世界をめぐる、銀白の翼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはStrikerS ~選択肢の有無~
「次で止めだ。大人しく来てくれるなら、これ以上は何もしないのだがな。タイプゼロ・ファースト」
「それは・・・まだ・・・・わかりま・・・・せんよ・・・・ぐ、つッ!!」
荒い息づかいが聞こえる。
ここは地上本部の別区画。
スバルたちと合流するためにそのポイントに向かって走っていたギンガは、ここで突如として現れた戦闘機人によって足止めをされていた。
しかも、彼女は自分の事を知っているらしい。
彼女はいきなり現れてギンガを襲撃、そして一緒に来るんだと言ってきたのだ。
当然、ギンガがそれを快諾するはずもない。
故に彼女とギンガが戦闘を開始し、相手を倒して連れて行く、という思考に至ったのは至極自然なことだった。
「諦めては、くれんのだな?」
「あいにく・・・・私がいないと・・・・寂しがるかわいい妹も・・・いるので」
しかし交戦を始めて五分もせずに、ギンガの息は上がりきっていた。
目の前の敵、眼帯をつけた少女・・・・たしか名前をチンクと名乗っていた。
彼女はギンガとは逆に遠距離からのナイフ攻撃を主としていて、しかもそのナイフを爆発物に変えているらしい。
自分は近接戦闘専門・・・というわけでもないが、そこが一番の得意分野だ。
こうやって遠距離から投げられ、しかもそれが爆発するとあっては回避だけでも相当ツライ。
更に言うならここは屋内だ。
爆発物を扱う敵と対峙するのはかなり危険。
現に今までだってまともに避けられたのは一回か二回。
後は少ながらず飛ばされたり、余波を受けて壁にぶつかることも多かった。
(スバルが六課の訓練は一辺倒じゃなくていろいろ教えてくれるって言ってたけど、私はまだ日が浅いし・・・・・他の特訓もしとくんだったかな・・・・・)
ギンガがよろりと立ち上がりながらも、拳を握って身体を構える。
右手を前に、へその高さに置き
左手を顎の前に、上半身を守るように
上体は横に向け、正面から急所を狙われないように
足は肩幅に、とっさの事態にも動けるように
たとえ身体が疲弊し、傷付いたとしても、その構えに乱れはなかった。
しかし、いかんせん体力がもう、ついていかない。
おそらくいい一撃でも食らえば終わりだろうし、相手の増援が来たら詰みだ。
逃げられる相手じゃないし、そんな時間も体力もない。
だがそんな状況でも、彼女は諦めなかった。
たとえ左手一本になろとも、彼女は諦めることなどないだろう。
だからこそ、対峙する少女、チンクはそれを感じとって言った。
「あまり気は進まんのだが・・・・・命令だからな。ドクターは最悪破損しててもよいとおっしゃっていたから・・・・・・」
「ッ!!」
「その通りにする。IS発動、ランブルデトネイダー!!!」
キィン・・・・・・・ヒュオッ!!!
瞬間、ギンガの耳から集中で音が消える。
ギンガに向かって、チンクが放ったスローイングナイフ「スティンガー」が向かって行った。
それを回避して、回りこもうとするギンガ。
だが、ギンガが予定していたよりも早く、スティンガーが爆発する。
その爆発は今までとは違っており、爆風の方向が定められていた。
今までのスティンガーの爆発は拡散だったし、なにより対象に刺さってから爆発していたのだ。
更にこの極限状態。
そんな状況で、ギンガがそういった要素を考え損ねていた事を、誰が批難できよう。
だが、その要素でギンガの勝利は無くなった。
爆発は確かにあたらず、そのダメージはない。
しかし爆風で身体は吹き飛び、壁に激突。そのままズルズルと床に座り込んでしまう。
肺の空気はすべて吐き出され、衝撃に目もくらむ。
ぼんやりとした視界に、チンクが止めのスティンガーを投げようと振りかぶるのが見えた。
「あ・・・・・・」
「これで、終わりだ」
そしてそれが、投げ放たれた。
ドォン!!!!!!!!
爆発した。
そのあまりの爆発に、チンク自身も羽織ってるコートでバリアを張ったほどだ。
それを見て、チンクが他の戦闘機人たち・・・・ナンバーズに連絡を入れる。
「タイプゼロ・ファーストを撃破した。これから回収する。手伝いに来てくれ」
『わかった』
『結局チンク姉一人で終わっちゃったッスねーーー』
そんな姉妹たちの声を聞きながら、回収しようと爆煙に近づく。
だが、そこでおかしなことに気付く。
奇妙だ。私は対象を破壊するつもりで攻撃した。
彼女ならば修復できるし、ドクターもそうするつもりだったから別段五体満足でなくても構わなかったからだ。
そういう指示だった。
だから絶対抵抗しないようにこの場が崩れない程度に最大火力で爆破した。
あの威力なら確実に仕留めたはず。
最悪、もう意識もなく息も止まっているかもしれない。
否、最悪、ではない。
確実にそうなるはずだ。
あれほどのダメージを与え、あれだけの爆発を叩きこんだのだから、腕の一本は余裕で吹き飛んだはず。息は止まって、活動は止まっているはず。
屋内だからよく響く。
地下だから、よく聞こえる。
(だったらなぜ、煙の中から呼吸音なんかが聞こえてくるのだ?)
その疑問を得た瞬間、煙の中から翼が生える。
それは鋭利に尖った翼で、すぐに柔らかな鳥のような翼のそれにかわった。
その羽ばたきで煙が掻き消える。
そこにいたのは、ひとりの男。目にも止まらぬその速さで、間に入って爆破を防いだ者がいた。
「おまえは・・・・・」
「ようよう、結構痛めつけてんなぁ・・・・おい、ギンガ、大丈夫か?」
「う・・・舜・・・さん?」
蒔風がギンガの上体を腕で抱え、意識があることを確かめた。
そうして大丈夫なことを確認して、ギンガを壁にもたれさせる。
「意識あんなら大丈夫だな。寝てろ」
蒔風がギンガの肩を叩いて振り返る。
ギンガはそこでプッツリと意識を手放し、その場で気絶してしまった。
「よう、眼帯ちゃん。ギンガに勝つとは、やるじゃないの。いっちょおにーさんとも相手してくれや」
翼を閉じ、両手両足をプラプラさせて、準備に入る蒔風。
その蒔風に、チンクはかなり警戒していた。
トーレ、クアットロ、ディエチ。あの三人が逃走するだけで必死になったという男。
そしてドクターの話によれば、あの伝説の翼人だという事。
だからいきなり戦闘に入る、という事はあまりにも愚策、とチンクは判断した。
故に、ここは時間稼ぎに徹することに決める。
待っていれば他の姉妹も来る。そこまで待てば、こちらの勝ちだ、という考えだ。
「私はそのタイプゼロ・ファーストを連れて帰りたいだけだ。知っているか?彼女はそっちよりもこっち側の人間だ」
その言葉に蒔風がきょとんとする。
そうして首をかしげて、ギンガの方をちらりと見てから、頭に指を当てて考え始めた。
「タイプゼロ・ファースト?なんだそれ?うーーーーん・・・・・・お前ら戦闘機人の名前は数字から来てたな。そしてゼロ・ファースト・・・・・なるほど、プロトタイプ。ってことは、ギンガも戦闘機人か?で、ファースト、なんていうのがあるんだからセカンドもあるんだろうなぁ・・・・そっちはスバルだな?」
たったこれだけのキーワードで、蒔風が正解に行きつく。
そのあまりの頭の回転にチンクが驚きの表情をした。
そう、ギンガ、およびスバルの二人は戦闘機人だ。
そうなった経緯は知らないが、道理で詳しかったわけだと蒔風が納得する。
その蒔風に、なおもチンクが話しかけた。
「わかったか?だから、そいつを回収しに来た。連れていかせては貰えないか?」
無論、こんなことが通るわけもないとチンクも重々承知だ。
だが、今は時間を稼いで増援を待つ事が先。どんな話も、無駄にはならない。
「え?ああ、いーよ?連れてきゃ連れてけ」
「だろうな、ならば・・・・え?」
しかし、蒔風の答えは信じられないものだった。
連れていきたければいけばいいじゃない、と
「そ、そこは「そうはいかない!!」というところじゃないのか!?」
「え?いやだってさ、お前別にこいつと戦ったとき信念に反するような手を使ったわけじゃなさそうだし、たとえそうでもこいつは純粋に負けたんだろ?だったら別に口出しはしないなぁ」
なんともあっけらかんと言ってのける蒔風。
その蒔風になぜかチンクが焦り出した。
「そ、それでいいのか!?本当に連れていくぞ!?」
「だからいいって。ま、でもその前に一つ聞いてほしい事があるんだ」
「な、なんだ?」
いままでへらへらと笑顔でとんでもない事を言ってきた蒔風に、チンクが若干うろたえながら訊く。
その蒔風が、一体何を言ってくるのか。
「連れていくなら連れていくで構わない。だけど、俺を無視して通れると思うなよ?」
「・・・・・・・・は?」
「ギンガを連れていきたいならご自由に。だけど俺は、お前を捕まえなきゃならんし、こんだけの事件起こして見逃すわけにもいかない。だから・・・・オレを突破してみろよ」
蒔風が本気の目になる。
もはやそこに笑っていた青年はなく、凄まじい気を放つ一人の男がそこにいた。
「そ、それは勝手にとは言わないぞ!?」
「ああ?しらねーよ。だから勝手に捕まえていけって。オレはそれを止めはしない。オレの狙いはお前だから」
「くっ・・・・結局は障害になるという事か!」
「結果的にはね~~~。ギンガ連れていくなら別にそれで俺は、やらせはせん!!とかにはならないけど」
クソッ!!と悪態をついて、ついに蒔風に向かってナイフを投げるチンク。
狙いは胸元、ど真ん中。
爆破で視界をくらませて、二撃目で仕留めるつもりだ。
だが
「よっ、とぉ!!!」
蒔風はそれから逃げも防ぎもしなかった。
ナイフに合わせて上体を反り、右手でスティンガーを掴み取ってからそれを見、チンクに向かって投げ返したのだ。
その間、実に一秒にも満たない。
全く動かず、さらには掴んで投げ返すという芸当にチンクが唖然としていると、その頬をスティンガーが通って行き、後ろの壁に突き刺さった。
恐る恐る振り返ると、そのスティンガーは根本までズッポリと突き刺さっており、出ているのはピンセットでつまむ程度だけだ。
「手投げ系は苦手だなぁ・・・・」
そういう蒔風がポリポリと頬を掻き、ついにチンクに向かって突っ込んだ。
とっさにそれに反応したチンクが、スティンガーを投げ放つ。
その途中や背後で爆発するそれを、蒔風がかわしながら近づいていった。
そして天井を蹴り、チンクを頭上から攻めにかかる。
しかしチンクは自分をコートで庇いながら、蒔風の目の前にスティンガーを放り、それを起爆させた。
グおっ!?と蒔風が声を出して爆発に消え、チンクもさすがの至近距離に地面を倒れて床を滑る。
その衝撃に耐えながらもチンクが立ち上がると、目の前の煙から足が伸び、足元をすくう様に右から左へと振るわれた。
それに立ち上がったばかりの体勢を崩され、一瞬無防備になるチンク。
しかしそんな体勢であっても、彼女は今まで訓練を受けてきた戦闘機人だ。
懐に手を伸ばし、スティンガーを手に取ろうとする。
が
「させまっせん!!!」
「ッ!?」
蒔風がガシッ!!とその両手を掴み、チンクの手からスティンガーがこぼれ落ちる。
さらには懐にあった物までボロボロと床に落ちてしまった。
武器を一瞬で失うチンク。取り押さえる蒔風。
勝負は着いた、と思われた、その時
「チンク姉にぃぃぃぃいいいいい!!!手を出すなぁ!!!!!!」
ガゴォ!!!!!
蒔風の側頭部に踵が命中する。
やってきたのは戦闘機人二人。
短髪でぶっきらぼうそうな少女、ノーヴェと、気さくな感じの少女、ウェンディだ。
蒔風を蹴り飛ばしたのはノーヴェの方だ。
その証拠に、その脚に装着しているジェットエッジのリボルバーが勢いよく回っている。
「よっしゃ!ざまーみろ!!」
渾身の一撃を与えた事で勝ったと思いこむノーヴェ。
しかし、ウェンディに肩を借りて立ち上がったチンクが大声で警鐘を鳴らした。
「終わっていないぞ!!!油断するな!!!!」
「え?・・・・ぐあっ!!!!」
呆けた声と、驚きの声が連続して響く。
ノーヴェがその声に搬送した瞬間、蒔風がその脚を掴み、大きくブン回してウェンディに向かって投げ放ったのだ。
何とか着地して、構えるノーヴェ。
更にはチンクがスティンガーを、ウェンディが大型プレート「ライディングボード」を構えた。
「戦闘機人三人か・・・・・・うーーーん・・・・・ナイフ!ボード!リボルバー!!!ってか?」
「行くぞ!!!」
「「おう!!!」」
蒔風の言は無視し、突撃していく三人。
が、その瞬間思い知らられることになる。
あくまでも今まで攻撃が入ったのは、不意を突いたからこそだったという事実を
順としてはノーヴェ、ウェンディ、チンクの順に蒔風に向かう。
ノーヴェは近接戦闘、ウェンディはボードによる砲撃などの中距離、チンクは疲労もしているため後方からの爆破を目的とした布陣だ。
まずノーヴェが突っ込む。しかし、即座に流されて後ろに投げ飛ばされた。
身体を右に向け、素通りしていくノーヴェがこっちに向き直す前に首根っこを掴んで本来彼女が走り抜ける方向―――蒔風の後方へと投げた。
そして後ろに向かって伸びたその右腕をそこから一気に前に突き出し、ウェンディに向ける。
とっさにボードでガードするウェンディだが、二枚重ねて盾にした一枚が砕け、奥のもう一枚が蒔風に掴まれて引っ張られる。
そして寄せられたその体は、横に振られた左手の裏拳で蒔風の左に飛ばされる。
最後にチンク。
彼女は蒔風の真上の天井にナイフを投げた。
掴むほどなのだから、避けられるのは必須。
更に爆発させでもしてはずせば、その衝撃はすべてしまいに向いてしまうだろう。
だからチンクは天井を崩し、蒔風を埋めようと考えた。
だが
バガァッ!!!!
蒔風が一回転し、右の後ろ回し蹴りでその瓦礫をすべて、一撃のもとに吹き飛ばす。
否、この場合は「掻き消し飛ばされた」と言った方がいいだろう。
その驚愕の光景に、三人の身体が硬直する。
そして蒔風が下を見る。
そこに何かを感じた蒔風が、次に地面を踏み抜いた。
ゴガァッ!!と足がめり込み、亀裂が入る。
そしてその床をそのまま蹴り上げ、ひっこ抜くとそこからいつかの潜地少女、セインが掘り出されてきた。
そのセインに掌底を当て、雷旺をぶち込んで吹き飛ばす。
バツン!!という音がして、意識は刈り取られなかったが、身体がまともに動かなくなるセイン。
蒔風を中心に、四方に散らされた戦闘機人、ナンバーズ。
彼女たちを一瞥し、蒔風が言った。
「たしかに、動き一つ一つが熟練された者のそれだ。たいしたもんだよ、それは。だが、それでは届かない領域もある」
そう言いながら蒔風が静かに構える。
前の二人を視界に収め、背後の二人は後ろであるにもかかわらず、睨み付けられた錯覚を起こした。
「他の誰かの経験値・・・・知識、戦闘実績、その他諸々。確かにお前たちは知っている。その技を、技術を、行い方を知っている。だがな、それはあまりにも未熟な知り方だ」
その言葉に、ノーヴェが反論する。
もとより口の悪い彼女だが、今はイライラしてるのか、さらにそれが激しくなっている。
「知ってんだから、出来んのは当たり前だろ!!!それが力だろ!!!」
確かに、知っていれば行うことも可能だろう。
それを「身に付けた」と言うものもいるだろう。
しかし、それではだめだと蒔風は首を振った。
「違うな。それでは意味がない。いいか・・・・・力とは、技術とは、武とは、長年の弛(たゆ)まぬ鍛錬の元に昇華されて、その身に刻まれるもの。知っているだけでは錬度が足りない。識(し)って初めて、修得する。お前らのそれは、違う。「本物」だったらそんな動きなどしない。識っている者はああは動かない。本物の動きって言うのはな、型にはまらないもんなんだよ」
蒔風が構えに力を込める。
その動作だけで周囲の人間が固まった。
「教えてろうか?識るという事と、知るという事の、圧倒的なその差を、今ここで!!!」
その言葉に、ついにノーヴェが動く。
ローラーブレード「ジェットエッジ」を回転させ、地面を滑って蒔風に向かう。
その拳にあるガンナックルのリボルバーが回転し、渾身の力を溜めこんでいく。
そして蒔風の眼前に迫った瞬間
ダゴンッ!!!!!!
地面に叩きつけられた。
目の前に見えるのは天井と覗きこむ蒔風の顔。
蒔風の手はノーヴェの襟を掴んでおり、そこを掴んで地面に叩きつけた・・・と言うよりは、押し付けたのだ。
まるで「構えた」という形から、「叩きつける」という形の一コマに移行したようだった。
一瞬だった。
ノーヴェが何をされたのか気付いたのは、叩きつけられた後だった。
そのノーヴェを見、蒔風が見渡してからその場の全員に言った。
「お前ら、知りたくはないか?世界を」
「え?」
「お前らの世界は、今まで任務だの研究室だのしかなかった。お前らは他の世界を知っているのか?知りたくないのか?」
その言葉に、一瞬詰まる一同。
しかしノーヴェも含め、その場の全員が黙ってその言葉を聞いていた。
「命令されるがままに動き、生みの親だからと言ってその言う事を聞く。お前ら、それでいいのか?お前らの正義は、それでいいと言っているのか?こんなことして、気分がいいのか?ん?」
蒔風の言葉に少しだけ覚えがあるように、四人ともが顔を背ける。
確かに、誰かを傷つけることは好みではないし、実際チンクも指示がなければあそこまでギンガを潰そうとはしなかったろう。
確かに出し抜かれた、と言う点では六課のメンバーには苦渋をのまされた事もあった。
しかし、そこに明らかな殺気などない。
ぶちのめしてやる!!という思いはあっても、さすがにそこまでは思っていない。
だが
「しかし・・・・だからと言って、私たちに選択肢などない!!!戦闘機人となるために創られ、生まれた命。そんな命が、それ以外の生き方など・・・・・」
そう、彼女たちには選択肢などなかった。
あそこから逃げ出してどうするのか。彼女たちには戸籍などない。
だから働いて暮らす事も出来ない。物心ついたときにはすでに改造されており、外に居場所などない。
あの二人は運がよかったのだ。
自分たちは知っている。
今まで廃棄されてきた者達のデータを見てきたのだ。
幸いにも、自分たちのラボでそのような者はいなかった。
しかし、自分がいつ、そうなってしまうかわからない。
だから彼女たちは努めて優秀な人材となった。
居場所はあそこしかない。
だから、その人の言う事を聞かなければ、自分たちは生きていけない。
もとよりそのために生み出された命なのだから。
「他に選択肢などない・・・・我々には、あたらな選択肢など現れなどしないのだ!!私たちは、戦闘機人として生きていくしかない!それを・・・・・」
「ばっかでねェの?」
だがチンクの言葉を、蒔風が遮る。
最高に馬鹿にした目をして、完全に呆れた口調で。
「だからさ、お前らはその生き方に満足してんの?お前らの正義は、納得してんの?まずそこだよ。そこが聞きたいんだよ。どうだ?はい、そこの潜地ッ子!!!」
「え?あ・・・・・そ、そりゃ、これが犯罪だって言うのはわかってるし、私は誰かと戦うのはごめんかな~~~って・・・・・」
「よしはい、次!!足元の熱血っ子!!」
「あたしはわかんねぇよ。ただ、戦うとスカッとするのはあるな」
「罪の意識は?これがいけないことだってわかってるか?」
「わかってっけど・・・・・他にどーすりゃいいんだよ?今にもあんたを殴り飛ばしたいんだぜ?ここでなきゃできねぇよ、そんなの」
「出来る!!というかいつでも来いよ。敵じゃなくても、戦える相手なんていくらでもいるぞ。強敵と書いて友と呼ぶ相手だ!!そういうの好きだろ?熱血ッ子!!」
「え?あーーー・・・って、あたしはノーヴェだ!!」
その訂正を無視し、蒔風が今度はウェンディを向く。
「そっちのお気楽っぽい子!!!どうだ??」
「うえ!?えっと・・・・・まああたしは言われた事をしてるだけッスからね・・・・・」
「自分の意志で決めろよ。お前はこのまま犯罪者として一生名を残すつもりか?誰にも聞くな、自分で決めろ」
その言葉に、ウェンディが考え始め、うぇ、という顔をして口を開いた。
「あーーーでもそう言われてみると・・・・・後の時代の人間に「こいつサイテー」とか言われんのは嫌ッスねーー」
「だったら今からでも引き返せって。可能性は無限大だ!!!次!!眼帯っ子!!!」
「ち、チンクだ!・・・・・・・それは・・・・確かに気が滅入る事もある。しかし、いわばドクターは私たちの親なんだ!!間違っていても、従うしか・・・・・」
そんないまだにモゴモゴと言っているチンクに、蒔風が叫ぶ。
「お前の行いに少しでも疑問があるんなら、それはもはや正義じゃねえ!!!お前の正義は、なんつってんだ!!!どうなんだ!?えぇ!?」
選択肢がなかっただと?じゃあお前、俺たちだったら選択肢があるみたいじゃねえか。」
「それは・・・・そうだろう!!私たちのような人間に、最初から・・・・・」
自分たちはお前たちとは違う。
そう言うチンクに、蒔風がなおも言った。
「は?お前何言ってんだ?選択肢なんて、最初からどこにもねーーーーーよ。お前はあれですか?ゲームの主人公ですか?ピピッと選んでそれで終了な人生生きてんですかー?」
「な・・・・」
「まあ?確かにそういう事もなかったとは一概に言えん。だけどな、目の前に選択肢の欄なんざ、現れるわけねえだろ?ここは現実だぞ?浮かんだ気がしているだけで、そんなもんはありはしない」
両腕を広げ
「よく「選択肢は自分で作る」とか何とか言ってるが、それは違う。選択肢なんて最初からない。ないんだよ、そんなもの。その場で人がとる行動パターンなんか、数えきれないほど、それこそ無限大にある。それから選べって?無理だろ。だから選択肢なんてないんだよ」
拳を高くつき上げてガッ、と握る。
「しかし、だからこそ人生はいつだってアドベンチャー!!!それが生きていくってことだろ?選んで生きていくんじゃない。やった結果、選んだ気になっただけ。でもまあ、それでもお前が選択したいと言うならば・・・・・」
そこまで言って、蒔風がまた両手を広げて大きく叫んだ。
「さあ!!選ばせてやる!!ここに俺が寛大にも選択肢を用意してやった!!」
蒔風が手を出す。
右手を出して「選択肢なき不確かな未来」を取るかと聞き
左手を出して「選択肢ばかりの先を決められた未来」を取るかと聞く
「さ、選べ。チンク、セイン、ノーヴェ、ウェンディ。お前らの人生で、最初で最後の選択肢だ。可能性を取るか、安定を取るか、自分の意志で。それが、生きる強さってやつだ。お前たちは何か一つでも自分で何かを決めてやるってことがなかった。さあ、此処で決めろ。そしてそれから・・・・・」
蒔風の言葉。
その言葉の先は発せられなかったが、十分に意味は理解できた。
数秒の沈黙
そしてその言葉に、まず動いたのは
「あたしは・・・・決められたレールなんか走れない暴走列車だからな。つまんねぇ人生なんざ、まっぴらごめんだ」
ノーヴェだった。
足元から腕を伸ばし、蒔風の手を取って立ち上がる。
その姿をみて、ウェンディ、セインもその手を取る。
「あ~~あたしは面白そうなとこにつくッス。それにノーヴェほっといたら大変そうッスから」
「私は潜ってばかりだったからね~~。確かに、広い世界には興味があるなぁ」
その手ににやりと笑って頷く蒔風。
そして、チンクの方を見た。
「で?どうする?チンクさんよ。お前はこれだけの強さを持てるかい?」
だがチンクはいまだに頭を抱えて振っている。
「そっちに行って、どうするのだ・・・わたしたちは・・・・戦と・・・・」
「生まれた理由に意味などない。価値があるのは、生きる理由だ」
「ッ!!!」
「生まれた時から人間は犯罪者だとか善人だとかって決まるのか?違うだろ?生まれた後、生きてる間にそう言うのは決まる。お前がどう生きるかは、お前の自由だ。戦闘機人として、兵器として生きるか。それともそれを受け止めた上で、これからの世界を生きていくか・・・・・・どうする?今しか選択できんぞ?」
蒔風のその言葉に、顔を俯かせ、それからチンクが顔を上げた。
「貴方は・・・卑怯だ・・・・・選択肢などないと言っておきながら、貴方は今しかないと、一つしかない選択肢を私に迫る」
「ふふん。よく考えてみるんだな。そう、実は選択肢などないっていうのは大ウソだ。実はある。だが、人生の選択肢はあまりにも多すぎてとてもじゃないが選ぶなんてもんじゃない。だから、「ない」んだ」
「で・・・その中からあなたが二つを選んでくれたと、そういうわけですか」
「そうだ。さ、どうする?」
そう言う蒔風に、チンクが近づく。
近づいていき、距離が狭まり
そして
蒔風の手をそっと下ろした。
「私は選ばない。私はこれから自分の意志で行く。私の意志で、そちらに行こう」
その言葉に、蒔風が満面の笑みを浮かべ、まるで新しい宝物を見つけた子供のように笑った。
「おおおおおお!!!!すごいすごい!!!!君は今!!「選択」しなかった!!!そう!!!それこそが大正解!!!選んだ彼女たちは強く素晴らしいが、君はより、強く素晴らしい!!!いやはや、人生これだからたまらない!!!決まったことなんて、何一つとしてないんだから!!!!!」
あはははは!!!と笑いながら回る蒔風。
それを見てチンク達は唖然とする。
この人が本当にさっきまで自分たちを追い詰めた男なんだろうか?
「舜さん!!!!ギン姉は!!??ッ!!戦闘機人!!!!」
そこにスバルがやってきた。
ローラーブーツの彼女は、この状況なら飛べないティアナを担いだなのはよりも速い。
だから先についたのだろう。
しかしそこにいたのは笑いながら回る蒔風と、唖然とした戦闘機人四人なのだから、それは警戒もする。
思わず構えるスバルだが、そこに蒔風が来て軽くチョップする。
「こらこら待て待て。それを言ったらお前さんもだろ?彼女たちに戦闘の意志はない。彼女たちは今、明日へと向かって歩き出したのだからーーーー!!!」
「え?あれ?って舜さん!?お前もだろってどういう事ですか!?」
「あははーーーー!!!っと、いかんいかん、トリップしてる場合じゃない。六課がまずい!!!スバル!!なのは達は!?」
「えっと、すぐに来ると思いますけど・・・それよりも・・・・」
「わりぃスバル!!オレもう行く!!こいつら頼んだ!!!右からチンク、ノーヴェ、ウェンディ、セインだ!!!お前らも逃げるなら今のウチだぞーーーー??それも自由なんだからーーー!!!」
「うえぇ!?」
ドォウ!!!!
そう言って蒔風が加速開翼してその場から消える。
スバルは蒔風の言った言葉にびっくりしながら、移動の際の突風に髪を押さえた。
そして残されて棒立ち状態の五人。
と、スバルがクリン、とナンバーズの方を見、拳を構えた。
「逃げる?」
「「「「逃げん逃げん」」」」
そんなこんなであとからなのはとティアナが到着。
状況がよくわかっていなかったが、チンクの説明でなんとか納得し、彼女たちを連行した。
ひとまず、こちらの戦闘は終わった。
あまりにも少なすぎる犠牲のみで
「ところで・・・・あの人はいつもあんな感じなのか?」
「あーーーークルクル回って笑ったりしてたッスね」
「それは・・・・舜さんだと通常運転だとおもうけど・・・・・」
「そうなのか・・・・・変人なんだな」
「にゃはは・・・・本人が聞いたら「アホって言って!!」って言うだろうね・・・・」
to be continued
後書き
アリス
「次回、機動六課崩壊?」
ではまた次回
ギン姉を・・・・返せよオオオオオオオオオオオオ!!!!
ページ上へ戻る