真田十勇士
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巻ノ七十五 秀吉の死その二
「だからわしに何かあればまつに聞け」
「わかりました」
「ではその様に致します」
「いざという時は」
「奥方様に」
「しかし殿」
家臣の一人がここで前田に問うた。
「また随分と弱気な」
「何かあったらとか」
「言われますが」
「うむ、どうも近頃な」
背筋はしっかりしている、しかしだった。
前田はまた咳き込んでだ、それで言うのだった。
「妙に身体が疲れたりしてな」
「だからですか」
「こうしたことはこれまでなかったからな」
それ故にというのだ。
「用心にとな」
「そうですか」
「うむ、いざという時のことを考えてな」
そのうえでというのだ。
「まつにじゃ」
「そういうことですか」
「うむ」
こう言うのだった。
「左様じゃ」
「そうですか」
「そうじゃ、まあ念の為じゃ」
前田はこう断りもした。
「世の中何があるかわからぬしな」
「そうですか」
「うむ、そしてじゃ」
前田はさらに言った。
「前田家は残るぞ」
「何があろうとも」
「第一に、ですか」
「このことを考えていきますか」
「そうしていきますか」
「その様に伝えた」
まつにはというのだ。
「後はあ奴に任せろ」
「それでは」
「その様にしていきます」
「ですが殿」
ここで奥村が前田に言った。
「是非です」
「わし自身のことか」
「近頃お疲れの様です」
「休めというのじゃな」
「そうされては」
「うむ、しかし話はした」
まつにというのだ。
「後はあ奴がしてくれる」
「左様ですか」
「それならわかるな」
「はい」
「今言った通りにな」
「そうでしたか」
「ではじゃ」
あらためて奥村に言った。
「その様にな」
「はい、それでは」
「わしの後はもう手は打ってあるしな、しかしわしはな」
「お拾様をですか」
「何とかお護りする、最後までな」
「そうですか」
「義理じゃ」
それ故にというのだ。
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