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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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255部分:光竜降臨その三


光竜降臨その三

 光がユリアの身体の中に消えた。涙を流し恍惚としていた彼女であったが最後に二つの声を聞いた。
“ユリア、セリスとユリウスをお願いね”
“私たちはいつもそあたを見守っている。自分の信じる道を歩むのだ”
 ユリアはその声の主達が誰であるかすぐにわかった。静かに瞑目し両手を組んで祈る様に心の中で言った。
(わかりました。御父様、御母様)
 唯一つだけ気になった。自分はこれから兄ユリウスを倒しに行くのだ。それなのにユリウスを頼むとはどういうことか。
(御母様、何故ですの)
 返事は無かった。上を見上げもう一度問い掛けたがやはり答えは返ってこなかった。
(どうしてですの・・・・・・)
 そう思ったが思い直した。母には母の勧化があるのだと思った。それで気が晴れやかになるわけではない。だが今はそれで良かった。もしかすると幼き日々を共に過ごした兄を殺められずにすむならば、そしてそのうえでユグドラルに希望を取り戻せるならばもうそれ以上望むことは無い。例え叶わぬことでも。ユリアは頭を垂れる様に下げ胸の高さで左手の平を右手の平で包み瞳を閉じた。
「ユリア」
 兄がいつもの優しい声をかけてきた。
「はい」
「明日の朝出陣するよ。そしてこの戦いで全てを終わらせる」
「はい」
 こくり、と頷く。その顔に迷いは無かった。
「皆」
 セリスは諸将の方を振り向いた。彼の顔もユリアのそれと同じく迷いの無い晴れきったものであった。
「行こう、これが最後だ。暗黒神を倒し僕達の手でユグドラルに平和を取り戻そう!」
 皆手を高々と掲げ歓声をあげる。セリスとユリアはそれを見互いの顔を見やって強く頷き合った。
ーバーハラ城ー
「ふっ、そうか。遂にな」
 ユリウスは竜骨を模した黒い玉座で頬杖をつき足を組みながらユリアがナーガの魔法を手に入れたという報告を聞いていた。
「おそらく明日このバーハラ城に来るな。私を倒さんと」
 ガラス窓の向こうの夜の窓を見た。通り雨だろうか。激しい雨が窓を打っている。
「だが所詮叶わぬこと。人間の身で神である私を倒すなのな」
 薄笑いを浮かべ席を立った。右手を前に出して下に控える暗黒教団の者に対して言った。
「魔物と魔獣共を解き放て。人間共の血肉をたらふく食らわせてやろうぞ」
 教団の者はその言葉に対し敬礼した。
「マンフロイとベルド、そして十二魔将、及び使徒達に伝えよ。城内に招き寄せ奴等を一人一人殺してやれとな」
 ユリウスはそう言うとニヤリ、と笑った。
「私も出る。この手でヘイムの小娘の胸から心臓を取り出し喰ろうてやる!」
 牙と爪が禍々しく伸びていた。紅の瞳が竜のそれとなり全身をドス黒い気が包んでいる。
 教徒は一礼うぃて姿を消した。後にはユリウス一人が残った。
 再び窓を見る。雨が相変わらずガラス窓を強く打っている。
「あの時も雨だったな。百年前とよく似ている」
 暗き天から雷が鳴る音がする。黒く厚い雲の中で稲妻が蛇の様に蠢いている。
「だが今度は敗れはせぬ。私のこの力、最早この世を覆わんばかりだ」
 雷の落ちる音と雨の降り注ぐ音が夜の静寂の世界を獣の咆哮の様な音で奏でている。
「ナーガよ、貴様はこのバーハラで滅びる。私のこの暗黒の力でな」
 雷が側に落ちた。その光が闇の中ユリウスの姿を照らし出す。牙と爪を禍々しく伸ばし竜の眼を持ち闇の中に笑うその姿は人のものではなかった。その影も笑っていた。影もまた人のものではなかった。異形のもの、邪悪な気を発する暗黒竜のそれであった。
 
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