真剣で私に恋しなさい!S~それでも世界は回ってる~
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18部分:第十六話 夏祭りと約束
第十六話です
ではどうぞ〜
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第十六話 夏祭りと約束
「……うむ、それではの」
鉄心は電話を切ると、溜め息をついた。
「総代、どうですか悠里ハ?」
「だいぶ参ってるようじゃ。なにをしても上の空と言っておった」
「無理もありませン。普通の大人でもキツいのに、ましてや子供の悠里ガ……」
「そうじゃな……慰安旅行を兼ねたつもりが、逆効果になってしもうたようじゃな……」
「悠里は正義感が強いですからネ……悪く考えてなければいいですガ……」
「うむ……」
川神院にも悠里の情報は入っていて、鉄心とルーは、京都にいる悠里の身を案じていた。
悠里side
燕ちゃんの救出から3日。俺は鍛錬が終わってから何かをするまでもなく、ただボーっと座ってるだけだった。
ちなみに霧島はあの後『処分』されたらしい。かなりどうでもいいが、とりあえず耳には入った。
松永家の借金は全て払い終えて、晴れて燕ちゃんも自由となり、久信さんも俺が帰る頃には退院の予定だ。
結果は万々歳だし、めでたしめでたしということだが……
「……なんだろうな?この無力感は……」
悠里はたどこかやるせない気持ちになっていた。全員助けるのは不可能だし、ただの傲慢だというのはわかる。だけど、そう思わずにはいられなかった。
「頭は納得してても、心は納得してないのか……?」
やっぱり自分はまだまだ甘い。と思いながら悠里は溜め息を着いた。
「夏祭り?」
その日の夜、燕ちゃんから近くの神社で明後日の夜に夏祭りが開かれるらしい。
「こんな気分じゃ鍛錬どころじゃないから、気分転換でもどうかなってね」
「……うん、いいよ。行こうか」
「じゃあ、決まり!」
明後日は京都で過ごす、最後の夜だ。最後くらい、いい思い出を作りたいしね。
それから2日後の夕方、久信さんを迎えに行った後、俺は燕ちゃんと夏祭りに行くのだが、準備があるとのことで俺は燕ちゃんを待っていた。別に祭りに行くと言っても店を回るだけなので、俺の服装はTシャツとジャージ姿だった。
「お待たせ、悠里くん」
「……え?」
燕ちゃんを見て、俺は思考が止まった。燕ちゃんは白い、朝顔の模様の描かれた浴衣を着ていた。
モモと祭りに行ったりはするが、モモは食べたりする方なので動きにくい浴衣は着ない。見慣れない姿に、俺の思考は停止してしまった。
「ちょっと着付けに時間掛かっちゃった。……あれ?顔が赤いよ悠里くん?」
「…え?あ、ごめん。その……可愛いよ///」
「ふふ、ありがと」
いつも大人しい悠里が照れてるのを見て、燕は内心『可愛い』と思っていた。そんなことを思いながら2人は家を出た。
祭りは近くの神社で行われていた。神社は大きいものではなかったが、近隣の人達が集まって賑わっていた。
「どこから回ろうか?」
「燕ちゃんの好きな所に任せるよ」
「じゃあ、こっちから」
そう言って燕ちゃんの後ろを歩く。だいぶ賑わって来たのか、少し人混みができていた。
ギュッ
「ん?」
いつの間にか、燕ちゃんは俺の手を握って先を歩く。
「…こうすれば離れないよね?」
燕ちゃんは少しイジワルそうな顔をしながらこちらを見てきた。……絶対Sだろ、燕ちゃん。
「ほら、早く行こ♪」
燕ちゃんは俺の手を引っ張り歩き出す。色々な屋台を周り、途中に射的の屋台へ行く。2人分の料金を払い、銃を受け取る。
とりあえず好きな物を狙い撃っていった。落ちたのは3つの景品。
「悠里くん、うまいね」
「わりとやってたから」
今度は大きめのぬいぐるみに狙いを定める。一発撃つと、すぐさま次弾を装填し、すぐに撃つ。さっきより揺れが大きくなったところを、燕ちゃんの弾が撃ち抜いて、ぬいぐるみが倒れた。
「ナイスショット」
「ありがとねん」
倒れるぬいぐるみを見ると、お互いを称える。周りは大物を仕留めた2人へ歓声が上がった。
燕side
「いや〜、盛り上がっちゃったね」
「型抜きで荒稼ぎしちゃったからね……」
今の悠里くんは右手に林檎飴、左手に焼きそばとたこ焼きの入った袋を持ち、頭には狐のお面を付けていた。
「でも、悠里くんと一緒に来れてよかったな」
「なんで?」
「悠里くん、元気無かったし……それに、今日ここに来れるのは悠里くんのお陰だから……」
この言葉に嘘はなかった。本当はあの日、私は人としての扱いすらされないまま、あの男に玩具にされ、死ぬ日を待つような一生を過ごすかもしれなかった。
でも、悠里くんが助けてくれた。この二週間、悠里くんは私を守って、助けてくれた。
だから、落ち込んでる悠里の力になりたかった。悠里くんには、笑っていて欲しかったから……
「だからね、今日は悠里くんに、お礼がしたかったの」
「……お礼?」
「こっちだよ」
私は悠里くんを連れて、お気に入りの場所に連れて行った。
お気に入りの場所というのは、この神社の裏手にある山を登った所にある。
悠里くんと手は相変わらず繋いだまま。なんだかこれが落ち着くから。
「悠里くんの手、大きいね。やっぱり男の子だ」
この手が、何度も私を守ってくれた。何度も助けてくれた、大きくて、温かい手。
「ありがとう。燕ちゃんは柔らかいね。優しい手だ」
「……恥ずかしいこと言うね、悠里くん」
偶にこういう事をサラリと言うあたり、悠里くんって知らず知らずの内に何人も女の子を落としてるんじゃなかろうか?
でも自分で「モテない」って言ってるけど、ホントは自分で気づいてないだけだと思う。
そんな事を考えながら、私は悠里くんと一緒に向かう。
悠里side
「着いたよ。ここがお気に入りの場所」
「うわぁ……」
石段を登って山道を歩くと、そこは木が開けて見晴らしがいい所に出た。そこからは町が一望でき、街の夜景が広がっていた。
「凄い……」
「気に入って貰って嬉しいな」
いつの間にか、この夜景に魅入ってしまう。二週間だけだったけど、この町で過ごした事に感慨深さを覚えた。
「悠里くん」
「ん?」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
なんか照れ臭くなって、少し照れながら言った。夜景を見ていると、燕ちゃんは握っていた手を強く握ってきた。それに答えるように俺は握り返すと、お互いを見て笑った。
翌日、俺は鍋島さんと燕ちゃん、久信さんに見送られ、京都駅に来ていた。
「二週間、本当にありがとうございました」
「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。今日、燕ちゃんがいるのも、また2人で暮らせるのも、悠里くんのお陰だ。本当にありがとう」
「悠里、そろそろ電車だろ。行かないとマズいんじゃないか?」
「あ、はい」
「悠里くん、これ」
燕ちゃんはビニール袋を俺に渡す。中はわからないが、お土産だと言う。
「元気でね……」
寂しそうに燕ちゃんは言う。それを見て俺は少し笑って、頭を撫でた。
「来年、また来るよ。約束する」
「絶対だよ?」
「うん」
2人で約束を交わし、また会う約束を交わした。一年後の夏に再会の約束を。
この後、俺が川神に帰ってからはファミリーの洗礼を受けた。あっちで起きた事はもう知っているらしく、それで落ち込んでいた俺をみんなが励まそうとしたらしい。……なんとも我らがファミリーらしいことだが、ここで俺も踏ん切りが着いた。
確かに悲しい事だったけど、俺には仲間がいる。
『俺は……1人じゃない』
だから、前に進める。
だから、生きれる。
悩むのはやめた。
今は進もう。
未来へ。
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京都編終了です。
次は番外編行ってからの本編です。
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