短いせいだった

　　　　　　　　　　　　　　　　　短いせいだった
　一柳大助は顔自体はいい、引き締まった目と口元に確かな眉を持っていて鼻の形もいい。硬派な感じの二枚目だ。
　背もわりかしあり一七五あり引き締まった身体をしている、会社でもスーツが似合う男と評判だ。だがその彼の仇名は。
「よおハゲ」
「ハゲ今日も元気か？」
「相変わらず髪の毛ないな」
「地肌見えてるぞ」
　こう口々にだ、同僚達に挨拶を受ける。そして。
　女子社員達もだ、彼についてこう言うのだった。
「顔はいいのよね」
「スタイルもいいし」
「性格も悪くないし」
「温厚で真面目でね」
「しかも心が広くて」
「仕事もそつなくだし」
　つまり平均得点は高いのだ、だが。
「髪の毛がね」
「ないからね、あの人」
「ハゲてるわね、はっきり言って」
「まだ二十六なのにあれだと」
「まずくない？」
「相当にまずいわよ」
　その髪の毛について言うのだった。
「あのままいったら三十にはね」
「もう奇麗に、よね」
「ウィリアム王子みたいね」
「あの人もお顔はいいのにね」
　その筋での世界的な有名人の名前が出た、ご本人にそうした事情で有名になるつもりはなかったにしてもだ。
「背は高くてね」
「それでも髪の毛は、だから」
「それを考えるとね」
「あの人もね」
「残念よね」
「折角お顔はいいのに」
　とにかく髪の毛のことがというのだ、そして本人もだ。
　髪の毛のことについてだ、その同僚や女子社員達に言うのだった。
「皆言うけれど実際にだからな」
「ああ、御前やばいよ」
「本当に薄いわよ」
　飲んでいる時にだ、彼等は大助本人に話した。居酒屋で大きな席に座ってそのうえでビールをジョッキで飲みつつ話をしている。
「まだ二十六だろ」
「二十六でそれはね」
「前ドラゴンズにいた和田さんみたいになるぞ」
「あの人もそんな感じだから」
「あの人ね」
　その野球選手の名前を聞いてだ、大助も悲しい顔になり言った。
「そういえばね」
「自分でもそんな感じだと思うだろ」
「和田さんみたいって」
「それかウィリアム王子だな」
「あの人みたいっていうか」
「あの人も若くしてきたから」　
　何かきたかは言うまでもない。
「実は僕の親父も祖父さん二人も親戚の男の人達も」
「皆か」
「遺伝のうえでもやばいんだな」
「そうなのね」
「うん、そうなんだよね」
　これがというのだ。
「だから僕もね」
「それで若干二十六でその頭か」
「和田さんかウィリアム王子か」
「そうした感じになってるんだな」
「かなりまずいことに」
「どうしたものかな」
　大助は自分の頭を摩った、髪の毛はかなり短い。髪型は丸坊主それも極端に短くさせたそれに近いスポーツ刈りだ。