サイカイのやりかた #毎週投稿
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第6章 VS感情
18.祭りも終わり、戦場へ…?
前書き
「17話のあらすじ」
対白雪戦に備え情報収集していたジャンヌが修一とコンタクトを取った。その武士道精神を気に入った修一はその手伝いを引き受ける。理子がなぜか不機嫌な中、作戦の一つを完了させるためジャンヌも加え、三人で祭りへと向かった。
「ガッデム!Nooooooooo!!」
「だって理子ばれたくないし。しょうがないじゃん」
原稿をギリギリで書き終え、6時に病院の前で松葉杖片手に待っていると夾竹桃とジャンヌが現れた。夾竹桃は黒の浴衣に青い帯を巻いたおとなしい色の着物、ジャンヌは白髪と同じ白の着物に緑の帯をつけていた。
俺は思わず鼻血が出ないように鼻を抑えつつ、2人を凝視してしまっていた。そして、そこに後ろから声をかけられた。理子だ。
やばいやばいもう鼻血出る寸前なんですけど!?と思いながらも結局見たさに振り向いて、先ほどの一言だった。
ど、どうして理子が理子じゃないんだああああ!!
理子は倉庫で初めて会った時にしていた変装顔だった。顔は夾竹桃に似ているだろうか。とにかく、おとなしそうな、美人のお姉さん風の顔だった。それに合わせるように、浴衣もおとなしめの色。のくせに「おぃーっすみなさまー!」なんて言ってる。おとなしいのかはっちゃけたいのかどっちなんだこいつ。
確かに理子の言うことはもっともだ。この祭りは武偵高校の側で行われる。知り合いがたくさん来るだろう。今見られるのはマズイはずだ。
だが、だがな!!
「・・見たかった・・!理子の浴衣姿・・!!」
本気で落ち込む俺。だって次の祭りあったとしても7.8月だぞ!?2、3ヶ月先なんだぞ!?楽しみにしてたものをそこまで伸ばされた俺の気持ち理解してくださいよ!もう泣く!泣くから!!
「・・そんなに見たかったの?」
「うん」
素直にコクンと頷く俺。それを見た理子は頬をかきながら
「落ち込まないでよしゅーちゃん。浴衣くらい、いつでも見せに行くって、言ってくれれば!」
「MJK!?」
「まじまじ!」
うおお・・!理子様神様仏様!と思わず崇めようとしてしまった。危ない危ない。これは理子の場をしのぐ言葉のはずだが、俺は忘れんぞ!絶対に見てやるからな!
「・・夫婦漫才はもういいから。行きましょう?揃ったわよ」
夾竹桃がそう言う。俺はそちらに振り返り
「・・無茶苦茶似合ってるな夾竹桃」
「そ。ありがと」
そう、やはり想像していた通り、和風美人の夾竹桃は浴衣姿がどハマりすぎていた。思わず言葉が漏れてしまう。顔も俺のタイプだし、もう恋人になって欲しいくらいだ。しかもこの軽く返すところがまたイイ!!もうドハマり夾竹桃先生!!結婚してくれ!!
なんつってな。無理に決まってるっての。でも夢くらい見せろ。男だしいいだろうが。
「さってと!楽しもうねしゅーちゃん!」
「おう。金はとりあえず大丈夫だ!」
腕を絡めてきた変装理子に俺はドンと胸を張った。夾竹桃から先払いで報酬をもらったんだ。やっぱこいつ無茶苦茶優しい。おかげで祭を思いっきり楽しめそうだ。
なんて
その時の俺は、まだそんな流暢なことを考えていたんだ。
これからの悲劇を、まだ知らなかったから
ーーーーーーー
その地獄への扉は突然開かれた。
「岡崎岡崎!これはなんだ?」
「あ?ああ、それは わなげって言ってな。あのリングを投げて、目標にかけられればその景品が貰えるんだ」
「なるほど、面白そうだな」
祭会場についた俺たちは一つ一つ見て回ることにした。日本に来たばかりのジャンヌは別の場所に行くたびにこれはなんだとワクワクしながら聞いてくる。こいつ作戦忘れてないだろうな。
などと思っていた
その時、
「ジャンヌ!わなげやるんならみんなで勝負しようよ!負けた人は勝った人全員に飯奢り!」
これだ。
そう、これが事件の発端。俺の地獄の、始まりだった。
「ふ、いいだろう!俺はわなげが大の得意分野だ!0円で食べられるなら50円ほどの焼きそばでも美味しくいただく自信がある!」
だが、俺は潤った財布によって、金銭感覚がマヒしていた。
なぜかニヤリと笑う変装理子が、夾竹桃を誘う。
「・・ええ、いいわよ」
そしてなぜか夾竹桃も俺の方を見てそういった。ジャンヌも頷いていたので全員参加だ。なぜか3人の中で2人が無茶苦茶見てくるのだが、気のせいだろう。
そして
物語は冒頭に巻き戻る。
「・・・死ぬ」
俺は手元には福沢さんが一人。・・だがこの福沢さんもすぐにいなくなっていくだろう。アディオス福沢さん。
祭りを楽しむ人々が楽しそうに笑っている。
空にはすでに花火が上がっていた。
きれいな花火だが、今の俺の心には何も響かなかった。
ああ、空に変な色の変な火が飛んでる~などと適当なことまで考えてしまう。
・・俺の横を通った子供連れの母親が俺をチラッと見るが、俺の左足を見てすぐに別の方へと子供ごと視線を変える。松葉杖のことをいちいち聞かれても面倒なのでそれはいい。・・いいのだが、意外と目線を気にしちゃうよね。うん。俺完全に浮いてるしね。
「しゅーちゃーん!今度は射的しよーよー!!カケありで!」
先の方で俺を呼ぶ影が見える。それは俺にとって死を呼ぶ声と同じだ。体がビクッと震え、ゆっくりとそちらに歩き出す。行きたくないという気持ちをぐっと堪え、一歩、また一歩と進んでいく。・・まだ、やるのかよ。
「これは、どうするのだ?」
「ここを引いて、あとは狙いを定めるだけよ」
「そうか。やってみよう」
ジャンヌと夾竹桃の楽しそうな会話が聞こえた。楽しそうですねお二人さん。俺も楽しみたかったよ。などと愚痴をこぼすこともできず、変装理子が俺に銃を渡してくる。
「どれでもいいから落としたら勝ちだよ。今度は負けないように頑張ってねしゅーちゃん!」
「・・くっそ!わーったよお前ら!今度俺が買ったら三人ともおごれよ!焼きそば以外!!」
俺は勢いのまま銃を受け取ると、狙いを定めー
結果はご存知の通り。ベンチに座り、おいしそうに食べるお三方を見て肩を落とす。・・13連敗。すべてカケありで挑んだこの勝負。・・もうヤダ。帰ろうかな。
「しゅーちゃん、しゅーちゃん!」
「・・あ?あむ」
隣から差し出された焼きそばを見た瞬間に食べた。
・・うん、50円50円言ってごめんなさい焼きそば屋さんの人。無茶苦茶おいしいです。
食べた俺を見てふひぃとだらしなく笑う変装理子。おい、その顔でそれはあまりにギャップありすぎて萌えます。やめてください。
「しゅーちゃん負けてばっかで何も食べてないでしょー?もっと食べる?」
「食べる。よこせ」
「はい」
差し出される焼きそばをズルッと食べる。やっべ、うめえよ。無茶苦茶うめえよ・・。なんだよこれ、毎日食べたいよ。この食べ方でお願いします!
「・・じゃあ私のかき氷もあげるわ。抹茶好き?」
と思いながらすすっていると横から差し出されるスプーン。思いっきりかぶりついた。
「おお!抹茶って初めて食ったけどうまいな!抹茶好きかも、もっとくれ」
「はいはい・・くすっ」
「・・・ちっ」
至福だ。確かに焼きそばとかき氷の合わせ技はあまりおいしくない。・・ないが、あれだな。美少女からのあーんをしてもらえるとこうも美味いのか!ビバ!男の夢!楽しすぎる!このために今までのお金が必要なら払います。払いたいです!お願いします!
これで付き合ってくれていたりしたらもう最高で死ねるんだけどな。・・ああ、今日は夢を見まくってるな。無理なことが夢だからな。無理無理。
・・今日の夜に現実と見比べて泣くんですけどね。・・うん、最悪萌えアニメでも見て心を落ち着かせよう。現実との境目に生きよう。・・うん。
「・・日本とは買ってもらった相手に少し渡すのが礼儀なのか?では岡崎、これも食べるか?」
「うむ。そうだ、日本は基本もらったものは近くの男子に渡すのが礼儀だぞ。だからよこすのが基本だ、よこせ」
「「あげなくていいから」」
「ええ・・・」
ジャンヌがまた外人特有の天然を発揮した瞬間、乗ってみたのだが、二人が瞬時にジャンヌの差し出したわたあめを押し戻した。ええ、俺わたあめ好きなんだけど。
「おい、俺もわたあめくれよ」
「しゅーちゃんは貧乏なんだから定価50円の焼きそばを食べてればいいんだよ!!」
「くすくす・・だったら家で食べれるじゃない。今抹茶がおいしく感じたならこのまま抹茶を食べればいいのよ」
「・・おい夾竹桃?さっきからなに?」
「くす。私って、女の子同士なら邪魔しないのだけど、男女の仲ならとても邪魔したくなるみたい。自分でいま気づいたわ。」
「・・このッ!!」
なぜかにらみ始める二人。
理子よ、お前はそんなに50円の焼きそば食べさせたいのかよ。そんなに俺が言ったこと根に持ってるの?めんどくさいやつだな。というか怖いわ。
そっれに対してそれを邪魔する夾竹桃さん、もうマッジ天使!まじ奥さんにしたいタイプよ。愚痴も聞いてくれるし最高すぎるね。
と
「ああ!岡崎 修一!?それに夾竹桃!」
「ん?おお、小っこいアリアじゃん」
「間宮あかりだよ!」
いやそんな「児嶋だよ!」みたいに言われてもな・・
突然現れたのは浴衣姿の間宮と佐々木志乃、火野ライカ、あと眠らせた金髪のちっこいやつだった。たまたま祭りに来ていたようだ。あらら、ここで出会っちまうのかよ。と内心冷や汗をかく。
間宮ではなく
その後ろの金髪二人と、黒髪に。
「よ、よう火野ライカ・・だよな。体は大丈夫か?」
「ああ。まあ・・」
浴衣を着ているから怪我がどうなってるのかわからなかったが、どうやら大丈夫そうだ。よかったよかった。・・のか?
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」
「・・ちょい、その隣の子なんなの?」
火野に抱きついてこちらを睨みつけている少女がいる。密かにその後ろで黒髪女も睨んできているが。たしか、あの時眠らせた・・あー、名前聞いてなかったか・・キリン、だったか?
というか、むっちゃ警戒されてるんですけど・・だからオレEランクだってのに!お前にも勝てる気がしないんだよ!
「あら?間宮あかり、教室ぶりかしらね」
「夾竹桃・・来てたんだ」
あっちはあっちで盛り上がってるな。・・ただ、やっぱギスギスしちゃいますよね・・。そっちはそっちで出来る限り穏便に終わらせてくれよ?こっちもこっちで頑張るから、本気の命のやり取りするからさ!と思いながら火野の方に視線を向けると、黒髪女がいない。・・あ、今度は夾竹桃睨んでる。何がしたいんだあの女?
「ライカお姉さま!ここで合ったが百年目です!この男袋叩きにして海に沈めてやりましょう!」
「怖い事さらっと言うなよ・・目が本気なのがヤだな」
怖いよ。
金髪ちっこいのが俺に敵意むき出しでひどい事を言いやがった。やばいこれまじで海に行っちゃうの?俺抵抗とか無理よ?普通に沈められるよ?
「まて麒麟。あの事件でのことはもういい。あたしが先輩をEランクだからって舐めた結果だ。・・・だけど先輩、聞きたいことがある」
「なんだよ?」
「どうしてあそこまで体術ができているのにEランクなんだ?先輩ならB・・いや、Aだって目指せるはずー」
俺は思わず吹き出す、あ?こいつほんとに何言ってるわけ?
「んなわけ、ありゃお前が接近戦でのみ来てくれたからだよ。あん時遠距離から銃でも撃たれてたらすぐに負けてたさ。Eランクらしくな」
嘘じゃない。遠距離から撃たれたら俺もどうしようもないからな。・・本当、なんでいままである程度の成果出せたのかね?不思議でならないわ。
「そう、なんですか。・・あの、じゃあその足治ったらもう一回組手、してもらえませんか?もう一度、先輩とヤりあってみたいんだ!」
「おいそこをカタカナにするな、変に聞こえちゃうから。恥ずかしくなるから」
R18指定じゃないんだここは!とメタ発言しつつ火野の言葉に頷く。
おそらく今密かに流れている「火野ライカが接近戦でEランクに負けた」っていう話を俺を倒すことでもみ消したいのだろう。
理子がそんなこと言ってたからな。火野としても面白くないだろうし、テキトーに人集めて、ボロボロに負けるとしよう。そうすればこいつも満足するだろうし。俺も楽になるし。
「わかった。この足が治ってからでいいか?そっちの方がお互いにいいだろ?」
足折れたEランク倒すと、あとでいろいろ言われちゃうだろうし。
「ああ!よろしく頼みます!!」
ぱあっと喜んで礼を言ってくる火野。いやいや僕も相手してくれるなんて嬉しい。・・うれしいってば。
なんだろうもうちょっとギスギスした雰囲気になるかと思ったけど、そんなことなかったね。
まあ
「ライカお姉さまが許しても、麒麟は絶対許しませんからね!いつかライカお姉さまに暴力振るったこと後悔させてやりますわよ!!」
若干一名ガチギレなんですけどね。
「あーその、お手柔らかに・・」
「フン!!」
ダメだ聞き耳持ってくれない。顔とか服が理子似だから仲良くしたかったんだけどなぁ。
「岡崎、あと二人も。もう行きましょ。私、嫌われてるみたいだし」
そう思っていると夾竹桃が立ち上がってこちらにやって来た。今までと変わらずの無表情・・じゃないな。ちょっと寂しそうだ。今まで一応一緒にいる時間が多かったからか、なんとなくわかってしまった。こいつユリ好きだもんな。こいつらのこと観察したかったのだろう。
「あれだけのことしたからなぁ・・しょうがないのかもな。ま、それも時間の問題だろ。あいつらが今度困ったときに一緒に解決してやろうぜ。そしたら、友達になれるさ」
「・・・別になんとも思ってないわ」
ちょっと下を向いた夾竹桃。お、意外とビンゴか?
俺は思わずニヤニヤしながら肩を叩いた。
「照れんなっての」
「毒盛るわよ」
「すんません」
一瞬で立場逆転。おねーさん、その右手の手袋とるのは反則ですわ。
そうして俺たちは一年組と別れた。はあ、後輩に好かれたい・・。
「岡崎。日本では祭りで知り合いに合うと決闘の申し込みをしないとダメなのか?」
「そーですそーです。ちゃんと日付と時間を確認の上、ご利用は計画的にね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
花火が打ちあがり始めて15分ほど経った。「たーまやーー!!」と叫びながら変装の顔に似合わず走り回る理子に合わせ「たーまYAAAAAAAAAA!!」と理子以上に楽しみつつ、俺はジャンヌに耳打ちする。
「・・・で?どうなんだよ星伽はいまどこにいるんだ?」
「どうやらかなり遅れてきているようだな。・・この時間なら花火終わってしまう」
「はあ、まじかよ」
遊んでばっかりでもしかして忘れているんじゃと心配になって聞いてみると、ジャンヌはスマホできちんと見ていたようだ。恐らくGPSだろう。・・花火に間に合わないということは・・
「もうここにはこない可能性が高いな。それか別の場所でなにかするとか」
「・・この花火が終わるまで15分音が止んでから止まるとすると・・この辺りだろうか」
ジャンヌがスマホでマップを開きマークした部分は海辺の道だった。まあ場所はどこでもいい。
「なら、俺たちも行こう。間近で見た方が送りやすいだろ?」
「そうだな。そうしよう」
俺は理子を呼んで移動することを伝えた。「えー!?最後まで見ないのーー!?」と駄々をこねていたが必死に頼むとようやく動いてくれた。め、めんどくさい。まあこれは俺の都合に付き合ってもらうんだから仕方ないか。
だが、夾竹桃は文句も言わずついてきてくれた。・・やっぱ夾竹桃いいなぁ。流石俺のタイプ。
そうして俺たちは海辺へとやって来た。
暗くなった海辺から見える光る橋が幻想的な景色を彩っている。
その横に見えるビルの証明もなかなかのもんだ。もしかしたらここで見る予定だったのかもしれない。
ここで花火を見るのもロマンチックで悪くないな。キンジすげー。遅れてこなければもっとよかったのに。
そう思いながら歩いていると、見つけた。キンジと星伽だ。俺たちはこそこそと隠れながら様子を見守る。
「やっぱり星伽白雪の件だったのね」
「ああ。この男が思った以上にやる男だったからな。お願いしたんだ」
「へえ、ジャンヌにそう言わせるなんて、すごいわよ岡崎」
「え?まじ?俺すごい??」
夾竹桃が二人を見ながらそう言った。
俺は思わず聞き返す。なんだろう、夾竹桃から褒められるのって普通に言われるのと違って無茶苦茶嬉しいんだよな。
建前でうまいとか言ってるわけじゃないから余計にだ。夾竹桃先生万歳!結婚してくれ!
「で、これからどーするのしゅーちゃん?2人がいい雰囲気になったら送るってことは・・キスシーン!?うっひょー!理子盛り上がりー!」
理子が騒がしいのでうるさいと文句を言いつつ
「キスシーンで送るのは悪くないな。リア充爆発しろって気持ちがスッキリしそうだ」
大いに同意した。星伽さん遠目から見てもかなり美人だわ。やば羨ましい。というか・・胸デカっ!?あれ見て落とされないキンジなんなの?ホモなの?
などと適当なことを考えつつよし邪魔してやろうという感情しか思っていなかった。俺ゲスいな。
だがいくら待っても2人で海を見てるだけでハグもキスもしない。
くそ、はよせぇ!はよせんかいコラ!
「なあ理子。いつになったらキスすんの?もう待てないんだけど」
と思っていると、キンジが近くの店に走って行った。花火を見ているようだ。なるほど、遅れちまったから小さい花火で代用しようってことか。まあ悪くないが・・それだとまだキスシーンは先になってしまう。
「くふ、あの2人どっちも奥手だからね〜。もしかしたらしないかも」
「おい岡崎。どうする?もう送るか?」
「どう思う夾竹桃?」
「・・あふ。もういいんじゃない、送っても」
「よし送れ」
「わかった」
まだ暗くなってすぐなのにあくびをするマイエンジェル(やっぱ可愛い!惚れそう!)の許可を得て、ジャンヌはメールを送った。というか夾竹桃全然興味なさそうだな。やっぱ百合だけなのか。
そしてメールを確認し、固まる星伽。どんなメールを送ったかはわからないが、明日決闘しようってことは伝えられたようだな。
あとは、明日のトラップを平賀のところに行って適当に・・ああそういやあいつ海外から戻ってきてんのかな。来てなかったらどーしよ。
「どうやら作戦成功のようだな」
「ん。明日は頑張ろうぜ。俺も今から準備するからさ」
明日はまたアリア戦だ。まあ今回は隠れて足止めするだけだから前よりは楽でいいんだが、もう嫌にもなってる。 どうしたもんかね。
と
「いや、それなのだが私1人で問題はない。神崎と遠山の処置も考えてある。岡崎の手伝いはここまでで大丈夫だ」
ジャンヌは即答でそう言ってきた。あり?そうなの?別にいらないの俺?
それから聞いた話だとどうやら様々な罠をジャンヌが設置しているらしい。足止めは確かにいらなそうなくらい前準備が完璧だった。
「まあお前がいらないってんなら俺も行かないけど、本当に大丈夫なのか?漢字読める?倉庫までの行き先わかる?」
「・・?漢字も読めるし、行き先も大丈夫だぞ?どうしてそんなことを聞くんだ?」
いやあんさん祭りのこと何も知らなかったでしょうが、とツッコミたかったが、やめた。本人が大丈夫って言うならそっちも大丈夫なんだろ。多分。
「何もしないのならもう帰らない?私、深夜アニメのために仮眠を取りたいのだけど」
俺の横で目をこすりながら言う夾竹桃(え、なにそれまじ可愛1000%なんですけど!)の言葉に同意して、俺たちは海辺から去って行った。
その後にいいシーンになったということは、チラッとまた見ていた夾竹桃しか知る者はいなかったという。
ーーーーーーーーー
「ところでよ、星伽って強いのか?見た目からしてあんまり強そうには見えなかったけど・・?」
ジャンヌが残りの作業をすると別れて、俺たち3人は帰路につく。
またよくわからんアニメの話をしだす理子、それに乗る夾竹桃の2人をチラッと見ながら気になったことを聞いた。
「無茶苦茶強いよー!星伽候天流の剣術の達人でー戦闘能力はバッリバリに強いよ!」
変装を解いた理子が話し始める。
内容をまとめると星伽は超能力捜査研究科(SSR)のトップらしく、実力はアリアと引けを取らないそうだ。それだけでもマジかよと顔が青ざめてしまう俺なのだが、そもそもSSRについての情報自体あまり知らない。確か超能力を使える可能性のある生徒を管理するだったか。ということは星伽がトップなら、星伽が超能力ってのが使えるってことか。
などと思っていると、理子が説明の締めくくりに、こんなことを言った。
「ーーという感じ、あ、そうそう!前に銃弾を切って避けてたとこも見た人いるんだって!」
「・・いま、なんて?」
「え?だから《《刀で銃弾を切れる》》って・・」
「・・・へえ」
ートクン
一度大きく心臓が音を立てたような感覚が襲う。
弾を切る
それは俺がいま最もやりたいこと、最も獲得したい技術だ。
弾さえ弾ければ、俺の得意な接近戦に持ち込める。いままで負けてきた奴らにも勝てる。そう思うとゾクッとした。
そして、その星伽が明日戦うんだ。『イ・ウー』の剣士、ジャンヌと。ジャンヌも相当な剣の達人だろう。そんな2人の対決を知って、見ないなんて選択肢、俺にはない。
・・無いのだが
「しゅーちゃん、明日は絶対に病室にいないとダメだからね。理子と一緒にお留守番。変なこと考えない」
ジト目で俺に牽制球を投げる理子氏。やりおる。
「わ、わーってるよ。ジャンヌは来るなって断られたしな。行かない行かない」
理子の頭を撫でながらそう言うと満足そうに笑う理子。
「うん、素直なしゅーちゃんは楽でいいね!もうそんな足で危険なとこ行かないでちょ」
「あーいあい。わかってますってば、全て理子さんの言う通りに」
この前の理子の泣き顔がフラッシュバックした。こいつの泣き顔はもう見たくないし、そんな感情出させたくもない。
「あら、じゃあ明日は岡崎空いてるの?じゃあ原稿の残り頼んでもいいかしら?私も近くでやるし。どう?」
眠そうにしていた夾竹桃が、そう言ってきた。確かにジャンヌの依頼がなくなった以上、俺としてもすることはないし。いいだろう。
「わかった。んじゃ、原稿持って来てくれ。あ、報酬は高めで頼むぞ」
「はいはい」
そうして俺たちはそれぞれの家に解散となった。俺はその帰り道の中、また明日のことを考えてしまう。
「刀で弾を切る奴VS『イ・ウー』の剣の達人戦・・か」
ゾクゾクと体を痺れさせるような衝動に駆られてしまう。やはりどうしてもみたくなるのは仕方ないのか。俺の性格じゃ、見ずに終わらせるってのはダメみたいだ。
それからこそっと病室に戻った俺は明日の準備を密かに始めた。理子があれだけ止めに来たんだ。明日も来る。ということは、準備の時間すらあまりもらえないはずだ。今のうちにできる限りの準備を終わらせとこ。
《持ち物
のびーる君 2号 【ターザンできる】
小型銃 【6発】
冷却弾 【水を凍らせる】
》
ーーーーーーーーーーーー
『ね、夾竹桃』
『なに?』
『修一、明日のジャンヌと星伽の対戦、見たがってたよね』
『そうね』
『うん。でもさ、理子的に危ない場所には近づいて欲しくないんだよね。だから明日はアドシアードに誘おっかなって・・・昨日まで、思ってたんだ』
『・・それで?』
『そう、思ってたんだけどね、修一に見たいものを見せないで、理子のワガママだけ聞いてもらうのも、なんか変かなって思っちゃったんだ。
ほら、夾竹桃もだけど祭りにわざわざ付き合ってくれたじゃん?』
『・・まあ、岡崎は結局楽しんでたし、なんとも思ってないとは思うけど』
『・・どうするのが一番いいのか、分かんなくなっちゃった』
『私に判断はできないわ。どっちも良いところと悪いところがあるじゃない、だったら最終的に決めるのは理子と岡崎』
『・・うん、それもそーだよね・・・。・・・・。』
ーーーーーーーーーーーー
アドシアード当日の朝。理子はすぐにやって来た。
まあ予想通りだ。本当は昨日の疲れで休んでてくれた方が移動しやすいが、こいつにそんなことあるわけないか。ないな。ただ
「ね、理子ほぼ毎日来てるけど、ウザく、ない?」
「あ?別に、お前の顔目の保養になるしな」
「なにそれ」
「いいから。変に考えずに暇なら来い」
「あ・・うん」
流石の理子でもそう思う時があるのかと少し驚いたが、本音を返すと嬉しそうにコクンと頷く。正直本当にウザく感じたことはないし、正直暇な時間を無くしてくれる理子には感謝してんだ。邪魔とは思えないな。
ただ
今日はもう少し遅く来てもよかったのに。
どうにかして理子の目を盗んで行かねば。まだ作戦時間には余裕があるが、早めに出て問題は無いだろう。
そう思いながらも、理子のアドシアードの話を聞いているとガラガラと扉の開く音が、
「邪魔するわよ」
夾竹桃だった。原稿を持ってきたらしい。またこのメンツかよ。と心の中でツッコミつつ、招き入れる。
右側に夾竹桃、左側に理子が座り、机での残り作業。せっせと書いている夾竹桃と、お菓子を食べながら携帯をいじる理子を見て俺はため息をついた。
「たくお前らな。こんな日まで律儀に俺のとこ来てんじゃねーよ。今日アドシアードだぞ?軽い模擬店とかあるんだし、楽しんできたらいいものを」
そう、今日はアドシアードという文化祭のようなものが武偵高校で開催されているんだ。普通の学生なら行くはずなのに。こいつら・・。
こいつらはアホみたいに顔がいい。自己紹介のときにモデルさんだよと言っても簡単に信じれるほどに美人だ。なのにそんな奴らが外にも出ずにこんな狭い病室で男1人とだなんてもったいない。・・あり?俺改めて考えるとすげー役得なんじゃ?
などと考えヘラヘラ笑っていると
「何度も言っているけど、私、騒がしいところ嫌いなの。祭りなんて昨日だけで十分よ」
「理子は知り合いに会いたくないしねー!今は隠れる所存であります!」
2人ともそれぞれの意見で行かない意思を表す。本当にもったいないなこいつら、高校時代に青春しとかなきゃもったいないぞ!・・あ、俺もか。
「そ・れ・に〜、理子はしゅーちゃんと一緒にいる時間が、一番好きなんだよ〜♬」
「・・やめい。本気にしちまうだろうが」
理子の冗談を華麗に避ける、ことは出来なかったのでちょっと照れながら理子も巻き込み原稿の作業を始めた。こいつの冗談は本当に洒落にならんて。録音して何度でも聞きたいくらいだわ。・・テープレコーダー買っとこう。あ、金ないんだった。
ーーーーーーーーーー
(・・・そろそろ、かな)
しばらく、無言で筆を使っていた俺は外の景色を見てそう思う。ちょっと体がそわそわと動いてしまっている。理子と夾竹桃には伝えていなかったが、あの決闘が始まるのはあと10分後。俺は胸が高鳴っていた。
そう、ジャンヌVS星伽白雪だ。
昨日散々理子に止められたが、やはり見に行きたいものは見に行きたいのだ。ちょろっとだけ見学したい。だが、
「ふんふふーん♬ほーい夾竹桃できた!もう終わっていいでしょ?」
「そうね、あと3枚お願い」
「ええー!?もう理子疲れたー!」
この2人、いや理子が行かせてはくれないか。さて、どうする。準備は昨日の夜に終わらせているが、理子を外に連れ出して隙を見て逃げるか?いや、こいつからこの足で逃げること自体無理ゲーだ。
と
「んー、理子お腹すいた!アドシアードの模擬店で何か買ってくるよ!しゅーちゃんは昨日のいっぱいお金使ったから理子奢る!何がいい?」
そんな、《《まるで自分から出て行くようなこと》》を理子自身から言ってきた。・・・?
「まじか、じゃあたこ焼きにお好み焼き、あと焼きそば」
「焼きそばは50円だから食べたくないんじゃなかったの?」
「・・意外と美味しかったのあれ。また食べたいです」
「そっか。わかった。夾竹桃はどうする?ついでだし買ってくるよ?」
「そうね。じゃあ私も焼きそば」
「あ、焼きそばなんだ。わかった!理子ひとっ走り行ってくる!あ、しゅーちゃん!絶対に抜け出したりしないでよ!」
「わーってるって」
ーーーーーーーーーー
「・・なあ夾竹桃さん」
「なに?」
「今の理子、すげー不自然だよな」
作戦のことを忘れているわけはない。だが理子は出て行った。俺の多めに頼んだことにもスルーしていた。まさか理子本当に気づいてない?んなわけ。
「・・そうね」
「これって、行ってこいって意味なのかな?」
「さあ、あの子もあの子なりに色々と考えてるんでしょうけど」
夾竹桃は筆を置いてふうと一息ついた。
「で、どうするの?行くの?」
「あったりまえだろ。すげー試合があるのに行かないほうがおかしいね」
「今度は本当に理子に殺されちゃうかもね」
「うぐ・・それは、後から考える。行こうぜ夾竹桃」
「・・私も行くの?」
「俺がもし転けた時とかに誰もいなかったら面倒だろうが。ほら、行くぞ」
「私、あなたの見たいものに興味ないのだけれど」
「うだうだ言うなって、ほれほれ」
「・・はあ、わかったわ」
意外と押しに弱かった夾竹桃は俺の着替えも手伝ってくれた。や、やべ、変なこと考えるけどもし夾竹桃と結婚とかしてたら朝の出勤時にスーツとか着させてくれるってこんな感じなのかな。・・う、羨ましい!死ぬほど羨ましいぞこら!
「ほら、早く袖通して」
「あ、はい」
そう思っていると学生服を持った夾竹桃に急かされてしまった。ああ、幸福だこれ。
夾竹桃の手伝いもあってすぐに準備を終えた俺たちは、松葉杖をつく俺をフォローしてくれる夾竹桃と共に戦場へと向かった。理子にはすまんと思うが、後でお菓子奢るから許してくれよ。
『・・はあ、バカ修一。あとで説教確定』
ーーーーーーーーーー
ジャンヌが決戦の地に選んだのはまた倉庫だった。
なんなんだよ『イ・ウー』のやつらは倉庫が好きなのそうなの?などと思いながら、入り口付近に誰もいないのを確認した後侵入、しばらく夾竹桃を先頭に進んでいるとなにか金属が擦れるような音がしたから聞こえてきた。
「下からすごく大きな水の音が聞こえるわ。・・洪水?」
「洪水ってなんだよ。んなわけ。ここ倉庫だぞ」
夾竹桃がよくわからないことを言っているが俺は構わず進んだ。なんだよ下は洪水って・・なぞなぞ?
それから進んでいると下への階段を見つけた。その先から先ほどの金属の擦れる音が聞こえる。
「この先だな」
「・・確認しておくけど、見るだけよ。アリアがジャンヌの邪魔をしても介入してはダメ。理子からそこだけは言われてるから」
「・・へーい」
今ので理子が完全にこのことを知っていることが分かったのだが、あえて言う気はない。あいつが知らない訳もないとは思っていたけどな。
下の階に降りると、スプリンクラーが作動していた・・のだが、振っていたのは水ではなく、雪だった。思わず驚いて周りを見渡す。部屋一面がまるで冷凍倉庫のように凍っていた。
「ジャンヌね。あの子の超能力は周囲を凍らせるの」
「へえ、あいつ超能力使えたんだな」
そもそも超能力自体見た事ないのでなんとも言えないが。今はそんなこと問題じゃない。それよりも急がなければ、金属音が鳴っているということはあの戦闘はすでに始まっている!
『私の忌み名、本当の名前は緋色の巫女、すなわち緋巫女!!』
近くから声が聞こえた。どうやら会場についたようだ。俺は夾竹桃の手を借りて近くの四角い備蓄庫のような入れ物の上に乗り上げた。すぐ近くにアリアとキンジが前方を見ているのを確認した。本当に離すことに成功してるようだ。
そして、見た。
初めて俺の病室にやって来た時のコスプレ恰好のジャンヌと巫女の服を来た白雪が刀と大剣を混じり合わせているその、光景を。
まだ始まってあまり時間が経っていないようだ。お互いバリバリに動いている。
右に振り下ろされた星伽の刀を振り上げた瞬間に察知したように体を動かすジャンヌ。
さらにそのままくるりと回って片手で持った大剣を横なぶりに振るう。
しかしそれすらも読んでいる星伽も体を動かす。お互いに二手三手先を読み行動するのが接近戦の戦い方だが、こいつらは十手も二十手も読んで攻防を繰り返している。
やはりジャンヌも『イ・ウー』の一員だと実感した。それほどまでに二人の戦いは、一般人の理解をはるかに超えた、想像以上の戦い方だった。
竜攘虎搏 その言葉の意味を本当に理解できる。
「・・すげぇ」
「そうね。理子の言っていた『弾丸を切った』というのもあながち嘘でもないかも」
夾竹桃が隣でふむんと納得している。夾竹桃も二人の対決に見入っているようだ。
俺はその対決をまるで初めておもちゃを見た子供のような感覚で見ていた。
ただじっと、何も考えずその決闘を見る。速すぎて追いつけない部分が多い中、それでも食らいついて見る。・・・3分は持った。そのまま3分は見ていた。
それからはなにか、俺自身も、自分の行動をうまく説明できない。
ただ、先ほどの例えは比喩ではなく、そのままの意味だったようだ。
初めて見たおもちゃを見たら、子供は黙って見ていられるわけがなかった。
ただ無性に、触ってみたい、手で触れてみたい、そして、
自分で、どの程度扱えるのかを、確かめてみたく感じるのだ。
ーープツン
脳の中で何かが切れた。
そう、久しぶりにきたこの感覚、もともとこの気持ちをもう一度味わいたくて来たと言っても過言ではなかった。
ただ、やはりこれまで以上の感覚だった。
俺の中で、爆発的にワクワクしたような感覚が湧き出て来る。
「なかなか白熱しているようね。星伽も予想以上みたいだし、確かに見る価値あるかもね岡崎・・岡崎?」
夾竹桃が話しかけて来る。・・だが、俺はこの時それすら聞いていなかった。いや、聞いている余裕がなかった、
早くしないと、終わってしまう。
俺は右腕に着けた包帯、そして左足についた邪魔なギプスなどを無造作に取り外していく。何重にも巻かれたものを煩わしそうに取っていき、ようやくすべて外すと持っていた松葉杖を一個だけ取り軽く振る。
そしてまだ続いている二人の戦いを見て・・・思わず
「・・・はっ」
笑った。これ以上待てない。
『しゅーちゃん、明日は絶対に病室にいないとダメだからね。理子と一緒にお留守番。変なこと考えない』
昨日言われた言葉。クラクラしている俺の頭の中に、するっと入ってきた。飛び出そうとした俺の体を止める。
「・・・・理子」
キンッ!
俺の耳に金属音が、両者それぞれの気合の入った声が、地面が擦れる音が、俺を再び、あの快楽へと、誘った。
「おれぇ、やっぱちょっと行ってくるわ。お前アリア達な。こっちに来させんなよ」
「行ってくるって・・あ」
戸惑っている夾竹桃を置いて、俺は両足を曲げ、グッと力を込め
飛び出した
「・・・・あっははははは!!やっぱ見に来てせーいかいだった!俺もまーぜーて!」
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