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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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228部分:決戦その七


決戦その七

 キンボイスは荒れ狂う戦場を駆け巡っていた。遮二無二剣を振るい敵兵を斬り倒す。だが周りの部下達は一人減り二人減り遂には彼一人となってしまった。
「我ながらよく戦ったな」
 そう言うと四方八方から迫り来る敵兵と地に伏す部下達、そして柄まで血に濡れた己が剣を見た。
 あちこち刃毀れし今にも折れそうである。後二三人相手に出来ればよい方か。残された剣はこれだけだ。覚悟を決めた。その時であった。
「よし、皆引いてくれ。ここは俺がやる」
 敵軍から一人の騎士が現われた。金髪碧眼で青い鎧を着た壮年の男である。
「帝国軍の将の一人キンボイスだな。解放軍のベオウルフだ」
 彼はそう言うと腰から剣を抜いた。
「ほう、卿がベオウルフか。面白い、その申し出謹んでお受けいたそう」
 彼はベオウルフへ向かった。不意に今までの一生が走馬灯の様に脳裏を走る。彼はそれを自然に感じた。
 レナートの弓の弦がブツリ、と切れた。彼は左胸と喉に突き刺さった矢を見ながらドゥッ、と地に沈んだ。
 平民の家に八人兄弟の長子として生まれた。長じてアルヴィスの軍に入りそこで頭角を表わしやがて弓兵達を任せられるまでになった。
 弟達も兄の後を追い次々と入隊してきた。皆兄に似て出来が良く彼は弟達と共に弓兵を率いた。
 八兄弟は帝国軍にその名を馳せた。固い絆で結ばれた彼等は何時でも行動を共にした。それは永遠に続くかと思われた。だがそれは適わなかった。
 弟達は皆戦場に散った。そして彼も今ジャムカの矢を受けたのだ。
「だがこれでいい」
 彼はそう思った。皆最後まで戦い敵に背を向けず散っていった。
「我等兄弟の武名に穢れはない」
 彼はそれだけで充分であった。
 「ここまでやられてはな。炎騎士団ももう終わりか」
 ザッカーリアは為す術もなく崩れる自軍を見て自嘲を込めて言った。
「私が陛下よりお預かりした将兵達もその殆どがヴァルハラに旅立ってしまった。これ以上の戦闘は最早何の意味のなさないだろう」
 首を横に振り息を吐く。
「だが私は最後まで戦いたい。奴隷でしかなかった私をここまで引き立てて下さった陛下への忠誠と私と共に今まで生死を共にしてきた部下達の為にも」
 そして顔を引き締めた。
「その為にも・・・・・・。アミッド殿、行きますぞ」
「望むところ」
 アミッドは後に語った。あの時のザッカーリア程素晴らしい戦士はいなかったと。彼もまた死してその名を残したのだ。
「ヨハンはあっちへ行ってくれ」
「わかりました」
「グレイドは向こうだ、セルフィナは二人のフォローに回ってくれ」
「了解」
「承知致しました」
 レックスは三人に指示を出した。三人は彼の指示に従い動く。
 そのレックスの前にはラダメスがいた。
「悪いな、ラダメス」
 彼は目の前にいる敵将に対して言った。
「俺達はこの戦いに勝つ。例え御前が相手でもな」
「それはこちらも同じです」
 ラダメスは戦場に似合わぬ丁寧な口調で言葉を返した。
「陛下と帝国の為、私共も勝たねばなりません」
 二人はアゼルを通じて旧知の間柄であった。親友であったと言っても良いだろう。
 三人で朝まで飲み明かした事もあった。何度も自分達の未来について語り合った。夢を告白し合い希望を言い合った。二人の胸にそんな青春の熱い時が甦っていた。
 だがその時はもう戻らない。アゼルはシレジアの土となり今レックスとラダメスは対峙している。青春の幕は今降りようとしている。
「行くぞ」
「はい」
 レックスは斧を、ラダメスは拳を構えた。二人は馬を駆った。
 銀の戦斧が空を裂き灼熱の炎が戦場を焦がす。その音は飛竜と火竜の咆哮の様であった。強く激しくそれでいて哀しい響きの咆哮であった。
 
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