とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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最終章 無明編
第68話 派閥
前書き
すみません!
最近風邪で寝込んでしまい、更新が遅れてしまいました
体調管理の甘さを実感しました
申し訳ないです
かつての傷跡を遺すかのように学園都市にある折れた巨大な鉄骨が剥き出しの電波塔に語り部である大人のフウエイが軽くよじ登り狭い世界を見渡す。
雲行きは怪しくなり、雨がしとしとと降り始めた。
焼け焦げた痕跡をなぞりながらフウエイは下唇を噛み締めて外套の裾を握り締めて悔しさを露わにしている。
風が強くなる。
夏にも関わらずに刺すように鋭利な風圧に彼女の髪は乱雑に乱れ始める。
「ここですね......あの忌まわしい企ては」
必死に昇って来ている観客の手を掴みながらフウエイは一筋の涙を零した。
?
観客の機微に気付いたのかフウエイは涙を拭うように指を動かした。寄れた袖から木造の人形のような線が幾本も伸びている。
「おかしい......ですよね......人形なのに傀儡なのに泣くなんて......」
「すみません......次のお話なのに......紹介しなきゃ......ですよね」
止めどなく流れていく涙を堪えながらフウエイは腫れぼったい顔で泣きながら笑う。
「ここまで読んでくれてありがとうございます......実はこの物語は次の章で最後とさせて頂きます」
フウエイは懐から出した色褪せた赤い髪の人形を眺めるとギュッと抱き締めた。
まるで何かを喪ったかのように愛おしく力強く。
「......いいえ多くは語りません......勇気ある読者様は進んでください......それでは」
赤い髪の人形の間から真っ赤に光る万華鏡写輪眼を覗かせると視界は暗転した。
最終章 無明編
暗黒が支配した夜の学園都市のとあるビルの一室に洋式便器の玉座に脚を組んで座る白髪の少年がいた。
白髪の少年の顔には幾重にも重なったような木の根っこのような面をしており、不気味な程正確に開けられた穴からは紅く光る瞳が少年の薄気味悪さを倍増している。
絶対能力進化(レベル6シフト)計画の時にトビが一瞬の隙を突いて奪い取った元学園都市第一位『一方通行(アクセラレータ)』の姿だった。
神妙な面が蛍光灯に照らされて強い影を投影している。
「さて今日の議題は固めのウンコと下痢ウンコの排泄の違いでも......」
「馬鹿な事ばっか言ってんじゃないわよ。一応トップなんだから」
グルグルの面を着けたアクセラレータにカルテで机を叩いて突っ込みを入れる黒髪ツインテールの黒ナース姿の少女が呆れたように言った。
黒髪ツインテールの少女の名前は『警策看取(こうざくみとり)』と言いゼツ一派の少なからず共鳴した大能力者(レベル4)だ。
「オイラに取ってみれば重要っすけどね~」
「アンタの下劣さには飽き飽きするし、知らないわよ!それに今回の身体計測では面白いデータが挙がっているし」
カルテに書かれた人物を眺めるとトビに見せるように前に出した。
赤砂サソリ
学園都市暫定第一位
能力
傀儡、心理掌握、高エネルギー体の生成......
「んで通り名が『神の傀儡師(エクスマキナ)』ねぇ~。随分と仰々しいネーミング」
「サソリ先輩っすね~。早く消えてくれれば仕事もしやすいっすがね~」
と洋式トイレ型の王座に寄りかかっているとメイド姿のミサカがやって来て、トビの前にチョコ味のソフトクリームを警策にはレモンティーを出していく。
「こちらで宜しいですか?とミサカは確認します」
「待ってたっすよ~」
「ホントにこんな奴の下に居るのが嫌になるわ~。そう思うでしょ?天道」
テーブルに並べられたレモンティーがもう一つあり、警策がカップで指差した先には、大きな窓から外の夜景を見下ろす純白の制服に身を包んだ女性が立っていた。
「私は目的を達成する事だけだ」
振り返った少女の左眼に輪廻眼が埋め込まれて耳に黒いピアスをしている。
少女はゆっくりとテーブルに近付いた。
片手に持っているのは自分のトレードマークだったカチューシャが握られて、ソバカスだらけの顔で冷たく言い放った。
「あらそう、別に止めないわよ。アンタの計画も面白そうだしね」
純白の制服を着た女性は振り返りながら持っていたカチューシャを頭に乗せた。
せんせー
木山せんせー
かつて平仮名表記だった幼さを隠し、溢れ出てくるチャクラを冠する復讐者となった彼女は床にヒビを入れた。
「貴女に復讐しますよ......木山先生」
測定不能(レベルエラー)
天道
「うわっと......危ないじゃない!溢れたらどうすんのよ!?」
「ハハハ、頼もしいっすね~。そうっすよ......木山も出世に目が眩んで純粋な君達を売ったんす!今頃は贅沢三昧、君達の事なんて微塵も考えていない女っすよ~」
ゲラゲラと笑いコケながらトビはチョコ味のソフトクリームを面をズラして舐め始める。
「......」
「そんな君達に力を与えて復讐の機会を与えたっすよ......警策、天道......君達の力でこの学園都市を終わらせるっす」
テーブルの上に脚を投げ出して指を組む動作をした。
そこへ勢い良く扉が開いて息を乱しながら布束が汚れだらけの白衣で転がり込んできた。
「はあはあ、ど、どういう事だぁぁー!?」
「ん?」
握り締めた計画書を布束は前に突き出しながら肩で息をして敵意剥き出しの状態で呆けている扉を睨み付けた。
「元々妹達計画の発案者が、あ、アンタになっているわ!せ、説明をして......」
しかし、次の瞬間には計画書はトビに奪い取られて、指から発した火花で燃やした。
「!?」
「ワザワザ届けてくれてご苦労さんっす。出向く手間が省けたっすよ」
「!!あ、アンタが黒幕かぁぁー!」
布束は拳銃を取り出すとトビの面に狙いを定め始める。
「へー、じゃあ」
トビは指を鳴らすとメイド姿のミサカが盾になり腕を広げた。
「あ、ああ......」
布束の銃口が震え始めた。前に心の底から助けたかったクローン人間が恐怖を持たずに真っ直ぐ布束を見詰めている。
ひ、引けない......
弾けるはずがない......
私財を投じてマネーカードを路地裏にバラ撒いて残虐な実験を妨害していた。
計画が別の計画に引き継がれた際に呼び戻されて、クローン体の外部演習のためにビルの屋上に出た時のクローン体の一言が全てを変えた......
外の空気は甘いのでしょうか
辛いのでしょうか
外部の空気はおいしいと教わりました
様々な香りが鼻腔を刺激し胸を満たします
一様でない風が髪をなぶり身体を吹き抜けていきます
太陽光線が肌に降り注ぎ、頬が熱を持つのが感じられます
世界とは......こんなにもまぶしいものだったのですね
布束はその時から彼女達が造り物ではなく、ありのままの世界を描写する人間らしい姿に閉口してしまった。
だから、彼女を助けたいというゼツ達の言葉を鵜呑みにした結果がこれだった。
「み、見ないで......何も理解していないような目で私を見ないで......」
このまま弾丸を発射すれば身体は裂かれ、血が飛び散るだろう......
それに反応する感情なんかプログラムしていない......これからのはずだった。
左手に持っている完成させた感情プログラムのメモリを握り締める。
ここがどれだけ酷い場所か
どれだけ悲惨な場所を感じて貰うために
ありのままに世界を表現したようにありのままの感情を満たして、全てを投げ出して逃げて欲しい
お願いだ......
天道は掌を布束に向けると強大な斥力が発生し、布束を壁に叩きつけた。
神羅天征
「エラーの痛みを知れ」
「がはっ!?」
スルリと感情プログラムのメモリが左手から滑り落ちて、トビはそれを意気揚々と拾った。
「おー、これが感情プログラムっすか.......これで一気に最終段階まで進めるっす。これでも感謝してるんすよ。オイラ達には人間の感情なんざ知らないっすからね~」
布束からメモリを奪い取ると面の下で軽く舌を出した。
めり込んだ壁から解放されて四つん這いになる布束の首元に冷たい感触が走りだした。
「!?」
「どうするの?計画をバラされても面倒だし処分する?」
女性のふくよかな身体のラインを投影した液体金属が腕を鎌のように変質させて布束の首に押し当てていた。
警策の能力
『液化人影(リキッドシャドウ)』
比重20以上の液体を自在に操る。
腕を武器に変えたりと高い戦闘能力と数百キロ離れていても自在に操れる遠隔操作性を誇る。
警策はレモンティーを優雅に飲みながらリキッドシャドウに力を飛ばして、鎌となった分身体の腕をゆっくり布束を抱き抱えるようにジワリジワリと切っ先を掠らせる。
「いんや、せっかくオイラ達の計画に功労してくれた英雄っすからね~。お望みに」
トビがニヤリと笑うと庇っていたミサカが動き出して、頭がすっぽり入るような機材を用意を始めた。
「?」
電源を付けると人工音声が流れて初期設定を済ましていく。
『それではミサカネットワークに接続します』
という音声が流れるとミサカはリキッドシャドウに拘束されている布束に機材を被らせた。
「それほどクローン体が大事なら1から100まで知るっす」
布束の五感が支配されてもはや自分の意思では立ち上がるのが不可能になった。
浮かび上がってきた映像は液体に包まれた自分自身、外に出されガラス越しに研究者が居る中で一方通行がやってきた。
よォ
オマエが実験相手って事でいいンだよなァ
「あ、ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!」
混乱する頭に強烈な痛みが腹部から発生して絶叫を上げる布束を虫ケラのように見下しながら.......
「実験は途中で終わったっすけど9982回の死の旅に行ってらっしゃ~いっす」
死の疑似体験は一瞬で次の実験がスタートしていく。逃げ出したいが身体が動かずに固定された運命へと五感をフルに使いながら次々と耐え難い苦痛の波は止まることを知らない。
「うっわ~♪彼女精神崩壊するかもね~。だって死の痛みなんて生涯で1回だけだよね。それをこんなに」
最低限に金属で固定した状態で布束を放置したトビ達は煌々と光るビルの灯りを見上げながら歪んだ笑みを見せる。
「計画も最終段階。じゃあ大覇星祭でもド派手に行くっすよ~」
「......」
「割と楽しみね」
*******
幼き頃よりずっと身近に居た存在。
普段は厳しく気品漲る憧れの父親なのだが、時折嬉しそうに読んでいる物に興味が出て甘えに行ってみる。
「お父様うれしそうです」
「光子」
「お手紙......ですか?」
形式ばった枠の中にビッシリと達筆に書き込まれた手紙を見てみるがまだ漢字をやっと習い始めた婚后には理解出来ないが、尊敬する父親との会話になるのが嬉しく膝に手を置いた。
「ああ、古い友人からなら。学生の頃から馬鹿ばかりやっていたが、今も元気に世界を飛び回っているようだ」
「それがうれしいのですか?」
「友人とはそういうものだ。友人が幸せなら自分も満たされ悲しい状況にあるなら自分も悲しい。だからこそ楽しみや悲しみを分かちあえる」
思い出すかのように遠くを見つめる。
薄くなった瞳の先に懐かしさが過りだして、なんだか良く分からない感情だが会話を続けたい婚后は必死に分かる範囲の質問を考えた。
「光子にもそんなお友達できますか?」
「そうだな」
そういうと手紙を大切に折り畳みながら婚后の頭を優しく撫でた。
「桃李成蹊といって立派な人のまわりには自然と集まってくるものだ。光子が人を思い遣る気持ちを持って己を磨き続ければ自然と相応しい友人が出来るだろうた」
子供だからその真意を理解するには至らず。
立派な人や友達から自分なりの結論を捻出し、父親の考えに精一杯同調しようと躍起になっていた。
この時は初等科の最初の頃。
立派な人とは良き成績を修めている人だと解釈し、猛勉強を始める。
「あ!こないだのテストの結果貼り出されてる」
「婚后さんまた一番だ」
「すごーい」
毎回授業前の予習、帰ってからの復習など出来る限りの最大限の努力で優等生として『立派な人』になるべく頑張り誇示する。
「当然ですわ」
あとは自然に集まってくるはず
立派なわたくしの周りに集まるはずだと......
「ナッちゃんも三番だよ。あたまいー」
「えー、そんな事ないよー」
しかし学友の中で話題に上がったの冒頭部分だけ、後は仲良し同士の会話になっていく。
三位であんな事を言われるのならば
一位であるわたくしにはもっと喝采を浴びるはずだ
当然の理と踏んでいた。
きっと、立派な人には立派過ぎて話しにくいのだと思い、扇子を広げて注意を向けると。
「みなさん中々優秀なご様子」
「え?」
「あなた方をわたくしのお友達にしてさしあげますわ」
わたくしのような立派な人から声を掛けたら、きっと嬉しがるだろう。
知り合いになりたいだろう。
友達になりたいだろう。
「あ......ありがとう......」
婚后は帽子を被り直して、更にきっかけを増やしていくべくイベントの提示をした。
「あーそうそう。明日、我が家でわたくしのお誕生日会を開きますの。よろしければご参加くださいな。それでは」
婚后が居なくなってから学友達は困ったように顔を見合わせてヒソヒソと相談を始めた。
「.......行く?お誕生日会」
思いがけない誘いに困惑しているようだ。
「んー、婚后さんてなんかちょっと......」
「ねー」
悪くないんだけど......何か取っ付きずらい何か感じがして......
誕生日当日
航空業界の名門「婚后航空」の跡取り娘の誕生パーティーというだけあって大ホールを貸し切って財閥の人や有力な政治家が数多く参加する立派なものだった。
豪華な装飾に食通を唸らせる立派な食事に大人達は満足し、その場の建前で祝いの言葉を述べる。
「おめでとうございますお嬢様」
「「「おめでとうございますぅ」」」
「ありがとう」
執事やメイドから貰える当たり前の祝いの言葉に反応しながらも進む時間の中で未だに誰も座らない『ご友人席』を見る。
用意した最高級のスープが冷めていき、パンは湿気っていくが誰にも相手にされずにそのままにしてある。
ジュースの蓋は開けられ、いつ来ても良いようにしてあるが動かす事はなかった。
扉が開いた音がして、婚后は期待に満ちた顔で振り向くがそこには正装した尊敬する父親だった。
腕に大きなプレゼントを持っている。
「光子。私からのプレゼントだ」
「わあ、ありがとうございますお父様」
あの方たちは
わたくしのお友達には相応しくなかったのですわ
そう考えてその日を終えた。
立派な自分の誘いを断るのは友達に相応しくない......そう考えてモヤモヤする気持ちを持ちながら考えないようにしていた。
現在、婚后は広い敷地を持つ常盤台中学の校舎を歩き回りながら自分の派閥を立ち上げる為に奔走していた。
しかし、人は違えど出てくる返事の意味はどれも変わらなかった。
「派閥?悪いけど他を当たってもらえるかな」
「申し訳ありません~。わたくし~既に所属する派閥がありますので」
「間に合ってますわ」
「あ......そう......ですか......」
断られる事はあまり想定していなかったのか困ったような表情を浮かべた。
断られる度に自分が立派な人間であるという自尊心が削られていき、去っていく背中を眺める。
そんなはずはない
自分は立派な人間である
難関とされる名門常盤台中学の編入試験をパスした過去を思い出して立ち直るとあまり顔も確認せずに行き交う学生に声を掛ける。
「ん?アイツって」
身体測定が終わったサソリは常盤台の屋上から正門近くで右往左往している注意女に首を傾げた。
御坂達とこの後に会う約束をしているので勝手に昇って休んでいる所で目に留まったらしい
「ママ達まだかなー」
傾斜になっている壁をロッククライミングでもするかのように遊んでいるフウエイ。
あまり見ない日常風景に周りの学生もヒソヒソと不快そうにその勧誘行動に嫌味を言っていた。
「なんですのアレ?」
「なんでも自分の派閥を立ち上げようと勧誘して回ってるとか」
「まったく転入したての新参者が派閥などと」
「少々生意気ですわね。ちょっとからかってあげましょう」
ショートカットの常盤台生が指先に能力を集中すると婚后の扇子がフワリと浮き上がった。
「なかなか上手くいかな......あ、あら?」
フワフワと浮かんだまま婚后の手から逃げるように空気中を漂っている扇子に困惑しながらも必死に追い掛けていく。
「風もありませんのになんで......ッお待ちになってェ~~~」
くすくす
その様子を見ながら愉快そうに笑うお嬢様達。
「ご覧になってあの姿。おやめなさい悪趣味ですわよ」
婚后は両脚に力を込めて飛び上がると何とか漂っている扇子を捕まえるがそこは学校に入るための階段になっていて最高段から最低段との思いの他激しい落差に背中が縮み上がる。
「と......あっ!」
「!?」
視界から消える婚后に扇子を飛ばしていたお嬢様達の目が点になった。
「ちょっと、やりすぎではありませんこと?」
「い、いえ......ここまでするつもりは......」
そそくさと逃げるようにカバン片手に校舎の中に入っていった。
「アレェ......え?」
「大丈夫か?」
階段から落ちて地面に落下する寸前でサソリが移動してきて婚后を受け止めていた。
図らずもともお姫様抱っこに顔を覗き込んでくるサソリに男慣れしていない婚后は顏を赤くしたまま硬直した。
たぶん生涯で初めてのお姫様抱っこ。
「な、ななななー!!!?」
「ふぅ......間に合ったか」
「な、なんで貴方が!?」
「落ちそうだったからな。立てるか?」
「......は、はい」
サソリは優しく降ろすと乱れた外套を直し始める。
「あ、ありがとうですわ」
「ああ、何してんだお前?さっきからウロウロして」
「わたくしは自分の派閥を立ち上げようと思いましたが......上手くいきませんの」
「はばつ?」
サソリが首を捻っていると背後からフウエイが飛んできてサソリに抱き着いた。
「パパ~!フウエイにも!フウエイにもやって」
「あ?何でだよ」
「いーじゃん!フウエイもやって欲しい~!」
「ちっ!しょうがねぇな」
フウエイを抱き上げると腕の中で仰向けにさせた。
「ふへへ」
サソリにお姫様抱っこされて満足そうにニコニコしながらサソリの身体にスリスリと擦り付けてサソリの外套の余った部分を布団のように自分に掛けた。
子供をあやすその姿に婚后は尊敬する父親と無意識に重ねた。
あの時に父から言われた言葉を守れない自分が凄く情けなく思えた。
扇子を広げて優雅に見せているが、それはハリボテに過ぎないのだと......
婚后は花壇に地べたに腰を下ろした。
自分に相応しい人間をと言いながら
誰からも受け入れられず
必要とされないのはわたくしの方
蹲りながら顔を下に向ける。
「わたくしは友達を作る器ではないという事を......」
認めたくなかった
だが、これだけの証拠が揃ってしまえば認めざるを得ない
「器?」
サソリがフウエイを抱っこしながら徐にに訊き返した。
「そうですわ......友人を作る資格も」
「それって資格がいんのか?仲間って適当に繋がるもんだぞ」
「うぇっ?」
今まで指摘されなかった事を聞かされて驚きに固まる婚后にサソリは続けた。
「オレが御坂や白井となんとなく過ごしているのも特別何かしたわけじゃねーし。最近改めて考えてみるとな」
甘えてくるフウエイの頭を軽く撫で撫でしながらサソリは穏やかな口調で諭すように言う。
婚后は目から鱗が落ちたようだった。
かなり難しくいかに検討外れの事をしていたのか自覚して恥ずかしい手で顔を覆った。
ひょっとしてわたくし
とんだ勘違いを!?
自分を立派に見せれば、周りは敬服して付き従ってくるものと
勝手に思い込んで、逆に皆を遠ざけていたのはわたくし自身......
ごめんなさい
いままでのご学友がた......
側にあった花壇に頭をグリグリと押し付けていると見知った声が聴こえてきた。
「サソリさーん!」
「サソリ!って婚后さん?」
「ど、どうもですの......」
御坂と湾内、泡浮が走り寄って来て呼吸を整えているが湾内だけはサソリのいつもの愛情表現で抱き着いて押し倒した。
「サソリさーん!逢いたかったですわ」
「んぐわ!」
「わぁー、湾内ママ苦しいよー」
「あら、ごめんなさいですわ。嬉しくて」
「わ、分かったから離れてくれ!」
「嫌ですわー」
もう空気中にハートマークが一杯溜まっているような多大な愛情にサソリも腕で湾内の頭を掴みながら制止させる。
「遅かったな」
「こちとら用事があんのよ!年中暇なアンタと違ってね」
「へいへい」
「あら、じゃあ湾内さんもっと抱き着き強くして良いわよ」
「分かりましたわ!」
「ちょっ!ちょっと待て!わ、分かったから!!オレが悪かったから」
「キャハハ」
賑やかに話をするサソリ達を見て婚后はギュッと手を握り締めた。
小さい頃に父親が言った言葉を思い出した。
桃李成蹊
立派な人のまわりには自然と人が集まってくるもの
婚后にとってみればサソリ達のこの様子は羨ましく映ったと同時にサソリという人物にかなり興味を持ち始めた。
そこへ泡浮がやって来て羨望の眼差しで見ている婚后に耳打ちをし始めた。
「わたくし達婚后さんに習って派閥を立ち上げようと思いまして......もし宜しければ婚后さんに代表を」
「わ、わたくしに!?そんな無理ですわ......派閥立ち上げも上手く行きませんでしたのに......」
「そうでございますか......ではわたくし達の派閥に入って頂けると嬉しいですわ」
「!?」
思いもかけない言葉を投げ掛けられてアタフタしている婚后に穏やかな笑顔で向けた。
「よ、よろしいのですの?」
「よろこんで」
これが後の学園都市で伝説となる大派閥となる最初のきっかけだという事はサソリを含めて今は誰も知らない
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