるフランクの側近兼給仕長のラーウィンだ。
中将としてフランクが動いている時は呼び名が中将で、軍人の殻を脱ぎ捨てフリードリヒ家当主の立場になった時は旦那様と使い分けている。
「先の連絡通り、日本にてクリスお嬢様の護衛と今回帰還した隊員以外の猟犬部隊全員は既に招集済みです」
「流石、仕事が速いなラーウィン」
「恐縮です」
因みに九鬼に居るクラウディオ・ネエロの従姉でもある。
「では全員に」
「中将がこちらに到着する時刻は計算済みでしたので、5分後にて演習場に集合との連絡は済んでおります」
「察しが速くて助かる。ではこれが藤村組からの要求の誓約書だ」
「承りました。内容次第では厳正に処理しますが・・・・・・宜しいですね?」
特別力を込めた言葉では無いが、冷徹さが感じられるラーウィンの言葉に息をのむ帰還した隊員達。
ラーウィンは元々、フランク幼少時からの専属従者であり、一線を退きデスクワークばかり熟しているが、最盛期は銀狼とまで呼ばれた恐ろしい使い手で、川神鉄心やヒューム・ヘルシングには一歩及ばないまでも極めて実力の近いマスタークラスの上位陣にまで上り詰めた化け物故、現時点でも猟犬部隊最強の看板を背負っている。
その為、猟犬部隊では母たる存在であると同時に、時にはフランクでも異を唱えるのが難しい程の“絶対的な存在”で、クリスに怒った事は一度も無いが彼女にとっても父親のフランク以上の存在でもある。
いわば現在のフリードリヒ家の影の支配者と言っても過言では無い。
無論本人にその気は無いので、その様な噂が本人の耳に入った日には噂の流した元凶人見つけ出した後――――此処で告げるのは憚れるので割合させて頂く。
それはさて置き、フランクも彼女の眼光に僅かに冷や汗をかく。
「う、うむ。だが少しは手心を」
「甘すぎます中将。その様な事だから目の届かない所で“犬共”がやらかすのです。現在の事の次第を本当に省していますか?」
「す、すまない。私もまだ自覚が足らなかった様だ。すべて任せるので宜しく頼む」
「では」
セイヨウニンジャであるリザどころか、忍びの本場である日本の風魔の里の長老も恐らく絶賛する程の足運びと気配の消し方で、ラーウィンはその場を去って行った。
それから数秒後、緊張が解けたフランク含めた全員が深い溜息をついた。
「静かに怒っておいででしたね?」
「うむ。皆にはすまないが、各自始末書十枚以上覚悟しておくように」
「その程度で済めば、むしろ助かります」
「だよなー?だって給仕長、何時もの三倍目付きが不味かったですよ?」
フランクと猟犬部隊主力の三人は何とか言葉を口に出来たが、他は全員ラーウィンが後で下す処刑を妄想するだけでも恐ろしいらしく、震えていた。
何しろフランクひいてはドイツに恥を塗ったも同然と言う、現在置かれた自分たちの立場を自覚させられるには十分効果的な殺気だったからだ。
「とは言え、此処で立ち止まり続けても仕方がない。演習場に向かうとしよう」
「「「了解!」」」
フランクを先頭に集合場所へ向かった。
-Interlude-
全員集合した時、フィーネやリザの顔を見れたと安堵の息をつく者達がいたが、これから告げられる決定で直にそれも豹変する。
「私は諸君らを少し甘やかしすぎていた様だ」
『『『『『・・・・・・・・・・・・』』』』』
フランクの言葉に俯く者はいなかったが、自覚ある者は目を見れば多少落ち込んでいると判る者ばかりだった。
「その為、今回問題を起こした隊員には相応の処分を下す」
『『『『『・・・・・・・・・』』』』』
「つもりだったが、騒動の原因となった主犯の1人であるブリンカー准尉自ら、今回伴った現地での問題も含めてすべての責任を取ると進言して来た」
『『『『『!!?』』』』』
「・・・・・・・・・」
帰還組以外の全隊員が驚きを隠せずにいた。
中でも驚くと共に異を唱えた者がいた。
「何故ブリンカー准尉だけなのですか!?主犯だと言うのであれば私も同じです中将!如何か私にも」
テルマ・ミュラー軍曹。
戦闘時のパワードスーツでは無く、銀髪をはためかす美少女軍人である。
「これは准尉自らの進言と言ったはずだ。そしてこれを私も受理した。異論は認められない」
「そん・・・な」
「先方の要求もあり、藤村組への不満があるものは誰であろうと今後日本に向かわせない事ともする。以上だ」
そうして解散になった後、今残っているのは未だ決定に不服であるテルマを含めた猟犬部隊の主力メンバーだ。
「それではブリンカー准尉、君にはまず一時的に二階級降格となってもらう」
「はい」
「リザ・・・」
「リザ~」
「そして暫く本隊から離れて、僻地で従事してもらう」
「了解しました」
「そんな!?」
先程同様未だ不服なテルマが声を荒げるが、本人も含めて皆仕方がないと言う顔で諦めている。
だがリザの話はまだこれで終わりでは無い。
「だが君の優秀性を放置しておくのも惜しい。そこで君が僻地にいる間、ある方の護衛についてもらいたい」
「護衛ですか?僻地で?」
「うむ。ただ僻地と言っても、そこは祖国の大事な同盟国だがね」
「そ、それって・・・」
日本じゃ――――と、言いかけた所でフランクがこれは独り言なのだがと言いはじめる。
「ある方の住む場所については今交渉が行われていてね。決定すれば准尉も共に住んでもらう事になるのだ。場所は何といったかな?確か関東圏の“ふ”から始まる組織の保護下である隣の邸宅だった筈だが」
「「「「ちゅ、中将!?」」」」
「フランク中将・・・!」
それはもう、ほとんど何所かと言ってるも同じであった。
「あー、そう言えば准尉。ある方は恐らくそこまで厳粛な方では無いだろう。だからそこで恋の一つでも経験してみてはどうかな?例え僻地であろうとその程度の贅沢は許されるさ」
「お、お気遣い、感謝します、中将!」
「気遣い?私は単に私的感想を口にしたに過ぎんよ。それに感謝されるのも如何かな?」
「ええ、ブリンカー軍曹には今回の事で言い含めておかなければなりませんから」
「あ、ああ・・・あぁあああッ!!?」
リザは如何やら心を弄ばれたらしい。
フランク中将の背後から現れたのはラーウィン少将である。
「それにしても見直しましたよ、ブリンカー軍曹。まさか今回の失態の全てを引き受けるとは」
「そ、そそそ、それはどうもありがとうご」
「であるならば、私の生かさず殺さずの処刑も全員分受けると言う事ですね」
「ヒィイイイイイイイイ!!」
リザは今背水の陣を敷く羽目になっていた。
士郎には会いたい、衛宮邸には行きたい、けれどもそこに辿り着くには給仕長のOHANASI☆を聞かなければいけなかった。
此処に、リザの孤独の戦いが今始まるのだった。
-Interlude-
此処は冬木市内の藤村組傘下の小料理屋。
その一番奥のお得意様専用の客室には、藤村雷画と付添いの石蕗和成、そして士郎が居ました。
対面には西欧財閥の使いたる黒服の男たち数人が居ました。
その双方のから見た斜め右側の席には弁護士が1人ずつの計2人いました。
この会談は秘密裏に行われています。特に九鬼には。
「まさか西欧財閥の重鎮の一人が、川神学園に留学するために士郎の家で下宿したいなど聞いて冗談かと思っておったんじゃが、本気じゃったとはのぉ・・・」
「お気持ちお察しします。私も上からの要請を聞いた時は耳を疑いましたから」
「それでもその要請を儂らに聞いてもらいたいと?」
「しがない中間管理職なモノで、上からの命令には逆らえません。それが盟主殿の側近の1人からの言葉であれば尚更です」
「・・・・・・・・・・・・」
雷画が黙ると、藤村組が雇った弁護士から書類の束を受け取りました。
「双方の法律と照らし合わせても、不審な点も穴も見受けられません」
「ふむ。石蕗も読んでおけ」
「ハイ」
石蕗に書類――――今回の件に関する契約書を渡して、士郎に顔を向ける。
「法的には問題は無いようじゃが、如何する士郎?西欧財閥の重鎮の希望下宿先はお前の家じゃ。お前が決めよ」
士郎は雷画の問いに長考してから目を見開きました。
「・・・・・・・・・構いませんが、護衛は?」
「外部の者ではありますが既に要請済みです」
「大丈夫なんですか?」
「信用できる筋なので心配は要りません」
「食事の方は?」
「日本の食事も問題なく食べれるそうです。何より、衛宮士郎殿の料理は三ツ星高級料理店の料理長たちと引けを取らない腕と聞いておりますので、ご本人も楽しみにしていると」
そんな事まで情報収集済みかと感心してから決意した士郎は、
「その依頼、お受けいたします」
これにより暫くの間、衛宮邸に仮初の住人が2人ほど加わることが決まるのでした。
-Interlude-
小笠原諸島と本土を行き来するための定期船にて、九鬼財閥極東本部に戻るために乗り込んでいたマープルは、頭痛を起こしたように頭を押さえながら電話相手と話していた。
『それでは魔術師候補が見つかったのですか?』
「・・・・・・ああ」
如何やら電話の向こうでマープルと会話しているのはクラウディオの様です。
『しかし、駐屯させている従者や社員は既に調べが付いていたはずですが・・・・・・調べ残した者がいたと?』
「いや、そうじゃないさ」
謎かけですか?と、問いを掛けようとしたところでクラウディオも気づきました。
『まさか、あの“4人”の誰かに魔術回路が在ったと?』
「感が良いね。だけどよりにもよって有しているのが・・・・・・・・・・・・なんだよ」
『―――――兎に角、戻り次第今後について話し合いの場を設けましょう』
「そうだね・・・・・・ん?」
何かを感じ取ったように、既に小さくなっている程度まで距離の島に向けて振り向いた。
『どうかしましたか?』
「いや・・・・・・なんでも無いよ」
しかし振り向いても何も感じなかったので、その“感覚”を気のせいと処理したマープルでした。
ですがマープルの魔術師としての今の“感覚”は寧ろ当たっていたのです。
そこは小笠原諸島の中で、他の家よりも少々大きく広い民家でした。
その敷地内の季節物を仕舞いこんでおく物置で、銀髪の1人の少年が、描かれている魔法陣の外で尻もちをついていました。
「な、なな、な・・・・・・」
銀髪の少年は魔法陣の上に突如現れた存在に驚きを隠せない様でした。
その存在の性別はまず間違いなく女性です。
法衣を纏った上には簡素な鎧を胴と肘から手まで付けており、頭にも簡素な兜?を付けている金髪の長髪を三つ編みにした女性です。
そんな女性が目を見開いて、真っすぐに銀髪の少年を見て言いました。
「貴方が、私のマスターですか?」
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