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真田十勇士

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巻ノ七十五 秀吉の死その四

「やはり治部殿かと」
「あ奴か」
「はい、切れる方ですが」
「意固地じゃからのう」
「どうしてもです」
「そうじゃな、何とかしたいものじゃな」
「あの御仁はどうされますか」
 柳生は家康に石田のことを問うた。
「一体」
「ふむ、ここは泳がせるか」
「そうされますか」
「泳がせてな」
「そのうえで」
「少し炙り出すか」
 家康は柳生に考える顔で答えた。
「あ奴を使ってな」
「天下のですか」
「わしをよく思わぬ者をな」
「炙り出す」
「そうするか」
 こう言うのだった。
「やはりわしをよく思わぬのならな」
「どうしてもですな」
「それならばですな」
「除くべき」
「そうですな」
「思いあたるふしはある」
 そうした者達がというのだ、家康に逆らいそうな。
「あ奴が筆頭にしてもな」
「そしてです」 
 本多正信も家康に言ってきた。
「その治部殿ですが」
「うむ、敵が多いな」
「はい、実に」
「あの気質じゃ」
 石田の性格は家康も知っている、とにかく己を曲げず誰に対しても厳しいことを言う。相手が言われたくないことでも容赦しない。
 その彼の性格からだとだ、家康も察して言った。
「敵も多い」
「むしろです」
「自分から敵を作るな」
「そうした方なので」
「豊臣家の家臣団もか」
「近頃特にです」
「亀裂が生じておるな」
 家康もそのことをわかっていた、彼の目にははっきりと見えていた。
 そしてだ、こう本多に答えた。尚既に四天王筆頭の酒井はこの世を去っていて子が跡を継いでいる。四天王の残る三人も今は席を外している。
「そして間に入る者もな」
「北政所様は政には関わらない方ですし」
「大納言殿もおられずな」
「関白様もですから」
「双方の間に入られるのは太閤様だけで」
「その太閤様もとなると」
「いよいよな」
 豊臣家家臣団の亀裂、それがというのだ。
「そしてそこには」
「入られてはどうでしょうか」
「そうじゃな、そういえば宇喜多家もな」
 五大老の一つに任じられたこの家もというのだ。
「近頃何か揉めておるのう」
「その様ですな」
「考えておくか、敵は炙り出したいが」
「しかし」
「戦もなく天下を傷付けずに済むのなら最高じゃ」
 家康は確かな声で述べた。
「それを狙うか」
「さすれば」
「その様に進めていきましょう」
「これからは」
 天海に柳生、本多が応えた。見れば場に崇伝と本多の嫡子である正純はいない。今は三人を呼んで話をしているのだ。 
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