二人でないと
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第一章
二人でないと
花屋満月と新月は女流漫才師だ、中学のソフト部のピッチャーとキャッチャーになってからの間柄である。満月がキャッチャーで新月がキャッチャーだ。
同じ高校に通ったが高校ではソフト部と共に落語研究会にも入った、その高校の落研は漫才もやっていたのでそちらにも入ったのだ。
二人共漫才も好きなのでそちらもやってみたのだ、それで二人で漫才をしてみるとバッテリーの時並に息が合っていて。
「うち等いけるな」
「ああ、いけるで」
二人で言い合うのだった。
「ソフトだけやなくて漫才もな」
「こっちもいけるで」
「ほな高校出たらオーディション受けてみよか」
「そうしよか」
芸能事務所のそれにというのだ。
「それであわよくばデビューや」
「お笑いで天下取ったろか」
「メジャーになるで、メジャーに」
「いくよくるよさんみたいになるんや」
二人で言った、新月は痩せていて案山子に似ていて満月は太っていて樽の様だ。その正反対の容姿で話をしてだった。
二人は実際に高校卒業が近付くと大学受験と共に芸能事務所のオーディションを受けた、面接の時に二人で受けると。
「おもろいな」
「ああ、この二人いけるで」
「丁度今はうち女の漫才弱かったし」
「とろか」
「そうしよか」
事務所の方もこう言ってだ、二人の採用を決定した。こうして二人は高校卒業と共に漫才師としての道をスタートさせた。
二人は師匠につきながら必死に漫才を勉強した、そして舞台では必死に笑いを取ろうと狙い頑張っただ。だが。
二年程芽が出なかった、アルバイトで食いつなぐばかりで新月は居酒屋でのバイトをしつつ同じ店で働く満月に言った。
「まあこういうのはな」
「予想してたしな」
満月も言う、懸命に働きつつ。
「漫才師は最初は辛い」
「売れるまではこんなもんや」
「むしろ後々のネタになると思うてやる」
「そうしたもんやっちゅうしな」
だからだというのだ。
「ここは頑張ろな」
「ああ、売れるまでな」
「それで頑張って売れて」
「天下取ったろな」
お笑いのそれをというのだ、自分達の漫才を事務所の許可を得てユーチューブやニコニコ動画で流したりもしたし街頭漫才もした、そうした苦労の介あって。
二人は次第にテレビに出る様になった、二人の息の合った芸はお茶の間でも好評であったがどちらかというとだ。
新月の方が人気が出てだ、マネージャーからもこう声をかけられるようになった。
「自分だけでな」
「番組の出演のですか」
「依頼来てるわ」
マネージャーは眼鏡をかけた中年の女だ、沖田紗奈衣という。紗奈衣は新月に笑ってこう言うのだった。
「出るやろ」
「はあ、けど」
「けど、何や」
「うちだけですか?」
怪訝な顔になってだ、新月は紗奈衣に問うのだった。その度に。
「満月ちゃんへの依頼は」
「あの娘にはないわ」
紗奈衣はこう新月に答えた。
「今回は」
「満月ちゃんも一緒に出して下さい」
新月は紗奈衣に頼んだ、それもこうした話の時は常に。
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