決して折れない絆の悪魔
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入学
「皆さん全員そろってますね?ではSHRを始めます」
黒板の前でにっこり微笑んでクラス内を見回しているのは副担任である『山田真耶』先生。第一印象は失礼だろうが、まだ成人していない子供が自分を大人と見せようとして大人の服を着てきただろうか。それほど童顔で幼い印象を受ける。
「それでは今日から一年間、皆さん宜しくお願いします」
「「「「「………」」」」」
けれでも誰も返事を上げない、新学期特有の緊張感の影響なのか誰も口を開かない。
「え~っと……出席番号順で自己紹介をお願いしますね」
少しショックを受けながらもSHRをきちんと進行させようとする山田先生。若干涙にもなってしまっているので可哀想と言えば可哀想だ、一人の男子が返事でもしようとはしていたが緊張感のおかげで声を出せずにいた。それ以外にも緊張感があるのには理由がある。何故なら…
「(これは………想定以上にきついぜ……)」
クラスに男子が一人だけという事だ。女子の中に一人だけぽつんとした離島のように浮いている少年、『織斑 百春』はほぼ全員のクラスメイトの視線を集めていた。更に席がクラスのほぼ中心列の最前席ということも合って余計に視線を受けている。これが少し後ろの席ならマシだっただろうに。この席があいうえお順だとしてもこの順番は明らかに可笑しい。何故なのに真ん中の中心列の最前席なのだろうか、何か策略を感じさせる。
「(どうしたら……良いんだ…)」
「……君、織斑 百春君っ」
「は、はい!?」
周囲からの視線に耐えながらガチガチになっている時に先生から自己紹介のバトンが回ってきたが突然の事だったので思わず大声を上げてしまった。山田先生をあまりの大声で取り乱して驚かせしまい、百春は謝りながら、自己紹介をする為に立ち上がる。
「え~っと…織斑 百春です、宜しくお願いします」
っと挨拶をするが、ほかの女子達はもっと喋って欲しいというオーラを立ち昇らせている。百春本人からしたらさっさと終わらせて座っていたいのだろう。私だってそう思う、こんな女子しかいない空間に男子が一人、緊張と違和感、精神状態の異常を感じずには思えない。百春は女子のオーラに答えるのか、もう一度口を開く。必死に思考して口を開け、発した言葉は………!!
「以上です」
そういって席に付くが数人の女子が席からずり落ちた。それだけ期待していたのだろう。だがこの緊張感が精神を蝕む中、自分に出来る事は逸早くこの場を締め、次の人にバトンを渡す事だった。次の瞬間、衝撃が襲い掛かってきた。机に顔面を直撃し掛ける所で手を付いてそれを回避する。手を付いたときに舌打ちが聞こえて来たのは気のせいではない筈。痛みに耐えながら顔を上げると凛とした顔つきの女性が、若干煙が上がっている出席簿を持っていた。
「げぇ呂布!?」
「誰が三国志の英雄だ、馬鹿者」
更に追撃の一撃&痛恨の一撃、百春の体力ゲージの減りが加速しながら0へと近づいていく。冗談ではなく百春は非常に痛がっている、その犯人はこのクラスの担任だった。しかも、その担任は百春にとって見覚えがあるというレベルを遥かに超えていた。
「私が織斑 千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てることが仕事だ。私の言うことは良く聴き、そして理解しろ。出来ない者は出来るまで指導してやる。返事はYES or はい、のみだ。いいな」
百春の姉こと『織斑 千冬』は自分のいうことには絶対に従えっという何処の独裁国家だと思いたくなる発言をするが、どうやらこのクラスの女子はマゾヒストが多いのか、喜んでいる者が多数。自分にもっと鞭を打ってくれっという発言をする女子もいる。そんな女子達にドン引きしている百春と同じことを千冬も考えているのか頭を痛そうに抑えている。
「……まだ教師になって数年だがなんなんだ毎回毎回。私は問題児クラス担当という札でも貼られているのか……?それと、もう二人このクラスの一員を紹介しておく」
千冬の言葉にクラス内は少しざわつき始める。もう二人?では何故この場に居なかったのだろうかっという疑問が生まれて、女子達は話し始める。が
「静かにしろ」
っという千冬に一喝でクラス内は静かになる。流石は千冬姉と百春は内心で思うのであった。口に出せば、織斑先生だと注意しながら出席簿で攻撃してくるからだ。
「この場に居なかったのは学園に来るまでに渋滞などで到着が遅れたからだ、あまり騒ぐな。山田先生、中へ入るようにいってあげてください」
「あっはい!」
山田先生は一度廊下に出てから、廊下に居る生徒に声をかけてから教室に入ってきた。皆は期待の眼差しで入り口を見つめている中クラスの仲間の一員となる二人が中へと入ってきた。
「なっ!?」
二人の内の一人の顔を見た瞬間に百春は思わず席を立った、あまりにも衝撃的な事に座ってなどいられなかった。わなわなと手を震わせながらゆっくりと歩いていき一人の生徒の前へと立ち、言葉を漏らした。
「い、生きて、生きてたの……一夏兄……?」
搾りだすかのような言葉はあっという間にクラスに拡散していった、入って来た生徒は織斑家の一員なのかと騒がしくなる中もう一人の生徒、即ちミカは一夏に聞いた。
「何知り合いなの一夏」
「いや、初対面の筈だけど……」
「ハッ……?何、言ってんだ……?」
なんなのこいつと言わんばかりに問いかけてくるミカに対して首を傾げつつ初対面と答える一夏に百春は凍り付いた、兄が自分の事を知らない?一体どういう事なのか、一緒に過ごしたあの時を忘れてしまったのかと混乱し出した。
「な、何言ってんだよ一夏兄!?俺だよ百春だよ!?」
「いや名前は知ってるよ、ニュースで見たし。でも俺は織斑君と面識無いけど?」
「そん、な訳が…!!」
「人違いとかじゃないの、偶然名前一緒なだけとか」
「そんな俺が間違う訳がっ!?」
ミカの言葉を強く否定しようとした時、百春の頭部に今一度出席簿が振るわれた。先程よりも強い一撃に百春は床へと叩き付けられるように沈み痛みにもがくように声を上げている、
「そこまでにしておけ織斑……すまない未来、私の弟が申し訳無い事をした」
「いえ気にしていませんよ、それよりも強く叩きすぎなんじゃ……」
「反省の色が見えないようだったからな」
「千冬、姉ェ……どうして……!?」
疑念の色を浮かべる百春に千冬はしゃがみ言い聞かせるように言った。
「そこまでにしろ、好い加減HRを進ませろ。解ったら席に戻れ」
「……ぐっ……」
ここまで言われては流石にもう何も言えずに身体を引きずるように席へと戻っていく、そんな姿を見つめる二人の視線はそれぞれであった。一体何故自分にあんな事を言うのかと解らなそうにしている一夏となんだあいつと思っているミカ、百春が席に戻ると真耶が二人の名前を黒板へと書き、挨拶をするように促す。
「未来 一夏です、色々と皆さんにご迷惑を掛ける事があると思いますけど宜しくお願いします。趣味は……えっと、料理を作る事と裁縫です」
「未来 三日月。好きな事は……院長の手伝い」
好青年で接し易そうな一夏と物静かな三日月、全くタイプの違うの二人の男子に女子達は盛り上がっていた、但し千冬がいるので内心で大はしゃぎしていた。
「えっとお二人は苗字は一緒ですがご兄弟ではありません、お二人は未来院という孤児院の出身でそこでは全員が家族同然になるという事で創設者である未来 久世さんと同じ苗字をお使いになるそうです」
「ええ、だから俺はミカの事を弟じゃなくて家族って思ってます。実際弟だって思った事はないです」
「俺も一夏の事兄貴って思えた事無い」
「おまっ……」
その言葉で教室に生まれる笑い声と笑顔、だがその中で唯一百春だけが異常な表情で一夏を睨み付けていた。
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