真田十勇士
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巻ノ七十八 打たれる手その三
「ことと次第によっては」
「戦になるな」
「そうなるかと」
「よし、では佐和山に戻ればな」
「すぐにですな」
「直江殿に文を書く」
石田は兼続と親交がある、親友同士と言ってもいい程だ。少なくとも彼は兼続程の者が友に選ぶ程の者なのだ。
「そうしてな」
「互いに連絡を取り合い」
「内府に当たるか」
「そうしますか」
「うむ、ではな」
「これで終わらず」
「さらに動こうぞ」
こう話してだ、彼はこれからのことを考えていた。そしてだった。
家康にも面会を求めた、すると家康の家臣達はいささか顔を顰めさせて口々に言った。
「ううむ、城に逃げ込んだだけでなく」
「殿と面会を求められるとは」
「いや、治部殿は図太い」
「肝が座っているべきと言うべきか」
「そうそう出来ぬ」
「それをされるか」
「ははは、そう来ると思っておったわ」
当の家康は笑って言った。
「では会おうぞ」
「そうされますか」
「殿としましては」
「治部殿に会われますか」
「治部殿に応えて」
「そうする、その肝っ玉に感じ入ったわ」
やはり笑って言うのだった。
「ここは会おうぞ」
「ではこちらにです」
「治部殿を案内致します」
「それではな」
こうしてだ、家康は石田と会った。石田はここでも胸を張っている。そのうえで家康に対して言うのだった。
「この度のことまことにかたじけのうございます」
「ははは、それはよい」
家康は石田にも鷹揚に笑って返した。
「こうした時はお互い様じゃ」
「そう言って頂けますか」
「うむ、しかしじゃ」
ここで家康は少し真顔を作って石田に言った。
「御主も近頃周りが危ない、だからな」
「暫くはですな」
「領地で身を慎んではどうじゃ」
「はい、ではその様に」
「その様にせよ、当分大人しくしておれ」
家康はこう言った、だが。石田は笑みを浮かべたがその目は笑っていなかった。そのうえで家康に言ったのだった。
「ではまた」
「また、か」
「お会いしましょうぞ」
「わかった」
家康は内心を隠して石田に応えた。
「ではな」
「その時までご達者で」
「御主もな」
家康は内心を隠したまま石田の言葉に頷いた、そしてそのうえでだった。彼は石田と島に警護をつけさせたうえで佐和山まで送らせた。
だが石田が城を去ってからだ、家臣達に言った。
「あ奴はやはり静かに出来ぬ」
「では、ですな」
「佐和山に引っ込みましたが」
「それでもですな」
「あの方は動かれますな」
「佐和山に入られても」
「おそらくじゃが」
家康は長年の経験から培った読みから述べた。
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