弔花
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第二章
「盗みなんてした」
「わかったら出たら真面目に働け」
「カポネに睨まれずに済んだらな」
「ここを出たらもう二度と悪いことはするな」
「戻って来るんじゃないぞ」
看守達は余裕で笑っていた、彼等は最初からカポネに近寄らないようにしているので楽なものだった。だが。
囚人として入るドックは別でだ、牢屋に入ってもだ。
周りの同僚達にだ、カポネについて小声で尋ねた。
「ここにはアル=カポネがいるんだよな」
「ああ、そうだよ」
同じ部屋になった詐欺で捕まったイリア=コズイレフが答えた。ロシア系の移民の息子だという。いかつい顔の大柄な身体は詐欺師には不向きに見えた。不向きだからこそ捕まってしまったのであろうか。
「あのカポネがな」
「やっぱりそうか」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「何かおかしいらしいな」
コズイレフは大きな身体から低い声を出してだ、ドックに告げた。
「どうも最近のドンは」
「おかしい?」
「とんでもなく怖いって思うだろ」
「数百件の殺人に関わってるんだろ」
このことからだ、コズイレフに言った。
「そして他にもな」
「あらゆる悪事をやってきたっていうんだな」
「そのうえで億万長者になったんだろ」
「ああ、そうさ」
このことはその通りだとだ、コズイレフも答えた。
「まさに暗黒街の帝王さ」
「冗談抜きでやばいだろ」
「以前はそうだったらしいな、ただな」
「ただ?」
「俺の見たところでもな」
コズイレフは牢獄の中で共に床に座っているドックに話していった。
「ドンは大人しい」
「おい、嘘だろ」
大人しいと言われてだ、ドックは驚いて問い返した。
「あのアル=カポネがか」
「御前もそう思うだろ」
「思うも何も数百件だろ」
関わっている殺人がだ、一説には四百五十件はあるという。
「それこそな」
「ああ、それがな」
「違うのか」
「何かやけにな」
コズイレフはドックに語っていった。
「普通に大人しい、いや」
「いや?」
「俺もあの人の話は知ってるさ」
アル=カポネのというのだ。
「有名人だからな」
「ああ、それこそ誰でも知ってるな」
「けれどな」
それでもというのだ。
「このアトランタの刑務所でもな」
「大人しい方か」
「デブとか言われてもな」
カポネの容姿について言った言葉である。
「それでもだよ」
「おいおい、カポネにそんなこと言ったら」
「周りの連中がだな」
「ここにも取り巻きだったのはいるだろ」
「世話になったのとかな」
ファミリーの者だったり世話になった者がだ、カポネは部下やそういった者達への面倒見はよかった。実を言えば小者には手を出さなかった。そうした度量も備えていたからこそマフィアのドンにまでなったのだ。
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