ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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193部分:魔女その二
魔女その二
「まあ急ぐ必要はあるまい。ゆっくりと進むとしよう」
翌日リデールの前には子供達ではなく敵の大軍がいた。彼は心中密かに喜んだ。
「こうでなくてはな」
リデールの五万の軍は解放軍の敵ではなかった。一戦交えただけで押し潰された。だが退く者、投降する者は一人もなくリデール自身もノィッシュと剣を交え散った。その死に顔は満足気だったと言われている。
炎騎士団の一隊を一蹴した解放軍は余勢を駆って一気にクロノス城を攻めたてた。守備兵の殆どいなかったクロノス城は二刻ともたず落城した。
「畜生忌々しい小僧達だよ。覚えておいでよ」
薄暗く中央を汚水が流れ鼠や小虫が徘徊する下水道を進む数人の一行の中の一人の中年の女が憎しみと怒りの混じった声で呟いた。
長く黒い髪に切れ長の黒い瞳である。雪の様な白い肌に炎の様な紅い唇が映える。スラリとした長身を黒いドレスとマントで包んでいる。年齢から皺こそあるが非常に整った顔立ちをしており気品も漂わせている。しかしそれ以上に妖気にも似た禍々しい邪悪な気を発している。この女こそブルーム王の妃でありイシュトーとイシュタルの母でもある『魔女』ヒルダである。
『魔女』
この名を聞き怯えぬ者はいない。前ヴェルトマー公の妹の子、すなわち皇帝アルヴィスの従妹にあたり血筋から来るその絶大な魔力は有名だった。同時に、いやその魔力以上にその残忍な性質は知られていた。
物心ついた時より子犬や子猫の目や鼻を焼いたり鉄駆使で突いたり殺したり小鳥を切り刻んだりと血生臭い遊びを好んだ。その対象が人間となるのにさほど時間はかからなかった。
些細な事、むしろ明らかに冤罪の者が殆どだった。罪人達がヒルダの前に差し出されると丸い木の棒でゆっくりと串刺しにされ一寸一寸切り刻まれ鉄板の上で焼け死ぬまで踊らされた。その参上をヒルダは飲み食いしながら嬉々として見ていた。
拷問も彼女の好むところであった。専属の拷問吏を雇い入れ昼夜問わず手ずからそれを楽しんだ。周りの者達の中には拷問される囚人を見て思わず嘔吐する者もいた。
皇族であるが故か、その気性と魔力故か、誰も彼女を止められなかった。ユリウスが世に出てからは。それまでは皇帝であり従兄であるアルヴィスや夫ブルームが過度の残虐な行為への歯止めをしていたがユリウスが出てからは彼女の思うがままであった。彼女はレンスターでレイドリック等三悪と組み殺戮の限りを尽くした。そしてそれはこのペルルークでも同じであった。
「誰にも私の楽しみの邪魔はさせないよ。何時までも殺戮と拷問を心ゆくまで楽しんでやるよ」
彼女は言った。その時T字路に出た。右に曲がる。
そこは下水道ではなかった。整然とした地下道であった。
「よし、ここから外へ出ればもう安心だ。さあ行くよ」
周りの者を急かす。目の前に数人の影が現われた。
「叔母様、ここまでです」
「御前は・・・・・・」
ヒルダは目の前に立つ銀の髪の少女をよく知っていた。
「城はもう陥落しました。大人しく降伏して下さい」
ヒルダは投降を勧める姪に毒づいた。
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