真田十勇士
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巻ノ八十 親子の別れその五
秀康に上杉家への抑えを命じてだ、秀忠には徳川譜代の臣の多くを授けたうえで中山道を進ませてだった。
自身は東海道を進む、そのことを決めた時にだ。
信之が彼の軍勢と共に来てだ、家康の前に出て言った。
「遅参申し訳ありません」
「いやいや、御主まで来てくれるとはな」
家康は信之をにこやか迎えて応えた。
「有り難い、ではな」
「はい、これより内府殿と共に」
「戦ってくれるか」
「そうします」
「わかった、しかし」
ここでだ、家康は信之に問うた。
「御主の父君と弟殿は」
「二人ですか」
「どうした、一緒ではないのか」
「二人は治部につきました」
「ふむ、ではじゃ」
家康は信之の話を聞いてすぐに察して言った。
「家を残す為にか」
「それは」
「ははは、言わずともよい」
恐縮する信之にだ、家康は笑って返した。
「御主はな」
「そうですか」
「それで真田殿は上田城におられるか」
「今は」
「わかった、では竹千代に言っておこう」
実はまだ軍は分かれていない、まさにこれからだ。
「上田の城に降る様に言えとな」
「そうされますか」
「御主の父君と弟殿が加われば強い」
家康にしてもというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「そう言っておこう」
秀忠にというのだ。
「ただしな」
「戦もですか」
「覚悟しておけとな」
その様にというのだ。
「竹千代にも言っておこう」
「そうされますか」
「そして御主もじゃ」
信之もというのだ。
「中山道を進め」
「竹千代殿と共に」
「そうじゃ、わしは既に多くの軍勢を率いてじゃ」
秀忠、秀康に預けたよりもさらに多くの兵を率いている。家康が主力を率いるのはもう最初から決まっていることだ。
「東海を上がるからな」
「都まで」
「竹千代は中山道を上がる」
上田もあるその道をというのだ。
「だからな」
「それがしは、ですか」
「先導も兼ねてじゃ」
そのうえでというのだ。
「そちらに行ってもらう」
「では」
「その様にな、ではすぐにじゃ」
「竹千代殿のところへ」
「行くのじゃ」
「わかりました」
こうしてだ、信之は今度は秀忠のところに向かった。秀忠は生真面目そうな面長の顔をした若者だった。顔は初陣の為かかなり緊張している。
秀忠は信之の話を聞いてだ、こう言った。
「では頼む」
「はい、案内させて頂きます」
「是非な、しかしじゃ」
「上田城はですか」
「うむ、わしはよく知らぬ」
その城のことをというのだ。
「だから若しじゃ」
「戦の時は」
「助けてもらいたい」
「若殿、そのことですが」
榊原がここで秀忠に言った。
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