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バーチスティラントの魔導師達

作者:書架
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迷い子

 ……時はほんの少し流れ、魔導師の敗戦から一月。


 あの日、軍は「魔導師は発見次第拘束、のち処刑」という臨時令を出したらしい。物語でたまにある魔女狩りのように、この世界にも魔導師狩りなる言葉が生まれた。
 "ノアル"が情報を流したのであろう、枷には魔力を抑える働きのあるオブシディアンが使われるようになり、怪力自慢の少ない魔導師は見つかり次第いとも簡単に処刑されていった。
 また、殺されているはずだったイライヤの娘が生きていることもやはりどこかで知られたようで、軍は血眼になって娘を探しているらしい。

 いつ、屋敷の扉を軍が叩くか分からない状況下。フルビアリス邸ではあえていつも通り、何も気にしない空気を誰もが作り出そうとしていた。
 現在の住人は姉弟の他に、アルビノの"ダリスティン"ユイ、気さくな"ハイヴァン"ウィリアム、そして、
「……おい、そいつは誰だ」
「わ、分からないけど……あまりに可哀想で……」
「拾ってきたと。猫じゃないのよ子供は」
「ごめんなさい……」
 汚れた橙のエプロンドレスに赤いリボン、そして緑の髪を持つ、おそらく魔導師の少女が新しく住人になろうとしていた。
「……おじゃま……?」
「そ、そんなことないよ!と、とりあえず……姉さんには任せらないからユイ、お風呂に連れて行ってあげて」
「失礼ね!」
「何も間違ってないでしょ!お願いユイ!」
「…………」
 不安そうな顔をする少女の袖を相変わらず無表情のユイが引っ張っていったのを見送り、アレンはようやく一息ついた。

「……で、何も覚えてないらしくて。名前もところどころしか覚えてないらしいから、僕が勝手に……」
「えふぃーりあ!」
「……って名前をつけたら気に入ったらしくて」
「こりゃまあ面倒くさい問題をよく持ってきてくれたな、アレン」
「ごめんなさい……」
 少女の風呂上がりを待ち、一番広いリビングルームで少女の処遇を含めた会議を開くこととなった。何分なんの魔導師なのか、そもそも魔導師なのかが怪しいため、保護するかまた捨てるか決める必要があった。人間だとすれば、レリーシェの姿及び場所の漏えいを防ぐために切り捨てる必要がある。
「ま、拾ってきた事情は分かったわよ。ぼろぼろだったなら軍の襲撃を受けた可能性があるわね、傷は?」
「何箇所も斬られたような刺されたような感じだったよ。弓矢による負傷かもしれない」
「本当に矢による傷だったら間違いなく軍だな。さてその判別方法は……どうする?」
 傷の判別方法と問われても。答えに困った少年は押し黙り、俯くほかなかった。
「……困った時のユイね。何か案はないかしら?」
 ずっと黙ったまま議論を見ていた白髪の少女は、しばしじっとエフィーリアと連呼する少女を見つめた。そして、ぱっと椅子から降りるとレリーシェの方へ歩み寄った。そして、耳を指差して手招きする。
「耳を貸せ、と。……ふむ」
 短く何かを呟くと、金髪の司書は一回大きく頷いた。
「なるほど。物は試しね」
 少し待っていなさい、と司書はリビングにある本棚へ向かった。少々吟味して一冊の本を取り出すと適当なページを開き、手をかざしながら何事かを呟いた。
 すると、本の上には装飾用とも言える弓矢が出現したのだ。
「……姉さん?」
「おい、まさか矢でもう一回傷を……」
 戦慄する男性陣を睨んで黙らせ、緑髪の少女を見るように目で促す。
「……!」
 すると、少女は先程までの元気をなくし、弓矢の切っ先を見たまま硬直していた。顔は恐ろしく青ざめてしまっている。
「……確定ね。アレンが見た傷は弓矢によるもの。この子は魔導師よ」
 一方の司書はにこっと笑い、即座に弓矢を本に押し込めた。ユイは緑髪の少女に駆け寄り、頭を撫でてやっている。
「なるほどな。トラウマを逆手に取ったのか」
「覚えていなくても感情は働くもの。あそこまで過敏に反応するのであれば、ほぼ間違いないわ」
 ウィルの頷きに、レリーシェも頷く。アレンはそれよりも、ユイの聡明さが気にかかった。
「ねえユイ、よく思いついたね?」
「……」
 少女は無言で、一回頷く。だが、どことなく、目が寂しそうであった。
 少年は何となく察して少女へ問いかけることはせず、戸棚にあったクッキーを緑髪の少女に勧めた。
 
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