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第6章 VS感情
16 一番いい終わらせ方
前書き
「15話のあらすじ」
理子が、好きになってしまいました
「・・はぁ」
「しゅーちゃん、どうして落ち込んでるの?」
「明日からアドシアードの準備期間だろ。俺、アドシアードにいい思い出ないの」
「ああ、そっかしゅーちゃん彼女いないもんね。年齢=彼女いない歴の残念な人だもんね」
「お前さ、ほんと性格悪ー」
「はい、しゅーちゃん、ポテチ」
「うむ・・うまい。おかわり」
「ほい」
口に突っ込まれたポテチをまるでヤギのように食べる。うーむ、今日はコンソメか。できれば九州しょうゆがよかったな。などと思いつつも結局は美味しいのでもう一つ食べる
そろそろ状況を説明していこうか。
あの下山から約一週間が過ぎている。俺が目を覚ましたのはあれから二日後の午後だった。目を覚ました時に理子が飛びついて来たからよく覚えている。
俺の足のことだが、理子の応急手当のおかげで半月ほどで回復するらしい。聞くところによるとどこかの巫女さんの治療もあったらしい。今度名前聞いてお礼を言いに行こう。
もちろん半月は外出禁止を受けた。まあ実際ジンジンと痛むし、夜に痛くて眠れない時もあるから抜け出す気もないが。
いつも治療してくれるお医者さんが「君はどうしたらそんなに怪我を悪化させて戻ってくるのかね」と困った顔をしていたのをまだ覚えている。どうやら俺はここの問題児として認定されてしまったようだ。
だがそのおかげで俺の真面目な学園生活は終わったのだった。自分の不幸さに気分を落としたものだ。留年は避けられないだろうし、武偵としての将来性がないから勉学を頑張っていたのにこれではもうダメだろう・・なんて最初の三日間ほどは本気で後悔したものだ。
だが、この生活、慣れると案外悪くないのだ。手元には理子が持ってきたゲームがある。暇だから何か貸してくれと頼むと目を輝かせながら様々なゲームを持ってきやがった。最初は暇つぶしにと始めたゲームが
今や、寝る間も惜しんでキャラの強化に勤しんでいた。キャラのレベルを上げダンジョンに突入、クイズに正解すると自分のモンスターが敵モンスターを倒していくゲームなのだが。これが中々に面白い。
しかもここは病院。寝ていないとダメなのだ。なんて素敵な空間だろうか病室。
まあしかし、ゲームをやめて改めて考えるとやはり将来的にはかなりマズイ。就職が困難になる。そしてまたどうしてこうなったんだと考える。俺はEランク高校生として、自分のできることを精一杯やろうってしてたはずなのに。
それもこれも
「あむ。あーやっぱりポテチはコンソメだよねー♡」
この金髪ギャルビッチが余計な依頼を次から次へと持ってくるからだ。こいつと出会ってから生傷しか増えない。
当の本人は、ほぼ毎日ここを訪れては目の前で菓子をバリボリ食い部屋を汚くして帰って行きやがる。その間に色んな話をしてくれるからこちらとしては来てくれることは嬉しいのだが。・・本当に暇なのか?
「ポロポロこぼすなよ、俺が怒られるんだからな。というかポテチは九州しょうゆが一番なんだよ金髪ギャル。そろそろ持ってきやがれ」
そう言いいながら顔を理子に近づけた。
「とか言いながら口開けてるじゃん、ほい」
「ん。コンソメがマズイとは言ってないだろ」
個人的な感想だが、入院中の飯はどうも美味しくない。今日の朝飯も魚とおかゆのようなご飯、味噌汁、ヤクルトだった。全部食べたが満腹にはならなかった。ちなみにヤクルトは理子が毎回グビッと飲み干し腰に手を当て「ぷはぁー」なんて言ってやがる。おっさんか。
「というかさ、しゅーちゃん九州しょうゆってなに?そんな名前のポテチあるの?」
「あ?お前知らないの・・ってああそうか。あれ九州限定なんだ。ああ〜だから『九州』しょうゆ味なのね。なるへそ」
「ちょっと、自分だけ理解し出さないでさ、理子にも教えて?」
理子に九州しょうゆの良さを1から説明してやった。もともとは長崎出身だから九州しょうゆがコンビニにあったりするのが当たり前だったからこその盲点だった。その話間理子は楽しそうに頷いたり、「へー」だの「すごいすごい」だの相槌を打ってくれる。それは全く問題ないのだが。
やっぱなんか違う・・よな?
あの下山後からなにか違和感があるのだ。
なんというか理子が理子じゃないような?いや、逆にこれが本当の素の理子なのか?どこが変わったと聞かれて答えることは出来ないのだが、それでもなにか違う気がする。雰囲気というか、表情というか。そう、表情が少し柔らかくなったようにも感じた。
いつもは世間に振る舞うような、アルバイトでやる営業スマイルのような雰囲気の笑い方だったのに、今ではそんなことはない。本当に楽しそうに聞いてやがる。・・一体どーしたんだろう。何かあったのか?
いい方向に変わったから気にすることではないのか?
「あ、ほいしゅーちゃん、最後のポテチ」
「さんきゅ」
理子が袋から小さいポテチを取り出すと俺の口に持ってこようーーとして
・・・サッ
「おい、なに小学生みたいなイタズラしてんだよ」
理子は俺が口を閉じる前に手を自分の元へ戻した。もちろんポテチは俺の口には入っていない。まだ理子の手の中だ。こいつ・・
そう思って理子の顔を見ると、イタズラ成功のようなニヤニヤした顔ーー
ではなく、その小さなポテチと俺の顔をチラチラと何度も交互に見ている。そして、おお!と閃いた顔をした。
・・?
「どうした?そんなに食いたいなら食って良いぞ」
「くふ。ねー、しゅーちゃん?最後の一つだし、ちょーっと理子がドキドキでワクワクな食べさせ方してあげる〜!くふふ、なんだかんだしゅーちゃんはやることやってくれたし、そのお礼ってことでさ、ほい」
そう言いながらなぜかその小さなポテチを自分の口に咥えた理子。ん、お、おいまさか
グイ
「お、お前マジか!?」
「・・・んーしゅーちゃん早くぅ〜」
なぜか、理子は小さいのにそれを一口で食べず、ちょっとだけ歯で咥えたままこちらに顔を近づけてきた。・・やっぱこれ、あれか
ポッキーゲーム、的な?お礼でぽ、ポッキーゲーム・・お互いが両端から食べていくやつ
な、なにぃ!?
俺は驚いて何度も状況を確かめる。
そう、確かめた、全力で
《ここはとある病院の一室
いるのは俺と理子の二人だけ
ここ一週間誰も理子以外、あまり人の出入りはない、よって人に見られる心配は皆無
目の前には口にポテチを加えてこちらに顔を近づけた理子
これを食べようとすれば、理子との距離がおそらく5cmほどになるだろう
理子の容姿は美女と呼べるほど可愛い。断る理由なんてない。
理子はイタズラ好きだからもしかしたらからかっている可能性もある
だが、逆に本気の可能性だって否定できない
あざとさ100% やはりからかってるんじゃないだろうか
それともギャルの世界ならこんなこと日常茶飯事なのか
もし仮に実行して、唇が触れたりしたらもうこいつと仲良くできなくなるかもしれない
だが、逆にこれで理子と付き合えるなんてことになればハッピー通り越して死んでも良い。こんな美人と付き合えるとか嬉しすぎる
しかし、それはない。はなっから期待していない。そんなことは、そんなことわああああ
》
だ、ダメだった。倉庫での一戦も、高千穂との対決でも解決策を見つけれた俺の記憶が、今は全く機能を果たしていなかった。頭の中がパニックになる。
しかし、答えは一つだ。確認する必要なんて実はない。内心では確定していた。
よし、やろう。後のことは、しらん!
俺は意を決して理子の顔に近づく。ギシッとベットが音を立てた。目の前には目をつむった理子。少し理子の顔も紅くなっている気がする。や、やべぇ、本気でクラクラしてきた。なんでこういう時だけ理子のいい匂いを意識しちゃうの俺氏。
走ってもいないのに心拍数が速い。もう少ししたら息切れしそうだ。
「・・・」
「・・・・ん」
少しずつ距離を近づける。そしてその小さなポテチを咥えようと口を開けーーーー
「あ、あむ」
ようとしたとき、理子はそのポテチを全部食べてしまった。お互い近距離で見つめ合う。
「・・うおい」
「あっはは!しゅーちゃん!だーまさーれたー!!くふ、ドキドキした!?ねえ、ドキドキした!?」
理子は笑いながら席を立ちくるくると回り始める。このやろう、やっぱからかってたな。くそう、惜しかった。
「うむ。初キスが理子になるのかって期待した」
「くふ。しゅーちゃん理子と初キスしたいのー!?ダメだよ〜理子セコイ人は無理だってば〜!」
「知ってたけど男だからしょうがないんだよ」
「なんでそこでドヤ顔するのか理子よくわかんない」
「男ってのはそういうもんだ。女の誘いは基本断れないんだよ」
「くふ、そっかそっかぁ!じゃあ続きは本当の彼女さんが出来たらしてもらおう!ま、出来るわけないけど〜!」
「ばっか。お前俺のこと甘く見過ぎよ?俺が本気を出せば女の一人や二人簡単にーーーいたたた!?」
俺の演説を聞かず、理子は俺の頬を思いっきり引っ張ってきた。な、なんで!?
「おい修一。もしかしてお前、彼女っぽいくらいまでに仲の良いやつがいるの?えぇ?ん?」
や、ヤバイ。理子さんなんで怒ってるの?顔は笑っているがその奥の目が全く笑っていない。なんだ、俺はどこで地雷を踏んだ??
俺は意味がわからず戸惑いながらも首を横に振った。
「だ、だから前にも言ったろ。俺はEランクとして馬鹿にされてばっかで仲良くしてくれる女どころか男友達すらいなかったって。それくらい仲良いのはお前くらいだっつの」
「・・ふーん、そっか。じゃーいいや。しゅーちゃん、理子、お菓子なくなったし帰るね。また来るから〜」
「え、あ、おう。・・行っちまった。ふう、本気でドキドキした」
まあ、最初からあんな美人に本気で期待する方がおかしいのかもしれない。
俺は火照った顔を冷やすためにペットボトルを額に乗せた。
その夜、あの目を閉じた理子の顔が目を瞑るたびに出てきて、あまり寝ることができなかった。ーーー今度来たら本気でキレてやる。最悪本気でポッキーゲームだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
Riko side
(・・・にゅ、にゅやああああああああ!?!)
私は病室を出て思いっきり頭を抱えた。思わずどこかの黄色い先生のように叫んでしまう。近くの壁に寄って、周りも気にせずブンブンと頭を振る。私の顔は自分でもわかるくらいにニヤついている。デレデレとしてしまっている自分が、自分でないようだ。
心の中では素直になっていた。ポッキーゲームを思い出してしまう。
(恥ずかかった!恥ずかしかった!恥ずかしかった!な、なにあれ!?キンジにも同じことしたのに感覚全然違う!!修一が近づいてきた時は本当に、本当にやばかった!思わず理子から前に行っちゃうとこだったよ危ない!!)
キャー!
1人で盛り上がる私。
とっさの思いつきだったが、こんなサブイベントで初キスを終わらせていいのかと思ってポテチを食べたが、今ちょっと後悔している。サブイベントでもいいからキス、してみたかったかも。キ・・キスか、修一と、キス・・・うへへ
近くを通る老人や看護師さんがこっちを見て怪訝そうな顔をしている。でもそんなことも気にしてられない。
これが恋・・すごい、本当に理子が理子じゃない。男を惚れさせるなんて簡単なことのはずなのに・・簡単だった、はずなのにぃ!
『ダメだよ〜理子セコイ人は無理だってば〜!』
(はぁ・・訳分からなくなってまたダメって言っちゃった・・あれじゃ修一から告白なんてしてこなくなるじゃん・・うう、私のバカ)
ズーン・・と壁に頭を預けて落ち込むあたし。周囲の人が本当にどうしたとこちらを立ち止まって見ていることすら、今の私には関係ないことだった。
『俺はEランクとして馬鹿にされてばっかで仲良くしてくれる女どころか男友達すらいなかったって。それくらい仲良いのはお前くらいだっつの』
「ふへ、ふへへへへ・・・」
思いだしてだらしなく笑ってしまう。自分の頬をプ二プ二と持ち上げいじる。そっかぁ、私って彼女っぽいくらいまでに仲の良いやつなんだぁ、しかも、私だけ・・・『だけ』・・ふへへ・・。
そして
(また聞けなかったなぁ、修一の好きなもの)
また落ち込み座り込む。
実は修一が起きてから五日間、ほとんど行っているにも関わらず、修一の好みを知ることが出来ていないのだ。好きな食べ物とか行きたい場所とか好きな本とかアニメとかゲームとか。
「しゅーちゃんなにが好きなの?」の言葉がどうしても出せない。何度か聞こうとしたが、口が思った以上に重かった。
こんなこと、今まで一度もなかったのに。
周りがガヤガヤとうるさいがそんなこと気にしてすらいなかった。
「もしかして彼氏にフラれたとかかの?」とか「それかお亡くなりになったとかですかね・・」なんて声も聞こえてくるがどうでもいい。
そんなことより、実は、今日は一つだけ、収穫があった。
『ポテチは九州しょうゆが一番なんだよ金髪ギャル。そろそろ持ってきやがれ』
修一は九州しょうゆが好き。たったそれだけのことなのに凄く嬉しい。好きな人のことなら何でも知りたくなるというのは漫画だけの世界と思っていたがそんなことなかった。なんならお気に入りのノートに書いてもいいくらいだ。
「・・とりあえず、九州しょうゆ、探そっかな」
「「!?!?」」
そう思い立ち上がる。パソコンのある自分の自室へと向かおうと歩き始める。
「お、おじょうさん!彼氏さんのことは残念じゃと思うが、じ、自殺はやめるべきじゃよ!」
「・・は?」
その後、なぜか私は看護師に連れて行かれ、自殺することのデメリットについて色々と言われてしまった。・・意味がわからない。どうして?
解放されたのは、日が暮れたころだった。いや、なぜ?
{#醤油は一気飲みすると昏睡状態、最悪死んでしまいます。お気をつけください}
ーーーーーーーーーーーーー
「・・で、なんで俺はこんなことさせられてんのよ?」
「あなたが暇だって私に電話してきたんじゃない。忙しい時に来てあげたんだから感謝してほしいくらいよ」
次の日。俺はなぜかペンを持ち紙に描かれた絵のコマの白い部分を黒く塗りつぶす作業をさせられていた。一つ一つ塗るのがかなり面倒くさい。が、目の前の和風美人の鋭い目が俺の手を休ませることはなかった。
夾竹桃である。
朝から昼まで、理子来るのかなと待っていたが、LINEで今日は来ないと伝えてきた。正直いつも二人でいた場所に一人でいるのはかなり寂しい。先ほどまではゲームで気を紛らわせていたが、やはり寂しさに勝てなかった。どうしたというのだ俺は。1年時には1人でいるのが当たり前だったから全然寂しくなかったのに。
あの金髪ギャル。後で文句言ってやる。
ということで誰かを呼び出そうと携帯で検索(というほど登録数はないが)。
アリアは戦姉妹の間宮あかりが来そうで誘えない。あいつらとは夾竹桃の事件以降会ってないから出来ればこのまま会わずに武偵高校を卒業したいものだ。
キンジは連絡交換はしたものの、まだあまり会話という会話をした覚えがない。入学式にちょっとくらいだし、暇だから来てとは言えるほどではなかった。
平賀は大手企業との取引でかなり前から海外に行っているらしい。まああいつが来るとまた金が飛ぶし、仮に武偵高いても呼ぶかは悩むだろうが。
よって、最終的に俺の中のマドンナ。ザ・俺の好みドストライク美少女夾竹桃をここに召喚することに成功したのだった。
夾竹桃はあの事件を起こした後、司法取引により学園での自由な行動が許されるようになったと理子から聞いた。だからこそ、その顔を見ることによる癒しと理子の愚痴を聞いてもらおうと召喚したのに。
なぜか俺は同人誌制作のお手伝いをしていたのだった。
夾竹桃が「女の子が一度は夢見る世界よ」といって見せてきたが、女と女の恋愛本のようだ。それもちょっと過激なやつだった。お前、やっぱ百合なの?と聞いたが違うらしい。
にしてもこいつ、よくこれを俺に見せられるな。気を許してくれてるのかと最初は喜んだものだが、逆に考えると男として見られていないとも取れる。・・後者だな、と確定して言えるのが少し寂しい。
ただまあ、なんにせよ、呼んだら来てくれるほどには仲が良くなったということに俺は満足していた。
「・・・」
「・・・・」
お互い無言でペンをただ走らせる。話すこともなく、ただ黙々と。しかし、居心地が悪いとも、気を使って話しかけないととも思わなかった。いつもうるさいのが隣にいるからだろうか。こういうのも悪くない。それに
「なあ夾竹桃」
「なに?」
話しかければちゃんと返してくれるしな。それなら全く問題ない。
「お前さ、オムライスにかけるならケチャップ?ソース?」
「・・ケチャップ」
こんなどうでもいい会話にも返してくれる。夾竹桃はいい奴だ。書きながらだが、そこも全く問題ない。
「まじかよ。普通ソースだろ」
「卵の黄色に黒のソースは見栄え悪いじゃない」
「食えれば一緒だろ。それにケチャップはチキンライスに入ってるじゃん、わざわざ上にかけんでも」
「・・それもそうね」
「な、だろ!?」
「でもだからってソースはかけないわ。食べれば一緒ってところには同意しないわよ」
「な、なんと!?」
これが男女の違いというやつだろうか。見栄えなんて気にしたことないぞ。うまければそれでいいのだ。・・そういやリサもソースかける俺を変な目で見てたな。・・俺がおかしいのか?
と思っていると、夾竹桃は書いていたペンを置くと、机の上にあった、俺の飲み干したヤクルトの容器に、自分の持ってきたお茶を注ぎ入れる。
ヤクルトの容器が緑色の液体(緑茶)で染まる。・・うぇ
「これ、ただのお茶だけど、飲みたい?」
「い、いやあまり・・」
「どうして?ヤクルトの容器だけど、飲めば一緒よ?」
「・・うう」
確かに言う通りただのお茶、なのだが、ヤクルトが緑色になっているような感覚で、ちょっと飲みにくい。
夾竹桃はほらね、と続けた。
「見栄え、大事でしょ?」
「無茶苦茶大事ですね」
見事に論破されてしまった。お互いに何の得もない対話なのに、なぜかくやしい。く、くそう。
夾竹桃は満足したように頷くと、さらに俺の方に紙を渡してきた。
「じゃあ、作業お願いね。まだまだあるから、頑張って」
「くうう・・・了解」
それからしばらく、またお互い無言で作業をする。しかしこれ、面倒くさいが慣れてくると面白いな。やり方のコツとか、クセとかわかるとだんだんと作業効率も上がってくる。
まあ
「まだまだね。ここ、はみ出てる」
「おま、これくらいいいだろ?細けぇな」
「いいから、直しなさい」
「へーへー」
夾竹桃先生の評価はかなり厳しい。少しのミスも逃さない。妥協を許さないところはとても、共感できる。こいつも、努力してるんだなと感じた。しかも
「ここいいじゃない。上手くなったわよ」
「お、まじ!?やった」
別に俺が素人だから全て否定してくるわけではない。ちゃんとうまくできた部分には気づいてくれる。
これ、夾竹桃先生にハマるかもしれない。
そうやって同人誌制作の楽しさを理解し始めたとき、夾竹桃がそういえばと話し始めた
「あなた、私のタンスから持って行ったアレ、使かったの?」
「ああ、いや。まだあるぜ。返そうか?」
夾竹桃には飛行機強奪時、あるものを借りていたのだが、GBとの戦いもなかったので結局使わなかったのだ。
「いいわ別に。それ、使うなら持ってていいわよ」
「お、サンクス」
貰えるものはもらっておく主義だ。貧乏タダに弱し。まあタダより高いものはないとも言うがな。だから
「で?俺はなにしたらいいんだ」
もちろんやることはやる。借りたか後で言われたら面倒だ。
「時々同人誌作業手伝ってくれればいいわ。ちゃんと報酬も払うし。どうかしら?」
「おお。いいぜ。お前の手伝い楽しいし、理子のより危険ないし、喜んでやるわ」
「ああ理子ね・・今回はかなり重症みたいだけど」
「そーなの、まじ勘弁してほしーの!聞いてくれる俺の苦労!」
「くす、まあ作業しながら聞いてあげる」
夾竹桃は楽しそうに笑いながらそう言ってくれた。こいつ奥さんにしたら、一日中愚痴聞いてくれるかもな。・・すげえうやらましいなそいつ。変わってくれ頼むから。
結局、夾竹桃は夜遅くまで俺の病室で作業していた。
「じゃあ、あとベタ塗りだけよろしくね。また二日後に取りにくるわ」
「ああ、おやすみ、夾竹桃」
「ええ」
俺は終わらなかった絵を眺め、思う。・・同人誌制作、辛い。
いくら塗っても終わらない同人誌の闇を実感しつつ、俺は作業を再開した。
ーーーーーーーーーーー
「ねえーしゅーちゃーん。お話ししよーよ」
「俺今超忙しい!」
あれから二日経ち、俺は焦っていた。手元には丁寧に塗らないとやり直しの紙が数枚と、手汗でベタベタになった筆だ。
お、終わらないんだがベタ塗り。な、なにこれすげー時間かかるんだけど。二日って聞き間違いじゃないのか、あと二日くれ!
などと、言っても夾竹桃は聞き耳持たずだ。今日の夜までに終わらせないとなにされるかわかったものじゃない。
「ねーねー、しゅーちゃーん」
「ちょ、理子本当すまん、本当に今余裕ねー!!」
焦りつつ丁寧になど俺の最も不得意とする分野だ。やばい、やばい!
「理子がいないからって夾竹桃呼ぶからだよ〜。なんで呼ぶかな〜バカ修一」
なぜか棘のある言い方で俺の頬を突いてくる理子。お前がいなくて寂しかった、なんて言えない。恥ずいし。
「いいから理子も手伝ってくれよ。夾竹桃に聞いたぞ、お前もこれ時々手伝ってんだろ?」
「えーべっつにー理子、夾竹桃に頼まれてないしー。修一のお願い聞いてもなー」
ぶすっと頬を膨らませて(あざと可愛い)そういう理子。・・ほんと、何にキレてるんだ?
「・・さっきからどうしたの理子。なんか不機嫌じゃね?」
「・・・・ふん、修一が悪いんだよ、バカ修一が」
なにかモゴモゴ言っていたがよく聞こえなかった。
その後ううううと唸っている。
「あーもー!わかったよ!それ終わったらお喋りできるんでしょ!?だったら手伝ってあげる!」
そう言って残った紙から一枚取って筆を持ち、書き始めてくれた。
「おお、助かるぜ理子!俺お前大好きだわ!」
「ブフッ!?・・ゴホッ・・ゴホッ!!」
水も飲んでないのになぜかむせる理子。どうした?
「・・・うん、理子も、好きだよ」
「だよな!俺たち運命共同体だせ。間に合わなかったら一緒に夾竹桃に怒られろよ」
「くっそ!やっぱ修一最低!!」
ノリに乗ったつもりだったのになぜか殴られてしまった。な、なぜ!?
理子の助けもあって終わるかもと安心したそのとき
「・・っ!修一!そこのロッカー、借りるぞ!!」
突然顔を上げた理子が入り口の方を見て、そのまま、服などを入れているロッカーの中に隠れて行った。・・?どしたの?
「おい理子、手伝ってくれるんじゃー」
コンコン
「入るわよ、修一」
ノックと共に、2人の人物が入ってきた。
ああ、なるほど、だから隠れたのね。
「怪我の調子はどう?修一」
「まあなんとか大丈夫だ。キンジもサンキュな」
「ああ。切断寸前だったんだって?危なかったな」
アリアとキンジが見舞いに来てくれた。まさかアリアから来てくれるとは思わなかったが、嬉しいな。さりげなく間宮あかりがいないか確認する。よし、いない。
「あんたに花持って行こうと思ったけどこっちの方がいいと思って、ここに置いとくわね」
「お、よくわかってるじゃんアリア。さんくす」
アリアは持ってきた果物を机に置く。花なんて貰ってもよくわからんしな。果物なら栄養摂取が出来るし嬉しい。
「思った以上に元気そうでよかったわ。あら、これってマンガ?」
「同人誌ってやつだ。知り合いの手伝いしててな。あんま過激だから見ないほうがいいぞ」
「ふーん・・・な、ななななっ!?!?」
机の上に置いてあったページをジーッと見て、そのあとそのページを持って顔を紅くしながらまたじーっと見ていた。そこは確か女の子同士のキスシーンじゃなかったか?
ああ、こいつこういうのじっと見るタイプなのね。
その様子をニヤニヤ見ていると、キンジが俺をじっと見ていることに気づいた。・・ま、まさかこいつ俺のこと狙って・・!?
なんてな
「なあアリア」
「にゃ、にゃによ!?」
いや、過激だからってそこまで動転しなくても・・まあいい。
「ちょっとキンジと2人きりにしてくんないか?話したいことがあってよ」
「・・それ、あたしがいたらダメなの?」
「アリア。俺からも頼む。岡崎と話をさせてくれ」
キンジのお願いもあってアリアは部屋を出て行った。さてキンジがなにを言うかは、まあなんとなくわかってるが
「で、なんだよ?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。飛行機強奪事件のことだ」
・・やっぱり。
「お前と理子はどういう関係なんだ。理子が逃げ出す瞬間、お前に謝るように言うし、お前まであの飛行機に乗ってるし。偶然とは言わないよな」
「・・・」
まあそうだよな。こいつは俺が理子と協力していると疑ってくることは前々からわかっていたことだし。分かってはいたが・・
対策は、ない。お手上げだ。
「俺と理子は協力関係だ。武偵殺しの手伝いをしていた。目的は金。金欲しさに犯罪犯した訳だ」
「お前、クズだな」
「ま、否定はしねーよ。だけど、それを知ってどーするんだ?アリアを病室から出したってことは、まだアリアには言ってないんだろ?今から伝えて俺を尋問でもするか?」
キンジがただ黙ってこちらを見ていた。兄を殺したかもしれない理子を追いたいだろうし、まあ妥当だろうな。
「いや、この問題は俺と理子の問題だ。・・知ってるのか?理子の居場所」
「悪いが、知ってても教えねーよ。理子は大事なダチだ。武偵殺しをしてるのも、絶対になにか理由がある。それを知って俺が判断できるようになるまでは理子だけを悪者にするのは許さない」
キンジの性格をあまり理解していないからこそ、理子を渡す訳にはいかなかった。
もし仮にこいつが、目的だけを達成できればいいようなクズだったら。理子のためにも、絶対に吐くわけにはいかない。
「・・いまここでお前の足を潰すと言ってもか?」
「俺の足程度でお前の気が済むならな」
ただ無言でにらみ合う俺とキンジ。キンジは目線を俺の折れた足に向ける。
そして、腕を振り上げた。
「3秒後に振り下ろす。それまでに言えば、俺はなにもしない。飛行機でお前に会ったことも全て忘れる」
「・・・」
俺は額の汗をぬぐいながらチラッとロッカーを見た。
理子ーー絶対にーー
ーーーーーーーーーーーー
Riko side
心臓がバクバクする隠れているのに呼吸を落ち着かせることができない。ロッカーの隙間から様子を見ているのだが2人の行動がおかしい。
修一、なに言ってるの!?それ以上ダメージを受けたらマズイことくらい自分でわかってるのに!
キンジもどうしてそんなことを、あいつの性格上、脅しではあると思うが。キンジの目が冷たく見える。まるで武偵殺しとしてアリアのママを捕まえさせたときの私みたいな・・
内心で焦る。私が、私がここから出て、キンジに本当のことを言えばそれで解決する!お兄さんは生きてるって、私から言っても信用してもらえないかもしれないが、修一がこれ以上傷つくより何倍もマシだ。
取っ手に手を伸ばし開けようとした
(・・え?)
その時、
修一が汗を拭う素振りをしながら、こちらをギロッと睨んできた。
『絶対に開けるな!!』
そう目が言っている。
修一の命令で私の手がまた元の位置に戻った・・どうして?どうして修一はそこまでーー
『3』
キンジの目がただ敵を見つめるような冷たい目をしている。・・アリア、アリアはなにをしている!?戻ってきてキンジを止めろ!!
『2』
キンジが右手をさらに振り上げた。
や、やだやだやだやだ!修一がこれ以上に傷つくのを見るのは嫌だ!あの山で誓ったんだ!これ以上、修一に怪我させないって、誓ったのに、どうしてあたしの手は震えて動けないの!?
修一の命令を聞かずにあたしの命令を訊けよ!!や、やめてキンジ!やめて!
『1ーー』
静かな病室に
ゴキッッ!!!
骨の砕ける音が響いた。
まるで私の心臓が止まったかのように呼吸がうまくできない。喉奥から押し殺す悲鳴のような言葉が響いた。
そして
『ぐ、ぐうううううううううっっっっ!?!?』
修一の呻くような、叫びを押し殺すような悲鳴が聞こえる。
目から涙が次々とこぼれ落ちる。
その光景は、もう2度と見たくないと思ったのに、もう2度と、あんな顔をしてほしくないと思ったのに、どうして・・・!!
どうして、自分で自分の足を殴ったの!?修一!!
折れた足に振り下ろされた拳は間違いなく、岡崎修一の拳だった。
『なっ!?お、おい岡崎!!なにやってんだよ!?』
やはり振り下ろすというのは脅しだったようで、キンジですら素に戻って慌てて近づいて心配している。
近づいてきたキンジの肩を岡崎は力強く掴んだ。
『いいかキンジ、よく聞け!そして落ち着いて、落ち着いて考えろ。兄を殺した事件を起こしたのが武偵殺しの理子だったとしても、その裏で理子に命令して殺させた黒幕がいる!
黒幕は理子じゃない!
理子の裏にいる誰かだ!だから焦るんじゃねえ!!理子だけを捕まえるのを目標にして、バカみたいにチャンスを殺すな!!』
キンジの肩を強くつかみ、必死に説得する修一。
その言葉を聞いてようやく理解できた。
修一は理子のことを、
本気で、信頼してくれているんだ、と。
前から思っていた。理子の過去について何も聞いてこないのはなぜか。
どうして修一は全く聞いてこなかったのか。それが、いまなら理解できる。
修一は、私のことを本気で信頼してくれている。だから私から話してくれるまでずっと待って、待ちながら心配して、信頼してくれていたんだ。
自然と、私の目から涙がこぼれる。鼻水が流れても気にしなかった。下唇を強く噛んで、声を押し殺し泣く。
そしてもう一つ、気づいた。
修一は
キンジすらも救おうとしているんだ。
キンジは見るからに焦っている。私が彼の兄を殺したと思っているから、自分のHSSという才能に任せて、全てを壊そうとしていた。それが最も危険な行為であることを、修一は知っている。
だからこそ
自分を犠牲にしてまで、気づかせたんだ。
でも、そんなの結果論だ!大バカ過ぎるよ修一!!
キンジもこの説得には堪えたようで目を見開いた。
『・・岡崎、すまん!俺が焦ったばっかりに、本当に悪い!!いまナースコール押すから!』
『しゅ、修一!?ど、どうしたのよ!?ねぇキンジ、何があったの!?』
『いまはそんなことより岡崎だ!手伝えアリア!』
ようやく入ってきたアリアに手伝わせ、痛みで苦しむ修一のケアをしていた。
それから医者が来て治療し終えるまで1時間、あたしはロッカーの中で自分のパニックになった感情、溢れ流れる涙を抑えることが出来ず、ずっとその光景を見続けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
Riko side2
『じゃあ、あたし達帰るわね』
『・・ほんと、悪かったな岡崎。俺お前のこと誤解してたみたいだ。これから理子とその裏の奴を探すことにする。情報はお前にちゃんと伝えるから安心してくれ』
『おう、気にすんな』
2人はそれぞれそう言って去って行った。修一もようやく落ち着いたようで天井をじっと見ていた。
「修一・・・!!」
「おお、理子。よかったな、バレなくてよ〜。いやーお前が開けないかって焦った焦った」
「バカ!なんであんなこと!キンジだって本当に振り下ろす気なんて!」
「ま、なかっただろうな。あいつの謝ってるとこ見たらいい奴ってのは分かった」
「だからって・・」
「だからこそだよ。キンジも悪いやつじゃないし、理子だってそうだし。そいつらが争うってのもおかしな話だろ?だったらこれが、一番いい終わらせ方ってことだ。いやーうまくいってよかったよかった」
一番いい終わらせ方。修一から見るとこれが一番いい終わらせ方だったのだろう。確かに誰も傷つかず、誰も何も失っていない。だけど、
「やめて、よ」
それは、修一を除いた『誰も』だ!そんなこと、私は望んじゃいない!
私は流れる涙を拭くこともせず修一にしがみついた。
「やめてよ、修一!もう自分は傷つけてもいいっていう考えは、やだ!もう、修一の傷つくのは見たくっ、見たくないよぉ!!」
修一は驚いた顔をしたが、頬を軽くかいて私の頭を撫でた
感情が途端に漏れ始めた。涙が次々流れてくる。
「・・ごめん、悪かったよ理子。ごめんな」
「うっ・・ひっく・・うっ、うっ・・・・・うわあああああああああん!!!」
抱きしめ返してくれた修一の腕の中で、大声で泣いてしまった。
夕暮れの日が病室をオレンジ色に変える。その光が無くなり、暗くなるまで修一は私を抱きしめてくれていた。
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岡崎 修一病室前
『ふぅ、今日はしょうがないわね。また取りにくるとしましょう。・・あら?』
『・・夾竹桃か。どうしてここに?』
『久しぶりね。私は知り合いに預けてた物を取りに来ただけよ。あなたは?』
『私はターゲットがここに来たからな。様子を見ていたのだ。・・知り合いとはもしかして理子が気に入っているというあの男のことか?』
『ええそうよ。私も手伝ってもらったけど結構使えるわよ。まあ今は足が折れてるから難しい思うけど』
『・・・岡崎 修一か。覚えておくとしよう。では、もう行く。また会おう夾竹桃』
『ええ。またね、ジャンヌ』
【第5章 「VSアリア」 終】
後書き
予定では病室の出来事をこの話一つにまとめようと思っていたのですがやけに内容が濃くなって、二部構成になりました。
アニメでは魔剣編のところですね。
*夾竹桃が司法取引で出てくるのはかなめが入学したころ(まだまだ先)なのですが、そこまで待てないのでそのあたりはご了承ください泣
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