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図書館の夏

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第一章

                  図書館の夏 
 品川唯は黒髪を長く伸ばしていて楚々とした顔立ちである。眼鏡がよく映えている。クリーム色の半ズボンと紺色のティーシャツが小六の成長しだしている身体によく似合っている。足は膝までの黒いソックスがある。 
 その唯が家を出る時にだ、彼女がそのまま成長した様な外見の母の雅が聞いてきた。
「今日も図書館に行くの?」
「うん、そうするわ」
「そうなのね」
「もうすぐでね」
 唯は玄関でシューズを履いていたがそこに来た母に話した。
「百冊読めるのよ」
「この夏休み目標にしてたわね」
「それがやっとなのよ」
 唯はにこりと笑って述べた。
「読めそうなの」
「頑張ったわね」
「本好きだし」
 だからとだ、唯は雅に話した。
「本当にね、ただ」
「ただ?」
「江戸川乱歩面白くて」
「少年探偵団ね」
「そう、二十面相が出るシリーズね」
 それがというのだ。
「どんどん読んでいったの」
「図書館で読んでいたのね」
「あとアルセーヌ=ルパンのシリーズも」
 こちらもというのだ。
「読んでてね」
「それでなのね」
「そちらが大半なの」
 読んだ本の中でというのだ。
「実はね」
「それはいいことね」
「いいことなの?」
「お母さんも子供の頃読んだわ」
 雅は笑ってシューズを履き終えた娘に話した。
「少年探偵団もルパンもね」
「そうだったの」
「ええ、男の子みたいだけれど」
 こう前置きして言うのだった。
「よく読んだわ」
「そういえばどちらもよく男の子も読んでるわね」
「そうでしょ」
「そう、けれど面白かったからよく読んだわ」
「確かに面白いわね、どちらも」
 だから唯も読んでいるのだ、実は彼女にしてみても図書館ではどちらのシリーズも全巻揃っているのでそちらが目当てで行っている節が強い。
「読んでいて病みつきになる位に」
「本当に好きになったみたいね」
「自分でもそう思うわ」
「じゃあ今日も」
「うん、図書館に行ってね」
 そしてと言うのだった。
「読んで来るわ」
「そうしてきてね」
「あと少しで百冊だから」
 唯はあらためてだ、このことを言った。
「読むわ」
「頑張ってきてね、いえ」
 雅は娘のにこにことした顔を見てだ、そのうえで述べた。
「楽しんできてね」
「うん、読むのが楽しくて」
 実際にだ、唯は母ににこりとした笑顔を返した。
「仕方ないし」
「それじゃあね」
「楽しんでくるのね」
「そうしてくるわ」
「じゃあ行き帰りの道には注意して」
 母親としてこのことを言うのを忘れなかった。 
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