暁ラブライブ!アンソロジー~ご注文は愛の重たい女の子ですか?~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
私は全てを知ってるの 【シベリア香川】
前書き
早くも半分!本日は”シベリア香川”さんによるおはなしです!
『僕、君のこと……好きだよ』
『うん、私も……!』
ピッピッピッ………と病室に機械音が静かに響いていた。
そこのベッドに眠っているのは1人の青年。
そしてガラガラガラと病室のドアが開いた。
コツコツと音をたてて入ってきた人物はベッドに近づいた。
その人物は静かにベッドで寝ている青年を見つめた。
「ん……ん~~………」
そして青年は唸り声をあげて目をパチパチとした。
「目が覚めた?」
「………真姫……?」
「えぇ、そうよ……」
青年はベッドの近くで立っていた人物……真姫に声をかけた。真姫はそれに反応すると、近くにあった椅子に腰掛けた。
「結構寝たかな?」
「そうね。私の夢、見てたんでしょ?すごく幸せそうな顔だったから」
「そんなわ…」
青年が何かを言いかけると、真姫はギロッと睨んできたので青年の動きはピタッと止まってしまった。
「……あ、バレた?」
「ふふっ、やっぱりそうなのね。
でも嬉しいわ……あなたが"記憶喪失"になってどうなるかと思ったけど、私のことを思い出してくれて」
「う、うん……そうだね」
そんな会話をして、2人は数週間前のことを思い出す。
「早く手術室に運んで!」
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
西木野総合病院は今日も慌ただしく医師達が走っていた。今、事故にあってしまった青年を手術室まで運んでいる。
手術は成功した。だが青年は打ちどころが悪かったのか、記憶喪失になってしまっていた。
その青年の幼馴染みである真姫はショックを受け、大学が終わってからすぐに青年の病室に駆け込んだ。
だが……
「君は……?」
「私のこと……覚えてないの?」
「ごめん……僕と知り合いみたいだけど、全然思い出せないんだ……」
「そう……なのね……」
真姫は残念そうな表情を浮かべると、青年は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「何か、僕について知ってることがあったら教えて欲しいんだ」
「……わかったわ」
真姫は青年にそう言われ、残念そうな表情をやる気のある表情に変えて頷いて、青年のことを話そうと決めた。
「私と貴方は幼馴染みで、付き合っているのよ」
そう真姫が伝えると、2人は今まで通りカップルとして今日まで過ごし、冒頭に戻る。
「真姫がいなかったらどうなってたかわからないな」
「ふふっ、感謝しなさいよね」
「………………」
それから青年は窓の外を眺めて、青空の下で散っていく桜の花びらをボーッと見つめた。真姫はそんな青年を見てから一旦病室を出た。
青年はひらひらと地に舞い降りる桜の花びらを見つめ続けていた。そして、一枚の花びらが風で空に飛ばされていった時、青年を激しい頭痛が襲った。
「うっ……ぁぁ……くっ……!」
青年は頭を抱え、明らか苦しそうな声をあげた。心拍数も平常より早くなり、ベッドサイドモニターもそれをしめして音をたてていた。
その声に気付いた病室を通りかかった看護師は慌てて病室に駆け込んだ。そしてナースコールを押して応援を呼ぶと、青年の専属医がすぐにやってきた。真姫も青年の病室が騒がしいことに気が付いて駆け込んだ。
「一体どうしたのよ!?」
「真姫お嬢様……おそらく、記憶が戻りつつあるのかと」
「記憶、が……?」
「はい。これはそれによる頭痛かと」
「そうなのね……」
「真姫……お嬢様?」
医師は真姫を見て嬉しそうに笑みを浮かべて言ったが、真姫の表情を見て少し首を傾げた。
「よかった……」
だが、真姫が安堵したのか一滴の涙を流すと、医師は先程の表情は気の所為だったのだろうとまた笑みを浮かべた。
そして頭痛が治まってきたのか、だんだんと青年は苦しまなくなって眠りについていった。
「もうこれで安心ですね。心拍数も落ち着いてきてます」
「そうか……」
看護師と医師は青年を見て安堵の表情を浮かべた。
「もう、大丈夫なの?」
「はい。あとは目を覚ますのを待つだけですね」
「そう……」
「では、また何かあったら呼んでください」
医師と看護師は真姫に一礼して病室を去った。
そして医師は歩きながらあることを思っていた。
(そうだ、真姫お嬢様があんな表情するはずがない。あの子は真姫お嬢様の彼氏なんだ……だから真姫お嬢様があんな表情なんてするはずがないんだ。
あんな、"計算外だと思っているような表情"なんかするはずがない……)
「ねぇ、大丈夫?」
真姫は眠っている青年に語りかける。
「ねぇ、忘れない……わよね?」
真姫はさらに眠っている青年に語りかける。
「絶対……忘れるはずがないわよね?私、信じてるから……ね」
真姫は拳を握りしめて眠っている青年の寝顔を見つめた。
「ん……痛い……」
「目が覚めたみたいね、大丈夫?」
青年が唸ってから頭を押さえて呟くと、真姫は優しく語りかけた。
そして青年は真姫の方に顔を向けた。
それから青年は息を吐くように声を出した。
「真姫……"ちゃん"……?」
「っ……!」
真姫は青年の呼び方に変化があり、目を大きく見開いた。
「ん、真姫ちゃんどうかしたの?」
「う、ううん……なんでもないわ。それより、何があったか覚えてる?」
「何が……あったか?」
青年は真姫にそう問われて周りを見回してここが病室だと気が付き、何があったのかを思い出そうと考え込んだ。真姫は少し暑かったので立ち上がって窓を開けた。
「あ、そうだ……」
そして青年は思い出したのか、はっとした表情をした。
「確か……」
「そう……」
「僕は花陽ちゃんに呼び出されて……」
「そう……!」
「そこに向かう途中で……」
「そう……!!」
「事故にあった……!」
「そうよ!思い出した?」
「うん、そうだった!」
「ふふっ、よかった……」
真姫はまた椅子に座って嬉しそうな声をあげた。
「あれ、真姫ちゃん……」
「なに、どうかしたの?」
そして記憶を取り戻した青年は、近くに来た真姫を見て不思議そうな表情を浮かべた。
「真姫ちゃんの目って……そんなに色濃かったっけ?」
青年が不思議に思った点、それは真姫の"目の色"であった。
確かに少し薄めの紫色であった真姫の目は、色が濃くなっていたのだ。
「何言ってるの?気の所為よ」
真姫は笑ってそれを誤魔化した。だが、この青年は騙せない。
「え、でも……」
そのときだった。青年はチクリと何かが首に刺さる感触を感じた。
「ま、真姫ちゃんなに……をっ……!?」
そしてその感触の正体を持っている真姫に、首を手で押さえながら苦しそうにゆっくりと顔を向けた。
「大丈夫よ。今は苦しいけど、すぐに楽になれるわ……」
真姫が持っていたものは……"液体"が入っている注射器であった。
「真姫ちゃん……カッ!クァッ……ガァッ……!」
青年はバタバタと苦しそうな声をあげていたが、その声は息苦しいせいか掠れていた。だが、ベッドサイドモニターがしめしている心拍数は正常であった。それは、真姫が先程それに細工を加えたからであった。
さらに真姫は点滴袋にも注射器を刺して、その中の液体を注入した。
「これで苦しむ時間も減るわよ……フフフフッ……」
「ま、き、ちゃ、ん……なんでっ……!?」
「なんでって……決まってるでしょ?」
そして真姫は青年がナースコールを押せないように、両方の腕を強く押さえて耳元に顔を近づけてその理由を囁いた。
「貴方を私のモノにするためよ……」
「な、にっ……コッ……カッ……!」
遡ること数週間………
この日、青年は花陽に呼び出されて公園に向かっていた。
背後から誰かが近づいてくることにも気づかずに……
そして、青年は横断歩道の前で止まって信号が青になるのを待った。
そこは建物によって道が狭く、人が2人ほどしか立てない場所であった。
さらにその時間帯は車両の交通量も人通りも少なかった。
そして、あるトラックが横断歩道に差し掛かろうとしたそのときだった……
青年はつけられていた誰かに後ろから背中を押されて走っているトラックの前に出てしまった。その青年を押した人物は素早く近くの建物の中に身を隠した。
トラックの運転手はそれに気付いてブレーキを踏んだが、間に合わずに青年と衝突してしまい、青年はその衝撃で飛ばされてしまった。
青年は飛ばされて意識を失う直前、一枚の桜の花びらが空を舞っていたのが目に入った。
そして青年の体は道路に付き、数メートル引きずられた。
さらに時は遡ることその前日……
「凛ちゃん、真姫ちゃん、私……お兄ちゃんに告白しようと思う……」
一枚の桜の花びらが空を舞う中、花陽は凛と真姫にお兄ちゃん……青年に告白しようとしていることを告げた。
花陽と凛は小さい頃から年齢が2つ上の青年に世話になっており、何度か遊んでもらったりしていた。青年は花陽と凛にとっては実の兄のような存在であったため、昔から『お兄ちゃん』と呼んでいた。
「そうなんだ!?凛、応援してるからね!」
凛はいきなり決意したので驚いたが、花陽の恋を応援していた。
実は、花陽が青年を好きだということは凛と真姫は相談を受けていたために知っており、ずっと応援していたのだ。
「えぇ、しっかりやってきなさいよね」
「うん、ありがとう!2人とも!」
花陽は2人の応援に喜んで笑顔を浮かべた。
真姫はこの告白は成功するだろうと思っていた。何故なら、真姫は青年からも恋の相談を受けていたのだ。
その相手は……花陽。青年も花陽のことが好きだったのである。
この告白は成功するかと思われた……が、翌日に花陽は告白することができず、青年は事故にあってしまった。
何故なら………
青年をトラックの前に押し出した人物こそ……花陽と青年の両方から相談を受けていた真姫だからである。
「この際だから教えてあげる。あのときに貴方を後ろから押したのは……私よ」
「なん、で、そんな、ことをっ……!?」
青年は薄れゆく意識の中、自分の体にまたがっている真姫に理由を尋ねた。
「だからさっきも言ったでしょ?『貴方を私のモノにするため』って……全ては私はあなたを愛しているからよ?
あのまま花陽に呼び出されて、花陽からの告白を受けたら、貴方はきっと花陽と付き合うことになった……そうなったら、もう貴方は私のモノにはならないわ……」
「真姫、ちゃんは……花陽ちゃんとの、僕との友情を、なんだと…「私だって付き合いたかったのよッ!!!」
真姫は声を荒らげて叫んだ。
「真姫、ちゃん……」
青年の意識はさらに薄れていっていた。
「だからもうこうするしかない。貴方を殺して私も死ぬ。そしたら、いつまでも、ずっと、ず~~っと、一緒にいられるのよ?」
「そん……な……ま、き……ちゃ……」
そして青年はついに力尽き、動きを止めた。
「ふふっ、逝ったわね……あとは……」
真姫は青年が死んだのを確認すると自分のポケットを探り、折りたたみ式のナイフを取り出した。
「私の手で、貴方を殺した……」
そして真姫はそのナイフの刃の部分を出して、それを青年の手に握らせた。
「だから今度は……」
真姫は自分の両手でその青年の手を掴み、ナイフを自分の首に当てた。
「貴方の手で、私を殺して……♡」
そしてそのナイフは真姫の首筋を深めに斬り、真姫の髪の色のような赤い血が飛び散った。
真姫は青年の手を握っていた手を離すと、そのナイフは持ち手を失って床に落ちた。
青年に倒れ込んだ真姫は意識が薄れ、死が間近に迫っているときにこう呟いた。それは真姫のこの世で発した最後の言葉となった。
「これで、ずっと、あなたと一緒……
愛してるわよ………ダーリン……♡」
そして、力尽き、動きを止めた真姫の背中に一枚の桜の花びらが舞い降りた。
私は全てを知ってるの……
ーーーーウォール暁ラブライブ!企画~ご注文は愛の重たい女の子ですか?~ーーーーー
ーーーー「桜の花びらは全てを知ってるの」ーーーー
もちろん、読者のこともね……
後書き
ありがとうございました!
いかがだったでしょうか?初めてヤンデレを書いてみましたが、はい。
そして、気付かれたでしょうか?この作品、実はただの三人称ではないんですよ。誰視点だったと思います?
それは、最後の部分見ればわかりますよ!
ではでは、私はこれで……
ページ上へ戻る