ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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135部分:騎士その三
騎士その三
「誰だか知らねえが馬鹿な野郎だ。たった一騎で俺達とやり合おうってんだからな」
上から半円状にラインハルトを取り囲む。だが彼は全く臆してはいない。
「殺してやる前に名前だけでも聞いてやるよ。おい手前、名は何て言うんだ!?」
「野蛮な飛猿共に言う名なぞ無い」
竜騎士達を見上げ侮蔑した眼で言った。侮辱された騎士達がいきり立った。
「手前!」
ラインハルト目がけ一斉に襲い掛かる。彼はそれを冷静に見ていた。
右手を引き絞る様に肩の高さで左に水平に引く。次第に雷が宿る。
拳を握り締めた。そして前に突き出すと同時に右手の全ての指を思いきり開いた。
「ダイムサンダ!」
ラインハルトが魔法の名を叫ぶと右手の五本の指から無数の雷が一斉に放たれた。それは龍の様に四方八方に飛び回り竜騎士達を撃った。無数の雷を受けた竜騎士達も飛竜も地に落ちそのまま動かなくなった。皆即死だった。
「我がブラウブルグ家に伝わる魔法ダイムサンダ、流石に凄まじい威力だ」
ラインハルトはまだ右手に雷を宿らせながら思わず声を漏らした。だがその時左肩に痛みが走った。
「だが今の私には荷が重かったようだな。これ以上この魔法は使えそうにないな」
「そうか、それは結構な事だな」
上から声がした。
「貴様は・・・・・・」
一騎の竜騎士が上にいた。手に槍を持ち残忍な笑みを浮かべている。
「我が名はドボルザーク、トラキア竜騎士団の将の一人だ」
「トラキア・・・・・・。貴様達はまた侵略により武器を持たぬ者達を手にかけるのか。それが貴様等の正義なのか」
「フン、何とでも言え。貴様らの様な連中に我等の事がわかってたまるか」
ドボルザークは続けた。
「わからぬさ。貴様等のような持ちし者に持たざる者の事はな」
「だからといって侵略し多くの者を殺めてもか」
「これ以上の議論は無駄だな。死ね」
槍を構え舞い上がると襲い掛かって来た。これ以上攻撃を出せない、ラインハルトは死を覚悟した。
ラインハルトは襲い来るドボルザークから目をそらす事無く見ていた。彼は表情を変えず来る。今まさに槍が胸を貫こうとしたその時彼の動きが止まった。
「む!?」
ドボルザークはゆっくりと右に倒れていく。そしてそのまま地に伏した。見れば首に矢が刺さっている。
「誰だ!?」
右を見た。そこには矢を放ったばかりの若い茶の髪の騎士がいた。
「勝負に水を差し申し訳ありません」
若い騎士は弓を収め頭を垂れた。
「いえ、こちらこそ危ないところを救って頂き有り難うございます。よろしければ卿の御名前を教えて頂きませんか?」
「ロベルト、解放軍のロベルトです」
騎士は名乗った。
「おお、卿がロベルト殿ですか。ご高名は聞いております」
「貴方のような見事な騎士にそう言って頂けるとは光栄です、将軍」
「・・・・・・ご存知でしたか」
ラインハルトは顔を少し暗くした。
「はい、ですが我々は将軍と剣を交えに来たのではありません」
「えっ!?」
「我々はトラキアからフィアナの民を護る為にこの地に来たのです。あちらを御覧下さい」
ロベルトの指差した方ではトラキアの竜騎士達が全て倒され解放軍が村人達を護る様に位置している。
「我等はレンスターの民衆を護る為にマンスターに侵攻してきたトラキアに宣戦を布告しました。それを受け私は部下を連れこの村に来たのです」
「予めトラキアとの衝突を考えこのフィアナに来ていましたね?」
ラインハルトはコノートでの戦いの日から計って解放軍の動きを読んだ。
「流石ですね、その通りです」
ロベルトは微笑んで言った。
「やはり」
ラインハルトは解放軍の見事な戦略眼に称賛の念を感じた。同時に民を思うセリスの心も知った。
(だがもう少し見たいな。果たして彼等と帝国どちらが正しいか。それからでも遅くはないだろう)
ラインハルトは考え終えた。そしてロベルトに近付いた。
「ロベルト殿」
「はい」
ラインハルトは気を落ち着けた。そして口を開いた。
「暫くの間私を貴方達シアルフィ軍と同行させて下さい。そして貴方達の本当の姿を見たいのです」
「喜んで」
ロベルトはその申し出を快諾した。かくしてラインハルトはフィアナに来た解放軍と行動を共にする事となった。そこで彼はリーフやフィンといった解放軍の将達の明朗で誠実な人柄、解放軍の規律正しい風紀と行き届いた訓練及び装備、彼等を喜んで迎える民衆の明るい笑顔といったものを見る。
後にラインハルトはこの大陸における一連の戦いの回想録を書き残した。この回想録は公正かつ的確に整然とした文章で書かれており歴史資料としても文学作品としても非常に優れたものとして評価されている。そこにこうある。
『あの時彼等の真の姿と民衆を見たいと思ったのは正に天からの声だった。あの時そう思わなかったならば今私はここにこの回想録を書いてはいなかっただろう』
確かに天からの声だったかも知れない。しかしそれを選んだのは彼自身であり彼は自身で輝きはじめたのであった。
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