ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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146部分:白銀の月の下星々は輝きその四
白銀の月の下星々は輝きその四
「マンスターに古くから伝わる曲でな。恋人との結婚を反対された若い娘が恋人と駆け落ちする時に今まで育った我が家へ別れを告げる曲だ」
「だからしっとりとして物悲しい曲なのね。ところで駆け落ちした娘さんは後でどうなったの?」
「恋人とユングヴィに辿り着きそこで幸せに暮らしたらしいがな。それでも故郷を離れる切なさが心の中から離れなったらしい」
リーンは暫くアレスのギターに合わせて踊りを続けた。一同はその曲と踊りに心を奪われ聞き惚れ魅了されていた。
曲が終了した時一同は静まり返っていた。そして皆穏やかで落ち着いた心になっていた。
「もう休むか」
グレイドがボソッと言った。皆一言も出さずその言葉に頷いた。
金を払いしずしずと店を後にしようとする。その時皆ふと気付いた。
「あっ、オイフェさん・・・・・・」
皆ハッと顔を見合わせる。見れば酔い潰れたままで卓上にうつ伏している。
「どうしよう、あれ」
ディジーが彼を指差しながら言った。
「起こすか?」
フェルグスが指を口に当てて言う。
「起こした直後トゥールハンマーが何十発も炸裂するわよ」
フィーが言う。
「けどこのまま放っといても雷が落ちるしな。どうする?」
アーサーが言った時ユリアがオイフェの方へトコトコと歩いて行った。
「えっ、ユリア、貴女じゃとてもオイフェさんを運ぶのは・・・・・・」
サフィが止めようとしたがユリアはそれをニコリと微笑んで制止した。
ユリアはオイフェの側に寄るとそっと手を彼の背に当てた。すると彼の身体が宙に浮いた。
「成程、魔法を使うのですね」
スルーフの言葉にユリアはまたニコリと微笑んだ。そして宙に浮いたオイフェを操りながら一同に別れを告げ店を後にした。一同も店を後にしそれぞれの部屋に帰っていった。
次の日の夜セリスは城の一室で戻って来たオイフェ、シャナン、レヴィン達と話をしていた。話の内容はやはり今後の自軍の動きについてであった。
「やっぱり講和は難しいか」
「私がトラキアでトラバント王と話してみるがな。だがあのトラバント王だ、あまり期待は出来ないな」
シャナンがセリスに対して言った。
「まあ講和は出来なくともここでトラバント王を除いておくのも良いですな。あの男は帝国と並ぶ大陸の癌、これ以上放っておけばさらに罪無き人々があの男の毒牙にかかっていきます」
「だが我々の敵は帝国じゃないか、この戦に僕は・・・・・・」
セリスはオイフェに対して何時になく力無い口調で言った。
「セリス様、その様なお考えはあの男をつけ上がらせるだけです。イードで友好条約を突如一方的に破棄しキュアン様とエスリン様、そしてアルテナ様を手にかけレンスターへ侵攻し、各地で傭兵として悪の限りを尽くしてきた男です。騎士の風上にも置けぬ卑劣な男です。それはターラやマンスターの件でお解りでしょう」
「うん・・・・・・。だけどトラキアの者は何故あの様な男を支持しているのだろう」
「それはトラキアに行けばわかる」
レヴィンが口を開いた。
「レヴィン・・・・・・」
「イザークやレンスターと違いトラキアは高い岩山に囲まれ土地も痩せている。他の国々と比べて極めて貧しいのだ。トラバントはそんなトラキアの民を救う為自ら槍を手に取って戦っているのだ。それがダナンやレイドリックのような連中とは違うことだ。だからこそトラキアの者はトラバント王についていくのだ」
「なら・・・・・・」
「だがそれはトラキアの為だけでありトラキアだけの正義だ。攻められ戦火に曝され家族や大切なものを奪われるレンスターや他の国々の者はどうなる?トラバント王の掲げる正義とは他の者の犠牲の上に成り立つ正義だ。それでは帝国と変わらないではないか」
「・・・・・・・・・」
「セリス、我々は大陸全体の為に戦っているのだ。その為には避けて通れない壁もあるし矛盾もある。だが我々はそれを乗り越え進んでいくしかないんだ」
「・・・・・・・・・」
だがセリスはそれに答えない。否、答えられないのだ。
「解からないか。まあ良い。いずれ解かる。そのとき御前はまた一つ大きくなる」
セリスは窓の方を見た。夜の空に白銀の月が輝いている。
ふとマンスターとミーズで対峙したアルテナ事が脳裏に浮かんだ。美しい瞳に哀しみを宿らせた敵国のあの王女が忘れられなかった。
(トラキアの者達もこの月を見ているのだろうか)
月は白銀の光でマンスターを照らしている。その光は優しく苦しみや悩みさえも包み覆っているようであった。
第三夜 完
2004・1・8
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