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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百一話 長崎へその五

「次は海鮮弁当食べます」
「そちらですか」
「それから牛肉弁当ですね」
 それもだった。
「いただきます」
「では」
「三つ食べますと」
 僕はこの言葉は少し苦笑いになって言った。
「流石にです」
「満腹ですね」
「そうなりますね」
「はい、やはりです」
「駅弁一つ一つが結構ボリュームありますからね」
「私はもう」
「お一つで、ですか」
「満腹となります、若い時はです」
 畑中さんは僕にご自身のその時も話してくれた。
「五つはいけましたが」
「五つですか」
「最も身体を動かしていた時期は」
「学生時代ですが」
「はい、その頃はです」
「駅弁五つですか」
「いけました」
 そうだというのだ。
「それだけ、ただ」
「ただといいますと」
「相撲部の方々には負けました」
「ああ、あの人達は」
「やはり桁が違います」
 食べる量についてもというのだ。
「どうしても」
「だからですね」
「はい、負けました」
「それはまあ仕方ないんじゃないですか?」
 僕はサンドイッチ弁当を食べ終えて海鮮弁当を食べつつ畑中さんに言った。海鮮弁当は鮭と蟹、烏賊と豪勢だ。函館にいる気持ちにさせてくれる。
「あの人達については」
「食べることもお仕事だからですね」
「そうした人達ですから」
 高等部の相撲部の人達にしてもだ、実はうちの学園の相撲部は今の角界みたいに外国からの留学生の子が増えてきてモンゴルからの子が強い。
「もう」
「わかっていましたが」
「その時はですか」
「勝てると意気込んでいました」
「それで勝負されたのですか」
「食べ合いの、ですが」
「負けられたんですか」
 僕は畑中さんに尋ねた、確認の形になった。
「そうなんですね」
「そうでした、その時は残念に思いました」
「やっぱり力士の人が違いますね」
 本当に食べることも仕事の人達だからだ、このことはプロレスラーの人達もで例えばラーメン十杯食べればただとかいう催しでは最初からお断りになるらしい。
「あの人達は」
「その時は私も負けるものかと思っていました」
「食べることでもですか」
「はい、何でも誰でも負けたくないと思っていまして」
 そしてというのだ、何かいつも穏やかで泰然自若というか年齢故の余裕と温厚さが感じられる畑中さんとは思えないお話だった。
「それで、です」
「勝負をされて」
「当時通っていた学校の相撲部で一番の大食漢の方を勝負をしまして」
「一番のですか」
「そうです、ざるそばを食べ合い」
「ざるそばですか」
「私は五十枚いきました」
 何か凄い数字だった、それで僕は唖然として言った。
「凄いですね」
「その方は五十一枚でした」
「一枚の差ですか」
「その一枚が絶対の差でした」
 たかが一枚、されど一枚というのだ。 
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