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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第86話「負の感情の世界」

 
前書き
当然あっさり終わるはずがないので、戦いは何話かに渡ります。
 

 








   ―――....どう...して...?



 “闇”に囚われながら、私はそう思わざるを得なかった。

 この世界。私の“拒絶”とジュエルシードが作り出した、“私が死ぬための世界”。

 そこに、誰かが入ってきた。...否、誰かは分かっている。

 .....次元航行艦船、アースラ。そして、それに搭乗する皆。

 ...あの、優輝君も、あそこに乗っている...。

「(なんで...ここ、が....。)」

 理解できない。したくなかった。

 私は誰からも忘れられたはず。そうジュエルシードに願ったはず。

 誰にも認識されず、誰にも知られずに朽ちていく。そのはずだったのに...!

「(...どうして、気づかれたの...?)」

 ...疑問は尽きなかった。助けに来たのが信じられなかった。

 ...そして、()()()()()()()()()と、思った。

「(お願い...私なんか、助けないで...!)」

 既に私は、自分で動こうと思っても、動けない。

 私を覆う“闇”が、そうさせてくれない。

「(お願い...だから....。)」

 だけど、そんな想いを裏切るように、力の波動を感じた。

 魔力ではない、おそらく霊力でもない、そんな力を。

 その力が“殻”を穿ち、何かが侵入してきた。

「(...優輝...君....。)」

 私が“視ている”のは全体の光景。故に、個人個人の姿はよく見えない。

 でも、それでも、優輝君が来たのだと...来てしまったのだと、理解できた。

「(....ごめん、なさい....。)」

 ただ一言、そう心の中で想い、“どうか私に構わず無事に生き残って”と願った。













 ...本当の願いを、心の奥底に押し込んで....。

















       =優輝side=







     ドォオオオオオン!!

「突撃!」

 僕の放った矢が、黒い塊に穴を開ける。
 その瞬間に、突入する全員が飛び出した。

「葵!奏!」

「了、解!!」

「っ、“sforzato(スフォルツァート)”!!」

     ギギギギギギィイン!!

 妨害するように放たれる閃光を、葵と奏が弾いていく。

「...穿て、光よ!」

   ―――“神槍-真髄-”

 僕がさらに光の槍を大量に放ち、穿った穴を広げる。
 そして、そのまま僕らは黒い塊の内側へと突入した。





「....っ!!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 内部に入った瞬間に、僕は御札を前方に投げ、障壁を張る。
 次の瞬間、全員を保護するように張った障壁に黒い触手のようなモノが激突する。

「全員周辺警戒!!散らばるな!二人以上で固まれ!」

 すぐに指示を出し、辺りを警戒する。
 ...まずいな。分かっていた事だけど、内部に入ったんだ。

「そりゃあ、元々拒絶したんだ。追い出そうとするよな...!」

 プリエールでの戦い...それ以上の弾幕と触手が殺到する。
 幸い、それでも障壁は破られそうにない。

「ふははははは!」

「っ、あのバカ...!」

 だが、障壁で守られているのをいい事に、王牙が勝手に攻撃を仕掛ける。
 確かに、生半可じゃない力が込められている武器群なら有効だけど...。

「質量が桁違いだ...!」

 展開された武器群の全てが相殺される。
 あっさり反撃されないように僕も武器を創造して手助けしたのに...だ。

「(先が見えない。まともに相手していたらこちらが先に力尽きるのは確実。なら...。)」

 ...ふと、そこで下の方にあるものに気づく。

「(...森?...いや、待て。この構図は...。)」

 見た事のある光景だと、僕は思った。
 当然だ。この光景は、確か...。

「プリエールの時と同じ...!」

 そう。あの時、プリエールでの戦いと同じような構図になっているのだ。
 なぜなのか、理由は知らないが、先程穿った“殻”の内側にこの世界を作ったのだろう。

「.....。」

「な、なんでこんな所に森が...。」

 僕が地面に降り立つ。やはり、全員が戸惑っていた。

「(“殻”の内側がプリエールでの戦いを再現しているとなると...もう一つ、司さんが纏っている“負の感情”があるはず。)」

 あの時無理矢理入り込んだ事を思い出す。
 おそらく、以前よりもこじ開けるのは困難になっているだろう。

「優ちゃん、入ってきた穴は閉じたよ。」

「...まぁ、塞がるのは当然か。」

 葵が閉じ込められた事を伝えてくる。...まぁ、予想済みだ。
 ...それよりも、先程から攻撃が止んでいるが...。

「....っ、まずい!!」

 すぐさま神力で障壁を張る。しかし、物理的な障壁ではなく、概念的な障壁だ。
 その瞬間、重力が強まるような感覚に見舞われる。

「(精神攻撃...!障壁を張っていなければ、呑み込まれていた....!)」

 僕や葵はともかく、他の皆は危険だっただろう。
 幸い、一過性のものだったようで、すぐに治まった。

「(短期決戦は必須。...うだうだ悩んでいる暇はない...か。)」

「....お供します。」

「あたしも。ついて行くよ。」

 神力を体に纏い、ふわりと浮き上がる。
 隣にリニスさんと葵が並び立つ。

「....全員外でできるだけ攻撃を抑えるように。最優先事項は“命大事に”。これより()、リニスさん、葵の三人で突貫する。」

「なっ...!?」

 全員でも、まともに相手ができない。だからこその一点突破の指示だが、どうやら織崎は納得がいかないようだ。...まぁ、これは同感だがな。
 他の皆もあまり賛同する気はなさそうだ。...無謀だからな。

「....奏、対応は任せた。」

「...わかった。任せて。」

 唯一連れて行かなかった奏に、後の指示を任せる。

「それが最善か?」

「まともに相手をすると時間が足りない。今必要なのはあれを一点突破をしてでも打倒する事と、司さんの説得及び救出。...なら、僕ら三人が一番適任だと思うが?」

 基礎能力が高い葵。司さんと親しい僕とリニスさん。
 全員に一つずつ一点突破の手段はあり、これ以上の適任はいないだろう。

「...これを渡しておく。...頼むぞ。」

「そっちこそ。奏のサポートは頼んだ。」

 クロノから直しておいたジュエルシードを受け取り、葵とリニスさんと目で合図し、僕らは一気に中心に向けて駆け出した。









       =out side=





「...なのは、フェイト、優香さんは私と一緒に砲撃の対処。ヴィータ、光輝さん、帝はクロノと一緒に魔力弾の対処。...残りは触手の対処と防御。」

「全員、あの三人を援護だ!」

 後ろから聞こえる奏とクロノの指示を聞き流しつつ、優輝は速度を上げる。
 葵とリニスの前に飛び出し、一足先に先手を打った。

「術式...“速鳥-真髄-”...!」

 御札を一枚取り出し、神力を通す。
 その瞬間、優輝の体が軽くなり、途轍もないスピードで動けるようになる。

「舞い踊れ...“瞬閃”!!」

     ザンッ!!

 リヒトをグローブ型に、シャルを細身の剣に変え、振るわれた触手や弾幕を全て斬る。
 傍から見れば、優輝の姿が掻き消え、着地の態勢で現れると同時に触手が切り裂かれたように見えるだろう。

「っ...なのは、フェイト、優香さん!」

「“ディバインバスター”!!」

「“プラズマスマッシャー”!!」

「“トワイライトバスター”!!」

「アタックスキル...“フォルテ”!!」

 攻撃が一瞬止んだ瞬間を狙い、奏達四人の砲撃魔法が放たれる。
 その砲撃魔法は、優輝達の道を切り開くように突き進み、そこで触手に相殺された。

「(再展開が早い...!)」

 しかし、相殺になったと優輝は判断する。
 それを、葵とリニスも理解していたのか、術式を手に前に出る。

「術式開放!“呪黒砲”!!」

「“三雷必殺”!!」

 黒い砲撃と、三連続の雷が目の前に広がる瘴気の壁を打つ。
 穴を穿つには至らないものの、明確なダメージが通った。

「は、ぁっ!!」

   ―――“神撃-真髄-”

 すかさず優輝も一瞬で追いつき、神力の籠った掌底を放つ。
 葵とリニスの攻撃を軽く上回る威力が、壁に穴を穿った。

「っ!!」

 しかし、穿った穴から黒い砲撃が飛び、咄嗟に優輝は神力を纏った拳で逸らす。

「これ、は...!」

「優ちゃん!」

「二人とも後ろに!」

 その瞬間、弾幕や砲撃、触手が展開され、それら全てが優輝達に矛先を向ける。
 躱せない。そう確信した優輝は葵とリニスを後ろに庇う。

「...導王流“木葉(このは)流し”!」

 襲い来る圧倒的物量の弾幕と触手。
 それら全てを、優輝は超反応で受け流す。
 まるで風によって木の葉が逸れるように、神力の籠った手で適格に逸らした。

「っ...!はぁっ!!」

   ―――“撃”
   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 一瞬の余裕ができた瞬間に、優輝は神力の衝撃波で迫りくる弾幕を相殺する。
 さらに、すかさずに障壁を張る事で、後続の攻撃を阻む。

「(時間がない。突っ込むか...!)」

 間髪入れずに優輝は両手に神力を溜め、それを解き放つ。

「我が威光を知らしめよう。“神威極光(しんいきょっこう)”!」

 放たれた金色の光が、瘴気の壁を打ち破る。
 それは、ただ穴を穿つだけでなく、瘴気そのものを表面の半分程祓った。

「葵、リニスさん!」

「了解!」

「はい!」

 瘴気の壁に開いた穴から、葵とリニスが突入する。

「っ....!?」

「っ、これは...!?」

 しかし、そこで言い表せないような感覚に見舞われ、葵とリニスは動きを鈍らせる。

「“負の感情”...!まずい...!」

「ぅ、ぁ....!」

 葵と、神降ししている優輝は無事だったが、リニスが危険だった。
 先ほど渡しておいた護符代わりの御札をも上回る“負”のエネルギーが、リニスを呑み込もうとする。

「気をしっかり持って!...司ちゃんを、助けるんでしょう!?」

「っ....!」

 だが、葵のその一言により、リニスの瞳に強い意志が宿る。
 ...そう。リニスは助けると誓ったのだ。だからこそ、ここで朽ち果てる訳にはいかなかないと、“負の感情”を退けた。

「...我が光を以って、瘴気を祓え。“浄化神域”展開!」

 さらに、優輝が神力を開放する事で、“負の感情”の効果を打ち消す。
 これにより、再び“負の感情”に呑まれる事がなくなった。

「突入!」

「「っ!」」

 そして、未だ塞がっていない穴へ、今度こそ優輝達は突入した。





「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

 一方、奏達はと言うと、一時的にリニスと同じように“負の感情”に呑まれかけていたが、優輝の術によって解放されていた。

「....全員、無事?」

「っ....ダメだ!あたしら以外碌に耐えれていない!」

「....。」

 しかし、普段は経験しない精神攻撃だったため、多数が戦闘不能に陥った。
 まだ戦闘が可能なのは、歴戦の騎士であるヴィータとシグナム。
 大人であり、精神が成熟している優香と光輝。経験が豊富なクロノ。
 そして、奏の六人だけだった。

「...優香さんと光輝さんで皆の介護。クロノは引き続き弾幕の相殺。私は砲撃の担当をするわ。...ヴィータとシグナムは遊撃。できれば触手を防いでほしいけど、タイミングを見てフォローもしてほしい。」

「「「「「了解!」」」」」

 苦虫を噛み潰すような思いでありながらも、奏は指示を飛ばす。
 幸い、今は攻撃が一切止んでいたため、隙を突かれる事はなかった。

「(...優輝さんが中に入ったから、アレの防衛機能は優輝さん達に集中しているはず。...たった一度の精神攻撃でこちらの布陣が瓦解した今、迂闊には手を出せない...。)」

 優輝達に攻撃が集中しているというならば、こちらで意識を逸らして援護した奏であったが、先程の精神攻撃のせいでそれができずに歯噛みする。

「優輝さん、どうか、無事に...。そして、司さんを...。」

 奏は生前、一部だけとはいえ優輝から聖司の事を聞かされている。
 また、最後のジュエルシード回収時にも話を聞いていたため、“無事に司を助けて戻ってきてほしい”と、強く願った。







「っ....!」

「はぁっ!」

「くっ....!」

 瘴気の壁の内側に突入した優輝達だが、思いの外苦戦していた。
 瘴気の防衛機能が、優輝達に集中しているのだ。
 例え攻撃は防げても、次から次へと攻撃が飛んでくるため、キリがなかった。

「っ、はっ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

「これはきついね...!」

「どう打開しましょうか...。」

 咄嗟に優輝が障壁を張り、一時的に攻撃を防ぐ。

「神降しもいつ切れるかわからない。元々一点突破のつもりだから、このまま突貫する。」

「...それしかないね。」

「覚悟を決めましょう。」

 時間がない。そのために短期決戦を極める事にする優輝達。
 そのために、葵とリニスが力を集中させ...。

「露払いは任せたよ。」

「...私たちが道を切り開きます。」

   ―――“呪黒砲”
   ―――“三雷必殺”

 黒い砲撃と三つの雷が弾幕の壁に穴を開ける。
 しかし、間髪入れずに触手が襲ってくるので...。

「....散れ。」

   ―――“瞬閃”

 ...全て優輝が切り裂く。

「はぁっ!」

「魔力開放。...穿て!」

   ―――“刀奥義・一閃”
   ―――“ブリューナク”

 攻撃が全て切り払われた瞬間に、もう一つあった瘴気の壁を葵が斬りつける。
 さらに、葵が飛び退くと同時に、リニスが魔力結晶を使って雷の槍を放つ。

「ふっ!」

 二つの攻撃により、瘴気の壁が若干薄くなる。
 そこを狙い、優輝が神力を込めて掌底を放ち、穴を開けた。

「(....?)」

 ...その時、優輝は言いようのない違和感を感じた。
 しかし、動きを止める訳にもいかなく、そのまま穴を神力を用いて広げる。

「行くぞ。圧し潰されるなよ?」

「了解!」

「行きます!」

 こじ開けた穴から、三人はさらに内側へと入り込む。
 その領域は、かつてプリエールで優輝が最後に入り込んだ領域。
 ...司が閉じこもる、瘴気の最深部だ。





「ぐっ....!」

「これは....!」

 内側に入った途端。異物を排除しようと圧迫感に襲われる。

「....はっ!」

 そこで、優輝が神力を発する事で圧迫感を相殺する。

「司...どこですか...?」

「...シュライン。」

〈...今、場所を検出しています...。〉

 最深部に来たと確信した優輝は、シュラインに司の位置を尋ねる。
 シュラインの本体は未だに司が所持しているので、座標が特定できるのだ。

〈っ...!待ってください。これは....!〉

『....どうして....。』

 シュラインが何かに気づき、発言しようとした瞬間、優輝達に念話が届く。

「....司さん。」

『どうして...どうしてここに来たの...?なんで...。』

 約半年振りの司の声は、酷く疲れたようだった。
 そして、それは決して優輝達が来た事を歓迎するものではなく...。

「司。私たちは貴女を...。」

『来ないでっ!!』

「っ...!」

 司の声に呼応するように、衝撃波が優輝達を襲う。
 咄嗟に優輝が神力で相殺したが、その威力は計り知れなかった。

「今のは...。」

『なんで、どうして...どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうして!?』

「優ちゃん!!」

 まるで音波のグラフのように、衝撃波が飛び交う。
 それお優輝が神力で障壁を作り、なんとか凌ぐ。

「......。」

「優輝さん?一体どうしたので...。」

『嫌...嫌、嫌、嫌嫌いやいやイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤァアアアアアア!!』

「っ....!」

 ()()()()()()()ような叫び声を司は上げる。





   ―――...その瞬間、世界が塗り替えられた。





「なっ....!?」

「これは!?」

 イメージで表すとすれば、それは“冥界”が一番近いだろう。
 紫や闇...“負”をイメージする色の瘴気に覆われた空間。
 森や建物もあるが、それら全てが崩壊したように中途半端に色が抜けて存在している。
 そして、そこら中から人魂のようなものが怨嗟の声を漏らしながら纏わりついてくる。

「....どういう、事なんだ...。」

「...優ちゃん。これって...。」

 先ほどから違和感を感じていた優輝と、今気づいたように葵が声を漏らす。

「一体何が...!?司の感情を、何かが浸食している...!?」

 また、主とのパスにより感情を感じ取れるリニスも驚愕する。

「...“別のナニカ”がいる...。」

「それも、司ちゃんの“負の感情”と同じベクトルのものだよ。」

 一言で言えば、司は何かに取り憑かれたようだと、優輝達は感じ取る。

「とにかく、これは危険だよ...!この空間だけ世界そのものを塗り替えてる...!」

「くっ....!」

 刹那、瘴気が弾となって飛来する。それを優輝が神力で切り裂く。

〈マスター!...くっ....!〉

「(ここに来て、別勢力...。これは...。)」

 先程までとは段違いの重圧が優輝達を襲う。
 優輝が神力で相殺を試みるが、“全力に近い”力でようやくだった。

「祟り...いや、それを超える...!これは...本気で神々の領域に達するぞ!?」

「嘘...!?」

 これまで余裕だったはずの優輝の障壁が軋む。
 それほどまでに、“負の感情”による重圧は強大だった。

「司!!」

『私なんて死ねばいい。いなくなってしまえばいいんだよ!皆を不幸にしてしまう私なんか!...今回だってそう!私がいなかったら、こんな事には...!』

「それは違います!」

 嘆く司の声を、リニスが否定しようとする。
 しかし、荒れ狂うような“負の感情”の波の前に、その声は届かない。

「(...全力以上を出すか...。でも、そうしたら何かが...。...仕方ない...か。)」

「っ...!優ちゃん、何を...。」

 罅が入っていく障壁を前に、優輝は一呼吸置く。
 その様子を見て、葵は何かを言おうとしたが、憚れる。

「...同調、草祖草野姫...!」

「優ちゃん...まさか...!でも、神職でもない身でそんな事したら...!」

 “このままでは勝てない”と悟った優輝は、草祖草野姫との同調を試みる。
 ...それは、自身の存在を神に委ねるに等しい。

「...大丈夫...。これぐらいで、“志導優輝”は消えない...!」

「っ...!わかった。どれだけ助けになれるかはわからないけど、あたしも頑張るよ。」

 存在を神に近づける事で、さらに神力を開放する。
 そんな事をしてしまえば、“志導優輝”という存在が意味消失してしまう可能性がある。
 それでも、優輝は勝つ可能性を上げるために賭けに出た。

「これで....!」

 御札を媒体とし、神力で“陣”を発生させる。
 それはその空間全域に広がり、優輝達を襲っていた重圧を相殺する。

「....今!今の内に、司の説得を...!」

 影響が強くなったのか、二人称が椿に近くなる。
 だが、今それを気にする者はここにはいない。

『ごめんなさい、ごめんなさい...!私がいたから...私が転生したから...!』

「違います!司は何も悪くありません!司が気に病む事なんて、ありません!」

『嘘...!嘘嘘嘘!私がいなかったら、ジュエルシードは暴走しなかった!私がいなければ、きっともっと何事も上手くいってた!...()()がいなかったら、お父さんもお母さんも不幸にさせずに済んだ!優輝君だって、巻き込まずに済んだ!』

「司...!」

 リニスが説得しようと声を掛けるが、司は頑なにそれを拒絶する。
 そして、拒絶の声を上げる度に“負の感情”の念が衝撃波となって優輝達を襲う。

「でしたら!私は、プレシアは、リインフォースさんはどうなるんですか!」

『っ....!?』

「貴女がいなければ、私たちは決して救われなかった!貴女がいたからこそ、今の私たちはここにいるんですよ...!」

『それ...は....。』

 涙ながらに叫ぶリニスの声が、ついに司に届く。

「それだけではありません!大きな事だけでなく、小さい事まで...貴女はずっと優しさを持っていました...!その優しさに救われた人もいるんです!それを、忘れないでください...!」

『...ぅ....ぁ....。』

 使い魔としてずっと傍にいたからこそ、リニスの言葉は重かった。
 その言葉が司の心に浸透していく。
 だが....。



   ―――あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!



 ...司の脳裏を過るその声が、それを遮った。

「今、のは....。」

「...聞いた事がある。あれは...聖司の母親の言葉....。」

 司の記憶に強く残るその言葉は、“負”の言葉として優輝達にも届く。

『ぁぁ...ぁああ.....ぁああああああああああ!!!』

「っ、まずい!」

 必要とされる声と、拒絶しようとする声。
 その二つが司の頭の中を反復し、心を揺さぶる。
 感情の爆発が起き、その衝撃波が優輝達を襲う。

「ぐ、くっ...!」

   ―――“護”

 全力で張った障壁によって、何とかそれを凌ぐが...。

『ああああああああああ!!』

「今度は砲撃!?」

 未だ視認できない中心域から、何かが収束するのを感じ取る。

「(自分は護れても、二人は庇いきれない...!)」

 神に匹敵するが故、優輝は庇いきれないと瞬時に判断する。

「ふっ!」

   ―――“神撃-真髄-”

「ごめん!」

「優ちゃん!?何を!?」

「待ってください!司が...!」

 すぐさま外へ繋がる“道”を穿ち、そこから葵とリニスを放り出す。

 ...また、その一撃で優輝は理解した。
 “一度ここから出ると、二人の火力では戻ってこれない”と。

「っ、優ちゃん!」

 外に放り出された葵は、すぐに戻ろうとするしかし、感じ取った膨大な“力”を前に、思わずその足を止める。

「な、なんですか、この魔力は...。」

「まさか...優ちゃん、受け止める気!?」

 優輝が受け止めなければ、その魔力は待機しているアースラにまで及ぶだろう。
 射線がそうなっている上に、そこまで届く事を優輝は瞬時に悟っていたのだ。

「........。」

「....!くっ...!」

 少し振り返った優輝の瞳が、そのつもりだと語っていた。
 それを理解し、また、襲い掛かってきた触手への対処のため、葵は飛び退いた。
 リニスも同じように理解したのか、下がって展開された弾幕を防ぐ。



「....後は...。」

 残った優輝は、今にも解放されそうな魔力を前に、神力を収束させる。

「リヒト、シャル、シュライン。余波に耐えてくれる?」

〈...耐えて見せます。〉

 余波だけでも相当な威力だと判断する優輝は、デバイスたちを少し心配する。
 だが、頼もしい返事が返ってきた事で、優輝は安心する。
 そのまま弓を神力で創造し、“矢”として神力をさらに収束させる。

「...助け出すから、じっとしててよ。」

 膨れ上がる魔力。攻撃が来ると見るまでもなく優輝は理解する。

「....往け、“神滅之矢”!」

 魔力が解き放たれると同時に、優輝も矢を放つ。











   ―――互いに神すらも滅ぼす一撃が、ぶつかり合った。











 
 

 
後書き
sforzato(スフォルツァート)…“その音を特に強く”の意を持つ音楽用語。魔法としては、連続して放つ攻撃の一つ一つのインパクトの威力を上げる。以前にあったフォルツァンドの連撃版。一発の威力自体はフォルツァンドに劣る。なお、両方を兼ね備えたバージョンもある。

速鳥…素早さを上げる術式。かくりよの門でも単体の敏捷性を上げている。
 真髄ともなれば、まさに神速で動けるようになる。

瞬閃…文字通りの速さで何度も斬りつける技。上記の速鳥を合わせて使う事が多い。

呪黒砲…呪黒剣を砲撃にして放つ魔法。ユニゾンデバイスになってから編み出した葵の魔法。

木葉流し…掴もうとして逸れる木の葉のように、攻撃を受け流す技。

神威極光…神力を集束し、砲撃として撃ち出す技。神威の名の通り、まさに神の一撃の如き極光を放つ。神なら誰もが(使おうと思えば)使える技。

浄化神域…文字通り、瘴気などを浄化するための神の領域。神が扱う結界みたいなもので、今回の場合は“負の感情”の効果をなくすために使った。これも神なら誰もが使える。

ブリューナク…雷の魔力を巨大な槍の形にして放つ砲撃魔法。単発ならリニスの扱う中で最も威力が高い魔法。ちなみに優輝の扱うブリューナクとは関係がない。

護…単純に対象を守る障壁を神力で展開する神特有の術。強度は単純ながらも高い。

神滅之矢…神力を収束し、矢として放つ神すら滅ぼす一撃。神降しをした状態での最も威力の高い技。

神降しに早速追加設定が...!
存在を近づける...つまり、今までは優輝が主導権を握っていましたが、その一部を神に委ねるという事です。神降しと言うより、融合が近いですね。(DBのフュージョン的な) 
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