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Track 4 ともに目指す場所
  活動日誌21 にこぷり ・ じょしどう! 2 『にこ襲来』

「だからと言うことでもないのだけれど、私達だけが偵察をしているのはフェアじゃない気がするの」

 一呼吸を置いて、ツバサさんは説明を続ける。
『フェアじゃない』
 そう言い切った彼女の言葉に、私はとても感銘を受けていた。
 確かに現時点でのトップはお姉ちゃん達かも知れない。
 だけど、スクールアイドルの存在を広めたのは紛れもなくツバサさん達の功績なのだと思う。
 実際にお姉ちゃん達にしろ、私達にしろ、ツバサさん達のおかげで今があるんだしね。
 それに彼女達はお姉ちゃんに招待されてライブを見に来てくれていた。
 別に目的が偵察だったとしても、それがフェアじゃないなんて思わないんだけど。
 それでも彼女達は、そう思っているのだろう。
 常にトップであり続ける自分達の信念がそうさせている。自分達を律して高みを目指しているのだろう。
 そして相手が誰であれ。いくら、私達がお姉ちゃん達の後輩だとしても。 
 新人のスクールアイドルにでも礼を尽くす。
 それが彼女達のプライドであり、トップアイドルの資質なのだろうと感じていたのだった。

「まぁ、とは言っても、別に君達の為だけではないのだけどね……」
「どちらかと言えばぁ、うちの子達の為なんだけどねぇ?」

 ツバサさんの言葉に感銘を受けていた私。隣に座る亜里沙と涼風も感銘を受けていたのだろう。
 そんな私達に苦笑いを浮かべながら、英玲奈さんとあんじゅさんが言葉を繋げる。

(うちの子達?)
「「「し、失礼します!」」」

 私が、あんじゅさんの言った「うちの子達」に疑問を覚えていると、突然緊張しているような声色の複数の声が響いてくる。
 声のした方を振り向くと、そこには真新しいUTX学院の制服に身を包んだ3人の女の子が立っていたのだった。

♪♪♪

「――美沙(みさ)!?」
「――みっちゃん!?」
「……久しぶりだね、雪穂、亜里沙?」

 そんな目の前の3人。その向かって右側に立っていた彼女の顔を見て、私と亜里沙は思わず声をかけていた。そんな私達に笑みを浮かべて声を返す彼女。
 声をかけられた女の子――折葉野(おりはや) 美沙。彼女は私達と同じ中学のクラスメートだった。
 中学時代。私達3人はよく行動を共にしていた。お姉ちゃん達のライブもそうだし。
 あと、廃校を阻止しようと絵里さんがオープンキャンパスで演説しようとしていた時の練習にも一緒に付き合っていた。
 元々、音ノ木坂の廃校を耳にしていた頃。
 私達は3人でUTX学院を受験しようかとも話をしていた。結局、音ノ木坂を受験できるからって、私と亜里沙は音ノ木坂を選んだのだけど。
 彼女はそのままUTX学院を選んでいた。うん、それは知っていたんだけどね?

「スクールアイドル……始めていたんだ?」

 全員に頭を下げて私達の前に座る彼女達。そんな美沙に声をかけていた私。
 彼女がスクールアイドルをやっているなんて知らなかった。まぁ、この段階では違う可能性もあるんだけどさ。まだ紹介されていないんだし。

「う、うん……穂乃果さん達のライブを一緒に見ていたから、私も憧れていたんだよね?」
「そっか……」

 でも、すぐに彼女が言葉を紡いでいたんで、どうやら合っていたみたい。
 私が相槌を打つと、少し慌てた表情で――

「べ、別に雪穂達とやりたくないからじゃないよ? 元々、UTX学院を目指していたんだし……」
「知っているよぉ」

 こんなことを言ってきた。当然、私も亜里沙も知っていたし、何とも思っていない。
 亜里沙が笑顔で答えると、ホッとしたような顔をする彼女。

「だけどね……」
「うん?」
「何となくなんだけど……雪穂達と競ってみたかったのかも? ライバルとして……」
「そっかぁ……」
「うん……今は今年の新入生の二人とユニットを組んでいるの」

 そんな風に、力強い瞳で宣言していたのだった。

『ライバル』
 一緒に活動する亜里沙や涼風も、本当の意味ではライバルではあるけれど。やっぱり仲間だし、助け合うことの方が大きいと思う。
 だけど仲間ではなく、ライバルとして目の前に立つ彼女達を見て、嬉しさが湧いていたのかも知れない。
 同じスタートラインに立ち、互いを切磋琢磨していける存在。
 お姉ちゃん達にとってのツバサさん達のような存在。それは憧れていたものなのだと思う。
 確かにお姉ちゃん達は私達の目標だけど、ライバルなんて呼べないもん。今はまだ、だけどね?
 いつかは、そう呼べるといいなって思っているんだけど。今はまだ呼べない。
 
 だから、こうして私達と同じように、お姉ちゃん達やツバサさん達を目標に。
 お互いを高めあえるライバルが身近にいることが、何より励みになるんだよ。凄く心強いんだよ。

「負けないよぉ!」
「……こっちこそ!」

 だから私は満面の笑みで答える。そんな私に満面の笑みで答える彼女。同じように満面の笑みを相手に送っていた4人。
 新人スクールアイドル6人の無言で交わす挨拶を、先輩6人は優しく微笑みながら見守るのだった。

「っと……他のメンバーも自己紹介をした方がいいと思うのだが?」
「確かにそうですね?」

 笑顔を送り続けていた私達に、英玲奈さんが話しかけてきた。
 その言葉に海未さんも賛同している。
 確かに今の紹介では、私と亜里沙と美沙にしかわからない話だ。なのに新人6人は旧知の仲だと言わんばかりの雰囲気なのだった。
 実際に、私と亜里沙は美沙以外の他の2人を知らないし、涼風は誰も知らない。向こうも同じようなものだよね。
 英玲奈さんの言葉で恥ずかしくなって、俯く新人6人なのだった。

♪♪♪

「そ、それでは改めまして……国立音ノ木坂学院スクールアイドル『Dream Tree』の高坂雪穂です!」
「同じく……絢瀬亜里沙です」
「同じく……高町涼風と申します」

 私達は立ち上がると、自己紹介をした。そして同時に頭を下げ、「よろしくお願いします」と伝える。
 言葉が終わると同時に拍手が聞こえてきた。
 そして拍手がやむと、彼女達が今度は立ち上がる。

「はじめまして! UTX学院スクールアイドル『B-revived(ビーリバイブド)』の蒼井 優希(あおい ゆうき)です」
「同じく……折葉野美沙です」
「同じく……神戸 那実(かんべ なみ)です」

 3人が自己紹介を終えると、私達と同じように頭を下げて「よろしくお願いします」と挨拶をした。
 そんな3人に拍手を送って自己紹介が終わる。

「なるほど…… B-revived ですか。力強い名前ですね?」
「そう? Dream Tree も力強い名前だと思うけどねぇ?」
 
 だけど突然、海未さんが言葉を紡いで、あんじゅさんが答えていた。
 先輩6人が何か大胆不敵な笑みを浮かべながら、見つめ合っていた。な、なに、どうしたの?
 そんな先輩6人の威圧に驚いていた私達。
 ――と、思っていたら、お姉ちゃんはこっちの人間だったようだ。なんてね。

「う、うみちゃんうみちゃん…… B-revived って、どう言う意味なの?」

 小声で訊ねるお姉ちゃん。って、いや、ツバサさん達がいる目の前で海未さんに聞くのはどうだろう。
 そんなお姉ちゃんに苦笑いを浮かべていた先輩達。すみません、うちのお姉ちゃんが。
 お姉ちゃんと知りたがっていた私達新人に説明する為に、ツバサさんが言葉を紡ぐのだった。

「このユニット名は私が名付けたのだけれど……『Be revived』の造語ね? 意味は『蘇る』よ」

 ツバサさんの言葉で私達は海未さんの言ったことを理解した。
 蘇るという意味。
 つまり『A-RISE』が築き上げてきた栄光を蘇らせると言うこと。それを可能にしようと頑張るってことなんだと思う。
 今はトップをお姉ちゃん達に譲っているけど、次の彼女達が諦めていないってことだよね。
 そんな決意をツバサさん達が託して、託された彼女達なんだ。
 当たり前のことなんだけど、改めて彼女達を見て身震いしていた。
 だって、ツバサさん達はもう卒業してしまったから、同じステージに立つことができないって悲しかったけど。
 彼女達の意志を受け継いでいる後輩達が、私達と同じステージを目指すってことなんだもん。
 それも3年間共に切磋琢磨できるんだもん。
 それって恵まれているんだと思うんだ。そして負けられないって思うんだよ。
 私達だって、絵里さん達の。ううん、お姉ちゃん達9人の想いを託されるんだから。
 
 お姉ちゃんが私達のユニット名をツバサさん達に説明していた。
 お姉ちゃんの説明を受けたツバサさん達は、私達と同じような顔で、私達を見つめていた。
 うん。やっぱりそうだよね。やる気が出るよね? 楽しいよね!
 私達は大胆不敵な笑みで相手を見つめていたのだった。
 あっ、こう言う意味だったんだ。
 ほら? ファーストライブの時に、絵里さん達とツバサさん達が大胆不敵な笑みを交わしていたじゃん?
 あれって、こう言うことだったんだね。
 もちろん、美沙達のことは知らないだろうけど、絵里さん達には理解していたんだろう。
 同じ卒業生同士、通じる想いがあったのだと思う。

 うん。お姉ちゃんに連れてきてもらって本当によかった。やる気が更に出てきたよ。
 隣に座る亜里沙と涼風の顔からも熱意が伝わってくる。当然、目の前に座る美沙達からもね。
 今すぐにでも練習がしたいと言う「やる気が溢れている気持ち」に蓋をして、会話に参加をしている私達なのだった。

♪♪♪

「それでね? 実は、あと一人。紹介したい人がいるのよ」

 カップに口をつけて、紅茶を一口飲んでからツバサさんが声をかける。
 あと一人? メンバーがもう一人いるのかな?
 私がそんなことを考えていたことを悟ったのか、ツバサさんは微笑みを浮かべて言葉を繋げる。

「メンバーではないのよ? でも、大事な人だから紹介しておこうと思って」
「大事な人?」
「そうだね。君達には知る権利があるかも知れないね?」
「そうなんですかぁ?」
「そうねぇ……だって、この子達の『コーチ』だからねぇ?」
「コーチですか?」

 す、すごい。さすがUTX学院だね。
 スクールアイドルって部活動じゃん。確かにコーチがいる部活も多いけどさ。でもアイドルのコーチだよ? なんか凄いよね。
 でもまぁ、それを言ったら私達なんて現役トップアイドルがコーチしてくれているんだけどね!
 私達の方が凄くない? だって、現役トップだよ、トップ。
 そんな彼女達にコーチが受けられている私達って凄くない!?
 ――うん。別に私達が凄いんじゃないから話続けるね?

 そんな感じでコーチの存在を聞いた私達は、どんな人なんだろうって想像していた。
 すると、突然――

「ちょぉーっと、あんたたち……いつまで待たせれば気が済むのよ? 練習しないんだったら、今日は帰らせてもらうわ……よ!?」
「あー、にこちゃん! お邪魔してまぁーすっ!」
「――げっ! 穂乃果……と言うか、なんで、あんた達がいんのよっ!」

 入り口の方から語気を荒げた声が響く。
 その声に聞き覚えのある私は思わず声の方を振り向いたんだけど、先に気づいたお姉ちゃんが自然と手を振りながら声をかけていた。
 そこには、いつもの練習着姿の『にこ先輩』が立っていたのだった。
 って、え? なんで、にこ先輩がいるの?
 そんな私達の驚いた顔に「クスッ」と吹き出し笑いをしていたツバサさんが言葉を紡ぐ。

「それじゃあ、改めて紹介するわね? ……『B-revived』の特別専任コーチの矢澤にこさんよ」
「よ、よろしく……」

 ツバサさんの紹介を受けて、恥ずかしそうにソッポを向いて挨拶をする、彼女達のコーチのにこ先輩なのだった。
 
 

 
後書き
Comments 亜里沙

新曲すごくいい曲だったよね!
早くライブで歌いたいな~? だけど、たくさん練習しなきゃだね!

穂乃果さんに連れて行ってもらえたのがUTX学院でビックリしちゃった。
みっちゃんとも会えるなんてハラショーだよ。
でも、頑張らないとね! 負けられないもんね?

それに、にこ先輩がコーチなんて驚きだよ。
凄いよね。
とにかく、行けてよかったよね。
 
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