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英雄伝説~灰の軌跡~

作者:sorano
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第8話

~アルバレア公爵城館~



「ええい、オーロックス砦やルーファス達からの援軍はまだなのか!?」

「…………」

リィン達がバリアハートに突入する少し前次々と報告され続ける自軍の劣勢にいらついているアルバレア公爵は怒りの表情で声を上げ、ユーシスは辛そうな表情で黙り込んでいた。

「ほ、報告!オーロックス方面よりメンフィル軍が奇襲、並びにオーロックス方面でも戦闘が始まりました!以上の事からオーロックス砦は既にメンフィル軍によって陥落したと思われます!」

「!!」

「何だとぉっ!?」

その時兵士が入室して凶報を伝え、それを聞いたユーシスは目を見開き、アルバレア公は血相を変えて声を上げた。

「おのれ……!ルーファスやパンダグリュエルにはまだ連絡がつかぬのか!?」

「はっ、パンダグリュエル、ルーファス様の専用艦共に通信を続けているのですが未だ通信がまったく繋がりません……!」

怒りのアルバレア公爵の問いかけに対して兵士は表情を青褪めさせて答えた。



通信妨害をされていないにも関わらず、貴族連合軍の旗艦である”パンダグリュエル”やアルバレア公爵の長男であり、貴族連合軍の”総参謀”であるルーファス・アルバレアに通信が繋がらないのは理由があった。



それは貴族連合軍の”主宰”であるカイエン公、更にルーファス・アルバレア共にアルバレア公とカイエン公が主導権争いをする事によって貴族連合軍を内部から崩壊させることを防ぐ為に最初からアルバレア公爵やバリアハートからの連絡を遮断していた事だった。



その影響によって不運にもバリアハートの窮地の状況がパンダグリュエルやルーファスの専用艦に届かず、またカイエン公達もメンフィル帝国の侵攻を未だ把握していなかった。



「くっ、ルーファスめ……まさか私を切り捨てるつもりではあるまいな!?」

(兄上………)

アルバレア公爵が怒りの表情で声を上げている中ユーシスは辛そうな表情で兄の事を考えていた。

「ほ、報告!西口、東口の防衛部隊の被害が甚大な事になっております!既にバリアハートの防衛部隊の全体の5割が壊滅!このままでは西口、東口共に防衛部隊が全滅し、メンフィル軍がバリアハートに雪崩れ込んで来てしまいます!」

「何だとぉっ!?……くっ、このままでは………ええい、口惜しいが命には代えられん!これより私はバリアハートから離脱する!緊急避難用の飛行艇の離陸の準備を直ちに行え!」

更なる凶報を伝えられて声を上げたアルバレア公爵は唇を噛みしめてバリアハートから離脱する事を決意し、兵士達に指示をした。

「!?父上、まさか我が身可愛さに兵達だけでなく、バリアハートの領民達を見捨てて、御自分だけ逃亡するおつもりですか!?それは四大名門の当主―――いえ、領地を預かる貴族として最も恥ずべき行為です!」

父親がバリアハートから逃亡する事を知ったユーシスは血相を変えてアルバレア公爵に意見したが

「黙れ!貴様は私の言う事にだけ従っておけばいいのだ!――――行くぞ!」

「「ハッ!」」

アルバレア公爵はユーシスの意見を無視し、そしてバリアハートから離脱する為に急いで兵士達と共に部屋を出た。

「…………俺はどうすればよかったんだ………」

アルバレア公爵が部屋を出た後ユーシスは辛そうな表情で肩を落とし

「……ユーシス様、今は生き延びる事が先決です。生き延びさえすれば、いつかバリアハートを奪還できる機会や離れ離れになったクラスメイトの方達とも再会できる機会が必ずあります。ですから、お辛いでしょうがユーシス様もすぐに公爵閣下や私達と共にバリアハートから離脱してください。」

「……………わかった…………」

執事の言葉を聞いて少しの間黙り込み、やがて自身もバリアハートから離脱する事を決めて執事と共に部屋を出た。

「典型的な三流貴族ね~。息子の方はまともだったようだけど………―――ま、運が悪かったわね。さてと、緊急避難用の飛行艇って言っていたから多分あそこと思うけど、念の為にご主人様達が来る前に確認だけしておきましょう。」

一方その様子を魔術で自身の姿を消して外から見守っていたベルフェゴールは姿を現して呆れた表情でアルバレア公爵達を評価した後アルバレア公爵達が向かう場所を確認する為に転移魔法でその場から消えた。



~バリアハート市・貴族街~



アルバレア公爵達がバリアハートからの離脱行動を始めているその頃、地下水道に繋がっている領邦軍の詰所の地下から地上へと上がったアリサ達が領邦軍の詰所から出て来た。

「まさかかつて捕まった場所の正面から堂々とバリアハートに出てくる事になるなんてな……」

「詰所に誰もいないなんて正直驚きましたね……」

「まあ~、今バリアハートはメンフィルの挟撃を受けている状況だからね~。しかも肝心の援軍がいるオーロックス砦も占領されたから今のバリアハートの防衛部隊に詰所に人を残すような余裕がある訳ないよ。」

「けど、こっちにとっては好都合だったね。」

詰所から出て来たマキアスは疲れた表情で溜息を吐き、信じられない様子でいるエマの疑問にミリアムが答え、フィーは静かな表情で呟いた。するとその時複数の何かの音が聞こえてきた。

「な、なに……?この音は……」

「”何か”が近づいてきているようだが……」

音を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、ラウラは真剣な表情で考え込み

「!この音は……馬が走る時の音だ……!」

「ええっ!?」

「!あれは……!―――皆さん、すぐに詰所の中に退避してください!」

音の正体がわかったガイウスの答えを聞いたアリサが驚いたその時、何かに気づいたクレア大尉がアリサ達に警告し、警告を聞いたアリサ達は慌てて詰所の中へと入るとシグルーン率いる突入隊が詰所の前を走り去った!



「今のはまさかメンフィル軍の別働隊か!?」

「状況から考えて間違いなくそうでしょうね。それにしても騎馬隊で市内に突入するなんて、まるで大昔の戦じゃない……」

シグルーン達が去った後詰所から再び出て来て声を上げたトヴァルの言葉に頷いたセリーヌは呆れた表情で溜息を吐いた。

「今の状況を考えると先程の別働隊の行き先は間違いなくアルバレア公爵家の城館だろうな……」

「別働隊の目的は恐らくアルバレア公達にバリアハートから離脱する暇も与えず、確実にアルバレア公を殺害するか拘束する為かと。」

「それってかなり不味いじゃない!」

「城館にいるユーシスが危ないよ……!」

アルゼイド子爵とシャロンの推測を聞いたアリサとエリオットは表情を青褪めさせた。

「――――いえ、好都合よ!城館もさっきのメンフィル軍の別働隊による奇襲で混乱しているでしょうから、その隙にユーシスを城館から連れ出してバリアハートから離脱するわよ!」

サラはシグルーン達の登場が自分達にとっても好機である事を説明した後アリサ達に指示をし

「はいっ!」

サラの指示に頷いたアリサ達は城館へと急いだ。



「なっ!?騎馬隊だと!?まさか北クロイツェン街道とオーロックス峡谷で戦闘しているメンフィル軍は囮か!」

「クッ……絶対にここを通すな――――ッ!!」

アルバレア公爵家の城館前を守っていた見張りの兵士達はシグルーン達の登場に驚いた後、武器を構えたが

「旋月槍!!」

「「え――――ギャアアアアアア――――――ッ!?」」

ペガサスに騎乗したシグルーンによる上空からの奇襲攻撃を受けて絶命して地面に倒れた!

「これより館に突入し、各部隊に別れてアルバレア公爵夫妻を討ち取りなさい!ただし、非戦闘員には決して手を出してはいけませんっ!!」

「オォォォオオオオオオオオオオオオォォォオ―――――――――ッ!!」

シグルーンの号令にメンフィル兵達が雄叫びで返した後それぞれ馬から降りてアルバレア公爵家の城館に突入し、メンフィル兵達やリィン達の突入が終わるのを見守っていたシグルーンは上空から城館を監視し、アルバレア公爵の逃亡を防ぐ為にペガサスを空へと舞い上がらせて城館の上空を飛行しながら周囲の警戒を始めた。


~アルバレア公爵城館・玄関ホール~



「貴様ら!ここがどこだと思って――――ガハッ!?」

「下がれ―――不敬で―――ギャアアアアアァァァッ!?」

「グアアアアアアアアァァァ――――ッ!?」

城館に突入したメンフィル兵達やリィン達は騒ぎを聞きつけてホールに現れた城館の守備についている領邦軍の兵士達を問答無用で次々と討ち取り、僅かな時間でホール内にいる領邦軍の兵士達を殲滅した。

「―――それでは私達も行動を始めましょう。」

「はい。まずはアルバレア公の居場所を探っているベルフェゴール様との合流を目指すべきですわよね?」

アルバレア公爵夫妻を討ち取る為に突入隊の兵士達がそれぞれ小部隊に別れて城館内へと散っている中リィン達と共にホールに残ったステラの言葉に頷いたセレーネはリィンに訊ねた。

「うふふ、その必要はないわよ♪」

するとその時ベルフェゴールが転移魔術でリィン達の前に現れた。



「ベルフェゴール、アルバレア公爵の居場所はわかったのか?」

「ええ。言動や行動もまさに典型的な三流貴族でね――――」

リィンに訊ねられたベルフェゴールは頷いた後アルバレア公爵がバリアハートから離脱しようとしている事を説明した。

「アルバレア公爵がバリアハートから離脱しようとしているだって!?」

「領主が我が身可愛さに兵達ばかりでなく、領民達を見捨てて自分だけ逃亡しようとしているなんて……!」

「……本来領主が領地から逃亡するのは最後なのに領民達を見捨てて自分だけ逃亡しようとするなんて四大名門の当主として―――いえ、貴族として最も恥ずべき行為ね。」

「――そうなると、急がなければアルバレア公爵達を取り逃がしてしまいますね。すぐに緊急避難用の飛行艇が停泊している場所を探す必要がありますね……」

ベルフェゴールの説明を聞いたリィンは厳しい表情で声を上げ、セレーネは信じられない表情をし、エリゼは怒りの表情で呟き、ステラは真剣な表情で呟いた。

「うふふ、その必要はないわ。既に私がその場所を先に見つけて、さっき確認した所兵士達が慌てて飛行艇の離陸の準備をしていたから、後は私の転移魔術でその場所に転移するだけよ♪」

「わかった。すぐに頼む、ベルフェゴール。」

「了解。」

「みんな、いつでも戦闘が始められるようにだけしておいてくれ!」

「「「はいっ!」」」

そしてリィン達はベルフェゴールの転移魔術でその場から消えて緊急避難用の飛行艇が停泊しているガレージに現れた!



~緊急避難用ガレージ~



「なっ!?何者だ、貴様らは!?」

「い、一体どこから現れた……!?」

「い、いきなり現れたが一体どうなっているんだ……!?」

飛行艇の離陸の準備をしていた領邦軍の兵士達は突然現れたリィン達に驚いたが

「秘技―――裏疾風!斬!!」

「終わりです―――デススナイプ!!」

リィンの電光石火の斬撃によって一瞬で首を刈り取られたり、ステラの正確無比な狙撃によって頭を撃ち抜かれてそれぞれ絶命して地面に倒れた!



「何事だ!?」

「なっ!?お、お前達は何者だ!?」

「ま、まさかメンフィル軍か……!?」

するとその時騒ぎを聞きつけた飛行艇の中にいた領邦軍の兵士達が次々と飛行艇から現れ

「―――まずは飛行艇の乗組員達を殲滅。その後こちらに向かっているアルバレア公爵をこの場で待ち構えてアルバレア公爵を討ち取るぞ!」

それを見たリィンはエリゼ達に号令をかけ

「「「はいっ!!」」」

「了解♪」

リィンの号令に力強く答えたエリゼ達はリィンと共に領邦軍の兵士達との戦闘を開始し、電撃的な速さで領邦軍の兵士達を殲滅した!



「飛行艇の準備はできているだろうな――――な。」

リィン達が領邦軍の兵士達の殲滅を終えるとアルバレア公爵達がガレージに現れ、ガレージの惨状を見たアルバレア公爵は絶句した。

「ヒッ!?」

「ッ!!」

「そんな……!メンフィル軍が城館に突入してまだそんなに時間が経っていないのに、何故ここに先回りできるのだ……!?」

絶命して地面に倒れている領邦軍の兵士達に気づいたアルバレア公爵夫人は悲鳴を上げ、ユーシスは目を見開いて息を呑み、執事は信じられない表情で声を上げた。

「うふふ、グッドタイミングね♪」

「はい。これで今回の戦の一番の手柄はお兄様のものですわね。」

「アルバレア公爵……!」

「―――『飛んで火にいる夏の虫』、ですね。」

「ああ。しかも公爵夫人も一緒にいるなんて、好都合だ。」

意味ありげな笑みを浮かべてアルバレア公爵達を見つめているベルフェゴールの言葉にセレーネは頷き、エリゼはアルバレア公爵を怒りの表情で睨み、静かな表情で呟いてライフルを構えたステラの言葉に頷いたリィンも太刀を構え、エリゼ達もリィン達に続くように武器を構えていつでもアルバレア公爵達に襲える態勢に入った。



「くっ、まさか先回りをするとは……!宣戦布告もせずに我が領土を襲撃した事といい、貴様らメンフィルに”誇り”はないのか!?」

「我が身可愛さに領民達を見捨てて逃亡するという領主失格な貴方に”誇り”の是非を問う”資格”はありませんわ!」

「―――それにメンフィル帝国はリベールの王都に存在するエレボニア帝国の大使館を通して宣戦布告を行っています。手柄欲しさに猟兵達に我が国の領土を襲撃させた貴方こそ、”四大名門”の当主―――いえ、貴族としての”誇り”の是非を問われるべきだと思われるのですが?」

怒りのアルバレア公爵の問いかけに対してセレーネが怒りの表情で答え、ステラは静かな表情で答えた。

「――――アルバレア公爵家当主ヘルムート・アルバレア。メンフィル帝国領ユミルの騒乱及びシュバルツァー男爵夫妻傷害の主犯であり、そしてメンフィル・エレボニア戦争勃発の”戦犯”である貴方にもはや生きる”資格”はない。」

「猟兵達にユミルを襲撃させ、父様に重傷を負わせた”罪”、その命を持って償ってもらいます!」

「そしてアルバレア公爵夫人。アルバレア公の正妻である貴女や長男であるルーファス・アルバレアも連帯責任としてアルバレア公と共に地獄に落ちて頂きます。」

リィンは静かな表情で呟いて怒りの表情のエリゼと共にアルバレア公爵を睨み、ステラは静かな表情でアルバレア公爵夫人を見つめた。

「なんですって!?何故私やルーファスまで裁かれなければいけないのですか!?」

「兄上まで……―――!”父様に重傷を負わせた”………まさか、お前はシュバルツァー男爵閣下の………」

リィン達の言葉に対してアルバレア公爵夫人が反論し、一方エリゼの正体を察したユーシスは辛そうな表情でエリゼを見つめ

「――――メンフィル帝国領ユミルの領主テオ・シュバルツァー男爵の息子にしてリフィア皇女殿下親衛隊所属、リィン・シュバルツァー。」

「同じくユミルの領主テオ・シュバルツァー男爵の娘にしてリフィア皇女殿下付き専属侍女長エリゼ・シュバルツァー。」

「「猟兵達にユミルを襲撃させた罪、メンフィル帝国と父さん(父様)に代わり、俺(私)達が裁く(裁きます)、アルバレア公!」」

ユーシスの問いかけに対してエリゼはリィンと共に名乗り上げた後それぞれの武器をアルバレア公爵に向けて宣言した!



「ッ!父達の命を狙うのはやはりユミルの件の”報復”の為、か……」

「お、おのれ……我が身可愛さに他国に寝返った挙句”尊き血”を引いていながら浮浪児を養子にした田舎領主の小僧共がよくも、そこまで身の程知らずな発言ができるものだな……!―――私を誰だと思っている!?このクロイツェン州を治めし誇り高き四大名門、アルバレア家の当主だぞ!?」

リィンとエリゼが父親であるアルバレア公爵の指示によって猟兵達が二人の故郷を襲撃し、更に重傷を負わせた二人の父親の子供である事を知ったユーシスは息を呑んだ後辛そうな表情で肩を落とし、アルバレア公爵は怒りの表情でリィン達を睨んで怒鳴った。

「今こうして領民達を見捨ててバリアハートから離脱しようとしてる貴方がそれを言うのですか……」

「というか状況をわかっていて、よくあんなおバカな事が言えるわね。」

「四大名門の当主―――いえ、それ以前に”人として”あまりにも見苦しい姿ですね。」

セレーネは蔑みの表情でアルバレア公爵を見つめ、ベルフェゴールとステラは呆れた表情でアルバレア公爵を見つめた。

「ええい、黙れ!誇り高きクロイツェンの兵達よ!あの愚か者共にクロイツェンの誇りを存分に見せつけてやれ!」

「ハッ!」

そしてアルバレア公爵達は兵達に指示をし

「速攻で護衛達を殲滅するぞ!」

「「「はいっ!」」」

「ええっ!」

それを見たリィンもエリゼ達に号令をかけて領邦軍の兵士達との戦闘を開始した!



「死ね―――!」

「そこっ!」

兵士達が銃を構えたその時ステラは兵士達の目の前に手榴弾を投擲した。

「え――――」

「た、退避―――」

目の前に投擲された手榴弾に気づいた兵士達は慌てて後退しようとしたが手榴弾は炸裂し、凄まじい閃光と冷気を解き放った!

「ぐわあっ!?」

「め、目が……!」

「か、身体が動かない……!?」

冷気と閃光を発する手榴弾による攻撃のクラフト――――A(アイス)グレネードによって発生した閃光で視覚を一時的に奪われたり、全身が凍結した兵士達は混乱し

「二の型―――――大雪斬!!」

「刃よ、伸びよ!」

「雷光よ、我が右腕に宿れ!――――サンダーストライク!!」

「深淵の槍よ、貫け―――死愛の魔槍!!」

「ギャアアアアアァァァ―――ッ!?」

「がふっ!?」

「グアアアアアアアアァァァ―――ッ!?」

「ぐふっ!?む、無念………」

その隙にリィン達が一斉に攻撃を放って兵士達を瞬殺した!



「バ、バカな……我がクロイツェンの兵達があんな小僧共にこんな一瞬で………」

「何をしているのですか!すぐに起きて私達を守りなさい!」

兵達の全滅にアルバレア公爵は愕然とし、公爵夫人は兵士達の死体に叱咤した。

「………公爵閣下。ここは私が時間を稼ぎますので閣下はユーシス様達と共にここからお逃げください。」

その時執事が前に出て暗器を構え

「な―――やめろ、アルノー!死ぬ気か!?」

それを見たユーシスは悲痛そうな表情で制止の声を上げた。

「どうかご無事で、ユーシス様。―――例えどのような理由があったとしても、公爵閣下達に危害を加えさせません。」

「―――悪いけど、面倒な忠誠心に付き合ってあげる暇はないのよね~。」

決意の表情でリィン達と戦おうとした執事だったがベルフェゴールが転移魔術で瞬時に執事の背後に現れ

「な――――」

「烈風脚!!」

「ガッ!?」

執事を思いっきり蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた執事は壁に叩き付けられ、気絶した。



「アルノー!」

それを見たユーシスは声を上げ

「ヒッ……!私はこんな所で死にたくありません!」

公爵夫人は悲鳴を上げた後その場から逃亡しようとしたが

「―――逃がしません。」

「え………?そ、そんな…………ゴホッ!?ど、どうして……こんな……事に………」

ステラの狙撃によって心臓を撃たれ、そして口から血を吐いて絶命して地面に倒れた!

「!!!き、貴様――――!よくも我が妻を……!ええい、何をしている、ユーシス!私の息子なら、とっとと我が妻の仇を取れっ!」

「父上………俺は………」

公爵夫人の死を見て目を見開いた後怒りの表情で声を上げたアルバレア公爵はユーシスに命令し、命令されたユーシスは迷いを持った表情で自身の得物である騎士剣を構えてリィン達と対峙した。



「ユーシス……確かその名前はアルバレア公の次男の方の名前です。ただその方は長男のルーファス・アルバレアと違い、妾の子ですが……」

「妾の子供ですか……」

「兄様、どうしますか?」

ユーシスの情報を口にしたステラの話を聞いたセレーネは複雑そうな表情でユーシスを見つめ、エリゼはリィンに判断を促した。

「………投降するなら命は取らない。命が惜しければ剣をその場で捨ててくれ。今回の戦で俺達メンフィルが欲しいのはアルバレア公爵夫妻の首だ。メンフィルは無益な殺生をするつもりはない。」

少しの間目を伏せて考えていたリィンは目を見開き、静かな表情でユーシスに投降を促した。

「俺は………ッ!ハアアアアァァァ―――ッ!」

様々な事による迷いや混乱でまともに考える事ができず、自暴自棄になったユーシスはリィンに斬りかかった。

「そんな迷いのある剣では何も斬れない。セイッ!」

「あ――――」

しかしリィンはユーシスの剣を太刀で受け止め、更に一瞬で太刀を引いた後太刀を振るってユーシスの剣をユーシスの手から弾き飛ばし

「―――破甲拳!!」

「グアッ!?」

太刀を片手に持った後もう片方の拳に闘気を溜め込んでユーシスの腹に叩き込んでユーシスをふっ飛ばした!

「ガッ!?あに……うえ……皆……すまな……い…………」

ふっ飛ばされたユーシスは壁に叩き付けられ、そして気を失った。



「……あ………」

ユーシスが無力化された事によって自分を守る者が誰もいなくなった事を悟ったアルバレア公爵は呆然とし

「エリゼ。」

「はい、兄様。」

リィンはエリゼと共にアルバレア公爵に近づいた。

「止めろ……私は誇りある四大名門のアルバレア公爵家の当主だぞ!?その私を手にかける等許されると――――」

近づいて来る二人を見たアルバレア公爵は絶望の表情で後ずさりながら見当違いな事を言い続けたが

「「問答無用!覚悟!アルバレア公爵!」」

「ギャアアアアアァァァ――――――ッ!?……………」

リィンとエリゼに同時に斬られて悲鳴を上げ、そして絶命して地面に倒れた!



「「……………」」

アルバレア公爵の絶命を確認したリィンとエリゼは何も語る事無くそれぞれの武器を鞘に収め

「―――作戦は大成功、ですね。」

「……はい。それにお兄様達も手柄をたてる事ができましたね。」

「ええ。今回の手柄でメンフィルが最も殺したがっていた人物の首を取ったのだから、後1回か2回くらい大手柄をたてれば、ご主人様の願いが叶うかもしれないわね。」

その様子をステラとセレーネは静かな表情で見守り、ベルフェゴールはセレーネの言葉に頷いた。

「……みんな、ありがとう。みんなのお陰で俺自身でアルバレア公爵を討ち取る事ができたよ。」

「兄様のお役に立てて何よりです。」

「うふふ、感謝しているんだったら今夜あたりに私をたっぷりと可愛がってくれるかしら♪」

「ベ、ベルフェゴール様……そういう事は場所を選んで発言してくださいよ………この場にはステラさんもいるのですよ?」

リィンの感謝の言葉にエリゼは静かな表情で会釈し、からかいの表情でリィンにウインクしたベルフェゴールの話に脱力したセレーネは疲れた表情で溜息を吐いた。

「フフ、話には聞いていましたけどリィンさんは本当に多くの女性に好意を抱かれているのですね。」

「ハ、ハハ……見苦しい所を見せてしまってすまない。―――それよりも俺の手柄の為に手伝ってくれてありがとう、ステラ。」

ステラに微笑まれたリィンは冷や汗をかいて苦笑した後ステラにも感謝の言葉を送った。

「いえ、私もリィンさんと契約しているベルフェゴール様のお陰でアルバレア公爵夫人を討ち取るという大手柄をたてる事ができましたからお互い様です。それよりも今回の作戦の一番の目的も果たしましたから、まずは副長に連絡しませんか?」

「そうだな。それじゃあ俺が副長に―――」

「父上、今の悲鳴はまさか……!」

「ああ。―――恐らくアルバレア公だ。」

「そ、そんな!?それじゃあアルバレア公爵達と一緒に逃げようとしていたユーシスも……!」

「悲鳴はこっちの方から聞こえてきたわ!」

そしてステラの問いかけにリィンが頷きかけたその時ユーシスの救出の為に城館に突入したⅦ組やその協力者達の声が聞こえた後アリサ達がガレージに現れた!


 
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