ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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203部分:魔皇子その一
魔皇子その一
魔皇子
ーミレトス城ー
魔族の立像や異様な装飾が施された鎧や武具が並ぶ廊下を一人の男が歩いている。黒と赤の軍服と豪奢な紅のマントに身を包んだ赤い髪の男である。
「それにしても何という建物の造りだ。これが美しさで知られたミレトス城なのか」
曲がりくねり奇妙な部屋が並ぶ中を歩きながら呟いた。見れば廊下も部屋も胸の悪くなるような様々な色で塗られ蛙や蛇、蜥蜴等が這いずり不可思議な装飾具があちらこちらに無造作に置かれている。
男はそれ以上何も口に出そうとはしなかった。建物のどれにも一切目をやらず足早に進んでいった。
階段を上がる。訳のわからない、見ていると気分が悪くなる造りの部屋を幾個も抜けある部屋に来た。
そこは暗黒の部屋だった。十二の松明が部屋を照らしている。そう、灯りが無く暗いのではない。部屋の全てが漆黒に塗られているが為に暗いのだ。異様な部屋だった。
その中に銀の髪の少女がいた。男の姿を認めると左肩に右の拳を当てるヴェルトマー式の敬礼をした。
「良い、イシュタル。堅苦しい事は抜きにしたい」
「ハッ」
イシュタルは手を収めた。男はそれを見て言った。
「ここに来たのは他でもない。イシュタル、この城に捕らえてある子供達を全て解放し親の下へ帰してやるのだ」
「えっ・・・・・・」
「あの子供達が辿るであろう運命を思ってみよ。どうすべきかわかる筈だ」
「しかし私の一存では・・・・・・」
イシュタルは困惑する。その顔には逡巡の色が表われている。
「グランベル帝国皇帝である私の命でもか?もう一度言おう、今すぐ子供達を解放するのだ」
「はい・・・・・・」
彼女がそれを了承しようとしたその時だった。二人の横に黒い渦が生じた。
「困りますね、父上。あまり無茶な事を仰られては。イシュタルも困っているではありませんか」
「ユリウス・・・・・・」
その男、皇帝アルヴィスは我が子の名を呼んだ。だがその口調には我が子への愛情などは微塵も感じられず異形の者への憎悪の念が発せられていた。
「あの子供達は我等が糧となる言うならば生き餌。御渡しする訳にはいきませぬな」
「くっ・・・・・・」
「そのそもこの様な所にいらして良いのですか?グランベルには反乱軍がもうすぐ来ると聞いて今にも暴動や反乱が頻発しそうなのでしょう?」
アルヴィスはそのあからさまな侮蔑の口調に憤りを感じた。だがそれは表に出さない。いや、出せなかったのだ。
「・・・・・・その反乱軍はもうこの城まで三日の距離まで来ているというではないか。御前も足下が危うくなってきているのではないのか!?」
負け惜しみじみた言葉を出すのが精一杯だった。
「・・・・・・これは面白い事を仰る」
ユリウスは口の端を歪めて笑った。
「何!?」
「まさか私があの者達に敗れると本気で考えておられるのですか?それは父上が最も良くご存知だと思っていたのですが。母上が亡くなられた時に」
「うっ・・・・・・」
「それを考えられれば今何を為されるべきかお解りですね?まあどうしてもと言われるなら宜しいですが。・・・・・・しかし誰のおかげで今まで生きてこられたか。・・・・・・ねえ父上」
ユリウスの紅い瞳が竜のそれになった。黒い気が全身を包む。
「・・・・・・わかっている。私は御前には・・・・・・勝てぬ」
ユリウスの瞳が人のものになった。気も消え去った。
「・・・・・・やれやれ、最初からそう言っていただければ。ではすぐにシアルフィに戻られよ。そして子供達をシアルフィに受け入れて頂く」
「・・・・・・ああ」
アルヴィスは力無く頷くとワープで姿を消した。ユリウスはそれを侮蔑しきった目で見送った。
「・・・・・・さてと、イシュタル」
彼はイシュタルに向き直った。その顔はあどけない少年のものになっていた。
「子供達はマンフロイに任せれば良い。我々はここで解放軍を迎え撃つとしよう」
「・・・・・・はい」
イシュタルは答えた。今一つ顔色が良くない。
「どうした?浮かない顔をして。やはり子供狩りは気が進まぬか」
「・・・・・・いえ」
イシュタルはそれを否定した。だが顔色までは否定出来なかった。
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