ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
139部分:複雑なる正義その四
複雑なる正義その四
「ティニーさん、自分を信じるのです。貴女は自分で思われている程弱くはありません。貴女に秘められた力は素晴らしいものです」
「は・・・・・・はい」
やはり何処か頼りなげである。ともあれ二人は大槍が集積されている天幕の前に来た。幾つかある。
「よし」
セティの身体を淡い光が包んでいく。そして風が集まりだす。
彼は左手に生じた風の球を振り上げた。それは彼の手から放たれると忽ち無数の鎌ィ足となり天幕に襲い掛かった。
凄まじい轟音を立て大槍を置いていた天幕は薙ぎ倒されていく。セティは一瞬のうちに全ての天幕が破壊され尽くしたのを見ると上空に火球を放った。
炎が夜空に輝く。それは解放軍からもトラキア軍からも見られた。
「よし、行くぞ!」
解放軍はセリスの号令一下一斉に動いた。そのままミーズへと雪崩れ込む。
「しまった、謀られたか!」
トラキア軍は解放軍の奇襲を警戒していた。だが今その奇襲を受けた。今までのドズル軍やフリージ軍を破ってきた彼等の得意とする戦法でありこうして戦いの主導権を握ってきた。だが流石にトラキア軍は精鋭でありその対応は迅速かつ的確であった。すぐさま竜に乗り槍を持ち飛び立った。
セイメトルも自ら剣を手に竜に乗り迎撃に向かおうとした。竜に乗ろうとしたその時だった。北の解放軍の方へ武器も持たず駆けて行く二人の兵士を見かけた。
「ムッ!?」
かなり速い。陣を抜けトラキアの兵士達を追い抜きそのまま消えていきそうである。怪しい、そう感じた彼はすぐに兵士達に令を下した。
「おい、あの二人を逃がすな!」
二人に気付いたトラキアの将兵達はすぐに彼等を取り囲んだ。
「言え、何処の部隊だ!?」
セイメトルが前に出て来た。二人は肯き合うとマントを脱ぎ捨てた。
マントを脱ぐとそこにはトラキア軍のものとは全く違う服を着た緑の髪の青年と銀の髪の少女がいた。トラキア軍で二人の顔と名を知らぬ者はいなかった。
「貴様等・・・・・・シアルフィ軍のセティとティニーか!」
セティはセイメトルの問いに対し口だけの笑みで返した。ティニーは無表情のままである。
「シューターの大槍を破壊したのは貴様等だな!?」
「その通り」
セティは言った。
「ならば話が早い。今ここで成敗してくれるわ!」
セイメトルが剣を構えた。
「死ねえっ!」
トラキア軍の将兵達が一斉に襲い掛かる。二人は構えた。
「トローン!」
まずティニーが魔法を放った。右の拳から雷の帯がほとぼしり出る。
「貴女がティニーね。私はイシュタル。貴女のお姉さんよ」
白いドレスを着た銀髪の美しい少女が自分に語り掛けて来る。これがティニーが最初に憶えている光景である。
物心ついた時から彼女はイシュタルと共にいた。母ティルテュはそんな二人を見ながらいつも嬉しそうな、それでいて哀しそうな笑みを浮かべていた。
母はいつも叔母であるヒルダに酷く虐待されていた。まるで家畜の様に扱われ廷臣達の前で足蹴にされ壁に叩き付けられた事もあった。その陰湿な眼はティニーに対しても向けられる事もあった。そんな時にいつも自分と母を庇ってくれたのが従兄であるイシュトーであり自分を妹と呼んだイシュタルだった。
やがて母と自分はイシュタルの居城となっていたマンスター城に住むようになった。そこでティニーはイシュタルと共に
暮らすようになった。
イシュタルとティニーは常に一緒だった。魔法や政治、歴史等を学ぶ時も机を並べ食事も同じものを食べ眠る時も同じベッドに入って眠った。優しく包容力もあり暖かかった。母はマンスターに入ってから数年してこの世を去ったがその悲しみに泣いていた時も支えてくれた。
ページ上へ戻る