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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  なのはStrikerS ~未来、願い、可能性~

「魔力ランクSSS++!?」

「そんな・・・・くっ・・・・・・」



蒔風となのはを後ろで、ザフィーラが驚愕し、フェイトが一瞬くじけそうになる。


今二人を守っているのは、ザフィーラの盾と、フェイトの防壁だ。
ゆりかごの複合砲撃をザフィーラが受け止め、それによって周囲に巻き散らかされる衝撃からフェイトがなのはと蒔風を守っていた。


「だが・・・・だったらこの俺が受け止められているのは、どういうことだ!?」

「この攻撃はゆりかごのもので、「奴」の攻撃力とは無関係だから・・・だと思う」



そう、この砲撃をザフィーラは、ギリギリとはいえ、何とか受け止めていた。

確かに、フェイトが推測した原因も正しい。
この砲撃はあくまでゆりかごのもので、「奴」の力の大半は、あくまでゆりかごの制御に回っている。


だが、それでもおかしい。
あの蒔風がゆりかごの総攻撃の三分も耐え切れず押し込まれたものを、ブーストをかけているとはいえ、ザフィーラが耐えられるのか。




『疑問か?呑気だなぁ・・・・・・ま、あくまで蒔風は防御よりも攻撃のほうが得意な男だ。そこな守護騎士のほうが、守りのほうは上だろう。それにだな・・・・・くくっ、このゆりかごの製造理由を考えれば当然といえば当然なのだよ』


「ゆりかごの製造理由やって?」

「聖王を守るためのものでは・・・・」



「奴」が語る。
よほど面白いのだろう。その声は若干ながら弾んでいた。




『そいつは表向き。どんな時代にも表向き裏向きってのがあるみたいでな。そこの男はゆりかごは勝てない。このゆりかごは・・・・・・翼人との戦闘を想定して作られたものだったからな』




「なに!?」




「奴」の言葉に、一同が驚愕する。
その言葉に驚く一同をさらに面白がってか、「奴」の言葉は進む。









「奴」は世界構築を計算するうちに、ある程度の事実を知り得る。
今回のこれもその中にあったものだ。











はるか太古。
それは古代ベルカでのおとぎ話。

翼人が無数の世界を破壊し、消滅させたというものだ。
だが、どんな怖いものでも所詮それはおとぎ話である。かみなり様が来たらおへそをとられるだとか、恐怖の大魔王がやってくるだとか、そんなものと同程度と考えられていた。
しかもアルハザードの時代において、壁画に一文だけ書いてあったらしいぐらいの伝承しかない、そんなもの程度の翼人を本気で信じる者などおらず、ほとんど誇大妄想として扱われていた。





しかし、それは事実だった。
しかも、昔のことではない。




この世界は多重世界だ。何かの拍子でほかの世界の情報が流れてくることも、珍しくはない。
そしてこの話もそうだった。


いくつもの世界、その数十一。
それだけの世界が、確かに破壊、消滅させられていた。




それを事実だと知っていたのは、当時の王たちとその臣下数名だけ。


世界を破壊して回る翼人。その数はすでに十を超えていたのだから、脅威というには十分すぎる。
そうでなくともその時代は戦乱の時代であったし、力はあれど、世界を滅ぼす伝説の翼人などにかなうはずもないということは、彼らにはわかっていた。




彼らは決して慢心などしていなかった。いや、もしかしたら、ただ単に怯えていたのかもしれない。自分の世界が破壊されることが。




だからこそ、彼らは絶対的な戦力のため、「聖王のゆりかご」を作り出した。
王を守り、そして、王自らゆりかごとともに戦場へ出て、その翼人と戦うことを目的とされて。





しかし、結果的に言えばゆりかごは一度たりとも翼人と戦闘をしなかった。それどころか、目の前にすら現われず、ほかの世界で観測者と呼ばれる者たちに打倒され、次元の狭間に封印されたのだそうだ。




だが、せっかく作りだしたものを活用しない手はない。
古代ベルカはその力を以って戦乱の世を正し、平和へと導いた。


逸話としてあった世界を謁見して滅ぼした、というのは、この翼人と同等か、それ以上の力を持って作られたことによって噂されたためについてしまった尾ひれだ。


実際にはそんなことなどはない。




そうして、役目を終えたゆりかごは封印された。
またいつか、翼人の脅威に世界が晒されたとき、誰かがそれを以って救うという願いを載せて。

ちなみにAMFというのは、翼人の力を弱体化させるために作られたシステムだ。
翼人の使う力が魔力だと思って作られたものだったが、翼人は別に魔力しか扱えないわけではない。
結果的には無駄な機構になったのだが・・・・・・





『だが、発想としては悪くはない。それでな?ここに俺が持ってる蒔風のデータを組み込めば面白いことに・・・・・アンチ・マギリンク・フィールドは見事、アンチ・マイカゼ・フィールドとして作用したというわけだ』




そう、この男はゆりかごに組み込まれていたAMFのプログラムを書き換え、その対象を蒔風一人に向けていたのだ。


なるほど、確かにそれならば、蒔風に耐えられずザフィーラが耐えられたのも納得がいく。
もともと防御にはそこまで秀でていないのに、さらに制限までかけられては、蒔風も大きく弱体化する。





『こうして!!聖王のゆりかごはついに、翼人兵器として完成した。さて・・・・・そろそろこっちの戦力のスキャンも終わったんじゃないのかな?俺のランクは結構上らしいしな?勝ち目は・・・まあないと思うぞ?』

「ッ・・・・・」



「奴」のその言葉に、はやてが唇を噛む。


さっきの「奴」の力の報告で、すべての管理局員はうなだれてしまっている。
その実状が、今の苦境を作り出しているといってもおかしくはないだろう。




『こっちの勝率はすでに99%を数えている!!!どうだ?まだやるか管理局諸君!?いやいや、俺はお前らが嫌いなわけじゃあない。そこは安心してもいいぞ、うん』






「奴」が納得するように言う。
もちろん、この間にもはやてやシグナム、フォワードたちはゆりかごに総攻撃を仕掛けていた。

掛け値なしの機動六課総戦力。


しかし、それを受けてもなお、ゆりかごは墜ちるどころか揺れもせず、延々と砲撃を撃っていた。



「グッ・・・・おぉぉおおおお・・・・・」

「ザフィーラ!?大丈夫!?」

「大・・・・丈夫・・・だがっ・・・・これは・・・・・ッア!!!」



険しそうな声を出して、ザフィーラがフェイトに応える。
ここまで耐えられているのは、ひとえにシャマルとキャロのブーストのおかげだ。

そのため、二人は戦闘に参加できず、また、攻撃を仕掛けている方のブーストもかけられない。



が、いくらなんでも限界だ。



ついにザフィーラの防御結界にひび割れが入り始めてきた。




「ぐ・・・・おおおおおおおおおおおお・・・・・・!!!!!」

「ザフィーラ!!!!」


「だめ・・・・これ以上持たない!!!」

「なのはさん!!フェイトさん!!!!」


シャマルの額にも汗がにじみ、キャロが泣きそうな声を出して二人の名を呼ぶ。



だが、もはやどうしようもないのだ。







機動六課のメンバーは、今や誰もがエース級だ。

そして、今戦っているのがそのエース級であるという事が、なによりも管理局員たちを落ち込ませる。






あの人たちがあれだけやって、それでも落ちないゆりかごに、一体どうやって戦えばいいんだ?



それは同じ起動六課でも、アースラに残ったロングアーチスタッフにも同じことが言えた。
アースラのモニターには「奴」の数値と、現状でのこちらの戦力が現れている。







絶望、諦め、悲哀





世界は終わる。





そんな異常な日常を、当たり前のように享受できそうな心境。






誰もが挫けた。
もう出来ることなんてないんだと。


誰もが泣いた。
守りたいものが守れない。


誰もが後悔した。
ああ、自分にもっと力があれば。


誰もが恐怖した。
まだ死にたくない。


誰もが諦めた。
想いだけじゃ、どうしようもない。










そしてそこに












一人の男の怒声が響いた。






『なにをやっとるかバカモンどもが!!!!!!』





「「「「!!!???」」」」






『貴様ら、それでもこの地上を、管理世界を守護してきた戦士たちか!!!騎士たちか!?お主らの正義は、それでいいのか!?立て!!!奮えろ!!!あんな子娘どもに、すべてを丸投げにして、貴様らは恥ずかしくもなんともないのかこの腑抜けが!!!!』







戦場の、すべての局員の通信網に、太い男の声がビリビリと飛び出してきた。






「こ・・・・この声は・・・・」

「ゲイズ中将!?」



誰が言ったのだろうか。


そう、声の主は、レジアス・ゲイズだった。

かの地上の英雄。地上世界を守り通して40年。
魔力も無く、力も無く、しかし、それでも理想と信念で走ってきた男。


その男が、全管理局員に渇を叩き込んでいた。




『なにをのそのそと寝っ転がってる!!!とっとと起きて、戦わんか!!!艦隊も何をしている!!!!そんなところで怯えてどうする!!!でかい図体持っているなら、せめて皆の盾になれ!!!!二十も生きていないあの魔導師たちが、あれだけ必死になって諦めんというのに、貴様らは恥ずかしくないのか!!!相手が強いか?恐ろしいか?貴様らの守りたかったものは、そんな物に負けるほど、どうでもいいものだったのか!!!!!』



その言葉で、全員の脳裏に守りたいものが浮かび上がる。





名誉
それでもいい。十分立派だ

家族
それでもいい。十分立派だ


それでもいい。十分立派だ

財産
それでもいい。十分立派だ

平和
それでもいい。十分立派だ

正義
それでもいい。十分立派だ





なんでもいい、守りたいものはおまえらにあるか。
それがあるなら、十分立派だ。




そしてあるのなら、立ち上がれ。
ここで不貞腐れてる場合じゃない。



あいつはただの強奪者。泥棒、強盗、盗人だ。
だったら、こっちに正義がある。


自分たちの守りたい大切なモノを守るなら、間違いなくこちらが正義だ。




そして




正義は、勝つ。










正義は、勝たねばならんのだ。






『ワシには、戦う力などはない。こうして、貴様らに言葉を送るだけだ。だが、それでも!!必ずやるべきことはあるのだ!!!それを教えてくれた、たった一人の友のために、貴様らに叫び続けてやる!!!!』




戦え!!!!!!



レジアスの言葉は、まさに英雄のそれだった。
もしこれが、はやてやクロノ、仮に管理局トップ、元帥の言葉であっても、皆の心には届かなかっただろう。


だが、この男の言葉は、なによりも強く、芯があった。


それこそ、英雄。
力ある物が英雄になるのではない。



どんなに絶望的な状況でも、皆を立ち上がらせることのできる者。




それが、英雄たる力である。



そしてこの英雄の、過去と現在と、友の正義を芯とする彼の、その言葉に、突き動かされない者など、誰一人としていなかった。






しかし




『ほう・・・・中々にいい演説だ。だがな、力の差は歴然だ。どうする?オレの勝率は99%!!!貴様らに勝率は1%程しかない!!』


「奴」が叫ぶ。


その言葉に、心がくじけそうになる。
それは今やはやてやフェイト、なのは達機動六課のメンバーもそうだ。



もう限界だ。




すべての者がそう、思ってしまった。






そしてついに







「ゴガアアアアアアアアああああああああッッッ!!!!!!」

「ッ!!!ザフィー・・・・・」

「キャアアアアアアアアアアアア!!!!!」



ザフィーラが弾き飛ばされ、倒れている蒔風の身体を支えるなのはの元にまで転がってきた。
そして迫りくる砲撃に、フェイトが思わず叫び声をあげてしまう。


「あきらめちゃ・・・・・ダメ!!!」

「それを教えてくれたのは・・・・フェイトさん達じゃないですかッッ!!!」




しかし、それはシャマルとキャロが押しとどめていた。
が、いくらなんでも無茶だ。


もう十秒も持つまい。





だが、その状況を見て、六課の戦いを見ていた局員皆が思った。




何故諦めないのか。




この絶望の淵において、どうしてまだ踏みとどまっていられるのか。




その疑問は、誰かが声に出したわけではない。
だが、まるでそれが聞こえたかのように、なのはがポツリと、涙をこらえながら答えた。





「待ってる、から」

『?』

「ずっとずっと、待ってるから。絶対に助けてくれる人。私が憧れ続けた人。私が・・・・・大好きになった人。その人が、いてくれるから」


『・・・・高町ィ・・・・・』


「どんな絶対的な絶望の中でも、この人の翼が、力強くそれを吹き飛ばしてくれるから!!!!!だから、私たちを助けて・・・・・私も、一緒に戦うから!!!守られるだけは、嫌だから!!!!!」


『なのはァァアァァあああ!!!!!!』





「助けて、目を覚まして・・・・・・舜君!!!!!!!!」






ドォウ!!!!!





そしてついに、防壁が完全に消失する。
全員が襲いかかるであろうその衝撃に身をこわばらせ、目をつぶり、なのははその腕に蒔風を抱きしめた。






















だが





「大丈夫・・・・・負ける気はないさ」

「え?」





パァン!!!!!





その砲撃は、霧へと消える。
ゴォン・・・と、ゆりかごの巨大な船体が微妙に揺れた。




そして男が静かに、立ち上がる。




『な・・・に・・・・?』

「願いって、やっぱすげえな・・・・・・・ホントにこれ、たった数人だけの願いかよ・・・・・これだけ想われりゃ、十分十分」

『まだ・・・・これだけの力を・・・・・・』

「これだけの力?そんなもの俺には無かった。まったくな。だが、こいつらがくれた。忘れているようだな?オレの力を。弱体化させたところで、意味はないさ」






その背に銀白の翼をはためかせ、男が宙に舞い上がる。






「勝率99%?ああ、そりゃこっちの勝率は1%だな。勝ち目はねえよ。よく「1%でも可能性があれば、不可能じゃない」なんて言うけどよ、ンな事ねえよ。百回やって一回だぞ?たった一日乗り越えるために、百年かけたカケラの少女と神様がいたっていうのに、そんな簡単に一回で1%を呼び寄せられるわけねえじゃねえか」




その言葉に、なのはの肩が震え、皆が落胆の渦に落ちそうになる。
しかし、この男は





「だが・・・・・可能性の上限が100%だと誰が決めた・・・・・・!!!!!」





蒔風舜は、それでも自信満々に言う。
まだ勝ち目はある、と。


その言葉に皆が顔を上げる。
そして、聞いた。




「百を超え、二百を超え、どこまでも伸びていくのが可能性(未来)だろ!!??そうやってどこまでも計り知れないのが可能性だし、未来だし願いだ!!!!そこに「百」なんてつまらない数字を当てるんじゃない・・・・・そんなに数えられるもんなのかよ!?そんなにちっぽけなのかよ未来ってのはよ!!??違うだろ!?お風呂で数えられるような、そんな数字じゃないはずだ!!!!可能性は無限大だ。数えきれる99%がなんだよ!!!!たかが99じゃねえか!!!!!そんなもんに負けるほど、俺たちの未来は、小さくない!!!!!!!」




ドォウ!!!!!




背中の翼が肥大して、巨大に羽ばたき、輝きを放つ。



そうだ、可能性に上限などない。
それはみんな知っていること。

今までだって聞いてきたはずだ。


何故それを忘れていたのか。




何故勝手に未来を決めたのか。そんなこと、出来るはずもない。




どこまでも、どこまでも強く輝く翼が、全員の目に止まって行く。





願いの翼、銀白の翼人




願いが叶う。願いは叶う。



だって、未来に、可能性に限界は無いのだから!!!





「可能性は未来、その未来を想う心こそ、我が翼が司りし、願い!!!俺の名は蒔風舜。心してかかってこいよ・・・・俺の翼は、願いの翼!!!!未来は、誰にも撃ち消せやしない!!!!」





ゴォウ!!!!




「安心しろ・・・・・・必ず勝てる!!!あっちの勝率が99なら、こっちの勝率は、無限大なんだからな!!!!!!」











全身の産毛がざわつき、翼が猛る。



すでに、絶望に染まった者はいない。




すべてのものに、願いが戻った。







銀白の翼、ここにあり。




その翼こそ、勝利たる、願いの翼なのだから!!!!!






「さあ、勝ちに行こう!!!。おれ達の勝因は、今ここにある!!」








to be continued
 
 

 
後書き
アリス
「もう絶対大丈夫じゃないですか?この翼。どうやったって負けませんよ」


いえいえ、実はそうでもないです。
レジアスさんの演説で、皆の心にわずかながらの希望が生まれたからこそ、蒔風は立ち上がることができ、そしてそこから彼自身によって希望が膨れていったからあそこまで行けたんです。


アリス
「あれ?じゃあ今回のMVPって・・・・」


そこまでの時間を稼いだザフィーラとレジアスさんです。



アリス
「おおう・・・何とも渋いお二人が・・・・・」


まあそんなとこ。
さて、ではどうぞ!!!



アリス
「次回、蒔風、ついに、ついについに!!!「奴」に、世界に、大・逆・転!!!!」

ではまた次回















今は前だけ見ればいい・・・信じる事を信じればいい・・・
愛も絶望も羽根になり 不死なる翼へと
甦れ僕の鼓動

挿入歌 「Pray」水樹奈々  より 
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