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Fate プリズマクロエ お兄ちゃん強奪計画

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珍客2名

 家の外では早速機銃掃射の音が響き渡り、双方で魔法杖(カラシニコフ)が乱射され、炎の魔法が展開されたり、雷撃の呪文が炸裂した。
 第六次聖杯戦争の開幕であった。
「うそ~~~~ん」
 士郎は選択肢を誤って、クロエにアンリマユされてしまった。

 綺糺の電話が終わり、暫くすると外での対戦の勝敗が決したのか、魔術師が少なかった片方が撤退し、勝者側の責任者が門を潜って玄関を開け、一瞬土足で入ろうとしたが、日本の家への入場方法を思い出して靴を脱いで入って来た。
((うっっわ、こっちの世界のロード・エルメロイ、来ちゃったよ))
 凜とルヴィアにとっては、自分達が通っていた魔術学校の大師範の補佐、普通の学校なら理事長の下の校長か教頭が、士郎の家に直々に来てしまったので驚いた。
「(英語)お初にお目にかかる、私はロード・エルメロイ、魔術関連の学校で師範をしている。こちらの七英雄の皆さんが留学をご希望と伺って出向いた訳だ。皆さんの入校を歓迎する」
 世界は違えど校長か教頭が滞在先に来ちゃったので、二人は白目剥いて緊張していた。
 応接間で座布団に座って話し合うが、やはりクロエの言う通り、全員無条件入学許可、前歴問わず。
「(英語)ロード・エルメロイ、もうご存知かも知れませんが、私とルヴィアは別世界で貴方の学校の生徒でした。今回は大師範の課題として、正体不明のカードを追って、調査のために冬木市を訪れたのですが、その出所は平行世界であるこの場所、エインズワース家が作成した英霊召喚用カードだったのです」
「うむ、聞いているよ」
 街中で魔法戦とか銃撃戦もあったはずなのに、上から言われているのか、聖堂教会が銃撃戦の許可を取った?のか、元々廃墟に近い冬木市なので「警察なんて来ねーよ」で済まされてしまっていた。
 海岸が徒歩距離とか近いので、須磨区の警察の怠慢か、買収とか上の権力の横暴で事件はなかった事にされた。
「あの、宜しければこちらの世界のロード・エルメロイから、任務達成の書状を頂いて、異世界のロード・エルメロイに提出したいと思うのですが、署名頂けますでしょうか?」
 提出に困っていた報告書も一応作成していた凜だが、英語のリポートを差し出して一読して貰うと、エルメロイ卿は日付やサインを済ませ、封蝋を用意すると魔術的な印鑑のような物まで押して、正式な書類であると証明してくれた。
 これで7枚のカードを添えなくても、マジカルステッキの返却をしないでも、異世界での留学とか単位が認められるはずであった。
「このリポートのコピーか、さらに詳細な報告書があれば、卒業論文としても十分な物だ。あればぜひ提出してほしい」
 クロエが言ったように破格の対応で、実習で世界を救ったので実技試験全部免除、後は報告書だけで卒業保証までされて、道半ばに退学者続出の魔術学校では、通常あり得ない厚遇で迎えられた。
 校長に署名をもらった凜とルヴィアは、何か涙ぐんでしまい、早くも入校先が決まってしまった。
 通いなれた学校で、元の世界では放校か退学寸前の落ちこぼれが、単位さえ取れば卒業確実。さらに、
「大師範でも私でも、好きな師匠を選ぶと良い、喜んで工房にお迎えする」
 その場所さえ教えてもらえなかった工房に足を踏み入れる許可までもらい、師匠まで選び放題、凜とルヴィアは本格的に泣き出してしまった。

 それが面白くないクロエは、鍵を開ける能力でロード・エルメロイの弱点に気付き、アンジェリカに話し掛けた。
「ねえ、このライダーのカードがこのオジサンに用があるそうなの、ちょっとインストールしてやって」
「そうなのか? 分かった」
 もうクロエにアンリマユされちゃってるアンジェリカは、戸惑う事なくインストールした。
「インストール」
 相手がロード・エルメロイなので、石化の邪眼を持ち、天馬に跨るライダーではなく、もちろん征服王イスカンダルが出て来た。
「よう、ウェイバー、元気にやっとるか?」
「ああっ、その声は、僕(my)の仕えるべき王様、アレキサンダー・グレイト……」
 早速クロエにアンリマユされちゃって、泣き始めたジジイのウェイバー君。
 Fate世界の住人ならご存知の通り、アラビア語のal(定冠詞)イスカンダルを英語読みするとアレクサンダーで、敬称まで付いてグレートと着けて呼ぶ。
 顔はアンジェリカだったが、ロード・エルメロイをウェイバーと呼び、気安く話し掛けてくるライダーと言えば、この世に一人しかいない。
「老けたなあ、男か女か分からんような小僧だっお前がその年か? 儂は見ての通りだ。何だ? 若い女の体ではないか? これでは女が抱けん、ガッハッハッ」
 いつもの豪放磊落なライダーを見て、笑顔のまま泣き続けるロード・エルメロイも、何か補完されちゃって、王の軍勢に加えて貰おうと思っていた。
「もう置いて行かないで、僕も連れて行って欲しいんだ。あれから魔法も一杯覚えたよ、僕もアレクサンダー・グレイトの王の軍勢、アイオニオン・ヘタイロイの末席にでも加えて欲しいんだ」
 完全に凜とかルヴィア、士郎などのギャラリーは全てアウトオブ眼中、二人だけの愛の世界?を構築して固有結界張っちゃって、補完されてあの世にまで旅立とうとしているウェイバー君。神戸大橋だか冬木大橋で別れた時の任務は果たしたらしい。
 聖地巡礼だと、天井が無い鉄橋が見える方なので、北行きの神戸方面側でギル様と戦って「忠臣大儀である」とお言葉を頂いた後、徒歩でハーバーハイウェイ方面に迷い込んでタラップでも降りたか、標識が読めれば三ノ宮方面に降りて、一階が王将やパチンコ屋、屋上にゴルフの打ちっぱなしがあるビルとか三ノ宮国際ビルの間に出て、スリーナインのエンデングみたいに泣きながら、青春の熱い涙を流して走って帰ったウェイバー。
 ついに自分の主君と再会してしまって、次の機会は今生の間無いであろうから、今すぐ英雄たちが居並ぶアイオニオン・ヘタイロイに参加したいと懇願した。
「お主、女房子供はおらぬのか? おらぬならこの中の誰かと一緒になれ、まだ長い人生、そう急ぐものではない、死んでからゆっくり来い、うちには魔術師はおらんからな、席を開けて待っとるぞ」
「うん、うん……」
 もう泣きすぎて鼻水垂らしてグジュグジュで目も真っ赤、とても40ぐらいのジジイとして見えず、人前でやってはならない失態とかしまくりだったが、ウェイバー君はあの青春の日々に一気に戻されてしまい、クロエに完全にアンリマユされてしまった。

「ではさらばだ、ウェイバー。積もる話もあるだろうが、全部終わってからまたあの世で聞こう」
「うん、ぐすっ、ヒック」
 もう感動の涙が収まらず、死ぬ時が楽しみになってしまったロード・エルメロイ。
 主君からの新たな指令は「この中の誰かと一緒になれ」で、子孫とかも残さないといけないらしい。
「ありがとう、私の主君と再会できる日が来るとは思っていなかった、感謝する」
 ハンカチで涙を拭き、鼻もかんでスッキリしたロード・エルメロイは、疲れた中年のオジサンから、青春の日々を思い出して生気を取り戻し、今生が終われば主君と再会して、王の軍勢に入れて貰える約束までして、命が終わる時が早く来ないか願っていた。
「アレクサンダー・グレイト? 先生のお知り合いですの?」
「ああ、第四次聖杯戦争。私もこの地を踏み、共に戦った仲間、そして別れ際に生涯の忠誠を誓った素晴らしい方だった」
 それはエインズワース方式のカード戦争かも知れなかったが、ライダーとして共にあって青春の最も大切な記憶として、自分の中の一番大事な場所にしまい込んでいた物を生徒にも見られたが、恥ずかしい思い出ではなく、誇るべき物だったので、涙を見せても恥じ入ることなく語った。
「そうだったんですの」
「わが主君からの新しい指令は「この中の誰かと結婚せよ」と言う物だった。君達さえ良ければ誰か我が妻として迎えたい」
 一旦血脈は絶えたが、魔術の名門エルメロイ卿の妻として迎え入れられる名誉を聞いてルヴィアが転んだ。
「先生、わたくしでも宜しければ」
 敵が一人減って、クロエは満面の笑みで喜んだ。
 ロード・エルメロイも綺糺も、悪の根源はこの少女だと気付いたが、調査しても使い方すら分からないカードを用いて、主君との再会の場を提供してくれて、王の軍勢にまで参加を許されてしまったので、ウェイバー君にはアンリマユされたクロエが天使にしか見えなかった。

 まず凛とルヴィアが堕ちて、イギリス行きが決まってしまったが、士郎、桜、アンジェリカは、まだ留学する気などなく、ジュリアンも断って帰ったのでベアトリス、エリカも行かない。
「どうだろう、エミヤ・シロー君、イリヤスフィール君、クロエ君、ミユ君、君たちもぜひ来て欲しい、そして奇跡の瞬間を報告書として書き記して欲しい、そして、できればその魔装置、カレイドステッキの調査にも協力して欲しい」
 異世界の大師範が制作した杖なので、同じ人物が調べれば問題も起こらない。全員イギリス行きが平和で正しい道だった。
「私たちはアインツベルン、たぶんさっき追い払われた連中の親戚なの」
「それは失礼した、ヨーロッパでの話し合いは決裂したが、良ければ呼び戻して話し合いもする」
 ウェイバー君的天使様のお言葉だったので、大陸側のアインツベルンとでも対話すると言ったエルメロイ卿。
「私たちはホムンクルスのママから生まれたホムンクルスハーフ。たぶん無原罪の生き物から聖杯の器を作り出して、英霊を召喚して生贄にして、中身を作るつもりだったんだわ。私もママも、アインツベルンのやり方は好きじゃないし、元いた世界では魔術師殺し(切嗣)に消されたはずよ、爆破とか酷い方法でね」
「そうでしたか、私達はあなた方英雄に対して、人体実験など決してしない、それだけは確約しましょう。我が名と女王陛下の名に懸けて」
 アインツベルンに行くと、間違いなくホムンクルスを製造して、せっかく切嗣が爆破した成果をこちらの世界で再現させてしまう。クロエ的にもアインツベルン行きは断りたかった。
「イリヤ、あんたもイギリス行きなさいよ、お兄ちゃんも行く?」
「え? クロも行くの?」
「いいえ、あたしは元の世界に帰るのよ(お兄ちゃんと暮らすため)」
「じゃ、じゃあ行かない」
 一応「お姉ちゃん」としてクロエを心配してくれているのか、8枚目のアーチャーでもあり、士郎に手渡されたクズカードから英霊エミヤに繋がってしまった、存在しないはずのカードであるクロエ。イリヤの中の聖杯成分でもある少女は、キスでの魔力供給も必要としていたが、聖杯によって現世に受肉しているので、以前のように消え失せる心配はなくなっていた。
「桜二人とアンジェリカ、美遊もお兄ちゃん次第ね、ジュリアンだって、お兄ちゃんのいない学校行っても仕方ないから、何だかんだ言っても付いてくるわね、全部お兄ちゃん次第よ」
「エ?」
 この場で英国行きを決定すると、綺糺から終了のゴングが鳴らされ、第六次聖杯戦争?が終わってしまうが、そんなのは許さないクロエと綺糺は、愉悦を求めた。
「フランスの南とかどう? 温かいし、食べ物だって美味しいわよ。イギリスだとね、マクド(マクドナルド関西呼び)でもマズイって知ってる?」
 硬水なのか、イギリスの土地で収穫された野菜までマズく、パンを作ってもマズい。
 現地留学生の報告では、マクドナルドに緊急避難しても、バンズもパティもレタスもケチャップもマズ過ぎて食べられない物体が出るそうなので、イギリスでも生きていけるのは、毎日フィッシュアンドチップスで生活できるバゼットだけで、日本食に慣れてしまっている士郎、桜、イリヤ、クロエは食べられるものが無くて健康を害して死んでしまう。
 多分、硬水で煮込んだカレーまでマズく、まず日本人が英国で生きて行くには、浄水器とか水軟水化変換装置が必要になる。
「ええ、食堂のメニューは全部、人間が食べられる物は出ないの。どうやればここまで素材のマズさを引き出せるか、競技会でもしてるんだわ」
 日本人の味覚を持っている凜は、イギリスでの地獄の食糧事情を話した。
「わたくしは専用のシェフを連れて行きますわ」
 元の世界から銀か銅でも買って搬入して、換金する手間とか考えていないルヴィア。オーギュストが苦労する。
「確かに、しかし慣れてしまえば……」
 ロード・エルメロイも、日本で生活してカナダ人夫妻の家で日本食を食べてしまい、UKに帰ってから食い物のまずさに泣いたが、生まれ故郷の味なのですぐに慣れてしまった。
 さらに聖杯戦争が縁でエルメロイ家の養子になってからは、美食にも恵まれて、学生食堂では食えない自分も認識し、パッサパサのパンに何も着けずに何か挟んでサンドイッチと称したり、ハギスとか言うマズい物をパンに塗るのも鳴れてしまっていた。
「お兄ちゃん、お客さんもいるし、お昼にしましょうか?」
 カレーの寸胴に残りがあったので、エルメロイのオッサンに、インド、イギリス経由で輸入された麻薬を食べさせるつもりのクロエは、悪魔の笑顔で微笑んだ。
 
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