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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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124部分:雨の中でその一


雨の中でその一

雨の中で
 イシュタル王女の尽力で何とか無事にコノートまで撤退する事が出来たフリージ軍はブルーム王の指揮の下トラキア河東岸に布陣していた。敗れたとはいえその兵力は二十万を越え尚も解放軍より優勢であり守りを充分に固めていた。ブルーム王はコノート城に総司令部を置き解放軍の動向に警戒すると共にトラキアに援軍を要請しそれと連携して渡河し対岸の解放軍を叩くべく多くの船を用意していた。
 睨み合いは数日続いていた。フリージ軍には次第に気の緩みが生じはじめていた。それを解決すべくブルーム王は主だった将達をコノート城へ集め軍議を開いた。会議は何時しかトラキアの動向や今後の戦略、解放軍の状況や動向等に及び夜遅くまで続いた。将達が自らの天幕に入った丁度その時雨が降りはじめた。
 雨はすぐに豪雨となった。将兵達は見張りすら殆ど出さず天幕の中に閉じこもった。
 降りしきる豪雨の中解放軍の騎士団はトラキア河を渡河しフリージ軍の陣に迫っていた。まだ敵軍には気付かれていない。
 先導にはホークがいる。後にセリス、オイフェ等が続く。皆油衣を着馬に轡を噛ませている。
「よし、轡を解こう」 
 馬の口から轡を取った。手に武器を持つ。ホークが上へトーチの杖を放つ。空を光が覆った。それが合図だった。
 柵を切り倒し陣に侵入する。林立している天幕に突撃する。
「何だ?」
 天幕の中で何をするでもなく寝転がっていた兵士が外を覗いた。その時だった。
 解放軍の騎士の剣が振り下ろされる。兵士は血溜りの中に倒れ付した。
 解放軍は一斉に雪崩れ込み次々と天幕を倒し兵士達を斬り倒していった。完全に不意を衝かれたフリージ軍は雨の中逃げ惑うばかりだった。
 ホークが上へ再びトーチを放つ。それが第二の合図だった。
 対岸の解放軍の船が一斉に動いた。次々とフリージ軍の岸や船に斬り込んで行く。
「何の騒ぎだ?」
 城内の居室で地図を開いていたブルーム王が不審に思い家臣達を引き連れ豪雨のテラスに出た。そこで王は己が軍が雨の中壊滅していくのを見た。
「またしてもか・・・・・・。ぬかったわ」
 忌々しげに言葉を吐く。
「だがまだ負けたわけではない」
 キッと目を開く。
「諸将に伝えよ!何があろうとも自身の持ち場を死守せよとな!」
「はっ!」
「数では負けておらぬ、機を見て反撃に転じ奴等をトラキア河に追い落とすのだ!」
 だがブルーム王の叱咤も虚しく戦局は時を経るごとにフリージ軍に不利になっていった。雨の中雷の軍旗は血と泥にまみれ組織立った戦闘が出来ず倒れていった。
「はああっ!」
 シャナンが右に左に跳び縦横無尽にバルムンクを繰り出す。重厚な鎧も鋼の盾も熱く熱したナイフがバターを切る様に断ち切られ倒されていく。雨は血により紅く染まり地も天幕も赤くなっていく。
 解放軍の奇襲は大成功であり勝利の女神は聖なる剣の旗に微笑もうとしているかのようだった。だがその中でも今までフリージ軍を支えてきた歴戦の諸将達は果敢に戦っていた。
「フェトラ、エリウ、行くわよ!」
「ええ!」
「解かったわ、姉さん!」
 今までアーサー、アミッド、アズベルとそれぞれ一対一の勝負をしていた三姉妹が勝負を中断しアーサー達を囲んだ。
「むっ!?」
 ヴァンパと炎を交えていたアーサーの瞳が動いた。ヴァンパは炎を、フェトラは風を、エリウは雷を手に宿らせた。
「まさかっ!?」
 アミッドの瞳がピクッと動いた。そして二人に叫んだ。
「いかん、跳べ!」
 三姉妹の手から魔法が一斉に放たれた。
「トライアングルアターーック!」
 炎と風と雷が獣の如き唸り声をあげ襲い掛かる。三人は間一髪で上へ跳んだ。
 アーサー達がそれまでいた場で炎と風と雷が入り混じり激しい音を立て渦巻いていた。三人はそれを見てあの中にいては命は無いだろうと思った。
「チッ、よけたか。流石にやる」
 ヴァンパが着地した三人に対し右手にまだ炎を宿らせながら口惜しそうに言った。
 
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