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真田十勇士

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巻ノ七十六 治部の動きその十

「共に育ってきただけに弱いのじゃ」
「茶々殿に」
「とても無理じゃ」
「では」
「治部か刑部がおればよいが」
 豊臣家にというのだ。
「果たしてどうなるか」
「治部殿ですが」
「聞いておる、やってしまったな」
「はい、内府殿にくってかかられました」
「場の雰囲気も流れも読まずな」
「悪い癖が出られたかと」
「全く、己を慎むことが出来ぬ者じゃ」
 前田は石田について呆れた顔で述べた。
「あれでは茶々殿を止めるどころか」
「治部殿ご自身をですか」
「止めねばならんが。難しいのう」
「どうにもですか」
「とにかく内府殿は豊臣家に害は為さぬ」
 家康にその考えはないというのだ。
「豊臣家は生きられる」
「無事に」
「それを茶々殿にわかってもらう必要があるが」
「あの方については」
「治部に自重せよと告げよ、そして家を守れる者を見付けられよ」
 前田は落ち着いた顔で家臣達に話した。
「豊臣家にはその様にな」
「はい、お伝えします」
「さすれば」
「頼んだ」
 前田はここまで言うと以後話すことはなかった、そしてこの話から数日後彼もまた世を去った。これで家康に一人で対することが出来る者はいなくなった。
 この状況にだ、家康はまずは。
 瞑目してだ、四天王達に言った。酒井忠次はもうこの世を去っており息子が跡を継いでいる。
 その酒井家次にだ、家康はまず言った。
「惜しい方であった」
「前田殿は」
「うむ、お互い若い頃いや」
 ここで家康は言葉をあらためて言った。
「幼き頃からの知己であった」
「尾張の頃の」
「吉法師殿のお傍におられてのう」
 その頃の前田のことを話すのだった。
「背が高く男までな、槍の腕前が見事で」
「槍の又左殿でしたな」
「その名の通りお強かった、まことに長い付き合いであった」
「それだけにですか」
「残念じゃ、お悔やみの言葉を伝え」
 そしてというのだ。
「お見舞いの品を送るぞ」
「畏まりました」
「そしてじゃ」
 ここまで話してだ、家康は今度は四天王の残る三人に顔を向けて言った。
「これからが肝心じゃ」
「はい、何かと」
「用心に用心を重ねてですな」
「ことを進めますな」
「何度も言うがわしは大坂が欲しいのじゃ」
 あくまで、というのだ。
「人の首は欲しておらぬ」
「では、ですな」
「大坂を手に入れられる為に」
「これより」
「色々手を打っていく」
 こう言うのだった。
「幸い既に又左殿とは手打ちになっておったしな」
「それでは」
「安心して動ける」
 家康が最もしたくない約束を破るということがだ、彼個人も好きではないしそうしたら天下の信を失うこともわかっているからだ。 
 だからだ、家康はこれにも反しないからだというのだ。
「ならばな」
「殿、ではです」
 柳生が家康に話した。 
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