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艦隊これくしょん【幻の特務艦】

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最終話 本日天気晴朗ナレドモ波高シ

走り続けても、目の前の妹たちの背中は大きくならない。それをもどかしく感じながら紀伊は夜の海を走り続けていた。
「尾張!!近江!!待って、待ちなさい!!!」
海上にとどろくほどの声を張り上げても、目の前の妹たちは振り返らない。その妹たちの更に前には信じられないくらい大きな満月が光り輝いている。それは水平線上に届くほどの大きさだった。
「尾張、近江!!!」
紀伊が再び声を張り上げたが、そこでつんのめりそうになった。いつの間にか紀伊の足元が氷に覆われていて動けなくなっていたのだ。そのくせ、尾張と近江の周りは静かな波音をたてて海が洗っている。
「尾張、近江、お願い!!止まって!!!!」
絶望感に抱きすくめられながら紀伊が三度目の声を上げた。

 ふと、尾張と近江がこちらを振り返った。今度こそ声が届いたのかと喜んだ紀伊が戦慄した。
 二人の顔色はまるでこの世の人ではないほど白かったのだ。彼女たちの後ろには、武蔵、飛龍が夜風にふかれながら立っていて、その後ろには――。
「綾波さん!?」
あの初々しいながらも穏やかな優しい顔で綾波がこちらを見ていた。綾波は前の4人に手招きするようにうなずくと、4人はすっと背を向けて綾波の方に白波を蹴立てて走り出した。ほどなくして綾波に追いついた5人は一緒に走り出し、姿がますます遠ざかっていく。
「尾張、近江、武蔵さん、飛龍さん、綾波さん!!!」
叫び続ける紀伊の声は次第に遠ざかる5人にはまるで届かなかった。しまいには声も出なくなり、紀伊は両手を振り回した。ただそうするしかできなかった。
5人の後姿が、ふっと浮かび上がり、満月に向かって夜空を登り始めた。あんなに遠いのに、夜風になびく髪、満月の光を浴びたその後ろ姿ははっきりと見えていた。
「ああああああああああッ!!!」
突然声が出るようになり、紀伊は思いっきり叫んでいた。
「姉様っ!!」
不意に後ろから暖かい手で抱きしめられる。振り向いた紀伊の眼に讃岐の姿が飛び込んできた。
「姉様っ!!」
はっと紀伊は体を起こした。眩しいくらいの日光が目に流れ込み、柔らかな風が体に触れるのが分かった。
「ここは・・・?!」
目がちかちかする。頭が体が重い。思う通りに動かない。
「よかった・・・姉様・・・・・。」
声のする方を苦労して向くと、そこには讃岐の姿があった。
「讃岐・・・・。」
讃岐は泣いていた。流れ落ちる涙をふこうともせずただひたすらに泣いていた。
「もう1週間も目を覚まさないから・・・心配したんですよ・・・・。姉様までいなくなってしまったら、私、私・・・・!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をみて、あなたの美貌がだいなしよと紀伊は見当違いのことを考えてしまった。それでも――。



「尾張と近江。」



ひっ、と讃岐はしゃくりあげた。
「夢で見たわ。最後のお別れをしてくれた。そして、武蔵さんと飛龍さんも・・・・皆綾波さんのところに行ってしまった。」
左腕を動かそうとした紀伊はその感覚が全く残っていないのに、気が付いたが、特に驚かなかった。様々な記憶が一時によみがえってきた。腕の骨が砕けるほどの負傷をしたこと、最後に尾張と讃岐が敵深海棲艦に突っ込んで自爆したこと等――。
「その腕・・・・。」
「大事ないわ。自分の身体だから、自分でわかる。それよりも、讃岐・・・・。」
紀伊は右腕を差し伸べた。
「あなたも休んだ方がいいわ。私はこの通り大丈夫だから・・・・。」
不意に体が激しく震えてきた。
「だ、大丈夫だから・・・・あ、あなたも・・・・・。」
喉も震えて、つんと痛くなって、なぜかその後は言葉にならなかった。代わりに出てきたのは、嗚咽だった。
「姉様・・・姉様アアアアッ!!」
讃岐はわあっと紀伊の胸に飛び込んできてわんわん泣いた。それを抱きしめながら紀伊も泣いていた。引き絞るような声で、紀伊は初めて思いっきり泣いていた。


* * * * *
戦いは終わった――。

多くの犠牲を出し、傷ついた者を出して、太平洋上における一つの戦いは終わったのである。

艦隊はひとまずハワイに急行し、そこで傷ついた者をメディカル施設に移送させた。

武蔵、尾張、近江、飛龍・・・・・。
尊い犠牲を払ったミッドウェー本島攻略作戦は幕を閉じた。

 ミッドウェー本島の攻略成功、ノース・ステイトとの通信回復の達成、そして武蔵、尾張、近江、飛龍の戦死の報告は委細漏らさず横須賀鎮守府の梨羽 葵のもとに届けられた。
「・・・・・・!!」
覚悟していたとはいえ、相次いだ艦娘たちの戦死に、葵は崩れ落ちそうになった。
「駄目!!」
抜けそうになる膝の力を懸命に取り戻そうと自室の書棚に寄り掛かりながら、葵は自分を叱咤した。ぶつかった衝撃で何冊かの本が床に落ちていた。
「私なんかよりも、ずっと悲しんでいる子たちがいるんだから!!」
葵はしゃがみ込み、本を拾おうとした。
「・・・・・・。」
ふと、一冊の本に目が留まった。アルバムだった。開いてみると、そこには戦いのさなかではあっても、数々の食事会、お花見、ピクニック、お祭り等の思い出がたくさん詰まっている。

 そして――。

最後の頁に全艦隊の集合写真があった。出撃の前日に取った物である。嫌がる尾張を紀伊たちが無理やり引っ張って映し出したものだ。そのせいか、尾張が横を向いてふてくされた顔をしているのが、真っ先に目に留まった。
「最後まで紀伊に手を焼かせて・・・死んでからもお姉ちゃんの手を焼かせ続けるなんて・・・・。」
涙がひとしずく、写真の上に落ちて、乾いた音を立てた。
「本当に困った子よ、あなたは・・・・。」
涙にぬれた声で葵はそうつぶやいた。だが、いつまでも泣いてばかりはいられない。これからすべき仕事は山ほどある。それこそ悲しみに沈んでいる暇はないほどだ。

 葵はアルバムをそっと書棚に戻し、一つ大きく息を吸って気を静めると、自室を出ていった。





* * * * *
「立ち聞きはよくないデスよ。榛名。」
廊下で一人佇んでいた榛名ははっと振り向いた。金剛が立っている。
「キーのことはそっとしておいてやりなさい。それが私たちにできる唯一のことデ~ス。」
「でも、でも・・・。」
思わず反駁してしまいそうになる榛名に金剛は首を振った。そして背中に手を回すと、榛名を廊下から連れ出したのである。
病棟の外では、瑞鶴と翔鶴が待っていた。
「どうだった?」
瑞鶴の問いかけに榛名は力なく首を振った。
「そう・・・。」
瑞鶴は深い吐息をついて、空を見上げた。穏やかな空だ。12月だというのに、まるで春のような陽気である。
「こんなことになるなんて・・・・意気込んで覚悟を決めてハワイに来てみれば、敵はいない。どうして提督は・・・・。」
そこまで言いかけてから瑞鶴は首を振った。そんなことを言いだすこと自体何にもならない愚かなことだということに気が付いたのである。
「そうよ瑞鶴。今ここで話していてもどうにもならないわ。それよりも、今は傷ついた人たちが一日でも早く立ち直れるように、私たちが頑張らなくては。」
「そうデ~ス。私たちまでしょげていたら、きっとヴァルハラからお叱りが来るネ。」
「そうね、そうだよね。翔鶴姉。金剛。」
瑞鶴はしっかりうなずいた。太平洋上の深海棲艦は撃滅できたとはいえ、まだ残党は残っていて、鳳翔たち呉鎮守府艦隊はその掃討作戦をノース・ステイトの艦娘たちと行っていたのである。今はビスマルク、プリンツ・オイゲン、天城、葛城、雲龍、雷、電、暁、響が出撃しているはずだった。
 と、そこに利根、筑摩、熊野、鈴谷、伊勢、日向たちがやってきた。
「ビスマルクと交代して引き揚げてきたけれど、紀伊の様子、どう?」
伊勢が尋ねたが、一同の顔を見て、
「そっか・・・まだなんだね・・・。」
「無理もない。姉妹を二人も失ってしまったのじゃからな。今度という今度は吾輩もどうしたらいいか、わからんのじゃ。」
いつになく利根がしおれた声で言う。
「時間が必要です。私たちにも紀伊さんにも・・・・。」
「そうは言いますけれど、筑摩。このまま紀伊さんを放っておいて、大丈夫なんですの?」
「でもさ、そういうけれど熊野。こんな時になんて声をかければいいわけ?それに第一、姉妹を亡くしたのは紀伊だけじゃないんだよ。他の人のことも考えなくちゃ。」
「わかっていますわよ、鈴谷。でも・・・。」
一同が重苦しい雰囲気に包まれた時だ。
「Hi!!Girl`s!!」
場違いな明るい声がした。振り向くとサウスダコタがこちらに歩いてくるのが見えた。そばに長い黒髪を腰まで伸ばしたきりっとした顔の艦娘が付き従っている。灰色の軍服と黒いスカートを身につけているので、余計暗くとっつきにくい印象を与えるが、もう瑞鶴たちは慣れっこになっていた。
「どう?あんたたちの仲間の様子・・・って、その顔じゃあ駄目みたいね。」
「そんなことないデ~ス。時間が立てば元気いっぱいになりマ~ス。きっと・・・・。」
いつも元気な金剛もこの時ばかりは自信なさそうだった。
「あんたたちがそんな調子でどうするのよ!?って、ああもう!!どうしてあんたが泣くわけ?!エンタープライズったら!!」
す~っと一条の涙が頬を伝ったままエンタープライズは何もいわない。それでも金剛たちはわかっていた。極端に無口だが、とても優しい気質であることを、一挙一動で金剛たちはよく知っていたからだ。
「私だって泣きたいわよ・・・。」
サウスダコタが湿った声を出した。それを出したのを恥じるようにブルブルッと首を振って顔を上げた。
「でも、あんたたちが泣かないから、私も泣かないわ。私たちにできることがあったら、いつでも言ってね。私、ものすごく悔しいんだから!!」
「ありがとうございます。」
翔鶴が一礼した。
「何か困ったことがあったら、いつでも相談させてください。たぶん・・・私たちだけでは・・・・。」
翔鶴は切なそうな目で、病棟を見上げた。そこには幾人もの傷ついた者がいるはずだった。春めいた風が吹き渡り、さっと艦娘たちの髪を乱した。
 ふと、シャランという鈴の音が聞こえた。
 一同が振り向いてあっと声を上げた。そこには穏やかな表情で見返す大和の姿があったからだ。
「や、大和!!も、もういいのですカ!?」
金剛が度肝を抜かれた様に声を上ずらせた。
「ええ、もう充分泣かせていただきましたから。」
微笑んでいるが、その眼の淵には、頬には、涙の跡が残っている。それでも凛として向かい合っている姿に声こそ出さなかったが、皆感嘆の念を胸にあふれさせていた。
「それに私は妹を、武蔵を誇りに思います。自らを盾にして私を、紀伊さんたちの背中を守り抜いて、最後は立ち往生・・・・本当に立派でした。本当に・・・武人として・・・・立派に・・・・。」
大和は不意に言葉を切り、顔を背けた。こみ上げてくる震えを懸命に押し殺そうと努力していた。こんなとき、どんな言葉をかければいいのだろう。もどかしささえ感じながら金剛たちは大和をみつめることしかできなかった。


* * * * *
「長門・・・・・。」
病室の一画で、陸奥が長門に話しかけた。戦闘終了直前、深海棲艦から放たれた砲弾が長門を襲い、大けがを負っていたのだ。命に別状はなかったが、それでもここしばらくは入院を余儀なくされることになるだろう。
「本当に、そうするの?」
「あぁ、もう決めたんだ。」
病床から半身を起こして窓の外を見つめていた長門はそのままで、
「横須賀鎮守府に戻り次第、私は秘書官を辞め、連合艦隊総旗艦を辞職する。」
「どうして?」
「あれほど犠牲を出した。仲間を死なせておめおめ自分が生き残ってしまった。」
乾いた声だったが、その中に激しい感情が渦巻いているのを陸奥は感じ取った。
「だとしても、今この時に決断しなくてもいいと思うわ。もしあなたが辞めるのであれば私も副官としての職務を辞するわよ。」
「・・・・・・・・。」
応える代わりに長門は深い吐息を吐いた。しばらくは病院のカーテンを揺らす風のかすかな音だけが二人の耳に聞こえていた。
「結局のところ。」
ややあって、陸奥が口を開いた。
「言い方は悪いかもしれないけれど、あなたは逃げているんじゃないの?職責を果たせなかったことを悔いているのではなくて、死者からのけん責をあなたは恐れているのじゃないの?」
「あぁ、そうさ!」
長門がやるせない声を出した。
「事実だからな。」
くそっ、と長門は毒づいた。長門らしくないと陸奥は思った。
「私には死者からの声は聴けないけれど・・・・。」
陸奥はそっと長門の肩に手を置いた。
「きっと彼女たちがあの世で聞いたら、あなたを叱責するに決まっているわ。そしてこういうでしょう。『逃げるな。』って。」
再び長い長い沈黙が部屋に満ちた。
「陸奥はいつもそうだな。」
陸奥が顔を上げると、長門がこちらを見ている。寂しそうな顔だった。
「わかった。前言撤回だ。それに、私以上に苦しんでいる者がいることに気づかされたよ。連合艦隊総旗艦として、傷ついた者たちを支えなくてはならない。死んでいった皆のためにもな・・・・。」
「あなただけに重荷を背負わせないわ。」
陸奥が静かに言った。
「私も副官として、あなたを支えていくから。」
暖かな手が長門の肩に置かれた。



赤城と加賀、そして鳳翔と大鳳は蒼龍の病室を訪ねていた。
「そんなに大勢で来られても何も出せないよ。」
蒼龍は苦笑した。
「そして、そんなに気を使ってもらわなくてもいいよ。ついにやったよね、赤城。私たち、前世の因縁を断ち切ったじゃん。空母一人の損失でミッドウェー本島攻略できたんだもの。きっと前世の軍令部もこれくらいの損失だって想定していたんじゃない?」
「蒼龍・・・・。」
「蒼龍・・・・。」
明るい声で話す蒼龍を赤城と加賀はどうしていいかわからずにただ見ていた。
「ミッドウェー本島攻略して、震電も空を飛んで、私、やることはやったって感じよ。とても・・・・。」
「蒼龍さん・・・・。」
鳳翔がためらいがちに話しかけたが、蒼龍は話し続ける。どんどんと早口になっている。
「私まだノース・ステイトの艦娘と会ってないんだよね。どんな人なんだろう?元気になったらノース・ステイトの艦娘と会わなくちゃそれに紀伊たちのところにもお見舞いに行ってあぁそうだハワイにしか売ってないお土産買わなくちゃねそれに――。」
「蒼龍さん!!」
大鳳の悲痛な叫びに蒼龍は口を閉ざした。
「無理しないでください!私たちに気を使わないでください!」
「どうしろっていうの?」
蒼龍が低い声で言った。やや唐突だった。そして声には冷たさが漂っていた。
「泣けっていうの?思いっきり泣けっていうの?そんなことしたって・・・・。したって・・・・。したって・・・。」
声が小さくなった。
「飛龍は帰ってこないんだよ・・・・。」
かすれるような声だった。
「飛龍が帰ってこなくちゃ何にもならないんだよ・・・・私にとっては、ノース・ステイトも震電もミッドウェーも、もうどうでも・・・・・いいんだよ・・・・。」
顔を伏せた蒼龍を鳳翔が抱きかかえた。
「どうしろとはいいません。そして私たちも何も言いません。ただ、そばにいさせてください。一人にならないで。お願いです。」
蒼龍は小さくうなずいた。それだけで鳳翔たちにとってはもう充分だった。




* * * * *
 数日後――。


 イージス艦隊がハワイに続々と入港してくるのを、病室から出てきた艦娘たちはじいっと丘の上から見守っていた。本来ならば、劇的な光景に皆が感激しているところだろう。この空虚な悲しみが胸の中で渦を巻いていなければ。
「紀伊。」
包帯を左肩から左腕にかけてグルグル巻きにされ、全身に大小のバンドエイドを張られた紀伊はぎこちなく声の主を見た。長門だった。彼女も負傷して、陸奥に支えられてここに来ていたのである。
「お前に今更こんなことを言っても蔑まれるかもしれないが、どうしても言っておきたいことがある。」
「・・・・・なんでしょうか?」
小さな声で紀伊は応えた。直感的に長門が今この場で言おうとしていることが何か、想像がついたからだ。それは今は触れてほしくない事だった。
「尾張の事だ。私は、あいつのことを、あいつの本当の気持ちを何一つ汲んでやれていなかった。」
「・・・・・・・。」
「当初奴は私たちと始終衝突していてな、しまいには嫌気がさして誰もあいつと艦隊を組もうとしなかったほどだ。それでも奴は私たちに突っかかってきた。後方から前線の事を知りもしないでよくもそれだけ言えたものだと当時は思っていた。」
「・・・・・・・。」
「ところが、今思うと知らなかったのは私たちの方だったんだな、そして覚悟のほどもあいつの方が上回っていた。自分の命を捨てて深海棲艦を倒すなど、私には出来そうにない――。」
「もういいです。」
紀伊は静かに、だがはっきりした声で遮った。
「尾張はあなたが思っているほど立派ではありません。私もですけれど、長門さん、あなたも尾張のことをよくわかっていないようです。」
「????」
「あの子は純粋なんです。ただそれだけなんです。そんなあの子に私たちがいくら綺麗な言葉を並べても、あの子の気持ちを汲んで満足させてやることは到底できないと思うんです。」
「それは、私の言葉が真心がこもっていないと・・・・?」
一瞬だが長門の顔に暗い影が走った。
「違います。そんなんじゃなくて・・・・ごめんなさい。上手く言えないです。」
紀伊は押し黙ってしまった。両目がつらそうに閉じられた。
「長門。今はやめておきましょう。」
陸奥が長門の方を支えながらそっと言った。
「陸奥?」
「あなたがどんなに心を込めて放った言葉だとしても、それは今この時にはそぐわないわ。もっと時間がたって、気持ちの整理がついて、皆のことを懐かしく思えるような余裕ができて初めて、あなたの言葉を伝えるべきね。」
「・・・・・・・。」
長門は黙っていた。だが、聡明な武人である彼女は陸奥、そして紀伊の思うところを理解できたのだろう、すぐに謝った。
「すまなかった。」


* * * * *
 艦内執務室にて、提督のモノローグ――。
 ミッドウェー本島を攻略したという知らせと、それ以上の衝撃的な知らせを受け取った俺は、急いでイージス艦でハワイ入りした。横須賀から政府要人を乗せたイージス艦隊を指揮してきた葵の奴も同日にハワイ入りだった。俺たちは一人一人艦娘を慰問した。後から来てなんだって言われるかと思ったが、誰一人そういうことを言うやつはいなかった。それだけに俺たちはつらかった。


 誤算だった。まさかノース・ステイトがハワイを攻略していたとは。


ハワイに差し向けた呉鎮守府艦隊を横須賀鎮守府の艦隊と協同させて運用していれば、もっと違った結果になったかもしれない。
 それを言うと、葵の奴はこういった。
「でも、それをやっていたら呉鎮守府艦隊も深海棲艦に包囲されて、もっと犠牲が出たかもしれないわ。鳳翔たちが機転を利かせて、ノース・ステイトと連合してミッドウェーに駆けつけたから、包囲網を崩せたし、勝機をつかめたのよ。」
そうかもしれないが、もし、と思ってしまう。だが、そんなことは無意味だ。既に起こってしまったことはもう取り返しがつかない。
 武蔵、尾張、近江、飛龍、そして綾波――。
尊い犠牲を払って、俺たち、いや、ヤマト艦娘はノース・ステイトの通信回復作戦を成し遂げた。
 上層部は大喜びだ、政府もだ。早速お偉方がイージス艦の護衛でハワイにきて、ノース・ステイトのお偉方と改めて話を行っている。それがなんだか無性に空しくてどうでもいいことのように思えてきてしまって、俺は艦内から出ることをやめてしまった。
 それを叱咤したのが、瑞鶴だった。すさまじい勢いで俺に詰め寄り、
「何逃げてんのよ!?感傷に浸ってんじゃないわよ!!」
と怒鳴ったのだ。その言葉に俺は目が覚めた。

 悲しくてつらい思いをしているのは、ほかならぬ奴らなのだ。俺が当事者気取りになって悲しみに沈んでいてどうする?そんなことをして死んだ奴らが喜ぶと思うのか?死者への弔い?そんなものはたくさんだ!!俺は、俺は俺のやり方で奴らを元気づけて見せる。
 そう思って、俺は葵の奴と長い時間話し合った。なんだかんだ言って奴がここにいることはとても心強い。俺一人で有れば、どうしたらいいか迷って何もできなかっただろう。
話し合った結果、ひとまず横須賀鎮守府に、そして呉鎮守府に艦娘たちを戻すことにした。それが明日の予定だ。
 懐かしい故郷での休暇、そして時間こそが、彼女たちをいやすだろう。時間はかかるだろうがな。


 もう太平洋には深海棲艦の姿はない。


掃討作戦も終了し、何よりもイージス艦に最新鋭システムが導入され、ジャミングにも対抗できるようになってきたんで(それでも予断を許さない状況だが)艦娘の護衛は不要だろう。
 そこまで考えてふとわかった・・・いや、わかったと思ったことがある。どうして艦娘たちが命を賭けてヤマトを守ろうとするのか。それは、軍人としての務め、義侠心、いいや、そんなもんじゃない。そういうものもあるのかもしれないが、本心はもっと単純なものじゃないかって。


 逃れたいからだ。前世の呪縛から。


深海棲艦が消えれば、艦娘たちが戦う意義は消滅する。そうなれば艦娘たちはいわば用済みになる。政府のお偉方がどう考えているかわからないが、俺ならば奴らを開放するだろう。彼女たちは一人の人間としてまた元の生活に戻ることになる。
 前世か。前世とは。俺にはわからない。前世を知らない俺にはわからない。そこには良い思い出もあるかもしれないが、悲しい思い出の方がずっと多いのだろう。その負の感情から解放されたい、そういうことなのではないかと思うんだ。

 今日、紀伊に会いに行った。妹たちを失ったというのに、紀伊の奴は気丈だった。終始落ち着いていて俺と話をしていた。・・・強いんだな、と、最初俺はそう思ったが、後でそっと話に来た榛名によると、紀伊が生き残った最後の妹と抱き合ってわんわん泣いていたという。それを聞いて俺は胸が苦しくなった。
 こんな状態なのに、乱れを見せようとしない紀伊に俺は気を使われているのか。だが、今度は俺が奴を支える番だ。
 
 俺は奴と最初に出会った時のことを思い出していた。奴の履歴書には、紀伊型なんていう文字はどこにもなく、ただの「特務艦」としか書いていなかった。艦娘たちにきいても、前世とやらでは紀伊という艦には出会ったことなどないという。まさに「幻の特務艦」だった。そして、奴自身もとても怯えていて不安そうだった。空っぽの自分に。
 
 幻の特務艦か、本当にそうだ。考えて見れば、奴の登場からすべてが変わっていった。奴は身を挺して、艦娘たちの、そしてヤマトの意識を変えた。過去を持たなかった奴が自分の意志と力で道を切り開いた。俺なんかにはとてもできない。

 俺からはこんな月並みな言葉しか出てこない。だが、あえて言う。

もう充分だ。本当によくやったな、ありがとう。紀伊。





* * * * *

どうしてこの曲が選ばれたのだろう――。

 紀伊は大々的な慰霊祭に出席しながら、思っていた。
 イージス艦上に巨大なパイプオルガンが設置され、それを囲むように大小の艦艇が並び、艦娘がと列している。
 

That saved a wretch like me!I once was lost but now I am found
Was blind, but now I see・・・・・。


 イージス艦上にたった金剛が高いソプラノの声でアメイジング・グレイスを歌っている。その荘厳な音調は聞く人の胸を打ったが、この曲の意味を知る人がいれば、艦娘たちの心境とかい離していると指摘するだろう。
 
艦娘たちの心のうちには、達成感も充足感も悟りも神への賛美さえもなく、空虚、ただ空虚だけがあるばかりだった。
 パイプオルガンを弾いている榛名もただ一身に引いているが、その表情は時折悲しみに沈む。
 艦娘たちにとって、今必要なのは、華やかな式典でも華美な歌でもなく、ただ休息が、そして時間が欲しかったのである。
 膨大すぎる負の感情をできる限り整理し、少しでも傷をいやし、再び前を向いて歩いていくために、準備する時間が・・・・・。
『大丈夫ですよ。』
不意に紀伊はどこからか懐かしい声が聞こえてきた気がして、ふと周りを見た。それは紀伊だけではなかったのかもしれない、他の艦娘たちの中にも何人かが不意に周りを見まわしだしたからだ。
『私たちはいつでも・・・・そばにいます。声は届かないかもしれません。けれど、思いはいつもあなたたちと共に・・・・。』

それは綾波の声だった。いや、綾波だけではない。

『お前たちがいつまでも悲しんでいては、こちらも申し訳ないではないか。しっかりしろ。』
『だらしないなぁ、そんなことじゃ多門丸から喝を入れられるよ。』
武蔵だ、飛龍だ。皆が皆その声をはっきりと聴き分けられたというように目を見開いている。
『紀伊姉様。讃岐。』
穏やかな声がした。そばにいた讃岐がぎゅっと紀伊の手を握りしめた。
『どうか悲しまないで。わたくしたちはとても幸せです。こんなにも思っていてくださる皆様と出会えたのですから。短かったけれど・・・・私の生涯はとても幸福でしたわ。』
『紀伊!』
ひときわ大きな声が耳元で響いた。尾張なの、と紀伊はつぶやいた。
『何をしているの?艦隊旗艦たるものが、紀伊型の長女たるものが、いつまでも悲しんでいるんじゃないわよ。しっかりしなさい。そんなことだから、いつまでも私からバカにされるんだわ。』
(尾張、でも、あなたと近江だけ死なせて、私だけ生き残ったって・・・・。)
紀伊は思わず心で答えていた。
『まだ讃岐がいるわ。あなた自身もいる。紀伊、言ったでしょ。私は最後の最後で、あなたと共にあれてよかったって。それは今のしおたれたあなたと一緒にいることがよかったんじゃないわ。私をビンタして叱咤して激励して、先頭に立って戦った紀伊型空母戦艦の長女と共にあれて良かったって言ったのよ。』
(・・・・・・・・・・。)
『その腕じゃ、もう戦場に立つことはできないかもしれない。けれど、あなたにはまだこれからの人生がある。後進を指導するのもよし、艦娘ではない自分自身の人生を新たに進むのもよし、何でもいいけれど、お願いだからしおたれたままで人生を無為に過ごすのは勘弁してよ。それこそ私が一番ムカつくことなのだから。』
(尾張・・・・。あなたはもう私なんかよりもずっと立派だわ・・・・。)
胸が喉がつ~んとしていた。
(駄目なお姉ちゃんよね。わざわざあの世から叱咤されるなんて・・・でも。)
紀伊はぎゅっと目をつぶり、感情の奔流をこらえた後、不意にとても澄んだ穏やかな顔に戻った。
(約束するわ。讃岐と二人、あなたたちの分まで生きるって。人生を無為にせず、進んでいくと誓うわ。だから、見守っていて。遠からず、いいえ、いつかきっとあなたたちのもとに戻った時・・・・その時はまた4人で艦隊を組みましょう。紀伊型空母戦艦の4姉妹として。)
その思いにこたえるかのように、勢いよくさぁっと吹き抜けた風は紀伊の銀髪をなびかせ、まるで歌うように声を上げ、高らかに青空へと吹き抜けていった。


* * * * *

4か月後――。

うららかな春の陽気の元、呉鎮守府は満開の桜の見ごろを迎えていた。鮮やかな花びらが湧きあがる風に舞い上がって埠頭まで飛んでいく。その下には――。

「元気を出して。」
紀伊が優しく妹を慰めていた。
これから讃岐は、艦隊を率いて、ノース・ステイトの艦娘たちとともにグランド・ブリタニカに向かう。そこでは深海棲艦の跳梁が報告されていて、ノース・ステイトの援軍さえも手を焼いていた。
 太平洋上の深海棲艦が撃滅された今、残るは大西洋方面の深海棲艦たちだった。そのため、ヤマトは艦娘たちを遠征艦隊としてグランド・ブリタニカに派遣することにしたのである。
 その旗艦として、讃岐が選ばれたのであった。紀伊型空母戦艦の稼働可能な最後の一人として――。
ノースステイトから派遣された艦隊も横須賀鎮守府に立ち寄り、順次呉鎮守府、佐世保鎮守府を経由することとなっている。そこで合流した連合艦隊がグランド・ブリタニカに向かうのだ。
途中、リパブリカ・フィリップを通り抜けていかなくてはならないが、どういうわけか、リパブリカ・フィリップに跳梁している深海棲艦たちは遥か南方、南極方面に引き上げてしまったという報告が入っている。いずれそれらに対しても掃討作戦を実施しなくてはならないだろうが、まずは各国の国力を回復させ、それぞれの海を奪還することが第一歩だ。
「派遣艦隊の旗艦であるあなたがそんなにしょげていたら、同行する皆も向こうの方々も笑ってしまうわよ。」
「でも・・・・。」
讃岐は顔を上げて紀伊を見た。
「本当ならば紀伊姉様が・・・・。」
紀伊は目を閉じ、緩やかに首を振った。さあっと流れてきた風に銀髪がふわりと靡く。
「私は・・・・戦えないわ。少なくとも当分の間は。」
紀伊の左肩左腕は未だ癒えぬ傷で包帯がまかれている。骨が複雑に砕けていて元に戻るかどうかはわからないとメディカル妖精に言われた。


その瞬間紀伊は思った。自分の役目はこれで終わったのだと。


現に紀伊型空母戦艦から派生した新生艦娘たちが近いうちに就役するという話も聞いている。私は私、彼女たちは彼女と紀伊は思うのだが、純粋な能力から行けば後発組の方が優れている。
「それも運がいいのかもしれない。こうしてここに帰ってこれただけでも・・・。」
紀伊は帰らなかった皆、尾張、近江たちを思ってしばらく胸に右手を当てていた。
「ねぇ、讃岐。」
「はい。」
「あなたはもしかして私のようになりたいと思っているのじゃない?」
「だって当り前です!紀伊姉様は艦隊旗艦として立派にお仕事をされたのに、私は、とてもそんな!!・・・それに。」
「それに?」
「わ、私敵艦載機にトラウマがあって・・・・・。」
それはずっと気になっていた事だった。思いがけず讃岐から言い出したことに紀伊は驚きながら耳を傾けていた。
「初めての出撃で敵の空母艦隊と出会って、射出された艦載機の直撃を喰らったんです。幸い、艤装が機能して対空砲火でギリギリで仕留めてくれたんですけれど・・・・それ以来怖くって・・・・。」
そうだったのか、と紀伊は思った。初めて経験した戦いでのトラウマは大きなものだ。だが、それを乗り越えられなくては、前に進めない。
紀伊は優しく妹の肩に右手を置いた。
「私も最初の頃はそうだったわ。榛名さん、瑞鶴さん、皆さんに比べて私は到底及ばないと思っていたし、初めての戦いでは暁さんが大けがしたのを見てとても怖かったの。だから感じていたわ。きっと私は他のみんなよりも臆病なんだって。」
紀伊は鎮守府の司令部を見た。初めてあそこに入った時には、全身が震えてどうしようもなく、初めて出撃した時は膝の力が抜けそうなほど緊張していた。
「でも、ある時から違うと思ったの。それは前に榛名さんがおっしゃってくれたから。私は私、皆は皆だって。」
鎮守府さくら祭りで、コンサートに向かう途上、榛名が言ったことがある。


『違って当たり前、それでも姉妹なんです。それでいいのではないでしょうか。』


一人一人に個性がある。欠点もあれば長所もある。月並みな表現だけれども、誰しもが完璧になる必要はないのだ。


それらを全部ひっくるめて自分をすっかり知ったうえで、力の限り動き続ければいいのだから。


「・・・・・・・。」
讃岐は風に髪をなびかせて鎮守府を見つめ上げる姉の横顔を見つめていた。出撃できなくなり、仲間、姉妹を失ったというのにその横顔はとてもとても澄んでいた。それはきっと、と讃岐は思う。いろんな悲しみがいっしょくたに胸の中で渦巻いているけれど、それを表に出さない強さを紀伊姉様は持っているのだと。そして今までの経験で紀伊姉様なりに悟った一種の哲学のようなものがあるのではないか、と。
 紀伊は讃岐に視線を戻した。穏やかな灰色の瞳が優しく、それでいて力強く妹を見つめていた。
「讃岐、あなたはあなたとして艦隊旗艦を務めなさい。私のようにならなくていい。私になくてあなたにあるところは沢山あるのだから。模倣なんかしないで。あなたはあなたらしく皆をひっぱっていければそれでいいのだから。」
「はい、姉様・・・・あれ?」
讃岐は自分の頬に手を当てて驚いた眼をした。それを見た紀伊が不意に近寄って讃岐を抱きしめた。
「ごめんなさい。」
ようやく讃岐は体を離した。
「なんか変ですよね。旗艦がないてちゃ駄目ですよね?」
「今はいいわよ。まだ出撃していないのだもの。その代り――。」
「はい。」
讃岐は大きくうなずいていた。いったん洋上に出れば、艦娘として、旗艦として職責を果たさなくてはならない。そういうことですよね、姉様、と讃岐は思いながら姉を見ていた。その時、11時を知らせる鐘が鳴った。
「時間よ。頑張ってきて。大丈夫、あなたなら・・・ううん、あなただからできるのだから。」
「はい!」
讃岐は最後に紀伊の手をしっかりと握ると、発着所に向かっていった。

天気は快晴だったが、波は高い。ここしばらく続いた春一番の影響だろうか、だがそれも穏やかになりつつある。横須賀鎮守府から来る艦隊と合流する頃にはもう大丈夫だろう。

本日天気明朗ナレドモ波高シ、と紀伊はつぶやいた。

かの有名な日本海海戦の際に、秋山真之が出撃前の電文を起草した。そのうちの一文である。前世連合艦隊総旗艦である梨羽 葵はこの銘文を気に入っていて、時折口ずさむので、紀伊も覚えてしまっていた。

自分たちの周囲もまだまだ波が高いが、それもいつかは収まるだろう。そして世界の海から深海棲艦を一掃し、暁の水平線に勝利を刻んだその時こそ、本当の穏やかな海が到来するのだと紀伊は思う。

しばらくして讃岐が洋上に出てきた。完全に修復された艤装が光り輝き、讃岐の顔も凛としているように見える。
(あなたは私を見ていたけれど・・・・私もあなたを見ていたわ。そして私は自信をもって言える。あなたは確実に成長し、そして今後も成長して行ける子なのだと。)
讃岐は洋上から埠頭を、姉を見た。紀伊はうなずく。海上には既に出立した呉鎮守府の艦娘たちがウォームアップして待機しているはずだった。見送りはその海上に面した第一ふ頭で行われることになるだろう。残留組もそこに行っているはずだった。
讃岐は洋上に出ていく。紀伊はそれを佇んで見送っていた。と、その時だ。不意に讃岐が振り向いた。
「紀伊姉様ァ~~~!!!!」
大声が海上から吹き渡ってきた。讃岐が力いっぱい手を振っている。
「讃岐!!!」
紀伊も叫んでいた。
「どこにいても――。」
「何をしていても――。」
『私たちの心は一つ、いつも一緒よ(です)!!』
期せずして二人の声が海上に響き渡り、さあっと桜の花びらが舞った。まるで旅立つ者への餞のように、豪勢に。

 手を振り返した紀伊はゆっくりと埠頭へ足を向け、歩き出していった。

                                 完
 
 

 
後書き
一通り執筆終えられてほっとしております。正規空母並の艦載機運用能力を持ち、戦艦並の火力を併せ持つ紀伊型空母戦艦というのはあまりにも現実からかけ離れていたのかもしれませんが、それだけにこんな艦娘がいたらいいなと思いながら筆を勧めました。本当は空母戦艦ではなく、航空戦艦が正しいのでしょうが、それだと伊勢、扶桑たちとの違いを出せないので、あえてこの呼び方にしました。紀伊型航空戦艦というのもカッコイイと思いますが。

さて、横須賀鎮守府から回航され呉鎮守府に赴任してきた紀伊は文字通りゼロからのスタートをします。他の艦娘にある前世が自分にはない。そのことで戸惑い、かつ疎外感を抱きながらも彼女は呉鎮守府の艦娘と共に過ごし、共に戦っていきます。
前世のある艦娘に対し、前世のない艦娘。戦艦か空母か、どのカテゴリーがわからない中途半端な存在。そういう目で見られ、自分でも負い目を感じながらもやがては自分の取るべき心構えや自分の進むべき道を彼女なりに理解し、それを目指していきます。
いくら艤装が立派でも、いくら兵装が強力でも、心が伴わなければ、十全それ以上の力を発揮できない。これはどの項にも言えることだと思います。そうはいってもそこにたどりつくのは難しい。頭でわかっていても体が感情がついていかないのです。
 物語中で何度も述べてきましたが、艦娘も人間です。機械ではありません。時には挫折することもあるし、時には機械には出すことのできない力を発揮します。だからこそイージス艦は敗北しても、艦娘は深海棲艦に立ち向かっていけるのではないでしょうか。結局想像の範疇ではありますが。


 グランド・ブリタニカに派遣された讃岐以下がどう戦うか、残された紀伊がどうその後の人生を歩むか、それら今後の続編は今のところ考えていません。紀伊の負傷、離脱をもってこの世界での物語は終わったのだと思うからです。
 

 拙い筆でしたが、最後までお付き合いいただいてお読みくださった皆様に厚くお礼を申し上げ、この物語の筆をおきたいと思います。。

 ありがとうございました。
 
 
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