魔界転生(幕末編)
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第82話 魔界衆 復活
政府は、突如現れた原城を危険視し、熊本から軍隊を向かわせた。
西郷軍が熊本に向かって進軍してくるのもわかってはいたが、もし、原城が敵であったのなら、海からの攻撃と陸からの攻撃に挟まれて壊滅させられかねないと政府は判断したのだった。
もちろん、原城は敵であると判断した結果のことであるのだが。実は、海から西郷軍を攻撃する目的の次いでというところではあった。
ところが、海から砲撃しても、まったく通じなかった。
破壊したとこは、まるで生き物ように自己修復を行い、元通りになってしまう。しからば、上陸し砲撃を加えても同じ事だった。
業を煮やした指揮官は、最早、突貫攻撃に切り替えた。が、城内に入れば、生ける屍の餌食になり、死んだ者も同じようになった。
辛うじて、城内に入ったとしても、悉く斬って捨てられた。
「どうですかな?我が城は?」
天草はにやりと大山に微笑んだ。
大山は熊本から脱出し、天草の元へやって来ていた。
「いやはや、一時は肝を冷やし申したが、さすが魔城。大砲なぞいくらでも放ってくれって感じでごわすなぁ」
大山は豪快に笑った。
「ですが、私が倒されるような事になれば、この城も再び瓦解する事を心にとめていただけなればなりますまい」
天草は大山を冷ややかに見つめた。
「そうなればの事でごわそう?おいは、そうはならんと思っているでごわす。この城、そして、天草殿をお守りしている魔界衆が控えており申すからの」
天草の前に9人の男たちが控えていた。
それは、かつて剣豪と呼ばれ、一度、天草によって転生させられた者達だった。
志度寺の段の敵討ちで有名な居合の達人・田宮坊太郎。
槍を使えば右に出る物なしの宝蔵院流開祖・宝蔵院胤舜。
鍵屋の辻の敵討ちで36人も斬った荒木又衛門。
二転一流の開祖で剣聖ともいわれる宮本武蔵。
柳生新陰流で家光の剣術指南役そして老中であった柳生宗矩。
そして、武市半平太が蘇らせた4人。とはいえ、実質は天草が蘇らせたようなものだが。
新撰組局長・近藤勇。
同じく新撰組・沖田総司。
土佐の人斬り・岡田以蔵。
喧嘩屋とも呼ばれた長州の高杉晋作。
錚々たるメンバーが揃っていた。
「まさか、伝説の剣豪たちにこの時代で会えるとは思いもよらなかった」
と、大山は喜んだが、魔界衆達はただ冷ややかな目で大山を見つめただけだった。
「さて、これから相手はどうでるか」
天草は今後の戦いの行く末を考えた。
「くそ、あんな城だったとは思いもよらなかった」
今の時代、城などなんの意味もないと政府軍は甘くみていた。
銃弾と榴弾の雨あられの前では、城などたやすく落とせるとたかをくくっていたのだった。が、それが、どうだ。
砲撃で当たった場所は、どうやっているのかわからないが、すぐに修復され突撃した陸戦隊はほぼ帰ってこない。
(こんな馬鹿な話があるもんか)
指揮官は苛立った。しかも、すぐにでも、熊本に応援に行かなければならないのに、とんだ足手まといだった。
すでに再び突撃隊を編成され陸に上がっていた新政府軍の軍司令官は手を拱いていた。
「司令、どうされますか?」
待機の命令を受けていた部下たちは不安げに軍司令に問いかけた。
「命令するまで待て」
ただ、それしか言えなかった。
(この局面を打破できる者は。方法はないものか?)
馬上にて憎々しげに原城を睨みつけてことしかできない自分に腹が立つ。
「拙者にお任せいただこう」
司令のすぐそばから声が聞こえた。
「え?」
司令はいつの間にか現れた黒ずくめで異様な出で立ちの男が、隣にいることに驚いた。
男は、編み傘を目深に被ってはいたが、右側が何か鋭いもので斬られたかのようにぱっくりと開いていた。その横顔は精鍛でちらりと見えた左目には眼帯のようなものをしていたのが見えた。
「貴公は一体何者なのだ?」
軍司令官は男に尋ねたが、その男はその問いに答えることなく、すたすたと城に向かって歩きだしていた。
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