飛ぶからこそ
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第二章
「一次大戦の時はエースだったしな」
「何でもドイツ軍の戦闘機を二十機撃墜したらしいな」
「撃墜王だったってな」
「レッドバロンとも渡り合ったとかな」
「そんな話もあったな」
一次大戦の時の英雄であったのだ、空のエースとして活躍した。
「それで今は中将になってか」
「もう空を飛ぶことはないにしても」
「今も心は空にある」
「空の騎士ってことか」
「騎士だからこそ」
騎士道というものについてもだ、彼等は話した。
「そうしたことはするなっていうんだな」
「戦争と関係のない場所には攻撃するな」
「一般市民にも手を出すな」
「そういうことか」
「アメリカ軍みたいなことはするなっていうのか」
実はアメリカ軍は伝統的に一般市民も施設も攻撃対象とする、インディアンとの戦いがそうであるし南北戦争でもそうしていた。
「そこは守ってか」
「攻撃するなって言うんだな」
「だからか」
「俺達にしてもか」
「何かな」
ここでパイロットの一人がこんなことを言った。
「古い考えだな」
「騎士道だからか」
「戦争でも一般市民は狙うなっていうのは」
「戦うのは軍人同士だけでいい」
「そう言うんだな」
「ああ、そうも思うがな」
こう言うのだった、ウッズについて。
「司令は古いんじゃないか?」
「古くても守るべきものは守れっていうことか」
「要するにそういうことか」
「司令としてはな」
「そうであれっていうのか」
「戦争に勝とうと思ったら」
これが軍人の究極の目的だ、そしてその為にはだ。
「手段は選ぶなともいうしな」
「ナチスなんか特にそうだな」
「勝つ為には謀略でも騙し討ちでも何でもするな」
「条約を破っても平気で」
「一般市民も狙うしな」
「そうあるべきかもな」
このパイロットは断言はしなかったがそれでもだった、こう言ったのだった。
「勝つ為には」
「汚いけれど勝たないと意味がないからか」
「ナチスみたいなこともありか」
「例え汚くても」
「そうあるべきか」
「そうかもな」
司令はナチスのことを思いつつ言うのだった、だがウッズはあくまで軍事施設や軍需工場だけを攻撃させた。
民間施設への攻撃は行わせなかった、彼のこの姿勢はイギリス政府でも話題になっていてそれでだった。
イギリス軍、空軍だけでなく陸軍と海軍も含めた高官中の高官達と閣僚達はウッズについて首を傾げさせて言っていた。
「軍人としてあるべきだと思うが」
「そこまで意固地なのはどうなのだ」
「確かに我々も民間施設は攻撃することは気が引けるが」
「あそこまで徹底しているのはな」
「別にそこまでと思うが」
「どうなのだ」
彼のその頑なさが問題になっていた、それでだった。
彼等のトップである首相のチャーチルにもだ、疑問を以て言った。
「ウッズ中将ですが」
「あれでいいのでしょうか」
「あくまで軍事施設や軍需工場だけを攻撃させています」
「民間施設には頑としてです」
「攻撃をさせないですが」
「それでもいいのですか」
「別にいいだろう」
チャーチルは自身のトレードマークでもある葉巻を灰皿に置いたうえで言った。
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