母の罪
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第二章
「完璧な人にね」
「そうなるのね」
「それじゃあ頑張ってね」
「あんたいつもお母さんの話をするけれど」
「目指すなら目指してね」
「そうなるわ」
絶対にとだ、奈央はいつも言いそして実際にその通りにしていた。とにかく恵美は娘の彼女から見ても完璧だった。
しかしだ、ある日曜の夜だった。
食事前にだ、恵美は暗い顔で奈央と夫の慎吾に言った。恵美は顔は少し四角い感じだがはっきりとした目と大きめな口、それに丁寧にブローした黒髪の確かに奈央が言う通り美人だ。背は一六〇を越えていてスタイルもいい。
慎吾は背は一七〇位で面長で丸い小さめの目を持っている、髪は短く顔立ちも雰囲気も全体的に剽軽な感じだ。仕事はチェーン店のレストランの店長だ。
その二人にだ、恵美は目を伏せて言った。
「食事前に言っておくことがあるの」
「?どうしたのお母さん」
「何かあったのかい?」
「私は過ちを犯したわ」
こう言うのだった、自分の席で目を伏せて。
「このことを謝っておくわ」
「過ちっておい」
慎吾はテーブルの自分の隣の席にいる妻に驚きの顔を向けて言った。
「まさか」
「浮気!?」
言葉は奈央が先に言った。
「ひょっとして」
「それは父さんの台詞だぞ」
慎吾は自分の言葉を取った娘に言い返した、何処か鳥みたいな顔で、
「それは取るな」
「あっ、御免なさい」
「わかったらいい、しかしな」
「お母さんの過ちって」
「一体何なんだ」
二人で恵美を見て言う。
「それは」
「一体」
「仕事のミスか?」
「それでクビになったとか?」
「それか?」
「それか変なことをして借金を作った」
「それもあるからな」
慎吾は奈央に言った。
「下手に連帯保証人になってな」
「あるわよね、そうしたお話」
「ああ、それか?」
「じゃあうちにもヤミ金屋さん来るの?」
奈央は目を丸く、普段からそうである目をさらにそうさせて言った。
「ひょっとして」
「おいおい、ヤミ金はな」
「犯罪よね」
「だけれどいるからな」
「トイチとかの」
「ああ、ミナミの何とかさんはまだましだよ」
「ヤミ金何とかくんって本当にいるのね」
「あれはまだ人情が見られるけれどな」
確かに悪質な犯罪者であるが借りる方も借りる方なのでどっちもどっちという見方も出来るであろうか。
「実際はヤクザだからな」
「やばいわよね」
「ヤクザだぞ」
それならというのだ。
「関わるな」
「それが鉄則よね」
「そうだ」
こう娘に強く言った。
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